期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました

紙風船

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第四十八話 久しぶりの地上

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 グイ、と背中を押される感覚にハッと意識を取り戻す。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。不用心にも程があるなと頭を振りながら立ち上がると、不機嫌そうな表情をしたエレーナが顔を覗かせた。

「邪魔なんですけど。なに、寝てたの?」
「いや寝てない。気絶してた」
「それを寝てたって言うのよ。不用心ね!」

 申し訳ない気持ちで頬を掻いていると中からミルルさんも出てきた。

「あの……シエル様が落ち着いたようです」
「終わりましたか。どれ、どんな風になったかな」

 また美人に進化したのだろうと入ろうとしたところでエレーナの腕が横から伸びてきた。

「その前に」
「ん?」
「ふー……どうしたものか、って感じなのよね」
「というと?」

 突き出した腕をそのまま扉につけ、もたれるように項垂れた。何か深刻な問題が起きたようなのだが、今すぐどうにかしなきゃいけないようには見えない。というか、今更どうしようという風に見える。

「先輩、例によって例の如く進化をしたのだけど、何に進化したと思う?」
「あー……この間がアスモデウスだっただろう? 伝説中の伝説のモンスターだっけ。じゃあ今度は神話のモンスターか?」

 流石にそんな、なんてケラケラと笑ってみたが、エレーナとミルルさんは揃って盛大な溜息を吐いた。

「マジっすか?」
「マジよ。神話の邪神、《アンラ=マンユ》。それが先輩が進化したモンスターよ」
「マジかぁ……」

 邪神って……なんか、縁起が悪いな。

「邪なる神か……宗教上問題はありますか?」
「恐らく……大丈夫だと思います。確認はしてみないといけませんが……」
「分かりました。とりあえず、中へ」

 僕の言葉に2人が頷く。部屋の中は先程と様子は変わらない。部屋の中央に立つシエルは此方に背中を向けていた。

 背中を覆う髪は以前とは変わらず漆黒だ。腰よりも伸びた髪を掻きわけるように伸びる尾は細くしなやかで銀の体毛と銀の鱗が覆っていた。一色じゃないのかと首を傾げたが、よく見ると黒髪の隙間から銀色の髪が見える。どうやら長い黒髪の内側が銀色らしい。

 その髪の根元に生えていた角も、これまた立派に育っていて、少し前に横に広がったのとは別に、根元から真上に向かって鋭く伸びる角が生えていた。これでシエルは左右に加えて上も気にすることになった。部屋入る時は中腰で入ってもらおう。

「うん? あ、ナナヲ様。おかえり」
「ただいま、シエル。立派になったね」
「ふふん、まぁね!」

 表情豊かなのはいつもと変わらず、だ。目も以前と変わらず綺麗な赤色だ。紋様も同じ赤で、白磁のような綺麗な肌に映えて美しい。しかし顔だけだった紋様が全身に広がっていた。足にも紋様は広がっているのでよく見れば気付けたはずだが、尻尾に目が奪われていたね……。

 そんなシエルが身に付けているのは白地に金のアクセントが入った異国風の衣装だ。少し動くたびに金色の丸い飾りが数珠繋ぎになった装飾がシャラシャラと音を立てている。邪神として奉られているとは思えない程神々しく、そして美しかった。

「カテドラルは?」
「喰ってくるねぇ~。今の私のスペックでギリってとこかな。ちょっと舐めてたかも」

 てことはあまり悠長にしてる場合でもなさそうだ。カタコンベ相手ならハッキングを待てたが、今回は並行して攻略する必要があるかもしれない。

「……一旦戻ろう。それから相談しよう」
「だね。じゃあ私達だけが使える此処と地下墓地ダンジョンを繋ぐ転移結界を構築するね」
「!」

 なるほど、カタコンベの迷宮主の力を得たシエルならばそれも可能か。

 結界はどうやらエレーナやシエルが使った部屋の中に作るようだ。だから僕達しか使えない、ということか。そもそもこの部屋に入るのだってシエルの力が必要だから、其処で選別される訳か。

 シエルがエレーナ達に転移結界の説明をし、一瞬で構築した、気付けば僕達は地下墓地を経由し、いつもの第770番墓地に立っていた。

「……一瞬だったわね」
「とりあえず僕、協会に連絡してくるよ。解散ということで。近い内にカテドラル攻略もしなきゃいけないと思うから、忙しいとは思うけれどそのつもりでよろしくね」
「はーい」
「了解、です」

