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第八話 ダンジョンとは何ですか?
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町の家々からは明かりが消え、街灯だけが町を照らす。自身の息を止めて耳を澄ませば住民の寝息が聞こえてきそうな深夜に僕の仕事は始まる。
「ハァッ!!」
「……ッ!」
気合いと共に一閃。振るった刃がレイスの胴を真っ二つに両断し、声なき悲鳴を上げたレイスが塵と化した。
「はぁ……」
同じように聞こえる単語でも意味合いの違いでこうも背が丸まるかと萎えながら剣を鞘に仕舞った。
これで10体目だ。いい加減うんざりしてくる。スケルトンに限っては30体くらい倒してる。統計的にはレイスの方がレアらしい。いや別に有難くはないのだが。
「これでドロップアイテムなんかあればな……」
昔やったゲームだったら何か良いものが手に入るのに。これだけ倒しても得られるのは疲労だけだ。良い事言った風に言えば、経験も手に入るだろう。
「……あっ、そういえば」
ドロップアイテムで一つ思い出した事がある。それは協会での研修中の時のことだった。
□ □ □ □
「ダンジョンは宝の宝庫である!」
「……頭痛が痛くなってきた」
講義担当のアル君が黒板の前で腕を組んで叫ぶ。あまり期待出来ないのがひしひしと伝わるが僕はお行儀良く講師の言葉を待った。
「ダンジョンで出てくるモンスターと地上で出てくるモンスターの違いってのが『ドロップアイテム』だ」
「モンスター由来のアイテムってこと?」
「そう。何だ、とっくにご存じだったか?」
「そんなでもないけどね」
なんでも、ダンジョン内でだけはモンスターを倒すと稀にアイテムがドロップするのだという。地上でスケルトンを倒しても塵となるだけだが、ダンジョンで倒すとどこかしらの骨が手に入るという。何に使うのだろう?
「削ったら薬の素材になったりするぞ」
「粉薬ってこと?」
「いや直には飲まないと思う……嫌だろ、普通に」
「確かに普通に嫌だ」
「あれだ、ポーション作るんだよ。詳しくないけど」
ふぅん……と分かったような顔をするが、それ以上の感想がなかった。アル君も話は以上だとばかりに窓の向こうを眺めている。やはり彼に講師は難しかったらしい。開始5分で授業を投げ出す講師が其処に居た。
「まぁ分かってたけどな。俺に講義は無理なんだ」
「それに関しては僕も薄々気付いてたよ」
「抗議は得意なんだけどな、ハハハ!」
「ハハハ……」
何も面白くないです。と、どうしたものかと頭を抱えていると扉が開いて見知った女性が入ってきた。
「どう?」
「駄目」
「やっぱりか……」
僕の回答に肩を落とす女性の名はフランシスカ。アル君と同じく墓守協会の人間だ。協会にしては珍しく、実戦担当である。墓地に出現した強めのアンデッドの対処等を担当しているので選ばれし協会員なのだ。ちなみに僕の戦闘訓練の教官でもある。今日は心配して見に来てくれたみたいだ。
「案の定って感じね」
「まぁ、しゃーないです」
「そうね……アルだし」
「アル君ですし」
「お前ら酷くない? 常人なら泣いてるぞ」
目尻に涙を浮かべるイケメン。
「泣くな泣くな。明日があるさ」
「早いとこ訓練期間終わらせないと、770番担当してるジョン爺さんとの引継ぎ出来ないんだから頼むよ?」
「俺だって頑張ってるんだ……」
「僕も頑張るからほら、続き頼むよ」
「これで全部だよ……」
「……」
□ □ □ □
大した内容はなかった……。ただ、ダンジョン内でモンスターを倒せばよく分からないアイテムが時々手に入るというだけだった。
「とは言え、ダンジョンをどうにかしてくれとは頼まれてないしな……」
まだ協会の方でも決め兼ねているみたいなこともちょっと言っていたっけ。それに何かあったらしく皆、東奔西走の有様だった。それにせっかく封印施術もしてもらっているのにわざわざ此方から暴く必要もない。
ただ心配なのは、この墓地でモンスターが出現する割合がダンジョン内とダンジョンとなっている墓周りに集約されている。墓周りは僕が頑張ればいいだけだが、問題はダンジョン内のモンスターだ。僕の前任者であるジョン爺さんの頃からダンジョンはあったはずだ。だって僕が来た瞬間に生成されるなんて、そんな偶然があるとは思えない。
「結構前からあるはずだよな……じゃあ、今ダンジョンの中はどれぐらいモンスターが居るんだろう?」
魔素と瘴気で生まれるモンスター。ザルクヘイムに挑み、志半ばで倒れた遺体の眠る墓地。その地下に人知れず存在する謎のダンジョン。馬鹿でも分かる。モンスター牧場となっていると。
「こんな施術で大丈夫なのか……?」
墓石の前にあるのは地面に設置された両開きの扉。その真ん中の取っ手の部分は黒い鎖で結ばれ、ゴツい錠がそれを纏めていた。何か特殊な魔道具だろうか? ピッキングされたらとか、モンスターなら鎖なんて引き千切りそうとか、扉自体を壊せば意味ないよなとか、そんな不安がいっぱいな見た目の封印だった。
そんな調子で2週間が過ぎ、気付けば墓守仕事が始まって1ヶ月が経過した。
「ハァッ!!」
「……ッ!」
気合いと共に一閃。振るった刃がレイスの胴を真っ二つに両断し、声なき悲鳴を上げたレイスが塵と化した。
「はぁ……」
同じように聞こえる単語でも意味合いの違いでこうも背が丸まるかと萎えながら剣を鞘に仕舞った。
これで10体目だ。いい加減うんざりしてくる。スケルトンに限っては30体くらい倒してる。統計的にはレイスの方がレアらしい。いや別に有難くはないのだが。
「これでドロップアイテムなんかあればな……」
昔やったゲームだったら何か良いものが手に入るのに。これだけ倒しても得られるのは疲労だけだ。良い事言った風に言えば、経験も手に入るだろう。
「……あっ、そういえば」
ドロップアイテムで一つ思い出した事がある。それは協会での研修中の時のことだった。
□ □ □ □
「ダンジョンは宝の宝庫である!」
「……頭痛が痛くなってきた」
講義担当のアル君が黒板の前で腕を組んで叫ぶ。あまり期待出来ないのがひしひしと伝わるが僕はお行儀良く講師の言葉を待った。
「ダンジョンで出てくるモンスターと地上で出てくるモンスターの違いってのが『ドロップアイテム』だ」
「モンスター由来のアイテムってこと?」
「そう。何だ、とっくにご存じだったか?」
「そんなでもないけどね」
なんでも、ダンジョン内でだけはモンスターを倒すと稀にアイテムがドロップするのだという。地上でスケルトンを倒しても塵となるだけだが、ダンジョンで倒すとどこかしらの骨が手に入るという。何に使うのだろう?
「削ったら薬の素材になったりするぞ」
「粉薬ってこと?」
「いや直には飲まないと思う……嫌だろ、普通に」
「確かに普通に嫌だ」
「あれだ、ポーション作るんだよ。詳しくないけど」
ふぅん……と分かったような顔をするが、それ以上の感想がなかった。アル君も話は以上だとばかりに窓の向こうを眺めている。やはり彼に講師は難しかったらしい。開始5分で授業を投げ出す講師が其処に居た。
「まぁ分かってたけどな。俺に講義は無理なんだ」
「それに関しては僕も薄々気付いてたよ」
「抗議は得意なんだけどな、ハハハ!」
「ハハハ……」
何も面白くないです。と、どうしたものかと頭を抱えていると扉が開いて見知った女性が入ってきた。
「どう?」
「駄目」
「やっぱりか……」
僕の回答に肩を落とす女性の名はフランシスカ。アル君と同じく墓守協会の人間だ。協会にしては珍しく、実戦担当である。墓地に出現した強めのアンデッドの対処等を担当しているので選ばれし協会員なのだ。ちなみに僕の戦闘訓練の教官でもある。今日は心配して見に来てくれたみたいだ。
「案の定って感じね」
「まぁ、しゃーないです」
「そうね……アルだし」
「アル君ですし」
「お前ら酷くない? 常人なら泣いてるぞ」
目尻に涙を浮かべるイケメン。
「泣くな泣くな。明日があるさ」
「早いとこ訓練期間終わらせないと、770番担当してるジョン爺さんとの引継ぎ出来ないんだから頼むよ?」
「俺だって頑張ってるんだ……」
「僕も頑張るからほら、続き頼むよ」
「これで全部だよ……」
「……」
□ □ □ □
大した内容はなかった……。ただ、ダンジョン内でモンスターを倒せばよく分からないアイテムが時々手に入るというだけだった。
「とは言え、ダンジョンをどうにかしてくれとは頼まれてないしな……」
まだ協会の方でも決め兼ねているみたいなこともちょっと言っていたっけ。それに何かあったらしく皆、東奔西走の有様だった。それにせっかく封印施術もしてもらっているのにわざわざ此方から暴く必要もない。
ただ心配なのは、この墓地でモンスターが出現する割合がダンジョン内とダンジョンとなっている墓周りに集約されている。墓周りは僕が頑張ればいいだけだが、問題はダンジョン内のモンスターだ。僕の前任者であるジョン爺さんの頃からダンジョンはあったはずだ。だって僕が来た瞬間に生成されるなんて、そんな偶然があるとは思えない。
「結構前からあるはずだよな……じゃあ、今ダンジョンの中はどれぐらいモンスターが居るんだろう?」
魔素と瘴気で生まれるモンスター。ザルクヘイムに挑み、志半ばで倒れた遺体の眠る墓地。その地下に人知れず存在する謎のダンジョン。馬鹿でも分かる。モンスター牧場となっていると。
「こんな施術で大丈夫なのか……?」
墓石の前にあるのは地面に設置された両開きの扉。その真ん中の取っ手の部分は黒い鎖で結ばれ、ゴツい錠がそれを纏めていた。何か特殊な魔道具だろうか? ピッキングされたらとか、モンスターなら鎖なんて引き千切りそうとか、扉自体を壊せば意味ないよなとか、そんな不安がいっぱいな見た目の封印だった。
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