期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました

紙風船

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第三十八話 ゾンビはいつだって悪役

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 シエルの魔法によって抉れた穴は礼拝堂と中庭を繋いでいたので中庭を真っ直ぐ通って反対側の廊下へと抜けた。昨日来た時は僕はこっちの方は探索してなかったのだが、確かに礼拝堂との逆の位置に扉があった。今は経年劣化によって塗装も剥げ、その辺の小部屋の扉と変わりない。いや、まだちゃんと開閉出来るだけ他のよりは立派か。

 腐毒剣インサナティーの切っ先を扉に刺し、少しだけ腐らせて穴を空ける。其処からそっと向こう側を覗いてみるが、モンスターの姿は見えない。

 ドアノブを掴み、捻ってみるが手ごたえがない。どうやら壊れていたようで、押してみるとそのままギィ、と小さく鳴いて開いた。

 妙に長い通路には一定間隔で窓が設けられている。かつては日差しが差し込み、さぞかし厳かな雰囲気が漂っていたであろう其処は、今では見る影もない。あるのは膨大な時間が持ち去った後の残骸だけだった。

 警戒しながら通路を歩く。これで前後を挟まれたら嫌な感じだなぁ……なんて、思っていた矢先のだった。

「正面から来るわ!」

 エレーナの声に剣を構える。そして外部の魔力を取り込み始めた。戦闘前から準備したいところではあるが、維持による体力の消費が激しいのが弱点だ。こうして戦闘になってから魔法を構築しないとバテてしまう。

 入ってきた扉同様、壊れた扉が勢いよく弾け飛び、数人のシスターゾンビが走り込んでくる。走るゾンビはレギュレーション違反だが、文句を言ったところで誰も納得してくれない。声なき声で吠えながら振り下ろした腕を掻い潜り、胴をぶった斬る。続いて噛み付こうと取りついて来た奴をバフ魔法で上がった力で強引に退き剥がし、首を斬り飛ばした。更に扉から入ってきた神父ゾンビが数体。流石に全員を相手するのは難しいので、一旦後退する。

 入れ替わるようにシエルが両の手に作った魔力の刃で神父達を袈裟懸けに斬り捨てるのを見て、やっぱり強いなぁなんて他人事な感想が浮かぶ。あれだけ肉弾戦やってて大魔導士だっていうんだからな……。

 斬りながら魔法も使って神父が燃え上がる。手の回らない部分はエレーナの風魔法がシスターを吹き飛ばした。

「いやぁ、凄いね」
「お二人共、お強いです」
「僕も精進しなきゃ」
「ナナヲ様も、お強いですよ?」

 何を言ってるんですかと言わんばかりに首を傾げるミルルさんを見て苦笑が漏れた。

「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、本当にまだまだだから……あの2人やフィンギーさんに比べればもっと頑張らなきゃって思っちゃうね」
「勇者や魔導士、大魔導士……ナナヲ様は、上ばかり見過ぎかもです。こうして今、ダンジョンの深層でも戦えてる……それは、凄い事です」

 真正面からそう言われると流石に照れ臭かった。あーとか、うーとかしか言えず、小首を傾げるミルルさんを直視出来ず、気拙い沈黙が生まれる。

「ちょっと! 人が戦ってるのに何いちゃついてるの!?」
「ふざけんじゃないわよ!!」
「い、いちゃついてません!」
「風評被害だぞ!」
「仕事しろナナヲ様!」

 全く以て不本意だ。シエルに関しては様を付ければ何を言っても良いと思ってる節がある。しかし実際に実力はシエルの方が上だし、言ってることも正しかった。僕はなんて情けない奴なんだ。それもこれもこの無限に湧いて来るゾンビが悪い。奴等の所為で僕はこんな気持ちになっていると言っても過言ではない。

「『イグニッション・アクセル』、『ブリッツ・エイム』、『ブレイズ・ブレイブ』、『フロスト・ガードナー』……」
「ちょ、ナナヲ様、それは……」

 魔素循環法により取り入れた魔素を魔法へと昇華させる。そのサイクルを早め、多重に発動し、重ねていく。

「『グランド・ボディ』、『エアロ・サーチ』……!」

 地属性体力上昇魔法、グランド・ボディ。そして風属性感覚鋭敏化魔法エアロ・サーチも発動させる。一気に発動させたことにより取り入れた魔素が急激に薄くなる。それを補うように吸収する魔素は量が増えていく。それに伴う頭痛が僕を襲う。この痛みも、結局はゾンビの所為だ。おのれゾンビめ……!

 吸収した魔素を分配し、平等に、急速に魔法の効果を高めていく。そして初めて6重に発動したからか、効果が高まるにつれて各属性色の魔素の帯が僕を起点に回り始めた。

「おのれゾンビめ……」
「ナナヲ様、そんなにゾンビに恨みがあったの……?」
「今の所は凄くある……!」

 抜いた二振りの短剣。灰火剣ハイドラと腐毒剣インサナティーを構え、単身突っ込む。振り上げた剣にスキル、墓守戦術を乗せる。

「《墓守戦術グレイブアーツ 二葬にそう昇天しょうてんとし”》!!」

 一葬”骨喰み”がダッシュ斬りの一撃技なら、二葬”昇天堕とし”は連続技だった。使えば使う程、戦えば戦う程にスキルとは成長し、編み出すもので、これまでの戦闘で僕も墓守戦術は基礎の段階を越え、前線級のスキルへと昇華していた。

 ハイドラで斬り、その勢いのまま体を捻り、低い位置からの蹴り上げで敵を空中に浮かし、それを追うようにジャンプし、インサナティーによる全力の斬り下ろしで止めを刺す。その斬撃の勢いでゾンビは吹っ飛び、ゾンビ達が入ってきた扉よりも奥の扉をぶち壊して消え去った。

「ゾンビめ!」

 着地した僕はキメ顔でそう言った。だが周りは冷めた反応だった。おのれ……ゾンビめ。

「……あっ」

 僕の後ろに居たエレーナがゾンビが消えていった奥を指差す。何だろう、また増援でも来たのかと目を凝らすと、扉の向こうに小さな淡い緑色の光が見えた。それは六角柱の形をした水晶だった。それが光りながらゆっくりと回転している。その度に反射した光がチカチカと存在感を主張していた。

「あれが迷宮核だね」

 杖で指したシエルがニヤリと笑う。

「じゃああれをシエルがどうにかしたら帰れる訳だ」
「ま、その辺は任せといてよ。ただ……」
「えぇ。そうすんなりやらせてくれる程、ダンジョンは甘くないわ」

 その光を遮るように、誰かが間に立つ。

 それは擦り切れながらも豪奢な衣服を身に纏った巨体のゾンビだった。

 『エルダーゾンビ 個体名《アルヴァ=エルドリエス》 ナトラ教教皇』

「個体名あるぞ! アルヴァさんだ!」
「さん付けする必要ないわ。付けるならアタシに付けなさい!」
「嫌だ!」
「ふざけんじゃないわよ!」

 だんだん『ふざけんじゃないわよ』が持ちネタになりつつあるエレーナが誰に対する怒りか分からないが、ブン! と勢い良く杖を振る。

 今回は『滅杖天堕とし』がないし、アンデッドの召喚も無さそうだし余裕そうだ。ゾンビはどこまで行ってもゾンビでしかない。

 ……と、思っていたのは大きな間違いだと、僕は後々思うのだった。
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