27 / 62
第二十七話 いよいよ始まる本格派地下ダンジョン探索
しおりを挟む
エルダーリッチー戦から1ヶ月が経った。相も変わらず僕は墓守の仕事を続けていたが、以前よりも充実した日々を過ごしていた。
「シエル、帰るよ」
「はーい」
見慣れたレアドロップの腐毒剣インサナティーを鞄に仕舞い、立ち上がる。今日のお仕事はこれで終わり。これ以上先に進むには体力が限界だ。最近はこうして潜れる場所まで行ってモンスターを掃除して帰るのが日課になりつつある。
アバドンとなったシエルはアンデッドという枠から脱し、悪魔と呼ばれる種族へと進化した。骨だけだった体に肉がつき、今では新しい服を取り寄せたりと楽しんでいる。今では仕事の直前まで鏡の前でファッションショーをしている程だ。
そして肉付いて判明したことだが、はっきり言ってシエルは物凄く可愛かった。美少女としか表現出来ない自分の語彙の無さを呪いたい程度には目を奪われる容姿だった。
まぁ僕は彼女の骨格からして知っているわけだし、今更ラブコメのような甘酸っぱい展開はんて皆無だ。なんというか、あぁ可愛いなぁ。っていう、癒しに近い感覚だった。
そんな戦闘用の装備に着替えたシエルが瘴気を吸収するのを待ってから、ダンジョンを後にする。出入口にはしっかり蒸留聖水が入った樽を置いてある。いつも使ってる桶と柄杓を傍に置いて、最後に聖水の残量を確認して仕事は終わりだ。
しかしこれを撒き始めてからアンデッドの出現が激減したなぁ。最初の頃は何処か不気味さがあった第770番墓地も、今では清廉さを感じる程になった。
だが相変わらず地下のダンジョンはモンスターがうようよしている。それでも地上が穏やかになったのは素晴らしいことだ。何と言っても仕事の開始時間を遅らせることが出来る。睡眠時間が増える。瘴気を浄化しきり、恒久的な清廉を取り戻せば蒸留聖水を撒くという仕事の頻度を減り、更に睡眠時間が増えていく。最終的に昼間に蒸留聖水を撒いて夜になったら寝る生活になれば何も文句はない。
少し前までドタバタとした日々を過ごした所為で目標を失念していたが、僕はこの職場を改善する為にこうして頑張っていた。夜勤生活を脱出し、日勤生活を送る為に身を粉にして働いているのだ。
その目的の為の大きな壁となるのが忌々しい地下ダンジョンの存在だ。ほんともう此奴さえなければ完全なる平和が訪れるというのに。
□ □ □ □
充実した日々を過ごしていると実感しながらにしてこうしたネックを感じる生活に少々の疲れを覚え始めたある日、仕事を終えて一旦家に帰ると玄関先に知り合いが立っていた。
「おぅ、ナナヲ」
「あれっ、珍しいね」
その人物は出勤前のアル君ことアルベール=ブラウンだった。彼こそ僕を墓守に採用した人物であり、仕事仲間であり、一番の友達だった。
「昨日のうちに決まった事があったからその報告。早い方がいいかなって」
軒先から離れたアル君が墓守協会方面に向かい始めたので並んで歩く。その後ろをシエルが大人しくついて来る。
「また何かあった? もうエルダーリッチーは懲り懲りなんだけど」
「それはお前の持ち込み企画だっただろ。今回決まったのは第770番墓地地下ダンジョンについての今後の方針だよ」
「!」
おぉ、ずっと放置されていた我が地下ダンジョンの対処! そうか、エルダーリッチーも無事に討伐して時間も経って落ち着いたので着手してくれたか!
「いやいやいや、有難いね! で? どういう風に対処してくれる予定?」
「第770番墓地管理者の職務を墓地管理からダンジョン攻略に変更。管理者を中心に攻略を進めること」
気付けば僕はアル君を締め上げていた。
「丸投げか? 丸投げですか? またですか???」
「くるちい……」
「ちょ、ナナヲ様、アルベールさん死んじゃうから!」
背後からシエルに羽交い絞めにされ、ハッとして慌てて手を離した。僕としたことが、つい八つ当たりをしてしまった……。
「ホントごめん」
「いや気持ちは分かるよ……俺だって言いたくなかったけどよ、俺がナナヲと一番仲良いからって、上がさ……」
嫌な役回りだ。墓守からの不満が出てくるのを見越してアル君に言わせたのだ。初めの頃、地下ダンジョンが見つかった時の対処の時もアル君に言わせていたっけ。あの時はアル君は代表で来ているのだから不満をぶつけたけれど、今思えばアル君もそういう役をやらされていたのだろう。
腐ってんね……何でも下の人間にやらせて。でも逆の立場なってに考えれば、多少なりとも理解は出来る。居ないのだ。攻略に割ける人員が。
だって此処は墓の街。居るのは死者と墓守だけなのだから。
「お互い、大変だね……」
「まぁな……毎度毎度悪いな」
「いいよ、大丈夫」
グイっと肩を組んでくるアル君の肩に腕を回す。お互いに叩き合い、鼓舞し合う。こうでもしなきゃやってらんないね、まったく!
「その代わり裁量はお前に任せるってよ。何か使う物とかあったら全部経費として処理するから俺に報告してくれていいぞ」
「其奴は助かるね。とりあえず家でも色々やってるから家賃も経費として計上してくれよ」
「あー……まぁ捻じ込めば、何とか……」
「冗談だって」
嫌な話はそんなくだらない話に昇華させて気持ちに区切りをつけた。適当な事を喋りながら頭の中ではどうやって地下ダンジョン攻略を進めるかの皮算用を繰り返していた。
「シエル、帰るよ」
「はーい」
見慣れたレアドロップの腐毒剣インサナティーを鞄に仕舞い、立ち上がる。今日のお仕事はこれで終わり。これ以上先に進むには体力が限界だ。最近はこうして潜れる場所まで行ってモンスターを掃除して帰るのが日課になりつつある。
アバドンとなったシエルはアンデッドという枠から脱し、悪魔と呼ばれる種族へと進化した。骨だけだった体に肉がつき、今では新しい服を取り寄せたりと楽しんでいる。今では仕事の直前まで鏡の前でファッションショーをしている程だ。
そして肉付いて判明したことだが、はっきり言ってシエルは物凄く可愛かった。美少女としか表現出来ない自分の語彙の無さを呪いたい程度には目を奪われる容姿だった。
まぁ僕は彼女の骨格からして知っているわけだし、今更ラブコメのような甘酸っぱい展開はんて皆無だ。なんというか、あぁ可愛いなぁ。っていう、癒しに近い感覚だった。
そんな戦闘用の装備に着替えたシエルが瘴気を吸収するのを待ってから、ダンジョンを後にする。出入口にはしっかり蒸留聖水が入った樽を置いてある。いつも使ってる桶と柄杓を傍に置いて、最後に聖水の残量を確認して仕事は終わりだ。
しかしこれを撒き始めてからアンデッドの出現が激減したなぁ。最初の頃は何処か不気味さがあった第770番墓地も、今では清廉さを感じる程になった。
だが相変わらず地下のダンジョンはモンスターがうようよしている。それでも地上が穏やかになったのは素晴らしいことだ。何と言っても仕事の開始時間を遅らせることが出来る。睡眠時間が増える。瘴気を浄化しきり、恒久的な清廉を取り戻せば蒸留聖水を撒くという仕事の頻度を減り、更に睡眠時間が増えていく。最終的に昼間に蒸留聖水を撒いて夜になったら寝る生活になれば何も文句はない。
少し前までドタバタとした日々を過ごした所為で目標を失念していたが、僕はこの職場を改善する為にこうして頑張っていた。夜勤生活を脱出し、日勤生活を送る為に身を粉にして働いているのだ。
その目的の為の大きな壁となるのが忌々しい地下ダンジョンの存在だ。ほんともう此奴さえなければ完全なる平和が訪れるというのに。
□ □ □ □
充実した日々を過ごしていると実感しながらにしてこうしたネックを感じる生活に少々の疲れを覚え始めたある日、仕事を終えて一旦家に帰ると玄関先に知り合いが立っていた。
「おぅ、ナナヲ」
「あれっ、珍しいね」
その人物は出勤前のアル君ことアルベール=ブラウンだった。彼こそ僕を墓守に採用した人物であり、仕事仲間であり、一番の友達だった。
「昨日のうちに決まった事があったからその報告。早い方がいいかなって」
軒先から離れたアル君が墓守協会方面に向かい始めたので並んで歩く。その後ろをシエルが大人しくついて来る。
「また何かあった? もうエルダーリッチーは懲り懲りなんだけど」
「それはお前の持ち込み企画だっただろ。今回決まったのは第770番墓地地下ダンジョンについての今後の方針だよ」
「!」
おぉ、ずっと放置されていた我が地下ダンジョンの対処! そうか、エルダーリッチーも無事に討伐して時間も経って落ち着いたので着手してくれたか!
「いやいやいや、有難いね! で? どういう風に対処してくれる予定?」
「第770番墓地管理者の職務を墓地管理からダンジョン攻略に変更。管理者を中心に攻略を進めること」
気付けば僕はアル君を締め上げていた。
「丸投げか? 丸投げですか? またですか???」
「くるちい……」
「ちょ、ナナヲ様、アルベールさん死んじゃうから!」
背後からシエルに羽交い絞めにされ、ハッとして慌てて手を離した。僕としたことが、つい八つ当たりをしてしまった……。
「ホントごめん」
「いや気持ちは分かるよ……俺だって言いたくなかったけどよ、俺がナナヲと一番仲良いからって、上がさ……」
嫌な役回りだ。墓守からの不満が出てくるのを見越してアル君に言わせたのだ。初めの頃、地下ダンジョンが見つかった時の対処の時もアル君に言わせていたっけ。あの時はアル君は代表で来ているのだから不満をぶつけたけれど、今思えばアル君もそういう役をやらされていたのだろう。
腐ってんね……何でも下の人間にやらせて。でも逆の立場なってに考えれば、多少なりとも理解は出来る。居ないのだ。攻略に割ける人員が。
だって此処は墓の街。居るのは死者と墓守だけなのだから。
「お互い、大変だね……」
「まぁな……毎度毎度悪いな」
「いいよ、大丈夫」
グイっと肩を組んでくるアル君の肩に腕を回す。お互いに叩き合い、鼓舞し合う。こうでもしなきゃやってらんないね、まったく!
「その代わり裁量はお前に任せるってよ。何か使う物とかあったら全部経費として処理するから俺に報告してくれていいぞ」
「其奴は助かるね。とりあえず家でも色々やってるから家賃も経費として計上してくれよ」
「あー……まぁ捻じ込めば、何とか……」
「冗談だって」
嫌な話はそんなくだらない話に昇華させて気持ちに区切りをつけた。適当な事を喋りながら頭の中ではどうやって地下ダンジョン攻略を進めるかの皮算用を繰り返していた。
1
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説

特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい
紙風船
ファンタジー
等しく芽生える”職業”と呼ばれるある種の才能に恵まれなかった俺は森の中でモンスターに囲まれていた。
窮地に陥ったその時、偶然にも才能が開花した俺は命からがらに危機を脱することができた。
町に戻った俺が確認した職業は《錬装術師》。
聞いたことのない職業だったが、俺は偶然にもその力の一端を垣間見ていた。
それは、”武器”と”武器”の融合……”錬装”だった。
武器に備わった”特性”と”属性”。その無限の可能性に俺は震えた。
俺はこの力で強くなりたいと強く、強く願った。
そんな俺の前に現れた最強と名高い冒険者”チトセ・ココノエ”。
偶然現れた彼女だが、その出会いは俺の運命を大きく変える出会いだった。
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する
大豆茶
ファンタジー
とある男爵家にて、神童と呼ばれる少年がいた。
少年の名はユーリ・グランマード。
剣の強さを信条とするグランマード家において、ユーリは常人なら十年はかかる【剣術】のスキルレベルを、わずか三ヶ月、しかも若干六歳という若さで『レベル3』まで上げてみせた。
先に修練を始めていた兄をあっという間に超え、父ミゲルから大きな期待を寄せられるが、ある日に転機が訪れる。
生まれ持つ【加護】を明らかにする儀式を受けたユーリが持っていたのは、【器用貧乏】という、極めて珍しい加護だった。
その効果は、スキルの習得・成長に大幅なプラス補正がかかるというもの。
しかし、その代わりにスキルレベルの最大値が『レベル3』になってしまうというデメリットがあった。
ユーリの加護の正体を知ったミゲルは、大きな期待から一転、失望する。何故ならば、ユーリの剣は既に成長限界を向かえていたことが判明したからだ。
有力な騎士を排出することで地位を保ってきたグランマード家において、ユーリの加護は無価値だった。
【剣術】スキルレベル3というのは、剣を生業とする者にとっては、せいぜい平均値がいいところ。王都の騎士団に入るための最低条件すら満たしていない。
そんなユーリを疎んだミゲルは、ユーリが妾の子だったこともあり、軟禁生活の後に家から追放する。
ふらふらの状態で追放されたユーリは、食料を求めて森の中へ入る。
そこで出会ったのは、自らを魔女と名乗る妙齢の女性だった。
魔女に命を救われたユーリは、彼女の『実験』の手伝いをすることを決断する。
その内容が、想像を絶するものだとは知らずに――
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
いずれ最強の少女 ~白き髪と紅の瞳~
カイゼリン
ファンタジー
[旧 僕らの仕事は暗殺です]
生まれてすぐに親を亡くしてしまった少女
とある村で引き取られるが盗賊によって村が燃やされてしまった
途方にくれる少女はある街にたどり着く
そこでダリオルというなんかわからないけど良いおじさんに引き取られる
ステータスを初めて見ると、一般的なステータスよりも高いことが発覚
とりあえずダリオルのギルドで暗殺者として働くことに
この世界で少女は何をみるのか。何を思うのか。
一人の少女の成長を君は目撃する__
こちらは小説家になろうにも掲載しています
https://ncode.syosetu.com/n7293fh/

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~
絢乃
ファンタジー
F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。
彼は冒険者を引退しようか悩む。
そんな時、ルシアスは道端に落ちていた謎のアイテム拾った。
これがとんでもない能力を秘めたチートアイテムだったため、彼の人生は一変することになる。
これは、別の世界に存在するアイテム(アサルトライフル、洗濯乾燥機、DVDなど)に感動し、駆使しながら成り上がる青年の物語。
努力だけでは届かぬ絶対的な才能の差を、チートアイテムで覆す!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる