期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました

紙風船

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第六十一話 陽は落ち、魂は葬られる

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 冥界の力とやらを取り込んだ直後は酷く焼け爛れ、腐り、膨れ上がった醜い姿をしていたが今は以前のように人間サイズに納まっていた。しかし以前と違うのはその体毛が青黒く染まり、一部分からは黒い羽根のようなものが生えているところだ。顔つきはまぁ、憎たらしい笑みは相変わらずか。傷跡は癒えたようだが僕の神眼は上手く作動しているらしく、神眼が入っている右目だけがキョロキョロと動いている。左の自前の目は僕をしっかりと見据えていた。

「元気そうだな」
「くふ、お陰様で。どうやら一度死ぬことが引き金だったようで見事に冥界より復活し、以前と同じく素晴らしい身体を取り戻せました」

 聞いてもいないことをベラベラと話してくれる。神眼で周囲を警戒して時間稼ぎをしているのはバレバレだ。僕の戦術も警戒しているのだろう。先程のように心臓を穿つのは難しそうだ。

「貴方から頂いた神眼も、冥界の力を取り込んだお陰で性能が上がりましたよ。亜神眼と言ったところですか。魔眼を超えたと言っても過言でもありません」
「過言だろ。ビビってんのが丸わかりだ」
「……」

 僕の挑発に分かりやすく黙り込むギニュエル。冷静さを保っているふりをしているが、亜神眼とやらもしっかりと僕を睨んでいた。

「余裕がないな、ギニュエル。どうした、前みたいに笑ってくれよ」
「チィッ……まぁそうやって余裕でいられるのも今だけですよ……。死して甦った本物の神の力を貴方に教えて差し上げましょう!」
「一回死んだ奴が偉そうに吠えるなよ!」

 突進してくるギニュエルが右手を振り上げる。その腕をそのまま切り落としてやろうかと下から振り上げたが、嫌な予感がして防御に切り替える。自身の眼前に構えたアグレフィエルが甲高い金属音を奏でる。

「よく気付きましたね!」

 ギニュエルの右の手の平からはネフィリムの刃が生えていた。耳障りの悪い金属の擦れ合う音が断続的に鳴る。上から押すギニュエルの力は確かに以前とは比べ物にならない程に上昇している。だがそれに対応できるのがバフ魔法だ。僕は筋力上昇ハーデス・ハントの出力を上げ、一気に振り上げる。よろけたギニュエルに一太刀浴びせるが蒼黒炎が庇うように立ちはだかる。炎を斬ることは問題ないが、視界を遮られるのは具合が悪い。

「くはははははは! さぁ、殺して差し上げましょう!」
「悪いけど人を待たせてるんだ。一回殺した奴に興味もない。終わらせてやる」
「なにィ!?」

 僕がエレーナとミルルさんを先に返したのは2人を巻き込みたくなかったからだ。だがそれは復活したギニュエルとの戦いにではない。僕の攻撃に、だ。勇者戦術《ブレイブアーツ》を熟知してるシエルだけが見て避けられる。
 その証拠に、僕の構えを見たシエルが一瞬でテレポートを発動する。

「《勇者戦術ブレイブアーツ 終ノ断ついのたち ”落陽らくよう”》」
「……ッ」

 防ぐ為に蒼黒炎を放つギニュエルだが放った傍から炎は火の粉となり、消え失せる。伸ばした手は先端から微塵切りになり散らばっていく。その現象は一切の防御を無視してギニュエルの身体を粉微塵になるまで切り刻んだ。

 あの時、フィンギーさんが使おうとした技がこれだ。自分を中心とした全方位への無限斬撃。あれをギリギリで止めたシエルには感謝しかない。斬撃は剣を鞘に納めた時点で停止したが、僕を中心に真球状に神世樹が抉れた所為で足場が無くなってしまった。バフ魔法に空中浮遊はない。重力に任せて落下するしかないが其処は流石シエルといったところで、テレポートと同時に僕の手を掴んでくれた。なにせ彼女には羽根があるのだから、浮くことなんて何の問題もない。

「まさか落陽まで身に付けてるとは思わなかったよ!」
「あはは、まぁ、これが代償なんだけれどね……」
「うっわ……」

 剣を握っていた右手は力の反動に負けて全部の指が好き勝手向きたい方向を向いていた。痛すぎてもう何も感じない。何なら肩から先の感覚もない。

「ミルルさん号泣案件だねぇ、これは」
「謝って許してもらえるならいくらでも謝るさ」

 シエルに支えてもらいながら床に降りる。何層かは分からないが、その内シエルが直してくれるだろう。

 さて、これで終わりだ。ギニュエルは粉末になって死んだ。まったくしつこい奴だった。あの執念は本物だな……。

「……ん?」

 ふと頬に熱を感じる。チリ、と火花が散ったような感覚。

 まさかと思い、慌てて上を見る。其処は青黒い炎で全てが埋め尽くされていた。

「本当にしつこい……!!」
「くふふふ、くははははは!! 神は死なない!!!!」

 炎の中心から顔を覗かせたギニュエルが喜色満面で僕を見下ろす。

「我が魂は不滅!! 魂ある限り肉体は復活し、この世に君臨し続けるのですよ!!」
「なるほど……なら魂まで滅せばお前は死ぬんだな?」
「はぁ……?」
「シエル、まずは入れ物を無くしてやれ!」
「まっかせて!」

 亜空間から取り出した《滅杖 天堕とし》をグルグルと振り回しながら満面の笑みで叫ぶ。

「さぁてさてさてさて! 漸くやってきた私の出番! 邪神に進化したけれどこれといった活躍の場面がなくて本当に本当にへこんでたんだからね。まったくナナヲ様は自分の見せ場ばっかり用意しちゃって私のことなんかもういらないのかって一時期はメンタルがヘラってた時もありましたよ。でもね、ナナヲ様は私のこと大好きだから絶対に裏切らないって信じてたよ! 此処ぞという場面で私を活躍させてくれるって信じてた! さぁ悪喰の神よ! この邪神様がお前の器を完全消滅させてやるとしよう!」

 ビシッと杖をギニュエルに向けたシエルが高らかに宣言する。ていうかそんなに思い詰めてたなら言ってくれれば……。

「天の星瞬き、流れ散る。かつての輝きは闇に飲まれ死する光は最期の瞬きを残し散り逝く。広がる無は限りなく、遍く全てを包み、抱き、導く。無も有も染める黒は是即ち全て死なり。破滅の音は無く、訪れるは終末のみ」

 以前よりも長い詠唱はそれだけ多くの力を魔法に込められる。神世樹から浮き上がるように現れた光の粒子は紫焔を灯した愚者の石へと吸収され、舞うように杖を振ると先端から黒い輝きとなって弧を描いて舞い上がる。その粒子は空間全体に広がり、やがてそれぞれが繋がって大きな魔法陣となった。

「死すらも超えた無を知るが良い。《殲滅無間魔法”アストラル・ノート”》」

 輝いていた魔法陣は一瞬にして黒一色となる。魔法によって制御されたブラックホールは冥界の炎は勿論、ギニュエルすらも飲み込んだ。奴は声もなく、死すらも理解出来ぬままにその身体を消滅させられたのだ。

 相変わらず恐ろしい魔法だ。ブラックホールの魔法的制御。冥界がなんだ、ブラックホールに勝てる奴なんていやしねぇのさ!

「だがぁ、魂さえあれば、私はぁ……私はぁああ!!」

 そのブラックホールの中から這い出てきたのは半透明の黒い魂となったギニュエルだ。その魂の指先の先端に青黒い炎が灯る。

「墓守ってのは墓だけを守る訳じゃない。荒ぶる魂を鎮めるのも仕事の一つだ。だがこれには技術がいる。具体的には技の練度の問題だ。僕はこれをダンジョンを攻略することと、その合間も忘れずに墓守業務を行うことで高めた」
「何の……何の話をしてるんだ!!!」
「要はギニュエル、熟練の墓守は魂も斬れるって話をしてるんだよ」
「なにぃ!?」

 本来の利き腕は右なのだが、まさかこうなるとは思ってなかったので今回は左手だけでやらせてもらおう。このしつこさともお別れだと思えば少し辛いが頑張れる。

 剣を抜き、左手で構える。見据えるは荒ぶる神の魂。だが魂に貴賤はない。死ねば皆等しく終わりなのだから。

「《墓守戦術グレイブアーツ 終葬ついそう ”無間葬送むけんそうそう”》」

 力を入れることなく左から右へ、僕の真上にいるギニュエルを斬る。それだけで魂は真っ二つになり、霧散した。《魔眼”解明レゾリューション”》は何も写さない。魔眼は、完全にギニュエルの魂が消滅したことを観測したのだ。

 これで、終わりである。

「さてと……帰るか」
「だね!」

 無事である左手をシエルに差し出す。が、シエルは手を取らず、僕に抱き着いてくる。文句を言おうとするが、口を開いた時にはすでにザルクヘイム大迷宮郡のエントランスの中心にいた。僕の周りにはエレーナやミルルさんを初めとした多くの探索者が募っている。2人の帰還を知った皆が集まったのだろう。ザルクヘイムは、カテドラルは攻略されたのかと。

 だが多くの人が突然現れたボロボロの僕と、角丸出しの邪神様に目を奪われる。攻略とかそれ以前の問題になってしまったのである。

「な、ななな……ナナヲあんた、シエル先輩になんてことを……!」
「いや違っ、これはシエルが!」
「きゃあああああああ!!! ナナヲ様、み、右手……!!」
「うわびっくりした、そんな大きい声出るんですね。じゃなくてごめんなさい、これには深い訳が……」
「ナナヲ様、攻略お疲れ様! のチュー!」
「ぎゃあああああああ!!! シエル先輩のチュウウウウウウウウウ!!!!」
「あーーーーもーーーーうるせーーーーーーーー!!」

 何とも締まらない。これが大迷宮郡を攻略した人間の締めなのか?

 かつての王国を飲み込み、天と地に別れた巨大迷宮を突破した者の姿がこれ?

 そんな思いが頭の中を埋め尽くすが、もう一人の僕が馬鹿野郎と切り捨てる。これがお前なのだと。勇者でも英雄でも何でもない、ただの紛れ込んだ男であり、ただの墓守、それがお前、それが僕、 伊佐埼七緒なのだと。

 シエルに絞められ、エレーナに羽交い絞めにされ、泣くミルルさんを左手で撫で、まるでハーレムだなと、僕は天井を眺めながら嘆息するのだった。
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