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3章 FLOW

27. 攻防・邪眼の魔鳥、SO SROW THE BANNED ARROW.

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◇◇◇
27. 攻防・邪眼の魔鳥、SO SROW THE BANNED ARROW.


「…!」
「…!!」
「…!…!!」

衛兵たちの悲鳴のような怒号が飛び交う。

国立公園の敷地で、突如召喚されたモンスターを近隣の衛兵が討伐しようとしていた。

否、その言い方では生ぬるい。
殺し合っていた。

モンスターはたった一匹ながら強力で、衛兵たちは防戦以外の何もできていない。
一手でも間違えば公園外の市街地に多大な被害が出る。

「俺が囮になって視線を引き、隙を作る!頼んだぞッ…!うおおおおおおお…!!」
「やめろ伍長!引き返せぇぇ!!」

そのまま突撃者は石の塊に成り果てた。


日はまもなく山際に沈む頃で、隊はかがり火と松明石で周囲の視界を作る。


二日目の宮廷魔法師試験、第3会場では召喚術とその召喚したモンスターの使役術を競う試験が行われていた。

当然試験とあっては未熟な術者も多く、召喚失敗や、召喚はできたものの召喚対象の強大さのために使役できずにモンスターが取り残されるという状況も多々あった。

後者の場合、モンスターは運営委員会の管理下で一旦国立公園に隣接した保管場所(ほぼ檻)に収容され、その日の最後にまとめて召集対象地へ送り返される。
通常は宮廷魔法師が監督するので、それは実に単純作業であったはずだった。


―が、事故は起きた。


下級モンスターを送還しようとした術式に不備があり、そのモンスターが生贄となって上級のモンスターが召喚されてしまった。
本来こんな所に現れるはずは無いが、術経路の認識反応は明らかに試験での召喚モンスターに由来するものだった。

なんらかの理由で捻じ曲がってしまった召喚術および帰還術が、こんな夕暮れに、試合場でもない一般の公園に化け物を呼び出してしまった。

“捻じ曲がってしまった”―

―あるいは、それ以外の何者かによって、意図的に“捻じ曲げられてしまった”のかもしれなかった。


「あれは…邪眼の魔鳥“コカトリス”…!!」

巨大な4本足の鶏の姿をした魔獣であり、その長い尾には大蛇が宿っている。
邪眼イビルアイを持ち、その目で見た者を石化させる。

現代において、ティラノサウルスの原型は鳥類という研究があるが、羽が生えていたという学説が本当ならばちょうどその復元図がコカトリスのそれだった。

「ダメだ、前衛ラインが全く近づけないッ…!」

四方から邪眼を避け、盾に隠れて接近するが、有効な攻撃ができる位置まではたどり着けない。
勇敢にも防御を捨てて斬りかかった衛兵が8人、すでに石化させられていた。

攻略には、離れた場所から広範囲を防御できる魔法師が複数人必要とされている。
邪眼を防御し相手の意識を混乱させた上で、攻撃に長けた剣士や槍兵などが特攻で連携攻撃をするしかない。


しかしあまりに突然の事態で、国軍ではなく当地の衛兵と居合わせた剣士や魔法師が対処にあたるしかなく、宮廷魔法師も名ばかりの監督役が一人しか来ていなかった。


苦戦どころか、石化を別にしても怪我人が相当数出ている。
被害は甚大だった。

「援軍は…援軍はまだなのかッ…!!」
「常駐の連絡隊が宮廷試験会場に出払っていて…!まだ応答連絡が…」
「ここは我々だけでも、何としても食い止め―ア゛ッ…」

防衛線は人数が増えつつも後退する一方。
居合わせた一般魔法師たちの懸命な詠唱が繰り広げられるが、邪眼に魔法のほとんどの効力を費やすしかない今、多くの犠牲を前提に、持久戦を覚悟するしかなかった。

「くっ…これは…監督役の私の責任です…!」
「そんな…これは不慮の事故です!M.Cディアマンテ、下がってください…、な…何を…!?」
「所長、これは神獣にも近い魔の化身…これをこの公園の外に出すわけには行きません」
「だから、あなたは一旦下がって作戦と指揮を…!」

担当の宮廷魔法師も含め、この場の戦力は敵に対してまるで低かった。
対魔獣戦闘を想定した人員ではないため、当然だ。

「このままでは、犠牲者は倍では済みません。…もう、これしか―」
「まさか…、M.Cディアマンテ、それは…」

「魔法師の中でも召喚術者には、召喚モンスターを問答無用で強制送還する術があるのです…己の命と引き換えにね…」

「な…なりませんぞ、M.Cディアマンテ…!! !なんとか援軍が来るまで――」

「この件は何から何までイレギュラー…。国軍が集まらないことさえ、あるいは何かに仕組まれた事態なのかもしれません…。
 私は――宮廷マジックキャスターM.Cの名に懸けて、この事態の収拾に、命を賭します」