 墓地で解散した僕はシエルと共に協会への報告へと向かった。


  □   □   □   □


「という感じで攻略は完了しました」
「なるほど……勇者が……」

 眼鏡を外し、眉間をぐりぐりと揉む支部長が溜息交じりに呟いた。

 事の展開は全て話した。フィンギーさんのこと。シエルのこと。そしてカテドラルのことも。

「攻略はいつ頃から開始するつもりでいるんだ?」
「それはえーっと……」

 チラ、とシエルの顔を見ると目が合う。白く細い人差し指を顎に添え、うーんと宙を見つめながら計算をし始める。

「んー……色々計算して、2週間後くらいに始めたいなって感じです」
「ふむ。ではそれに合わせて此方も人材配置を計算しておこう。ナナヲ君のお陰で現場職員の労務も簡略化されて手間が減ったからね。楽に人を動かせて助かっているよ」
「あはは……」

 それって現場職員の仕事、プラマイゼロじゃ……いや、今までの戦闘職に比べれば確かに楽にはなっているのか。蒸留聖水様様だな。

 仕事の打ち合わせを終えた僕達はアル君に会う為に会議室を出た。さっき入口から入った時に見たアル君は受付でお仕事中だった。探索者っぽい装いの人を相手にしていたから、誰か亡くなったのだろう。早くザルクヘイムを攻略して、死者の少ない町にしたい。

 カウンターに戻ってくると、アル君が手を振っているのが見えた。先程僕達が入ってきたのは見えていたようだ。

「ナナヲ! おかえり!」
「ただいま、アル君」
「私は~?」
「シエルさんもおかえり! 無事で良かった!」

 現在のシエルは魔法で人間モードに変身している。流石に邪神モードで街中を歩くのは控えたようだ。

「しかし早かったな。大丈夫だったか?」
「うん、シエルのお陰でね」
「ふふん!」

 全部シエルのお陰だった。こんなにも心強い味方が居てくれて僕はとても恵まれている。エレーナやミルルさんにも感謝しかない。僕を見つけてくれたフィンギーさんだってそうだ。あの時受付にいれくれたアル君にも沢山助けられた。

「支部長から話があると思うけれど、今度はカテドラルに行かなきゃいけないんだ」
「マジかよ……大丈夫なのか?」
「うん、少し休めるから大丈夫。また心配と迷惑を掛けちゃうけど、ごめん」
「謝んなって。お前なら余裕で攻略して帰ってくるって信じてるぜ」

 グッと親指を立てるアル君。僕とシエルも親指を立ててガチンと拳をぶつけ合った。


 協会を出た僕達は管理小屋へと向かった。早めに帰れたので第770番墓地を担当してくれている人に交代を伝える為だ。シエルは途中で寄るところがあるというので別れた。最初はスケルトンだったシエルも、肉体を取り戻してからは人間の姿で町の人達と交流を深めていた。これから帰還報告をしてくるのだろう。

 僕は寄り道せずに管理小屋に向かい、荷物をおろしてから墓地へとやってきた。

「えーっと……あっ、いたいた」

 広いお墓の端で伸びた草を刈っているフランシスカさんを見つけた。

「《骨喰み》!」

 墓守戦術で草を刈ってる……。

「お墓、壊さないでくださいね」
「ん? やぁナナヲ。早かったね」
「ただいま戻りました」

 チン、と剣を鞘に仕舞ったフランシスカさんが爽やかな笑みで此方に振り返る。とても今しがた手抜きをしたようには見えない。

「ナナヲのお陰でとても楽に仕事が出来たよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。何か変わりはなかったですか?」
「あぁ、平和そのもだよ。何なら、暇すぎて退屈だった」
「だからって草相手に剣を振らないでください」
「君が地下墓地ダンジョンの入場を禁止したからだろう?」
「今入ったって何もないですよ」

 地下墓地内のシエルがリスポーンを制御しているから、瘴気はモンスターになることなくシエルの力として蓄積されるので、今はもぬけの殻なのだ。だから地下に行っても楽しいことは何もない。

 つまらなさそうに溜息を吐いたフランシスカさんは頭の後ろで手を組んで敷地の壁に背を預ける。

「それで、カタコンベはどうだった?」
「疲れたってのが率直な感想ですね。探索者には向いてないかもしれません」
「ははっ、色々聞かせてくれよ」

 それから僕達は、シエルが合流するまで脈絡なく飛び飛びな会話を楽しんだ。ゆったりとした時間を過ごせたからか、僕は漸くいつもの場所に戻ってきたんだと実感することができたのだった。
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