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第三十一話 地下ダンジョンの秘密
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順調に探索を続けた結果、僕達は遂にとんでもない物を見つけてしまった。
「うーん……何でこんな地下に木が生えてるんだ?」
光も届かぬ深層6層。ぼんやりと光る壁に這う木から伸びる枝に茂る葉は青く瑞々しい。
「ナナヲ様、神眼は」
「あ、ちょっと待ってね」
ジッと見てはいたが意識していなかった所為で発動していなかった神眼に意識を傾ける。
『ユグドラシル 神世樹とも呼ばれる』
「ユグドラシル、って書いてあるんですけど……」
「はぁ!?」
エレーナはこういう時、正解のリアクションしてくれるから嫌いになれない。
「じゃあ此処はザルクヘイムって事?」
と、周りに聞きながら、いやでもグラスタの地下だよなと自答する。
「ナナヲ様は知らないかもだけど、こういう事は時々あるんだよ」
ピッと人差し指を立てたシエルが教えてくる。指を立てるのは大魔導士の英知を披露する時の癖だ。
「こういうのを『派生迷宮』って言うんだよ。大本のダンジョン……今回で言えばザルクヘイム大迷宮郡から派生した迷宮って事になるね」
「派生迷宮か……つまり此処もザルクヘイムって事になるんだよね?」
「このダンジョンが成長して町を飲み込めば、いずれはグラスタは地図から消えて、ザルクヘイムに書き換えられるかもね」
サラッと恐ろしい事を言う。
「此処も実質カタコンベよ。その木を……いえ、根を伝っていけばカタコンベに繋がってるでしょうね」
なるほど、ザルクヘイムは総称であって地下のダンジョンはカタコンベと分けられている。ならば此処もカタコンベだ。やだなぁ……職場の地下にカタコンベ……。
「これで墓地の地下にダンジョンが出来ていた理由が分かったわね。墓守協会に報告しましょ」
「それは良いんだけど、じゃあこのダンジョンを……何だ、制圧? するにはカタコンベを攻略するしかないってこと?」
「いえ、派生迷宮にも迷宮核が存在します。それを破壊すれば、地下ダンジョンは一時的に封鎖出来ます」
迷宮核とはダンジョンの構成の要となる物だ。いずれも最深部、その最奥に設置された物で、此奴を破壊することでダンジョンは力を失い、機能しなくなるとシエル先生に教えてもらった。
「一時的……ってことは完全な制圧とはならないのは大本のカタコンベが存在しているから?」
「正解だよ。大本のカタコンベから流入する魔力と瘴気でいずれ迷宮核は復活するね」
となると定期的な破壊が必要になる。この程度の深度ならしっかり準備して潜れば苦はないが、面倒臭いと言えば面倒臭い。どうにかカタコンベからの流入を抑えられないものか。
「この根、切っちまえば解決しそうではあるけど」
「ユグドラシルの根なんて魔素の塊みたいな物よ。どうせすぐ繋がってしまうからやるだけ無駄ね」
「むぅ……」
成す術無し、ということか。
こうして此処で考えても仕方ないということで、僕達は一旦地上に戻ることにした。
今回得られた情報を墓守協会へ持ち帰り、協議した結果、聖天教と共に対策を練ってもらうことになった。協会から与えられた新たな指示は、とりあえず現状維持だそうだ。成長し続ける派生迷宮。これが町全体に広がらないように規模を維持するのが仕事だ。
其処でどうするのがベストかシエルと考えた結果、魔素の吸収と瘴気の浄化が課題となった。協会は早速蒸留施設の工事に取り掛かっていたが、それを待つ間に此方でも蒸留を進めて、まずは第770番墓地周辺から浄化を進めていった。日々、薪をくべて燃やし続ける僕。疲れたり薪が無くなったらシエルが代わりに魔法で火を維持する。そして出来た蒸留聖水を撒く毎日。
暫くして一番最初の蒸留施設が完成した。家屋と最低限の生活物資を販売する店と大量の墓しかなかった町に出来た最初の施設だった。
これが完成した事により、大量の木が必要になり、町には材木を売買する商人やそれを運ぶ業者の姿が増えた。
墓の街に生きた人間が行き交う光景が生まれた。それは今までにない景色だ。朝日に照らされ、項垂れる墓守仲間達も驚いたように目を丸くさせている。これからはこの光景がこの町の普段となる。そして墓守達は夜に寝て朝に起きる健康的な生活へと変わっていくだろう。
その改革に貢献出来たのが嬉しかった。
□ □ □ □
蒸留施設が出来てから1ヶ月が経った。町は徐々に浄化が進められている。最初はオーバーワーク気味だった聖天教も徐々に人数を増やしていき、今では多少余り気味だ。
ならばということで第二の蒸留施設の建造が始まったのが先週の話だ。それでも町の半分は浄化が進んでいる。このまま第二蒸留所が出来れば清廉さの維持も可能となるだろう。
墓守協会も職場の改善が出来たことで墓守達の不満も減ってきたとアル君が嬉しそうに言っていた。仕事が仕事な所為で改善が難しく、頭を抱えていたから悩みが解決して僕も嬉しかった。
こうして目下の問題が解決した結果、僕達は新たに協会から指示を受けた。即ち、
『第770番墓地地下派生迷宮の攻略』
である。
「うーん……何でこんな地下に木が生えてるんだ?」
光も届かぬ深層6層。ぼんやりと光る壁に這う木から伸びる枝に茂る葉は青く瑞々しい。
「ナナヲ様、神眼は」
「あ、ちょっと待ってね」
ジッと見てはいたが意識していなかった所為で発動していなかった神眼に意識を傾ける。
『ユグドラシル 神世樹とも呼ばれる』
「ユグドラシル、って書いてあるんですけど……」
「はぁ!?」
エレーナはこういう時、正解のリアクションしてくれるから嫌いになれない。
「じゃあ此処はザルクヘイムって事?」
と、周りに聞きながら、いやでもグラスタの地下だよなと自答する。
「ナナヲ様は知らないかもだけど、こういう事は時々あるんだよ」
ピッと人差し指を立てたシエルが教えてくる。指を立てるのは大魔導士の英知を披露する時の癖だ。
「こういうのを『派生迷宮』って言うんだよ。大本のダンジョン……今回で言えばザルクヘイム大迷宮郡から派生した迷宮って事になるね」
「派生迷宮か……つまり此処もザルクヘイムって事になるんだよね?」
「このダンジョンが成長して町を飲み込めば、いずれはグラスタは地図から消えて、ザルクヘイムに書き換えられるかもね」
サラッと恐ろしい事を言う。
「此処も実質カタコンベよ。その木を……いえ、根を伝っていけばカタコンベに繋がってるでしょうね」
なるほど、ザルクヘイムは総称であって地下のダンジョンはカタコンベと分けられている。ならば此処もカタコンベだ。やだなぁ……職場の地下にカタコンベ……。
「これで墓地の地下にダンジョンが出来ていた理由が分かったわね。墓守協会に報告しましょ」
「それは良いんだけど、じゃあこのダンジョンを……何だ、制圧? するにはカタコンベを攻略するしかないってこと?」
「いえ、派生迷宮にも迷宮核が存在します。それを破壊すれば、地下ダンジョンは一時的に封鎖出来ます」
迷宮核とはダンジョンの構成の要となる物だ。いずれも最深部、その最奥に設置された物で、此奴を破壊することでダンジョンは力を失い、機能しなくなるとシエル先生に教えてもらった。
「一時的……ってことは完全な制圧とはならないのは大本のカタコンベが存在しているから?」
「正解だよ。大本のカタコンベから流入する魔力と瘴気でいずれ迷宮核は復活するね」
となると定期的な破壊が必要になる。この程度の深度ならしっかり準備して潜れば苦はないが、面倒臭いと言えば面倒臭い。どうにかカタコンベからの流入を抑えられないものか。
「この根、切っちまえば解決しそうではあるけど」
「ユグドラシルの根なんて魔素の塊みたいな物よ。どうせすぐ繋がってしまうからやるだけ無駄ね」
「むぅ……」
成す術無し、ということか。
こうして此処で考えても仕方ないということで、僕達は一旦地上に戻ることにした。
今回得られた情報を墓守協会へ持ち帰り、協議した結果、聖天教と共に対策を練ってもらうことになった。協会から与えられた新たな指示は、とりあえず現状維持だそうだ。成長し続ける派生迷宮。これが町全体に広がらないように規模を維持するのが仕事だ。
其処でどうするのがベストかシエルと考えた結果、魔素の吸収と瘴気の浄化が課題となった。協会は早速蒸留施設の工事に取り掛かっていたが、それを待つ間に此方でも蒸留を進めて、まずは第770番墓地周辺から浄化を進めていった。日々、薪をくべて燃やし続ける僕。疲れたり薪が無くなったらシエルが代わりに魔法で火を維持する。そして出来た蒸留聖水を撒く毎日。
暫くして一番最初の蒸留施設が完成した。家屋と最低限の生活物資を販売する店と大量の墓しかなかった町に出来た最初の施設だった。
これが完成した事により、大量の木が必要になり、町には材木を売買する商人やそれを運ぶ業者の姿が増えた。
墓の街に生きた人間が行き交う光景が生まれた。それは今までにない景色だ。朝日に照らされ、項垂れる墓守仲間達も驚いたように目を丸くさせている。これからはこの光景がこの町の普段となる。そして墓守達は夜に寝て朝に起きる健康的な生活へと変わっていくだろう。
その改革に貢献出来たのが嬉しかった。
□ □ □ □
蒸留施設が出来てから1ヶ月が経った。町は徐々に浄化が進められている。最初はオーバーワーク気味だった聖天教も徐々に人数を増やしていき、今では多少余り気味だ。
ならばということで第二の蒸留施設の建造が始まったのが先週の話だ。それでも町の半分は浄化が進んでいる。このまま第二蒸留所が出来れば清廉さの維持も可能となるだろう。
墓守協会も職場の改善が出来たことで墓守達の不満も減ってきたとアル君が嬉しそうに言っていた。仕事が仕事な所為で改善が難しく、頭を抱えていたから悩みが解決して僕も嬉しかった。
こうして目下の問題が解決した結果、僕達は新たに協会から指示を受けた。即ち、
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である。
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