27 / 81
第90層 紫黒大森林 -ヘルフォレスト-
第27話 王命
しおりを挟む
エミの案内で着いた場所は仮設住宅といった雰囲気のシェルターが並ぶ場所だった。ここが新ヴィザルエンティアラだそうだ。
オークの襲撃から逃れてきたということで集落の周りは丸太や魔法で作ったような土の壁が築かれている。
これまでは外界からの襲撃がなかったからこういう防壁もなかったんだろうな。知識ゼロから作り出したにしてはちゃんとしっかりしている。
「中央広場というか、あの空地で待ってて」
「何でも手伝うから、すぐ言ってください」
「うん、ありがとう」
エミが指差した空地には大きなテーブルと椅子が何脚か置かれていた。とりあえず置きましたって感じがする。青空作戦基地だな。
エミに言われた通りに僕と八咫、アイザ、サフィーナと4人で座っていると何人か人を連れたエミが戻ってきた。
「彼等は今回の作戦に参加する部隊の隊長。王様だけど陣頭指揮はお願いしたい。外の知識を利用させて」
「陣頭指揮か……分かりました。精一杯やらせてもらいます」
戦地での指揮なんてやったことないよぉ……できればブレーンとして動きたかったが断れるような状況でもない。王様だけど謹んで拝命致すしかなさそうだ。
「それとその敬語もやめて。長ったらしい会話は作戦行動の遅延に繋がるから」
「う……わかった」
万が一の時に身を守る為のへりくだり保身作戦が……。アイザも何だかうんうん頷いてるし、八咫は知らん顔だし、サフィーナは目が合うと目を逸らされた。何なん。
「さて、今の状況を話す」
基本的にダンジョンのフロアは円形だ。この集落の位置は時計で言うと2時から3時の位置にある。元は円の中心にあったそうだ。それ以外の森は焼けてしまった。つまり、3/4が燃えてしまったことになる。
「惨いな……」
「私達が生きていれば森はいくらでも何とかなる。問題は戦闘の際の支障の方」
僕も経験したがダークエルフは樹上からの攻撃を得意としている。ノート族は弓を、エンティアラ族は魔法を使う為に攻撃手段は違うが、攻撃方法は似通ったところがあった。
なのでこの最後の森で迎え撃つしかないのだ。
そういった条件での作戦立案……の前に、どうしても僕は聞かなければいけない事があった。
「そも、ダークエルフ達は僕の会合には駆けつけてくれたのに何故、この状況で集まらない?」
「危機は自らの力で以て乗り越えなければならない……それがダークエルフの掟としてあります」
「掟……?」
掟のせいでエミ達の部族が滅んだらどうするんだ。
「じゃあアイザ、なんで君はエミの部族を助ける?」
「エミは私の腹違いの妹です。部族である前に家族……」
「ごめん、ちょっと待って。理解できない。いや、訂正する。何となくは理解できる」
掟というものを重んじる精神は理解できる。それが守られてきたからこそ、今がある。積み重ねてきた歴史がある。それを破ることで先祖に対して無礼を働くこと、歴史に泥を塗るのも理解できる。
だが部族である前に家族というなら、部族は家族ではないのか?
共に暮らし、切磋琢磨し、生きてきた数少ない身内なら、それはもう家族だ。値は繋がっていないとしても、家族と呼べるはずだ。
「僕は王ではあるが外部の人間だ。種族も違うし、考え方も違う。だから僕の思考を押し付ける事はやめようと思っていたけれど、これだけは駄目だ。僕の、王としての意に反する」
王の意に沿わない考えは、言葉が強いが謀反だ。反旗だ。
平らかなる王になる為には、僕の手の届く範囲で信頼してくれた者は救わなきゃいけない。そうしなきゃいけない。
「アイザ。エミ。この他次元層からの侵略に対し、僕はダークエルフ全部族の危機と判断した。オーク達がここを滅ぼした後にまっすぐ帰るとは思えない。エミの次はアイザかグランかもしれない。だからこれに対し、敵オークへ全部族を以て抵抗するべきと命令するよ」
干渉し過ぎないようにと思っていたが、それが間違いだった。王であるならば干渉せずにはいられないのだ。外部がなんだ。掟がなんだ。目の前で滅びようとしている人に、家族に、そんなしょうもない理由で手を差し出せないなんて僕の心が許せない。
「異論はあると思う」
「……」
「掟を守る志は立派だ。積み上げてきた歴史を蔑ろにしてしまうという感情も理解しているつもりだ。けれど、掟を順守して死ぬことは許さない」
「将三郎さん……」
