72 / 76
山岳都市ケインゴルスク篇
第72話 地装錬化が見せたもの
しおりを挟む
そんなこんなで、あの反徒一掃から1ヶ月が経過した。
町はすっかり元通りになり、初めて来た頃のような活気を取り戻している。此処最近は何処かの旅の演奏団が寄っているのか、何処か不思議な音楽も聞こえてきて何とも言えない風情が漂っていた。どんな楽器なのか、詳しくないので音を聴いただけでは判別がつかないからこそ、情景というか、想像力が働いていくのを感じる。
そんな思考は錬装にも作用し、最近は魔道具関連の錬装が増えていた。俺の魔力問題を解決する為の物は勿論、ちょっとした作業を楽にさせてくれるような、生活に役立つ物も作るようになっていた。
「さてと……そろそろやらないとな」
今日は休日。ダンジョン探索はお休みだ。俺もチトセさんもヴィンセントも自由に過ごす日ということで、俺は宿に借りた自室に引き籠っている。最近は殆どダンジョンも攻略しきって、そろそろ出発の準備もしようという話になっていた。それに備えて、俺はやらなければならないことがあった。
そう、灰雪ノ剣サンドリヨンに隠されている錬装術師だけが知れる特性、『地装錬化』の確認だ。
バタバタしていたのもあって放置していたが、これを確認しないことには先へと進めない。やらなければならないことなのだ。
「また酷い頭痛があるのかもしれないと思って攻略中はできなかったが……今なら大丈夫だろう」
俺は今、宿でベッドに仰向けで寝ている。隣にはサンドリヨンも寝ている。魔剣と一緒にベッドで寝る日が来るとは思わなかった。だがこうして横になっていれば、たとえ気絶したとしても床に転がったり机に突っ伏してるよりもいくらかましだろう。
「よし……」
剣に触れ、『地装錬化』を発動させる。
「ぐっ……う、がぁぁああ……っ!」
途端に襲ってくる激しい頭痛。分かっていることではあったが耐え難い。いや、耐える必要はなかった。あっさりと意識を手放してしまえば楽になれる……。
頭痛は止まない。だが俺は意識を手放すことでそれに対応する。
□ □ □ □
「いいのか?」
『あぁ……』
「しかし……」
『私が良いと、言っているんだ。寿命を迎えた後の私を……私の魂石を扱えるのはお前だけなのだから』
「……。はぁ、そうだな。お前が良いと言ってるんだ。なら、私はそうするべきなのだろう」
『一つだけ、頼みがある』
「聞こう」
『剣となった私を、あの山の……オルディミアースの傍で眠らせてくれないか?』
「分かった。必ず」
『……』
「……」
『頼んだぞ……我が生涯の友、錬装術師ハロルド・ルインデルワルド。短い間ではあったが、充実した毎日だった』
「安らかに眠れ。我が盟友、灰雪の王竜サンドリヨン。お前と過ごす日々は感動の連続だった」
□ □ □ □
静かに瞼を開く。あれ程酷かった頭痛は嘘のように一切なく、ただ後遺症のように見慣れたはずの天井が歪んで見えていた。
「違う……これは、泣いているのか?」
起き上がった俺の頬を涙が伝った。あの夢を見て、感情が刺激されていたようだ。ハロルドの記憶が、知識が、俺の頭の中へと流れ込んでくる。
遥か昔、ハロルドは白竜の王サンドリヨンと共に過ごしている時期があった。彼がサンドリヨンに出会ったのは偶然も偶然。未知の素材を求めてアルルケイン山脈を彷徨い、吹雪の中で道を見失ったハロルドは偶々サンドリヨンの巣穴へと入ってしまった。
サンドリヨンはまもなく寿命を迎えようとしていた。長く生きた白竜は洞穴の奥でじっと最期の時を待っていた。其処へ舞い込んだのがハロルドだった。襲う気力も追い返す気力もなかったサンドリヨンは凍えるハロルドを自分の懐へと招いた。ハロルドは不思議と恐怖はなかった。それに従い、寄り添い合う。
暫くして互いの事を話し始めた。長く生きたサンドリヨンの知識はハロルドの知識欲を満たしていく。サンドリヨンはこれまで知らなかった人間目線の出来事を知れて、彼女もまた知識欲を刺激された。いつしか寿命も忘れ、探索も忘れて互いの意見を交わしたり、実験したりと研究の日々が始まった。
しかしそれも長くは続かなかった。ハロルドとの会話は確かに寿命を忘れさせてくれた。しかしそれは寿命が伸びたという訳ではなかった。サンドリヨンは死期を悟り、死後残る自身の魂石をハロルドへと託すことにした。
大気の気を感じ、取り込み、循環させることで得る天の錬装。それは空と雲を交ぜるような、渾然一体の錬装術。天装錬化。
その対の気、大地の気を取り込み、行う地の錬装。それは世界に生きる者の魂を扱う千変万化の錬装術。地装錬化。
サンドリヨンと過ごして身に付けた大地の力を使った錬装術がサンドリヨンの魂石をハロルドの持つ剣に錬装し、こうして『灰雪ノ剣サンドリヨン』が生まれた。
魔剣サンドリヨンはケインゴルスクの象徴とも言える巨竜の化石、大地の王竜オルディミアースの眠る山の山頂に突き立てられた。
遥かな時の流れを生きたサンドリヨンは、かつて愛した竜の傍で眠ることになったのだった。
「その眠りを妨げたのが、僕か……」
知らなかったとはいえ、引き離す事になってしまったのは申し訳なく思う。白竜召喚……一度も使ったことがなかったが、これは恐らくサンドリヨン本体を呼び出す特性だったのだろう。
「これは流石にちゃんと謝った方がいいな」
俺がサンドリヨンの立場だったら怒り狂うだろう。オルディミアースからも、ハロルドの剣からも引き離されたのだから、文字通り引き裂かれるような思いのはずだ。
居ても立ってもいられなかった俺はサンドリヨンを片手に、ギルドに居るはずのベラトリクスの元へと走った。
町はすっかり元通りになり、初めて来た頃のような活気を取り戻している。此処最近は何処かの旅の演奏団が寄っているのか、何処か不思議な音楽も聞こえてきて何とも言えない風情が漂っていた。どんな楽器なのか、詳しくないので音を聴いただけでは判別がつかないからこそ、情景というか、想像力が働いていくのを感じる。
そんな思考は錬装にも作用し、最近は魔道具関連の錬装が増えていた。俺の魔力問題を解決する為の物は勿論、ちょっとした作業を楽にさせてくれるような、生活に役立つ物も作るようになっていた。
「さてと……そろそろやらないとな」
今日は休日。ダンジョン探索はお休みだ。俺もチトセさんもヴィンセントも自由に過ごす日ということで、俺は宿に借りた自室に引き籠っている。最近は殆どダンジョンも攻略しきって、そろそろ出発の準備もしようという話になっていた。それに備えて、俺はやらなければならないことがあった。
そう、灰雪ノ剣サンドリヨンに隠されている錬装術師だけが知れる特性、『地装錬化』の確認だ。
バタバタしていたのもあって放置していたが、これを確認しないことには先へと進めない。やらなければならないことなのだ。
「また酷い頭痛があるのかもしれないと思って攻略中はできなかったが……今なら大丈夫だろう」
俺は今、宿でベッドに仰向けで寝ている。隣にはサンドリヨンも寝ている。魔剣と一緒にベッドで寝る日が来るとは思わなかった。だがこうして横になっていれば、たとえ気絶したとしても床に転がったり机に突っ伏してるよりもいくらかましだろう。
「よし……」
剣に触れ、『地装錬化』を発動させる。
「ぐっ……う、がぁぁああ……っ!」
途端に襲ってくる激しい頭痛。分かっていることではあったが耐え難い。いや、耐える必要はなかった。あっさりと意識を手放してしまえば楽になれる……。
頭痛は止まない。だが俺は意識を手放すことでそれに対応する。
□ □ □ □
「いいのか?」
『あぁ……』
「しかし……」
『私が良いと、言っているんだ。寿命を迎えた後の私を……私の魂石を扱えるのはお前だけなのだから』
「……。はぁ、そうだな。お前が良いと言ってるんだ。なら、私はそうするべきなのだろう」
『一つだけ、頼みがある』
「聞こう」
『剣となった私を、あの山の……オルディミアースの傍で眠らせてくれないか?』
「分かった。必ず」
『……』
「……」
『頼んだぞ……我が生涯の友、錬装術師ハロルド・ルインデルワルド。短い間ではあったが、充実した毎日だった』
「安らかに眠れ。我が盟友、灰雪の王竜サンドリヨン。お前と過ごす日々は感動の連続だった」
□ □ □ □
静かに瞼を開く。あれ程酷かった頭痛は嘘のように一切なく、ただ後遺症のように見慣れたはずの天井が歪んで見えていた。
「違う……これは、泣いているのか?」
起き上がった俺の頬を涙が伝った。あの夢を見て、感情が刺激されていたようだ。ハロルドの記憶が、知識が、俺の頭の中へと流れ込んでくる。
遥か昔、ハロルドは白竜の王サンドリヨンと共に過ごしている時期があった。彼がサンドリヨンに出会ったのは偶然も偶然。未知の素材を求めてアルルケイン山脈を彷徨い、吹雪の中で道を見失ったハロルドは偶々サンドリヨンの巣穴へと入ってしまった。
サンドリヨンはまもなく寿命を迎えようとしていた。長く生きた白竜は洞穴の奥でじっと最期の時を待っていた。其処へ舞い込んだのがハロルドだった。襲う気力も追い返す気力もなかったサンドリヨンは凍えるハロルドを自分の懐へと招いた。ハロルドは不思議と恐怖はなかった。それに従い、寄り添い合う。
暫くして互いの事を話し始めた。長く生きたサンドリヨンの知識はハロルドの知識欲を満たしていく。サンドリヨンはこれまで知らなかった人間目線の出来事を知れて、彼女もまた知識欲を刺激された。いつしか寿命も忘れ、探索も忘れて互いの意見を交わしたり、実験したりと研究の日々が始まった。
しかしそれも長くは続かなかった。ハロルドとの会話は確かに寿命を忘れさせてくれた。しかしそれは寿命が伸びたという訳ではなかった。サンドリヨンは死期を悟り、死後残る自身の魂石をハロルドへと託すことにした。
大気の気を感じ、取り込み、循環させることで得る天の錬装。それは空と雲を交ぜるような、渾然一体の錬装術。天装錬化。
