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第100層 灰霊宮殿 -アッシュパレス-

第20話 王の剣

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 誰かの部屋の備え付けの机の前に置かれた椅子を引き、座る。

 目の前の机の上には八咫が足を組んで座っている。

「王鍵スクナヒコナは私の羽根から作られたものという話はしたな?」
「あぁ、聞いた」

 あまりに軽過ぎる剣。あまりに斬れ過ぎる剣。そして王となる為の鍵。

「貴様は生意気にも軽過ぎると文句を言っていたな」
「そうは言うが、振ってる気がしない物を振るというのも薄ら寒いものを感じるんだぞ」
「それは貴様が剣を剣として認識していないからだ。まぁそれも仕方ないものではあるがな」

 あれのお陰で煉獄の輪に触れる権利を得、八咫と契約することができた。最初は剣として入手したが、事の大きさを知ってからは命を救ってくれた物という意識が強い。

「王となる為の鍵っていう認識だな。それが剣の形をしているだけだ」
「王の鍵という名前も悪い方向に作用しているようだから、これを機にスクナヒコナを王の鍵から王の剣へと作り替えるとしよう。勿論、鍵としての性能は残して、な」

 八咫が手を差し出すのでぶら下げていたスクナヒコナを取り外して渡す。

 すると八咫の背中から黒い翼が飛び出した。驚いたが八咫は僕には構わず、羽根を1枚引き抜いた。

「痛そう……」
「問題ない。これをこうして……」

 羽根を咥え、空いた両手でスクナヒコナを引き抜いた八咫が黒い刃に咥えていた羽根を乗せた。

 羽根は刃に触れると紫炎を灯し、燃え上がる。紫色の火の粉は同色の光の粒子となり、刃に吸い込まれていく。

「終わったぞ」
「これで終わり? なんかあっさりしてたな」

 鞘に仕舞ったスクナヒコナを受け取る。

「う、わぁっ!?」
「大袈裟だな……」

 羽根のような軽さだと思っていたスクナヒコナが普通の剣のような重さになっていたら誰だってビックリするだろう!

「スクナヒコナは【王鍵】から剣として生まれ変わった。【王剣スクナヒコナ】へとな」
「王の剣……」
「王になる為の鍵は王としての剣になった。この意味が分からない貴様ではないだろう」

 僕は八咫の目を見て頷いた。導きの神である八咫が、僕を認めてくれたということだ。僕は彼女の王として、強くならねばならない。

「さて、戦い方だが」
「教えてくれ!」
「適当に戦え」
「はぁ……?」

 鼻息荒くせがんだらクッソ雑な返事がきて流石の僕もぽかーんとしちゃった。

「さっきも言ったが、ここはすでに戦場だ。剣道も何もない。戦場の剣は戦場で磨け。最終的に殺せればいい」
「無茶苦茶言ってるようだが、理には適ってるか……」
「ある程度の怪我なら回復してやる。腕が千切れても時間が経たなければ繋ぐこともできる」

 自分の腕がぶった切られる瞬間を想像すると、背中が寒くなってきた。

「まぁ、死ぬほど痛いが死にはしない」
「……」


【禍津世界樹の洞 第97層 灰霊宮殿アッシュパレス 灰燼兵団宿舎隣接練兵場】


 散々脅された後、僕達は部屋を出て再び練兵場までやってきた。ここは死角が多い。不意打ちにはもってこいの場所だった。

「しかしこうして行き来してるが全然モンスターに遭わないな」
「まぁ宿舎だからな。休む為に来る場所だから、兵たちとは滅多に遭わない。むしろ、遭わないからこそここへ案内したんだ」
「ふぅん……」

 ならここで不意打ちかましても援軍という可能性は少ないだろう。安心して奇襲することができる。

 ところでリスナーの皆さんはダンジョンで手に入るアイテムの中でも特に希少なものには【アビリティ】というものがあるのをご存知だろうか?
 これは身に付けると任意で発動できる特殊効果のようなものだ。

 火の出る剣もあれば、雷を纏った矢を射れる弓もある。

 衝撃を反射する盾があれば、衝撃自体をなかったことにする鎧もある。

 こういった希少なアイテムは軒並み高額で取引がされる。1個見つければ当分は遊んで暮らせるような物なのだ。

 そんな希少なアイテムを今、僕は身に纏っている。八咫が宿舎を周ってササッと集めてきた物だ。

「【夜鴉よがらすのコート】は自分の気配を影のように暗く染め、周囲に溶け込むアビリティ【黎明の影ドーンシャドウ】が付与されている。使い方は分かるか?」
「わかりません」
「フードを被れ。それで発動する」

 言われた通りにフードを被ってみる。

「……自分では分からないな」
「コートの裾をよく見てみろ」

 言われた通りにコートの裾を見てみる。真っ黒い裾は先程まで普通の服と同じものだったが、フードを被り、【黎明の影】を発動させたところ、裾が黒い煙のように揺らいでいて、まるで消えていくように漂っていた。

 感覚的にはよく分かってないが、こうして視覚効果があるとオンオフが分かりやすくていいな……初心者にも安心してオススメできる一品だ。

「今、将三郎の気配は足元の影のように静寂で、煙のように掴めず、空気のように薄れている。実感はないだろうが、実際に兵士に出会えば分かるだろう。こちらから行動を起こさない限り、気付かれることはない」
「凄いな……隠密部隊は皆こんな装備をしてるのか?」
「いや、そんなことはない。それは私の古着だ」

 なんと、それは気付かなかった。意外と着れるものだな……。

 と、そんな話をしていると練兵場の入口に人影が見えた。慌てて身構えるが、僕達に気付いている様子はない。真っ直ぐ、僕が防具を漁った倉庫へと歩いていった。

「……本当に気付かないんだな」
「今のうちに入口の傍まで走れ。出てきたら後ろからやるんだ」
「わ、わかった」

 もしかしたらすぐに出てくるかもしれない。そう思いグッと足に力を入れて走り出すと、自分でも驚くような速さで走り始め、あっという間に倉庫に辿り着いた。

「これもアビリティの力か……?」
「そうだ。説明は時間があったらしてやる。さぁ、構えろ。出てくるぞ」

 ドキドキしながら王剣スクナヒコナを鞘から抜く。いよいよ、初めての戦闘(不意打ち)が始まる。
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