期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました

紙風船

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第二十八話 攻略会議

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 アル君と共に墓守協会にやってきた僕はそのまま会議室に案内される。其処でダンジョン攻略の会議をするのかもしれない。

「此処だ。先に入って待っててくれ。上司連れてくるから」
「了解」

 アル君の上司ということは僕の直の上司ということになる。そういえば顔合わせは初めてか。

 雇用契約なんて言葉を使って自分の立ち位置を認識していたが、実際は軽い面接しかせずに就職した職場だ。よくよく考えてみたら結構雑な部分が目立つ。
 募集していたから雇った。犯罪者ではないから大丈夫です。じゃあ人件費の手続きお願いします。
 それで通ってしまうのは高度な契約的やり取りが盛んだった現代日本からやってきた僕から見れば驚きと不安しかないのだが、あの頃は切羽詰まってたし考えもしなかったな……。

 そんな事を思い出しながらとりあえず扉を開く。

「あれっ」
「やぁ」

 どうやら先客が居たようだ。

「お久しぶりです。フランシスカさん」
「元気そうで何よりだよ」

 僕の戦闘担当だった職場の先輩、フランシスカさんだ。この間は僕がザルクヘイムに行く為に留守にしてしまう第770番墓地の代理をしてもらった。

「その節はありがとうございました」
「ううん、久しぶりの夜勤はちょっと楽しかったよ。普段から静かだけど、違和感すら感じる程の静寂に包まれた夜は心地良かった」
「あはは……」

 こうした不思議な感性の持ち主だったりする。咄嗟に返す言葉を探すのが難しい時もあるが、話してて楽しい人で僕は嫌いじゃなかった。

 手招きする先輩に従い、シエルと共に着席する。

「そちらが、えーっと……」
「シエルです。従者として一緒に働いてます」
「よろしくお願いいたします!」
「へぇ……よろしくね」

 スッと目が据わるフランシスカさん。最初の挨拶だけでシエルの力量を計れたようだ。

「大体考えてること分かりますけど、あんまり無茶はやめてくださいね」
「ははは、これから裏で模擬戦とかそんなの全然考えてないから安心してよ」
「……」

 思わず眉間をグリグリと捏ねた。

 頭痛がしてきたところでガチャリと扉が開かれた。ナイスタイミング! と、心の中でガッツポーズをしてアル君を称賛しておく。勿論、顔には出さない。

「待たせてすまない」

 アル君と一緒に入ってきたのはくたびれたコートを着て眼鏡をかけた痩せぎすの男性だった。ボサボサに伸びた茶髪を後ろで一括りにしているのも相まって不摂生とか不健康とかそういった体に悪い単語が浮かんでくる。

「あー、君がナナヲ君だね。初めまして……というのもおかしい話だが」
「お疲れ様です。ナナヲ=イサザキと申します」

 シエルを神眼で視た時にそういう風に表示されていたので苗字までしっかりと伝える。

「ヘランドリックだ。一応、此処の支部長をやらせてもらってる。今回はちょっと厄介な事に手を出さざるを得ないから顔合わせも兼ねて呼び出させてもらった。仕事終わりにすまないね」
「いえ、大丈夫です。それで、地下ダンジョンなのですが……」
「あぁ……報告は受けているよ。存外、広いようだね」

 ある程度のマッピングも済ませ、潜れるところまでは潜っている。体感距離ではあるがザルクヘイム大迷宮郡、その下層迷宮であるカタコンベ……件のエルダーリッチーが潜んでいた隠し通路よりも更に深くまでダンジョンは根深く広がっていた。

「更に下層へ侵入するには時間と体力が足りません」
「そう。其処で人員を増やそうと思う。負担が減れば攻略範囲も広がるだろう」

 おっと、これは予想外だった。攻略に参加出来る人員が居るとは思わなかった。戦闘が仕事の墓守はそれぞれ管理する墓場を持ってるし……フランシスカさんは戦闘担当ではあるが管理墓地はなく、協会直属の人間だ。ならば……

「外部の人間ですか」
「察しが良いな。その通り、外の人間を雇う。本職の探索者で偶々フリーの人間を見つけたから依頼を出しておいた。そろそろ来る頃だが……」

 支部長が扉の方を見ると、見計らったかのようにノックされた。そして現れたのは、何とも奇妙というのか、偶然か必然か。

「失礼、します」
「どーも」

 ミルルさんとエレーナだった。見知った顔の2人が現れて少しホッとしている自分が居る。

「現在はフリーの探索者としてザルクヘイムに潜っている2人だ。大陸中に信徒を持つ聖天教、その聖女代理であるミルルカレン=エカテリーチェ殿。そして此方が魔法協会に所属している者の中でも5本の指に入る実力者で魔導士の資格を持つエレーナ=クランクレンジ殿だ」

 2人のフルネームと役職は初めて聞いた。聖女代理に魔導士か。ミルルさんの清廉な雰囲気は代理とはいえ聖女と呼ばれるだけあった。エルダーリッチーを討滅した魔法の威力からも納得出来る。
 そしてなるほど、エレーナがシエルを先輩と呼び慕うのも理解出来る。あれだけの魔法を放って見せたのだから相当な実力者であるのは分かっていた。何よりも2人が勇者のパーティーに抜擢されるだけのキャリアがあるだろうというのも予想していた。

「お久しぶりです。ミルルさん、エレーナ」
「おや、顔見知りだったか?」
「はい。エルダーリッチー討伐戦の時に一緒に。報告はしたはずなんですが……」

 チラ、とアル君の顔を見る。あ、目を逸らした。

「アルベール……」
「あはは……すみません、記載漏れがあったようです……」

 支部長の睨みに愛想笑いを浮かべてみたが、あっさりと白状していた。
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