その対の気、大地の気を取り込み、行う地の錬装。それは世界に生きる者の魂を扱う千変万化の錬装術。地装錬化。
サンドリヨンと過ごして身に付けた大地の力を使った錬装術がサンドリヨンの魂石をハロルドの持つ剣に錬装し、こうして『灰雪ノ剣サンドリヨン』が生まれた。
魔剣サンドリヨンはケインゴルスクの象徴とも言える巨竜の化石、大地の王竜オルディミアースの眠る山の山頂に突き立てられた。
遥かな時の流れを生きたサンドリヨンは、かつて愛した竜の傍で眠ることになったのだった。
「その眠りを妨げたのが、僕か……」
知らなかったとはいえ、引き離す事になってしまったのは申し訳なく思う。白竜召喚……一度も使ったことがなかったが、これは恐らくサンドリヨン本体を呼び出す特性だったのだろう。
「これは流石にちゃんと謝った方がいいな」
俺がサンドリヨンの立場だったら怒り狂うだろう。オルディミアースからも、ハロルドの剣からも引き離されたのだから、文字通り引き裂かれるような思いのはずだ。
居ても立ってもいられなかった俺はサンドリヨンを片手に、ギルドに居るはずのベラトリクスの元へと走った。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ただしい異世界の歩き方!
空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。
未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。
未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。
だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。
翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。
そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。
何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。
一章終了まで毎日20時台更新予定
読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~
草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★
男性向けHOTランキングトップ10入り感謝!
王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。
だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。
周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。
そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。
しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。
そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。
しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。
あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。
自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~
紙風船
ファンタジー
入るたびに構造が変わるローグライクダンジョン。その中でもトップクラスに難易度の高いダンジョン”禍津世界樹の洞”へとやってきた僕、月ヶ瀬将三郎はダンジョンを攻略する様を配信していた。
何でも、ダンジョン配信は儲かると聞いたので酔った勢いで突発的に始めたものの、ちょっと休憩してたら寝落ちしてしまったようで、気付けば配信を見ていたリスナーに居場所を特定されて悪戯で転移罠に放り込まれてしまった!
ばっちり配信に映っていたみたいで、僕の危機的状況を面白半分で視聴する奴の所為でどんどん配信が広まってしまう。サブスクも増えていくが、此処で死んだら意味ないじゃないか!
僕ァ戻って絶対にこのお金で楽な生活をするんだ……死ぬ気で戻ってやる!!!!
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様でも投稿しています。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる