期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました

紙風船

文字の大きさ
上 下
17 / 62

第十七話 神眼が招いた悲劇

しおりを挟む
 暖かいお茶を用意してリビングに戻ると落ち着いたのか、顔を上げたミルルさんがゆっくりと頭を下げた。

「お仕事中に、突然すみませんでした……」
「いえ、構いませんよ。それよりさっき言っていたのは……」

 カップを二人の前に置きながら席に着く。
「本当の事よ……フィンギーが死んだの」
「だって、勇者って強いんでしょう? 一体何が……」

 僕が此処に来たばかりの時は完全におんぶに抱っこだった。足手まといでしかない僕の様子を確認しながらでもでかいモンスターを一方的に斬り倒していたあのフィンギーさんが、何故……。

「庇った、と伺いましたけどそれ程の強敵が?」
「『エルダーリッチー』という……アンデッド系最上位種が発見されました」
「単体で戦う相手としてはこれ程最悪なモンスターは居ないって言われるくらいの強敵ね……それがカタコンベで見つかった未踏破区域で発見されたの」

 僕が転移してきたザルクヘイム大迷宮郡下層迷宮カタコンベ。其処は様々なモンスターが蔓延る魔宮だ。ゴブリン、オークといった亜人系モンスターは勿論、カタコンベの名の通り、アンデッド系のモンスターも多く確認されている。

 そのアンデッドの最上位種がエルダーリッチ―だ。全盛期のシエルの足元にも及ぶという力を持つそれは、シエルが進化していく先で成る予定のモンスターだった。

「ナナヲ様は……覚えていますか?」
「というと?」
「光る道、です」
「!」

 カタコンベを脱出する際、僕が気になった道だ。あの時は僕という大荷物があったので調べる余裕もなかったが、そもそもフィンギーさんは道なんか見当たらないと言っていた。眩く光る壁と、その光の中の切れ目。あれを見逃すのは流石にどういう事かと思っていたが今の僕には一つ、思い当たる節があった。

「やっぱり……皆さんには見えてなかったんですね?」
「そうよ。直に触れるまでは認識すら出来なかった。あの場所を通りかかった時にナナヲの言っていたことをフィンギーが思い出したの。それで壁に触れた途端に凄く光り出して……」
「認識出来た、と」
「はい……それで、中へ進むとエルダーリッチ―が居ました」



 其処からは大慌てで引き返したのだそうだ。それから探索者を集めてエルダーリッチ―討伐戦が始まった。
 エルダーリッチ―が最悪のモンスターと言われる所以は単体で100を超えるアンデッドの召喚が可能なところにある。そんなモンスターを放置すれば何が起きるかは考えるまでもない。

 急遽行われた討伐戦ではあるが作戦指揮者が勇者であるフィンギーさんということもあってかなりの数の探索者が集まったそうだ。エルダーリッチ―が潜む未踏破区域も大広間ということで大規模な戦闘が繰り広げられた。

 エルダーリッチ―の召喚するアンデッドはどれもアーク級の強力な個体ばかりだったが、歴戦の探索者達が組めば敵にもならなかった。フィンギーさんの適確な指示もあって当初は善戦だった。

 が、戦っている内にある異常・・に気付いた。

 エルダーリッチーの魔力が尽きない。

 無尽蔵の魔力が召喚するアンデッド。疲弊する探索者達。判断の早いフィンギーさんの撤退指示が飛ぶよりも早く死傷者が出始めた。と、此処でエルダーリッチーが動き始めた。まるでこの戦いの終止符を打つかのようなタイミング。当然、その相手をしたのはフィンギーさんだ。

 単独でのやり合いが始まれば指揮系統も混乱し始めた。ミルルさんとエレーナさんはフィンギーさんの援護をしつつ、撤退の指示も出さなくてはならない。それが決定打となってしまった。

 逃げ遅れた2人をフィンギーさんが庇い、大怪我を負ってしまったのだ。

 それでも二人は援護を続けつつ3人で撤退しようとしていたが、エルダーリッチーがそれを見逃すはずもなく……フィンギーさんは最期まで2人を庇って戦い、未踏破区域に残ったのだという。


「最後に振り返った時……エルダーリッチ―の放った電撃がフィンギー様を、飲み込んでいました」
「あれを食らって生き残ってるとは、私には思えない……仮に運良く脱出出来たとしても、長くないわ」
「そうですか……そんな事が……」

 全て聞き終えた時、管理小屋の扉が開いてシエルが帰ってきた。

「おかえり。大丈夫だった?」
『うん、問題ないよ』
「そっか。ありがとう。……あぁ、紹介が遅れた。此方はミルルさんとエレーナさん。当代の勇者のパーティーメンバーだよ」

 シエルが二人を光の無い眼で眺め、ぺこりとお辞儀をした。

「ミルルさん、エレーナさん。此方は僕のテイムモンスターのシエル。墓守の仕事を手伝ってもらってるんだ」
「テイムモンスターなのに……拘束具もないのですか?」
「必要ないよ。シエルは絶対に暴れたりしないから」

 個人的にはモンスター扱いも本当はしたくない。だってシエルは歴とした人間だから。

「それで話が逸れたけれど……フィンギーさんが亡くなって、それで僕の所に来た理由は?」

 あの道を見つけたのは僕だ。それはフィンギーさんを始め、多くの探索者が亡くなる切っ掛けを作った事と同義だ。それに対する罵倒、誹り……罰を受けろと言われるかもしれないと、二人の話を聞きながら考えていた。

「……撤退してから暫くして、あの道を見つけたナナヲ様の事を思い出しました」
「どうしてるんだろう、ってね。それから、どうやってあの道を見つけたんだろう、って二人で考えてたの」
「それで……ナナヲ様が異界人であること……戦闘スキルがなかったこと……なのに、一度もモンスターからの攻撃を受けることがありませんでした。『視る』という行為だけは私達よりも優れていたことから、何らかのスキルが発現しているのではと考えました」

 それは正解だ。いつの間にか……いや、恐らく転移した時点で備わっていた《神眼”鑑定(リアリゼーション)”》だけが、あの隠された道を見抜いた。

「神眼ってのスキルがあるみたいなんだ。注視した物の本質を見抜くスキルだよ」
「やっぱり……じゃあ、此処に来たことは正解だったって訳ね」
「……」

 ジッと僕を見るエレーナさん。思わず目を逸らしてしまうのは罪悪感からだ。やっぱり、という言葉が心に突き刺さる。

「僕がこんな眼を持ってしまったばっかりに、本当に……ごめん」
「ナナヲ様は、勘違いされています」
「えっ?」

 ミルルさんの言葉に顔を上げた。其処には慈愛の笑みを浮かべたミルルさんが僕を見つめていた。

「ナナヲ様は悪くありません。戦いに死という結果が出るのは、どんな状況でもあり得ることです。それを受け入れ、寄り添えるようになるべきであって、死という結果を他人の所為にするのは間違っています」
「まぁ、全部が全部って訳じゃないけどね。でも私もミルルも、ナナヲを恨んだことなんてないよ。私達が此処に来たのは、その眼があればあのクソリッチーの秘密を暴けるんじゃないかって理由よ」
「リッチーの秘密……あっ」

 無尽蔵の魔力。それが原因で勝てる戦いがひっくり返されてしまった。

「本質を見抜くなんて最強じゃない? あ、やだ、私の事見つめちゃ嫌よ?」
「意識して見なければ大丈夫だよ。じゃあ、もう一度エルダーリッチ―討伐戦をするんだね?」
「そうなのですが……今回は厳しいと思います」
「というと?」
「人が集まらないのよ。前回の敗戦の所為でね」

 あぁ……その惨状を目の当たりにしておきながら、じゃあ2回戦行ってみようとは中々ならないだろう。いざとなれば逃げてしまえば自身の安全は確保出来るのだし。

「……お手伝いしたのは山々なんですけど、僕も墓守協会と雇用契約してる身なので、職務放棄していい状況ではなくて……」
「其処のシエルに任せられないの?」
「難しいですね……実は僕の担当してる墓地の地下にダンジョン出来ちゃってるんですよねー……」
「えぇ……うっわー、やばくない? それ……」
「やばいんですよ……ただでさえ二足の草鞋状態でして……」

 フィンギーさんの敵討ちだ。参加したくないなんて感情は一切無い。ミルルさんはああ言ってくれたけれど、罪悪感はやっぱり残る。でも僕が見つけなかったとしても誰かが見つけたかもしれない。そうなれば、死者が出てしまうかもしれない。そうなれば、事はどんどん大きくなってしまうだろう。

 だからエルダーリッチーは絶対に倒さなくてはならない。

 なのに、僕は動けない。

「すみません……僕の一存では決められません」
「そう、ですよね……」
「仕方ないわよね。仕事だもの」

 罵られるかもしれないと思ったが、納得してもらえた。だがその言葉とは裏腹に二人の表情は暗い。僕なら何とかしてくれると思ってくれていたのだろう。その気持ちを無下にして断った僕は、申し訳なさで暗かった。

 2人は一時的に取った宿に戻るとだけ言い残し、帰っていった。人数が半分になった室内を沈黙が支配する。

 シエルは何も言わず、僕はテーブルに突っ伏してジッと木目を見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい

紙風船
ファンタジー
等しく芽生える”職業”と呼ばれるある種の才能に恵まれなかった俺は森の中でモンスターに囲まれていた。 窮地に陥ったその時、偶然にも才能が開花した俺は命からがらに危機を脱することができた。 町に戻った俺が確認した職業は《錬装術師》。 聞いたことのない職業だったが、俺は偶然にもその力の一端を垣間見ていた。 それは、”武器”と”武器”の融合……”錬装”だった。 武器に備わった”特性”と”属性”。その無限の可能性に俺は震えた。 俺はこの力で強くなりたいと強く、強く願った。 そんな俺の前に現れた最強と名高い冒険者”チトセ・ココノエ”。 偶然現れた彼女だが、その出会いは俺の運命を大きく変える出会いだった。

大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!

倉紙たかみ
ファンタジー
突然変異クラスのS級大地魔法使いとして生を受けた伯爵子息リーク。 彼の家では、十六歳になると他家へと奉公(修行)する決まりがあった。 奉公先のシルバリオル家の領主は、最近代替わりしたテスラという女性なのだが、彼女はドラゴンを素手で屠るほど強い上に、凄まじいカリスマを持ち合わせていた。 リークの才能を見抜いたテスラ。戦闘面でも内政面でも無理難題を押しつけてくるのでそれらを次々にこなしてみせるリーク。 テスラの町は、瞬く間に繁栄を遂げる。だが、それに嫉妬する近隣諸侯の貴族たちが彼女の躍進を妨害をするのであった。 果たして、S級大地魔法使いのリークは彼女を守ることができるのか? そもそも、守る必要があるのか? カリスマ女領主と一緒に町を反映させる物語。 バトルあり内政あり。女の子たちと一緒に領主道を突き進む! ―――――――――――――――――――――――――― 作品が面白かったらブックマークや感想、レビューをいただけると嬉しいです。 たかみが小躍りして喜びます。感想などは、お気軽にどうぞ。一言でもめっちゃ嬉しいです。 楽しい時間を過ごしていただけたら幸いです。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃
ファンタジー
 F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。  彼は冒険者を引退しようか悩む。  そんな時、ルシアスは道端に落ちていた謎のアイテム拾った。  これがとんでもない能力を秘めたチートアイテムだったため、彼の人生は一変することになる。  これは、別の世界に存在するアイテム(アサルトライフル、洗濯乾燥機、DVDなど)に感動し、駆使しながら成り上がる青年の物語。  努力だけでは届かぬ絶対的な才能の差を、チートアイテムで覆す!

魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。 その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。 エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。 人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。 大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。 本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。 小説家になろうにも掲載してます。

いずれ最強の少女 ~白き髪と紅の瞳~

カイゼリン
ファンタジー
[旧 僕らの仕事は暗殺です] 生まれてすぐに親を亡くしてしまった少女 とある村で引き取られるが盗賊によって村が燃やされてしまった 途方にくれる少女はある街にたどり着く そこでダリオルというなんかわからないけど良いおじさんに引き取られる ステータスを初めて見ると、一般的なステータスよりも高いことが発覚 とりあえずダリオルのギルドで暗殺者として働くことに この世界で少女は何をみるのか。何を思うのか。 一人の少女の成長を君は目撃する__ こちらは小説家になろうにも掲載しています https://ncode.syosetu.com/n7293fh/

処理中です...