アイザを見る。どういう表情をしたらいいのか分からないのだろう。泣きそうな、悔しそうな、嬉しそうな、そんな顔をしていた。
「アイザ、エミ。僕は君達に一宿一飯の恩義もある。王として、客として。手伝うなんて言葉は取りやめる。ガチガチに食い込ませてもらう。干渉させてもらう!」
「っ、すぐに他の部族に連絡してきます!」
立ち上がったアイザが風よりも速く駆けていく。
「エミ、作戦の立案に協力してくれ。部族の特性と内情が知りたい。そこの2人は情報収集をお願い……頼みたい」
「わかった」
「了解しました」
いつも通りの無表情だ。しかしやる気に満ちた目をしている。呼ばれてきた2人も僕からの直接の命令で気合いが十分に入ったように見えた。自信過剰かな。
「サフィーナは僕達のサポートを。何かあったら助けてくれるかな?」
「は、はい……っ!」
サフィーナは緊張した面持ちで力強く頷く。サフィーナを見ていると肩に力が入り過ぎたのを自覚できた。強張った肩を叩いてサフィーナの力も適度に抜かせる。
「じゃあ私は資料を取ってくる。サフィーナ、手伝って」
「はい……!」
踵を返したエミの後を小走りでサフィーナが駆けていき、残ったのは僕と八咫だけだった。
椅子に座り、ふぅ……と息を吐く。周りは騒がしいが、ここだけは異常なまでに静寂に感じた。隣の部屋のテレビの音のような、隔たれた音を聞きながら空を見上げる。
「八咫、僕は間違ってるか?」
「どうだろうな。この王命がもたらす結果が楽しみだ」
「ふん。ちゃんと導けよ、神様」
「はは……王の意のままに」
空笑いで返す八咫を一睨みし、僕はこれから起こりうることを考えることにした。
オークの襲撃から逃れてきたということで集落の周りは丸太や魔法で作ったような土の壁が築かれている。
これまでは外界からの襲撃がなかったからこういう防壁もなかったんだろうな。知識ゼロから作り出したにしてはちゃんとしっかりしている。
「中央広場というか、あの空地で待ってて」
「何でも手伝うから、すぐ言ってください」
「うん、ありがとう」
エミが指差した空地には大きなテーブルと椅子が何脚か置かれていた。とりあえず置きましたって感じがする。青空作戦基地だな。
エミに言われた通りに僕と八咫、アイザ、サフィーナと4人で座っていると何人か人を連れたエミが戻ってきた。
「彼等は今回の作戦に参加する部隊の隊長。王様だけど陣頭指揮はお願いしたい。外の知識を利用させて」
「陣頭指揮か……分かりました。精一杯やらせてもらいます」
戦地での指揮なんてやったことないよぉ……できればブレーンとして動きたかったが断れるような状況でもない。王様だけど謹んで拝命致すしかなさそうだ。
「それとその敬語もやめて。長ったらしい会話は作戦行動の遅延に繋がるから」
「う……わかった」
万が一の時に身を守る為のへりくだり保身作戦が……。アイザも何だかうんうん頷いてるし、八咫は知らん顔だし、サフィーナは目が合うと目を逸らされた。何なん。
「さて、今の状況を話す」
基本的にダンジョンのフロアは円形だ。この集落の位置は時計で言うと2時から3時の位置にある。元は円の中心にあったそうだ。それ以外の森は焼けてしまった。つまり、3/4が燃えてしまったことになる。
「惨いな……」
「私達が生きていれば森はいくらでも何とかなる。問題は戦闘の際の支障の方」
僕も経験したがダークエルフは樹上からの攻撃を得意としている。ノート族は弓を、エンティアラ族は魔法を使う為に攻撃手段は違うが、攻撃方法は似通ったところがあった。
なのでこの最後の森で迎え撃つしかないのだ。
そういった条件での作戦立案……の前に、どうしても僕は聞かなければいけない事があった。
「そも、ダークエルフ達は僕の会合には駆けつけてくれたのに何故、この状況で集まらない?」
「危機は自らの力で以て乗り越えなければならない……それがダークエルフの掟としてあります」
「掟……?」
掟のせいでエミ達の部族が滅んだらどうするんだ。
「じゃあアイザ、なんで君はエミの部族を助ける?」
「エミは私の腹違いの妹です。部族である前に家族……」
「ごめん、ちょっと待って。理解できない。いや、訂正する。何となくは理解できる」
掟というものを重んじる精神は理解できる。それが守られてきたからこそ、今がある。積み重ねてきた歴史がある。それを破ることで先祖に対して無礼を働くこと、歴史に泥を塗るのも理解できる。
だが部族である前に家族というなら、部族は家族ではないのか?
共に暮らし、切磋琢磨し、生きてきた数少ない身内なら、それはもう家族だ。値は繋がっていないとしても、家族と呼べるはずだ。
「僕は王ではあるが外部の人間だ。種族も違うし、考え方も違う。だから僕の思考を押し付ける事はやめようと思っていたけれど、これだけは駄目だ。僕の、王としての意に反する」
王の意に沿わない考えは、言葉が強いが謀反だ。反旗だ。
平らかなる王になる為には、僕の手の届く範囲で信頼してくれた者は救わなきゃいけない。そうしなきゃいけない。
「アイザ。エミ。この他次元層からの侵略に対し、僕はダークエルフ全部族の危機と判断した。オーク達がここを滅ぼした後にまっすぐ帰るとは思えない。エミの次はアイザかグランかもしれない。だからこれに対し、敵オークへ全部族を以て抵抗するべきと命令するよ」
干渉し過ぎないようにと思っていたが、それが間違いだった。王であるならば干渉せずにはいられないのだ。外部がなんだ。掟がなんだ。目の前で滅びようとしている人に、家族に、そんなしょうもない理由で手を差し出せないなんて僕の心が許せない。
「異論はあると思う」
「……」
「掟を守る志は立派だ。積み上げてきた歴史を蔑ろにしてしまうという感情も理解しているつもりだ。けれど、掟を順守して死ぬことは許さない」
「将三郎さん……」
アイザを見る。どういう表情をしたらいいのか分からないのだろう。泣きそうな、悔しそうな、嬉しそうな、そんな顔をしていた。
「アイザ、エミ。僕は君達に一宿一飯の恩義もある。王として、客として。手伝うなんて言葉は取りやめる。ガチガチに食い込ませてもらう。干渉させてもらう!」
「っ、すぐに他の部族に連絡してきます!」
立ち上がったアイザが風よりも速く駆けていく。
「エミ、作戦の立案に協力してくれ。部族の特性と内情が知りたい。そこの2人は情報収集をお願い……頼みたい」
「わかった」
「了解しました」
いつも通りの無表情だ。しかしやる気に満ちた目をしている。呼ばれてきた2人も僕からの直接の命令で気合いが十分に入ったように見えた。自信過剰かな。
「サフィーナは僕達のサポートを。何かあったら助けてくれるかな?」
「は、はい……っ!」
サフィーナは緊張した面持ちで力強く頷く。サフィーナを見ていると肩に力が入り過ぎたのを自覚できた。強張った肩を叩いてサフィーナの力も適度に抜かせる。
「じゃあ私は資料を取ってくる。サフィーナ、手伝って」
「はい……!」
踵を返したエミの後を小走りでサフィーナが駆けていき、残ったのは僕と八咫だけだった。
椅子に座り、ふぅ……と息を吐く。周りは騒がしいが、ここだけは異常なまでに静寂に感じた。隣の部屋のテレビの音のような、隔たれた音を聞きながら空を見上げる。
「八咫、僕は間違ってるか?」
「どうだろうな。この王命がもたらす結果が楽しみだ」
「ふん。ちゃんと導けよ、神様」
「はは……王の意のままに」
空笑いで返す八咫を一睨みし、僕はこれから起こりうることを考えることにした。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~
草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★
男性向けHOTランキングトップ10入り感謝!
王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。
だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。
周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。
そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。
しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。
そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。
しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。
あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。
自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。
いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】
採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。
ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。
最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。
――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。
おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ!
しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!?
モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――!
※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む
大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。
一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
元探索者のおじいちゃん〜孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、軟弱な若造を叱りつけたらバズりおったわい〜
伊藤ほほほ
ファンタジー
夏休み。それは、最愛の孫『麻奈』がやって来る至福の期間。
麻奈は小学二年生。ダンジョン配信なるものがクラスで流行っているらしい。
探索者がモンスターを倒す様子を見て盛り上がるのだとか。
「おじいちゃん、元探索者なんでしょ? ダンジョン配信してよ!」
孫にせがまれては断れない。元探索者の『工藤源二』は、三十年ぶりにダンジョンへと向かう。
「これがスライムの倒し方じゃ!」
現在の常識とは異なる源二のダンジョン攻略が、探索者業界に革命を巻き起こす。
たまたま出会った迷惑系配信者への説教が注目を集め、
インターネット掲示板が源二の話題で持ちきりになる。
自由奔放なおじいちゃんらしい人柄もあってか、様々な要因が積み重なり、チャンネル登録者数が初日で七万人を超えるほどの人気配信者となってしまう。
世間を騒がせるほどにバズってしまうのだった。
今日も源二は愛車の軽トラックを走らせ、ダンジョンへと向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる