19 / 62
第十九話 生きて帰ってこい
しおりを挟む
2人は宿も取っていない上、魔力も空っぽで動けないということで僕の家に滞在することになった。部屋へ案内した後、僕とシエルは再び墓地に戻り、蒸留聖水を撒いてその日の仕事は引き上げた。毎日聖水を撒いていたお陰か、墓地内にアンデッドは居なかった。でもダンジョンに潜ろうという気持ちにはなれなかった僕は墓地内に常備している蒸留聖水の入った樽に背を預け、短く刈られた芝生の上に座っていた。ボーっと見上げる沢山の星がキラキラと輝いていた。
この世界にやってきてフィンギーさんと話したのは精々3時間くらいだった。けれど、それでも大きなショックが僕の中にあった。
「こっちで初めて話した人だったもんな……」
口は悪かったが気の良い人だった。最期の最期まで、戦ったんだな……。出来ることなら、弔ってあげたい。一矢報いてやりたい。そう思わせるくらい、あの人は人を惹き付ける魅力があった。
墓守としての訓練期間中はフィンギーさんの動きを意識してやっていた。あのレベルになるのは無理だとしても、あんな風に動けたら……戦えたら……なんて、考えていた。だから彼がもう帰ってこないということが信じられない。信じたくない。
そう思えば思う程、気持ちは暗く深い場所へ沈んでいった。それと同時に、どうしても彼の仇を取りたかった。それを彼が望んでいるかは分からない。まったくの自己満足だと理解もしている。それでも僕を頼ってくれた二人に報いたいという気持ちもある。そしてそれよりも何よりも、すぐに動けなかった自分が情けなく、悔しく、惨めだった。
様々な感情が邪魔して考えが纏まらない。
「そうか……僕、初めてだったんだよな……」
身近な人の死に、初めて触れた。此処に来るまで家族は皆頗る健康で大病や大怪我とは無縁だった。だからこそ、こうしてもう会えなくなることの重大さが今一理解出来てなかった。
それを知った今、僕の思考も感情も、めちゃくちゃだ。
これが死ということ。これが最期ということ。そして此処はそれがより身近にある世界。
恐ろしいと、初めて思った。やっぱり今まで何処か、夢見心地で居たのかもしれない。それに気付けたのは良かったのだろうか。何も知らないまま、気付かないまま死んだ方が幸せだっただろうか。
今の僕には分からない。まだまだ理解度が足りていない。
だけど、それでも、僕はフィンギーさんの為に何かをしたかった。
□ □ □ □
翌朝、早速僕は墓守協会に出向き、忙しそうにしていたアル君を捕まえて昨夜の出来事を話した。
「……なるほど。まぁ、気持ちは分からんでもない。縁があったから感情移入するのも分かるが、相手はエルダーリッチーだろ?」
「うん……」
眼の話はしていない。
「ちょっと前にだいぶ忙しい時、あっただろ」
「そういえば……」
第770番墓地の地下にダンジョンが発見された頃か。
「あれな、多分だけど件の討伐戦の結果だと思う」
「そうか……確かに、時期は重なる。地下ダンジョンをどうにかするのを遅らせるくらいの事だったんだな」
「墓守協会と探索者協会の上層部が結構会議とかしてたみたいだしな。それだけの事だったんだ。それを今度は数人のパーティーで挑むなんてお前、流石に死ぬぞ」
「秘策があるとは言っていたけれど……」
正確には言っていない。秘策は僕自身だ。
「勇者に匹敵する策なのか? なら、何で討伐戦の時にその策を使わなかったんだ?」
「それは……」
その場に僕が居なかったからだ。
「確かにナナヲは地下ダンジョンに潜るようになって戦闘の経験は増えたよ。最初の頃よりはずっと強い。けど、それは昔のお前と比べて、だ。ザルクヘイムに潜ってる連中と比べれば話は変わってくる」
「それは僕も理解してるつもりだよ」
「……頼むよ。お前に死んでほしくないんだよ」
ジッと、泣きそうな目でアル君が僕を見つめる。こんなに気遣ってくれるなんて、どれだけ優しいんだ、君は。敢えて強い言葉で僕を引き留めようとしてくれているのが伝わってくる。
「でもごめん……勇者も……フィンギーさんも、アル君と同じくらい大事な人なんだ。だから、僕は行きたい。行かせてほしい」
「………………」
僕の言葉を聞いたアル君は僕を見つめ、諦めるように項垂れ、そして祈るように天を仰いだ。長い沈黙の末、彼は自身の太ももを強く叩き、勢いよく立ち上がった。
「よし! ならきっちりやってこい! お前が居ない間はこっちで回す。だからさ、絶対に生きて帰ってこいよ……!」
「勿論だとも。ありがとう、アル君!」
捕まれた両肩が痛い。けれど、嫌じゃない。こんなに嬉しいという感情が溢れてくるのは何時以来だろう。
「上には俺が話す。なに、フランシスカも聞けば同意してくれる。二人で訴えれば話は通るよ」
「分かった。じゃあ、後の事は任せる。僕はもうザルクヘイムに向かうつもりで準備するからね」
「おう!」
こうしちゃいられない。ミルルさんとエレーナさんの二人に報告しなければ。
アル君と別れた僕は聞いていた宿へ走った。
さぁ行こう、ザルクヘイムへ。
この世界にやってきてフィンギーさんと話したのは精々3時間くらいだった。けれど、それでも大きなショックが僕の中にあった。
「こっちで初めて話した人だったもんな……」
口は悪かったが気の良い人だった。最期の最期まで、戦ったんだな……。出来ることなら、弔ってあげたい。一矢報いてやりたい。そう思わせるくらい、あの人は人を惹き付ける魅力があった。
墓守としての訓練期間中はフィンギーさんの動きを意識してやっていた。あのレベルになるのは無理だとしても、あんな風に動けたら……戦えたら……なんて、考えていた。だから彼がもう帰ってこないということが信じられない。信じたくない。
そう思えば思う程、気持ちは暗く深い場所へ沈んでいった。それと同時に、どうしても彼の仇を取りたかった。それを彼が望んでいるかは分からない。まったくの自己満足だと理解もしている。それでも僕を頼ってくれた二人に報いたいという気持ちもある。そしてそれよりも何よりも、すぐに動けなかった自分が情けなく、悔しく、惨めだった。
様々な感情が邪魔して考えが纏まらない。
「そうか……僕、初めてだったんだよな……」
身近な人の死に、初めて触れた。此処に来るまで家族は皆頗る健康で大病や大怪我とは無縁だった。だからこそ、こうしてもう会えなくなることの重大さが今一理解出来てなかった。
それを知った今、僕の思考も感情も、めちゃくちゃだ。
これが死ということ。これが最期ということ。そして此処はそれがより身近にある世界。
恐ろしいと、初めて思った。やっぱり今まで何処か、夢見心地で居たのかもしれない。それに気付けたのは良かったのだろうか。何も知らないまま、気付かないまま死んだ方が幸せだっただろうか。
今の僕には分からない。まだまだ理解度が足りていない。
だけど、それでも、僕はフィンギーさんの為に何かをしたかった。
□ □ □ □
翌朝、早速僕は墓守協会に出向き、忙しそうにしていたアル君を捕まえて昨夜の出来事を話した。
「……なるほど。まぁ、気持ちは分からんでもない。縁があったから感情移入するのも分かるが、相手はエルダーリッチーだろ?」
「うん……」
眼の話はしていない。
「ちょっと前にだいぶ忙しい時、あっただろ」
「そういえば……」
第770番墓地の地下にダンジョンが発見された頃か。
「あれな、多分だけど件の討伐戦の結果だと思う」
「そうか……確かに、時期は重なる。地下ダンジョンをどうにかするのを遅らせるくらいの事だったんだな」
「墓守協会と探索者協会の上層部が結構会議とかしてたみたいだしな。それだけの事だったんだ。それを今度は数人のパーティーで挑むなんてお前、流石に死ぬぞ」
「秘策があるとは言っていたけれど……」
正確には言っていない。秘策は僕自身だ。
「勇者に匹敵する策なのか? なら、何で討伐戦の時にその策を使わなかったんだ?」
「それは……」
その場に僕が居なかったからだ。
「確かにナナヲは地下ダンジョンに潜るようになって戦闘の経験は増えたよ。最初の頃よりはずっと強い。けど、それは昔のお前と比べて、だ。ザルクヘイムに潜ってる連中と比べれば話は変わってくる」
「それは僕も理解してるつもりだよ」
「……頼むよ。お前に死んでほしくないんだよ」
ジッと、泣きそうな目でアル君が僕を見つめる。こんなに気遣ってくれるなんて、どれだけ優しいんだ、君は。敢えて強い言葉で僕を引き留めようとしてくれているのが伝わってくる。
「でもごめん……勇者も……フィンギーさんも、アル君と同じくらい大事な人なんだ。だから、僕は行きたい。行かせてほしい」
「………………」
僕の言葉を聞いたアル君は僕を見つめ、諦めるように項垂れ、そして祈るように天を仰いだ。長い沈黙の末、彼は自身の太ももを強く叩き、勢いよく立ち上がった。
「よし! ならきっちりやってこい! お前が居ない間はこっちで回す。だからさ、絶対に生きて帰ってこいよ……!」
「勿論だとも。ありがとう、アル君!」
捕まれた両肩が痛い。けれど、嫌じゃない。こんなに嬉しいという感情が溢れてくるのは何時以来だろう。
「上には俺が話す。なに、フランシスカも聞けば同意してくれる。二人で訴えれば話は通るよ」
「分かった。じゃあ、後の事は任せる。僕はもうザルクヘイムに向かうつもりで準備するからね」
「おう!」
こうしちゃいられない。ミルルさんとエレーナさんの二人に報告しなければ。
アル君と別れた僕は聞いていた宿へ走った。
さぁ行こう、ザルクヘイムへ。
1
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説

特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい
紙風船
ファンタジー
等しく芽生える”職業”と呼ばれるある種の才能に恵まれなかった俺は森の中でモンスターに囲まれていた。
窮地に陥ったその時、偶然にも才能が開花した俺は命からがらに危機を脱することができた。
町に戻った俺が確認した職業は《錬装術師》。
聞いたことのない職業だったが、俺は偶然にもその力の一端を垣間見ていた。
それは、”武器”と”武器”の融合……”錬装”だった。
武器に備わった”特性”と”属性”。その無限の可能性に俺は震えた。
俺はこの力で強くなりたいと強く、強く願った。
そんな俺の前に現れた最強と名高い冒険者”チトセ・ココノエ”。
偶然現れた彼女だが、その出会いは俺の運命を大きく変える出会いだった。

千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する
大豆茶
ファンタジー
とある男爵家にて、神童と呼ばれる少年がいた。
少年の名はユーリ・グランマード。
剣の強さを信条とするグランマード家において、ユーリは常人なら十年はかかる【剣術】のスキルレベルを、わずか三ヶ月、しかも若干六歳という若さで『レベル3』まで上げてみせた。
先に修練を始めていた兄をあっという間に超え、父ミゲルから大きな期待を寄せられるが、ある日に転機が訪れる。
生まれ持つ【加護】を明らかにする儀式を受けたユーリが持っていたのは、【器用貧乏】という、極めて珍しい加護だった。
その効果は、スキルの習得・成長に大幅なプラス補正がかかるというもの。
しかし、その代わりにスキルレベルの最大値が『レベル3』になってしまうというデメリットがあった。
ユーリの加護の正体を知ったミゲルは、大きな期待から一転、失望する。何故ならば、ユーリの剣は既に成長限界を向かえていたことが判明したからだ。
有力な騎士を排出することで地位を保ってきたグランマード家において、ユーリの加護は無価値だった。
【剣術】スキルレベル3というのは、剣を生業とする者にとっては、せいぜい平均値がいいところ。王都の騎士団に入るための最低条件すら満たしていない。
そんなユーリを疎んだミゲルは、ユーリが妾の子だったこともあり、軟禁生活の後に家から追放する。
ふらふらの状態で追放されたユーリは、食料を求めて森の中へ入る。
そこで出会ったのは、自らを魔女と名乗る妙齢の女性だった。
魔女に命を救われたユーリは、彼女の『実験』の手伝いをすることを決断する。
その内容が、想像を絶するものだとは知らずに――

大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!
倉紙たかみ
ファンタジー
突然変異クラスのS級大地魔法使いとして生を受けた伯爵子息リーク。
彼の家では、十六歳になると他家へと奉公(修行)する決まりがあった。
奉公先のシルバリオル家の領主は、最近代替わりしたテスラという女性なのだが、彼女はドラゴンを素手で屠るほど強い上に、凄まじいカリスマを持ち合わせていた。
リークの才能を見抜いたテスラ。戦闘面でも内政面でも無理難題を押しつけてくるのでそれらを次々にこなしてみせるリーク。
テスラの町は、瞬く間に繁栄を遂げる。だが、それに嫉妬する近隣諸侯の貴族たちが彼女の躍進を妨害をするのであった。
果たして、S級大地魔法使いのリークは彼女を守ることができるのか? そもそも、守る必要があるのか?
カリスマ女領主と一緒に町を反映させる物語。
バトルあり内政あり。女の子たちと一緒に領主道を突き進む!
――――――――――――――――――――――――――
作品が面白かったらブックマークや感想、レビューをいただけると嬉しいです。
たかみが小躍りして喜びます。感想などは、お気軽にどうぞ。一言でもめっちゃ嬉しいです。
楽しい時間を過ごしていただけたら幸いです。
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~
絢乃
ファンタジー
F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。
彼は冒険者を引退しようか悩む。
そんな時、ルシアスは道端に落ちていた謎のアイテム拾った。
これがとんでもない能力を秘めたチートアイテムだったため、彼の人生は一変することになる。
これは、別の世界に存在するアイテム(アサルトライフル、洗濯乾燥機、DVDなど)に感動し、駆使しながら成り上がる青年の物語。
努力だけでは届かぬ絶対的な才能の差を、チートアイテムで覆す!
いずれ最強の少女 ~白き髪と紅の瞳~
カイゼリン
ファンタジー
[旧 僕らの仕事は暗殺です]
生まれてすぐに親を亡くしてしまった少女
とある村で引き取られるが盗賊によって村が燃やされてしまった
途方にくれる少女はある街にたどり着く
そこでダリオルというなんかわからないけど良いおじさんに引き取られる
ステータスを初めて見ると、一般的なステータスよりも高いことが発覚
とりあえずダリオルのギルドで暗殺者として働くことに
この世界で少女は何をみるのか。何を思うのか。
一人の少女の成長を君は目撃する__
こちらは小説家になろうにも掲載しています
https://ncode.syosetu.com/n7293fh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる