ラップが魔法の呪文詠唱になる世界に転生したおじさん、うっかり伝説級の魔法を量産してしまう

paper-tiger

文字の大きさ
上 下
42 / 57
4章 MUSICA

41. 悲しき灰被り姫、ただちに挨拶に来て 

しおりを挟む
◇◇◇

41. 悲しき灰被り姫、ただちに挨拶に来て 


結果から言えば、モルダウたちはケイジの仲間になった。


“仲間”という言葉が、昨今のドラマの仲間至上主義のせいで意味合いが強すぎるので、“協力者”というのが相応しいかもしれない。
少なくとも双方がテロや陰謀の類からこの宮廷試験を守ろうとしていることは互いに理解した。


それは言葉で説明するよりも態度で示すよりも、もっと直接的に伝わる方法が為されたからだ。


一瞬で相手の心を打つ魔法。

その呪文詠唱が、ケイジがモルダウにバトルを挑んだとき、偶然にも既に完了してしまっていた。





話数を跨いで、4つの台詞に散り散りになっていたケイジの呪文詠唱を集約すると以下のとおりだ。



「これは大変そうだが嘘つくのはダセえ 俺は大言壮語、うそぶく男だぜ」

「クスリなんざ要らない、んな腐りきったいざない いいか、大演奏を為すのは“人の道”」 

「自分の出自なんざ知らない 俺が辛い戦闘を果たすのは“HIP HOPの意地”」 

「お前の孤独は囚われの姫ごっこ お前の鼓動BEATを俺が撃つBEAT



魔法呪文として詠唱を分析するならば――、

まずバラバラに発言された4節を「大変そうだ」「大言壮語」「大演奏を」「辛い戦闘を」の呪言乗算ライムによって繋げている。


細かい呪言乗算は各節に散らせてあり、

「嘘つく」「嘯く」、
「要らない」「誘い」「知らない」、
「クスリ」「出自」、
「人の道」「HIP HOPの意地」、
「孤独」「鼓動」

が、それぞれ呪節の力を増幅させている。


そして「嘘」・「クスリ」・「出自」・「孤独」の各呪言がそれぞれの節で、モルダウからの問いへの暗鎖アンサーとなり、術者の意志を繋いで連鎖的な術力場が生み出される。


これほどの特異な形状の呪文の中で、伏句フックと言えるとすれば第4節の「鼓動を俺が打つ」で「BEAT」を二つの意味で重ねている部分だ。



―とはいえ本来ならば、別々の対話文として発語された言葉では呪文としての力は弱まってしまう。


それを一つの魔法術式として繋げ、むしろ増幅させてしまったのが、ケイジをグルグル巻きにしていた捕縛用ロープだった。


特殊な金属で作られた捕縛用ロープは、魔法を構築しようとする捕縛対象の魔素の流れを吸い取り、発散させてしまう。
発散のタイミングは、呪文詠唱が完成した瞬間である。
このために、捕縛された者は魔法を発動できない。

それが今回の場合は、途切れ途切れのケイジの詠唱に対して断続的に反応してしまい、呪文の効果をそのまま溜め込んでしまっていた。


そして第4節が唱えられた瞬間、ケイジの身体は強い“雷の魔法”の発現力によって凄まじい魔素の電位差が発生する。

それが捕縛者の身体に強力な磁場を生み、ロープの中を満たしている魔素の乱流が、一斉に同じ方向へと流れ始めた。
現世で例えるなら電磁石のコイルを使った発電実験のような作用だった。

そこへきて元々のロープの機能が、そのまま魔力を発散させようとする。
全ての魔素が同じ方向に流れているのだから、それは発散と言うより魔力の放出となった。


その放出先が―


ロープの端を握り締めている、モルダウだった。



結果として、ロープを掴んでいたモルダウの「心」に電流が走った。


後々のライムの分析によれば、それは精神操作の“夜の魔法”と身体操作の“水の魔法”を合わせた様な術式だったと思われる。
が、ケイジの魔法属性の“雷”による複合効果であるのは間違いない。


韻としても意味としても「ケイジの人格」を端的に表した“人の道”と“HIP HOPの意地”がパンチラインとなって叩き込まれる。


心に雷が落ちるように、脳にパルスが走るように、「記憶」そのものではなくケイジのその純粋なる「志と人格」が、一瞬でモルダウに伝わる。


(その意味では脳や心臓に影響しているものと言うよりも、第6感のようなものに作用しているのかもしれない。)


「(ああ…この男は― …そうか、私…は… )」


姉の懐で抱きとめられたときには全て通じていた。



そうして誤解は氷解した。




―ただ、このモルダウに限って、心を打たれた一番のパンチラインは「捕らわれの姫ごっこ」だった。






モルダウとブルタバは、司法職に携わるエリート官職の家の姉妹として生まれた。
年子なのに顔も性格もあまり似ていなかった。


二人がまだ幼子だったある時、政治的な疑獄に巻き込まれ、一家は離散する。
その際に、二人は別々の家に引き取られ、何をする際も一緒だった姉妹は全く別の人生を歩む。


モルダウはその家の方針で、今で言えば警察官僚を目指すべく、男として育てられた。


元々の才能と教育の効果で、成人後すぐに若くして国軍捜査官になった。
ブルタバとその職場で再会できたのは全くの奇跡だった。

以来、コンビを組んで5年、姉妹と言うより相棒という言葉の方がしっくり来ていた。


モルダウが女だと知るものは長官付きの数名だけで、二人の関係を知らない同僚からは恋人同士くらいに思われていたほど、二人は似ていなかった。

お互いをよく理解してはいたが、まるで違う衣食住の環境で育った姉とは、もう二度と家族に戻れる気はしていなかった。


――自分は家督を継ぐための役、男として人生を全うする。


それは今の家に引き取られた時、成人の儀を迎えたとき、そしてブルタバとコンビを組んだときの計3回、心に誓ったことだった。






ケイジは、ただ彼女の中二病のような孤独論・・・に対して、「悲劇のヒロイン気取りのイタい奴め」くらいの意味でディスっただけだった。
恋愛が上手くいかなかった、こじらせ女子にいかにもありがちの症状に思えたからだ。


が、それはモルダウの心の奥底に刺さる、まさしく“必殺の一文《パンチライン》”だった。


結果、モルダウの心の扉の向こうにケイジの心が電流のように流れ込んだ。


勝敗というものはこの場合、無かった。
バトルが始まる前に決着したのだから。



「…一つ、K.G、お前に訊きたい」


外傷がないため自力で立ち上がったモルダウは、ブルタバがロープを解く度に地面へずり落ちていくグルグル巻きの男に問いかける。


「お前は一体いつ私を女だと見抜いた…?」



「…? …えっ? あっ、ちょ、えっ?」


ロープを解いてしまえばケイジはほとんど全裸に近い半裸なので、それどころではなかった。


「アンタみたいなかわいい女の子、見たら普通性別を疑わないけど…?」


「…は、はぁッッ…!?!?」


思わずモルダウは顔を背ける。
おかげで急激に紅潮していくのはその場の誰にもわからなかった。

断っておくと、精神年齢37歳のケイジにとって25歳以下の女は「女の子」だ。


「…ッ マセガキが…! わっ、私は…真面目に根拠を訊いて―」


平成を装いながら振り向くと、ロープが全部解かれたケイジはほぼ全裸だった。

それに、極端に神経系統の操作をする魔素が自分の身体を一気に刺激したせいで、その下半身のモノが全力状態になっていた。



「何言っ…何考えてんだお前!!? バカッ、バカバカあああーーーー!!」



思わず目をつぶったまま振り抜いた拳が、ケイジの天を仰ぐ全力様に直撃した。




◇◇◇
(第42話に続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

処理中です...