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山岳都市ケインゴルスク篇

第75話 残りのダンジョン攻略開始

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 サンドリヨンの召喚には魔力を要したが、維持に関してはサンドリヨンの自前の魔力で可能ということで、暫くサンドリヨンをベラトリクスに貸し出す事にした。母親の治療が終え次第、帰ってくるだろう。ベラトリクスとささっと約束をした俺はギルドを後にし、宿へと戻ってきた。

 サンドリヨンがベラトリクスの母親の治療を終えるまでの間、俺はケインゴルスクのダンジョンを攻略し終えるつもりだ。できれば攻略が終わるまでにダンジョンのボスの魂石を使って魔剣を作ってみたかったが、サンドリヨン曰く、

『あれは竜といった伝承の生き物の魂石でないと魔剣には成りえない。その辺の雑魚を地装錬化したとしても、出来上がるのはくだらない消耗品だよ』

 とのことで、まぁ、それでも何かしら特性を採取できれば儲けものだなーとか考えている。金になりそうな魂石なら売るのもいいが、今の所まったくお金には困っていない。チトセさん達と話す必要はあるが、できれば譲ってもらいたいものだ。

 翌日。チトセさんとヴィンセントと朝食が広げられたテーブルを囲みながら、昨夜の話をした。

「……てことがあったんです」
「なるほどねぇ」
「それで、今日からまた攻略再開か」
「うん。そうしたいのだけれど大丈夫かな?」

 残すダンジョンの数は少ない。サンドリヨンが戻ってくる前にちゃちゃっと攻略してしまいたいのが本音だ。残りのダンジョンの難易度ではサンドリヨンの力は持て余すだろうし、本領は次の町で発揮してもらいたい。

「あと残ってるダンジョンって何処でしたっけ」
「『残響堂』、『グレートエッジ』、『血塗れ薔薇庭園』に『地底街83丁目』」
「それから『深淵島』だな」
「結構ある……」

 一つ一つはそれ程難しいダンジョンでもない。だがどれもこれも面倒臭いダンジョンばかりだった。

 『残響堂』は遮る物がない広い空間だ。地下に広がる円形の広場で、モンスター共の鳴き声や冒険者達の声が反響し続け、三半規管がやられるという面倒臭い構造のダンジョンだ。
 とはいえ、モンスターは別に強くない。ただ、リザードマンやゴブリンといった鳴くとうるさい系のモンスターが多い。しっかりお互いの位置を把握していればそれ程困ることはないだろう。耳栓は必須なので目と目、手と手で語れるチームワークが攻略の鍵だ。

 『グレートエッジ』は切り立った崖が何段も重なったような縦移動がメインのダンジョンだ。このダンジョンの面倒臭い理由は下りるのではなく、上るのが目的なところだ。下りるのなら簡単だ。多少の苦労はあるが下の崖へ飛び降りるのを繰り返し、一番下まで行ってボスを倒せば転移魔法陣で帰れるから上る必要がない。けど此処はひたすら苦労するだけのダンジョンなのだ……。出現モンスターは鳥系だ。上ってるところを攻められるとうざい。

 『血塗れ薔薇庭園』は迷路状の垣根を移動して中心に潜むボスを倒せば終わりだ。出現モンスターは植物系のモンスターだ。垣根に紛れて襲ってくるのが面倒だが、基本的に蔦が絡めとって……というのが手段なので刃物を振りまわせれば問題ない。迷路も地図があれば困ることはないだろう。なら何が面倒なのかと言うと、ダンジョンのある場所が厄介なのだ。このダンジョンは山と山の間にある拓けた空間にあるが、其処までの道がとにかく遠く、面倒臭かった。

 『地底街83丁目』。変わった名前のこのダンジョンの入口にはこのダンジョン名を書いた看板が下げられている。誰が下げたか分からない其処は、まっすぐ延々と続く路地を進んでいくダンジョンだ。左右を木造の建物に囲まれ、見上げる空は真っ赤。この不思議な空間をどれだけ精神をまともに保ちながら進めるかがこのダンジョン攻略の鍵だ。モンスターは一切現れず、ボスも居ない。非常に変わったダンジョンだ。

 最後に『深淵島』。これはブルーが居た地底湖のような場所の中心にある大きな島だ。島が大きいのだから地底湖も大きい。この地底湖にもモンスターは出現するが、一番危険なのはやはり深淵島だ。この島には強力なモンスターがひしめき合っている。互いに殺し合う戦場に俺達が参加するのだ。全てのモンスターを殺さないと島からは出られない。各種族のボスを倒し、島の王者になった者の前にのみ、転移魔法陣が出現するのだ。

「まぁ……一つずつ行くしかないか」

 嫌そうな顔でスクランブルエッグをフォークでいじめるヴィンセントが呟く。話の始まりにも終わりにも『面倒だが』という言葉が付いていそうな言い方だったが、それは俺達全員がそうだった。

 やるしかないのだ。気持ち良くサンドリヨンを迎え入れ、綺麗さっぱりケインゴルスクを去るにはやるしかない。こんなことなら最初にやっていれば……とも思うが、結局何処かでぶつかるのだから考えてもしょうがない。

 散々痛めつけたスクランブルエッグを付け合わせのサラダごと口の中へぶち込み、適当に咀嚼した俺は立ち上がる。

「行きましょう。まずは『残響堂』へ!」
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