「そんな― M.Cディアマンテ…!! いや、ダイアナ殿― 思い直してくれ!
 …何のために― …今までどんな想いで私はあなたを――」

「…フフッ、私も、こんな名ばかりの監督役なんて暇な仕事、毎回受けていたのは― あなたに会いに来てただけだったのかも知れないわ… ごめんなさいね、所長―いえ、私の――」

「そッ…ダイアナ殿…!!」

「いきます… ―聖天若水、我が真名を以って偲過梵言の――」

「やめ… ダ… ダイアナーーーッッッ!!!!」」



その時、突然天から光の柱が降り注ぐ。



「…ッッッヴォ!!!! ……ッッッッッヴォッッヴォォォォォエッッッッ…!!!!!!」


目の眩むような激しい光がコカトリスを包み、悲鳴にならないような悲鳴が閃光とともに辺りを埋め尽くした。

なす術も無く、特大の怪鳥モンスターは一瞬で丸焦げになる。
地響きが起きるほどにドサリと、怪鳥は胴も背も首も地に着けた。

実体が鶏に近いがゆえに、断末魔は本来もっと甲高いものだったはずだが、ほとんど声を上げる間もなく、それはショック死していた。

「…!? ――な… な…?」

その場に対峙した者全員が、眼前の事態を全く理解できない。


勿論、魔法師の決死術は発動していないし、一般魔法師の支援も衛兵の特攻も無い。
悲壮な表情の所長の前で、宮廷魔法師もあっけに取られている。


大魔獣の邪眼は深々と閉ざされ、鋼の様だった羽は残らず吹き飛び、五肢は断裂され、肉の焦げた匂いだけが周囲に広がっていた。

心なしか、調理に使うような香辛料の香りまで漂ってくる。
放心した兵たちの目を覚まさせるくらい、鮮烈な刺激があった。

「お…おお…おおおおおおおおおおおおーーーーーーあああッッ!!!!」
「やったぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!」
「生きてる!生きてるぞ俺たち…!!」

あちこちから歓声が上がる。
わけがわからないながら、目の前の奇跡に戦士たちは打ち震えた。


「ダ…ダイアナ…」
「所長… ――本名の呼び捨てはやめてもらえますか」
「ああっ、し、失礼…M.Cディアマンテ…」

冷静になったまあまあいい年の男女二人が、夢から覚めたように気まずくなっていた。

どうでもいいことだが、別にこの二人は本来大した仲ではない。
勢いで盛り上がってしまったことを強く恥じた。


「詳しくはわかりませんが― これは魔法による攻撃です…間違いありません…」
「一体誰が…どんな魔法で…?」
「オイ、今の光のような魔法を放った者は誰だ!?」

居合わせた魔法師たちはお互い顔を見合わせ、誰も手を上げない。
そんな中、後方にいた若い魔法師がおずおずと前に出てくる。

「あの…実は俺、見たんですけど…
 ひとつ向こうの広場の方に、人影があったんです…一人でしたけど、多分、魔法の呪文詠唱のような動きをしていて…」
「そんなに遠い場所から…? まともな威力の攻撃呪文になるかよ」
「でも他には俺たち以外に人なんて…」

「わっ…私も見たわ…! その人影から空に向かってほんの一瞬、光の柱が立ち上ったと思ったら、次の瞬間―ここにも光の柱ができて―」

「気付いたら、あの魔獣が倒れていたんです…」

後衛陣の中には、複数の目撃者がいた。
整理すると、かなり離れた位置から一人の魔法師が何らかの魔法でコカトリスを瞬時に黒焦げにした、という結論になる。
その場の一同は改めて困惑した。

「たった一人で…いや、それ以前にたった一撃の魔法でコカトリスを倒すだと…?ありえない、どんなギミックを…いや、どんな魔宝具を使えばそんなことができるんだ…?」

「光の柱…魔獣を一瞬で焼き尽くす威力…
 ―まさか…伝説の“雷光の魔法”では…?」

「“雷光”…ッッ―いや、そんなの昔話だろう…現実にあるはずが無い…!」

「でも、視認できるスピードの攻撃じゃコカトリスに無効化されてた―
 それこそ雷のような速さじゃないと…」

「光が走る前の一瞬、俺は石化覚悟で魔獣に切りかかったんだ…。でもヤツはその時、目を閉じてたんだ!
 敵が特攻してきてるのにそんなわけないと思ったけど、この通り俺は石化してない…
 あの時、奴の邪眼イビルアイも封じられてたんだ…!」

「遠距離で、即効性で、大火力で、無効化能力もあるだと…!?バカ言うな、魔法は万能じゃないんだぞ…!!」

「だって、見たままならそうとしか…」

「一体…何が…!?」


隣の広場を見渡し直しても、もうさっきの人影は無い。
閉園時間が近かったこともあり、警備部隊が一般客を公園外へ避難させていたので、対処に当たっていた人員以外には誰一人園内にいなかった。


「目撃された人物を…このモンスターを倒した魔法師を探せぇっ!!」




犯罪者ではないが、この日ケイジは国軍の手配書に載った。



◇◇◇
(第28話に続く)
※次回から新章です。
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