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山岳都市ケインゴルスク篇
第四十四話 助け合い
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時間が経過したことで消えた木の中からオーガだったものが現れる。魂石だ。
「収納、っと」
オーガの頭くらいの大きさの魂石に手の平を乗せ、虚空の指輪に収納する。これにて『折り返しの道』、攻略完了だ。
「お疲れー」
鞘に幻陽を仕舞いながらチトセさんが此方へ来る。俺は魂石に触れる為に曲げていた腰を伸ばし、ついでに伸びをする。激戦の後の伸びは気持ち良い。骨が鳴る音も心地良さに拍車をかける。体には良くないが。
「お疲れさまでした。いやー、ちゃんとダンジョン攻略したの久しぶりだったので楽しかったです」
「道中は活躍してくれたがボス戦は美味しいところだけ持っていったな?」
「それが一番楽しかった!」
正直、いいとこどりがいっちゃん楽しい。
「さて、此処から先はウォルターは初めてなんじゃないかな」
「報酬品ですね。実はめっちゃ楽しみにしてたんですよ」
ヴィスタニアではついに報酬品をお目にかかることはなかった。まぁそれは俺がラ・バーナ・エスタに引き籠ってた所為なのだが。いや、ダンジョン行きたかったのだが錬装の新たな可能性を見つけてしまってからは気付いたら攻略終わってたんだよね……。お陰様でチトセさんやヴィンセントの装備も錬装出来たので結果的には良かったのだが。
そして今回、お披露目というにはあまりにも実況に熱が入ってしまって場面がなかったのだが俺も装備を新しくしている。見た目は普通だ。黒い服の上に茶色のコート。濃い灰色のスボンに黒いブーツ、グローブ。それだけだ。
チトセさんのような赤いガントレットのような、ヴィンセントのような白いコートのような派手なのは俺には似合わない。俺はサポート専門だからな。目立たない方が役に立てるのだ。
だがこの装備、見た目の地味さとは裏腹に嫌と言う程錬装を繰り返して重ね掛けてある。熱気にも冷気にも強いし、電撃も地面に流れるように作ってある。貫通耐性もあるし防刃耐性もある。何なら衝撃耐性もあるのであのオーガの殴りも実際、当たったとしても大したダメージはなかった。とはいえ、上手くコートに当てて防げるかどうかは分からなかったので避けたが。
とにかく怖がりの俺は自分の身を守る為に思い付く限りの防御特性を錬装した。それだけお金も掛かった。元はハズレ装備とはいえ、積み重なれば数値が大きくなるのは特性もお金も一緒らしい。
3人並んで戦ったフロアの先へ進むと、其処は小さな部屋だった。部屋の片隅には帰還用の魔法陣と、その反対側には金貨と剣やら何やらの小さい山が築かれていて、それ以外は何もない場所だった。
「んー、『切れ味上昇』の剣と『魔力上昇』のブーツと特性無しの指輪が数点、ってところですかね」
「本当便利になったね」
「あぁ、使い勝手の良い奴になった」
「言い方悪くない?」
これもプリマヴィスタを見つけた効果と言える。当初は鑑定特性のついた道具を見つけるのが目標だったが、俺自身が道具になってしまった。笑える。それでいいのかウォルター・エンドエリクシル。
「まぁ便利は便利ですけどね」
これでいいのだ。むしろこれでよかった。これでこそ適材適所じゃないか。そう強く心に刻み、俺は報酬品を指輪に仕舞いこんだ。
その後は何事もなく転移魔法陣から脱出した俺達は冒険者ギルドへ帰還報告へとやってきた。代表者の腕輪を記録用魔道具に通すだけだが、一応最初のダンジョンだ。全員で報告に行って善良な冒険者であることを示しておこうということになった。それに今朝のこともあるしな。
という訳でギルドにやってきたのだが、ちょっとした揉め事が発生してしまった。それはあの蛇のような男、カインの一言で始まった。
「魂石を預かります」
俺達が苦労して持ち帰ったオーガの魂石を預かると言い出したのだ。これには到底承服できないとチトセさんがヒートアップし始めた。
「預かるってのは何、返してくれるってことだよね」
「いえ、それは此方ではちょっと」
「はぁ? おかしくない?」
「助け合いですよ、チトセさん。報酬品は冒険者に、魂石はギルドの運営資金にと」
「理解できない。ギルドの運営資金はクエスト依頼金や鑑定料とかで成り立つはずだよね」
チトセさんが言ってるクエスト依頼金とは、町に住む人間がギルドを通して冒険者に様々な依頼を出すことで発生する報酬だ。依頼人は幾らか提示し、冒険者はそれを見て依頼を受け、こなす。ギルドは依頼人から預かった報酬を冒険者に渡すのだ。そしてギルドは仲介料としてそのうちの何割かを持っていく。これがギルドの収入源の1つだ。
鑑定料は今更説明するまでもないだろう。勿論、俺達は自前の道具があるのでそれを依頼するつもりは毛頭ない。
「それが最近は様々な情勢の影響で収入が減っておりまして。このままでは運営に支障が出るとのことでつい1ヶ月ほど前に決定が下されました」
「だったら何でその1ヶ月後に来たあたし達に説明しない? 碌な仕事もしてない癖に利益のある仕事だけはちゃんとします? ふざけるのも大概にして」
「そうは申されましても、規則ですので」
こういう時のチトセさんは一切退かない。だからめちゃくちゃ目立つ。周りの冒険者も事の成り行きを静観していた。だがその視線に侮蔑の色はなく、寧ろ、味方寄りの色が見えた。彼等も彼等で不満があったのだろう。だが残念ながら加勢に来る程の勇気はないらしい。立場故、か。仕方ない。
と、どうするべきか考えていると視界の端で動きがあった。ギルドの制服を来た人間がゆっくりと此方へ歩いてきていた。しかも3方向からだ。完全に俺達を取り押さえるつもりだ。
「ヴィンセント」
「あぁ、見えてる」
「チトセさんは任せた」
言うや否や、ヴィンセントはチトセさんの肩を掴み、カウンターから退き剥がした。
「何するんだヴィンセント!」
「落ち着け」
チトセさんがヴィンセントに噛み付いている隙に俺は下ろした鞄に手を突っ込み、中から物を取り出す振りをして指輪から魂石を取り出した。
「すみませんカインさん、これが魂石です」
「その鞄から出てくる大きさには思えないんですが……」
「あぁ、たまたま中身が全部無くなってて魂石しか入ってなかったので」
「……なるほど。ではお預かりしましょう。ご協力感謝いたします」
カインは魂石を受け取るとすぐに奥へと引っ込んでいった。無駄なやり取りはしたくないということだろう。いけ好かない奴だ。
と、此処でチトセさんの怒りの矛先は俺になってしまった。ヴィンセントを振り払ったチトセさんが握り潰さんばかりの握力で俺の肩を掴み、無理矢理振り返らせた。
「何やってるウォルター!」
「囲まれてます、チトセさん」
「なん……チィッ!」
キレ散らかしていたチトセさんだが、流石に周りの状況を見て剥き出していた牙を仕舞ってくれた。ホッと胸を撫で下ろす間もなく、俺はチトセさんの手を退いてギルドを出た。ギルドを出る最後の最後まで視線はずっと俺達を追っていたのが不愉快極まりなかった。
そしてその視線はギルドを出た後も続いている。今度は住民の視線だ。
何だ。何なんだ、この町は。一挙一動が全部筒抜けなのか?
ベラトリクスは監視体制はやめると言ったはずだ。なら、この突き刺さり、追い掛けてくる視線は誰の指示なんだ。
「いいよ、ウォルター。もう大丈夫」
「あ、はい。すみません、勝手なことして」
ずっと握りっぱなしだった手を離す。振り返るとチトセさんはちゃんと落ち着いたらしく、穏やかな……いや、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「クッソ腹立つ。何だ彼奴等。マジでぶっ殺してやろうかと思った」
「それは拙いです」
「分かってるよ。冗談」
何処で見られてるかも聞かれてるかも分からない。迂闊に冗談も言えない状況だ。
「こういうのを『壁に耳あり障子に目あり』っていうんだよね」
「……とにかく、一旦宿に戻りましょう。彼処も安全かどうか分からないですけど」
居場所は完全にバレてる。行動も筒抜け。おまけに今朝も、今しがたも一悶着を起こしてきた。いくらベラトリクスが監視はしないと言っても信者がそれを許さないだろう。きっと独断で行動しているか、指示している奴が居るに違いない。
それか……あまりチトセさんのところの元パーティーメンバーを疑いたくないが、ベラトリクスが指示しているか。だがあの怒り様を見るにそんなことをしているようには思えないが……一種のパフォーマンスだったらと思うと、最後まで疑念を拭い切れなかった。
「収納、っと」
オーガの頭くらいの大きさの魂石に手の平を乗せ、虚空の指輪に収納する。これにて『折り返しの道』、攻略完了だ。
「お疲れー」
鞘に幻陽を仕舞いながらチトセさんが此方へ来る。俺は魂石に触れる為に曲げていた腰を伸ばし、ついでに伸びをする。激戦の後の伸びは気持ち良い。骨が鳴る音も心地良さに拍車をかける。体には良くないが。
「お疲れさまでした。いやー、ちