期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました

紙風船

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第十八話 後悔と決意

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 ミルルさん達と話してから2週間が経った。あれから2人からの接触はなく、また、連絡も無かった。僕は僕で出来ることをしようと協会には伝えているが……其方からも連絡はなかった。

 そうした日々が続いていた。墓守協会に属する身で、職場放棄をして探索者も逃げ出す最悪のモンスターを倒しに行くなんて、どうかしていると自分でも思う。だがそれ以上にフィンギーさんの仇を……と思う自分も居た。

「シエル、仕事の時間だ」
『うん、ナナヲ様』

 ラックに引っ掛けている剣と剣帯を身に付けた僕は裏口の蒸留聖水を汲む為にドアを開ける。すると其処に2人の人影が見えた。

「ミルルさん? ……ミルルさん!?」

 人影はミルルさんとエレーナさんだった。だが、その姿はボロボロで少し前見た時とは全く違う様相だった。2人とも服の裾は千切れたり焦げたりしているし、腕や足も傷だらけだ。大きな怪我をしている様子は見られないが、きっと魔法か薬品で治したのだろう。

「大丈夫ですか!?」
「えぇ……なんとか」
「危うく、死ぬところだったけどね……いてて」
「どうしてこんな……」

 言ってからハッとした。僕の所為だ。僕が断ったから、待ち切れずに挑んだんだ。エルダーリッチーに。

「すみません、僕の……」
「ナナヲ様の所為では、ないです」
「そうよ……自惚れんじゃ、ないわよ……」
「でも……」

 断っておきながら、図々しいのは百も承知だ。それでも後悔しかなかった。あの時断らなかったら。あの時引き受けていれば。そんな考えが堂々巡りのように頭の中を埋めていく。

『ナナヲ様!』
「……ッ」
『まずは2人を中へ。簡単な魔法なら私も使えるから、治療しよう』
「そう、だな。手伝ってくれ、シエル」

 コク、と頷いたシエルがエレーナさんを抱き上げ、家の中へと運んでいく。僕もそうしたいのは山々だが、妙にくっつき過ぎてはいけないような気がして肩を貸す程度にしておいた。

「すみません……」
「いえ、僕の方こそ申し訳ないです」

 ふるふると首を横に振ってくれるが、やはり頭の中の後悔が晴れることはなかった。


  □   □   □   □


 シエルによる回復魔法のお陰でミルルさんとエレーナさんの傷は癒えた。そうなると今度は破れた恰好がアンバランスに目立ってしょうがないので毛布を2人に渡し、羽織らせる。

「悪いわね」
「いえ……それで、やっぱり行ったんですか?」
「はい……一度戦った相手だったので、戦法は把握してます。今度は勝てるかもと思ったのですが……」

 駄目だった、と。

「やっぱり駄目ね。無限の魔力の前には無意味だったわ」

 聞けば大技でアンデッド軍団を一掃して一気に肉薄し、その体に聖属性の魔法を叩きこもうとしたらしい。大人数より少数精鋭での電撃戦。勝つ見込みはあったようだが、結果はギリギリの敗北だった。

「やっぱりあんたの神眼がなきゃ駄目ね。あの魔力の仕組みさえ分かれば勝てるのよ。絶対殺してみせるわ」
「どうか、お願いします。ナナヲ様……」
「……僕も、ずっと歯痒い思いをしてました」

 フィンギーさんの敵を討ちたい。でも、僕なんかが戦えるのか。

 怖い。怖い。怖い。

 そんな臆病な心を、僕は仕事を言い訳に誤魔化した。

 2人はそんな僕を罵ることなく、一度敗北した敵に果敢に挑んだ。死も恐れることなく、臆することなく、挑んだのだ。結果は再びの敗北だったが、生き延びた。

 勝てなくても負けじゃない。死ななければ負けじゃない。諦めなければ、まだ勝つ為の戦いの途中だと、分からされた。

 此処で僕が立たなきゃ、勝ちは来ないのだ。

「僕も行きます。絶対にエルダーリッチーの魔力の秘密を暴いてみせます」
「ナナヲ様……!」
「ふん、最初っからそう言っていればいいのよ!」

 開いた手の平を見つめる。小さく、弱い手だ。剣を振るのもままならない、貧弱な自分。だけど僕の武器はこの手ではない。剣でもない。

 眼だ。視ることが、相手の弱点を攻撃する。

「協会には僕から話します。出来る限り早く代理の墓守を見つけます」
「それまで、待ちます」
「頼むわよ」
「えぇ、必ず」

 因縁のカタコンベでのエルダーリッチー討伐。フィンギーさんの敵討ち。あの時はお荷物でしかなかったが、今ならきっと……。

 そんな思いで僕はギュッと、両の手を握った。
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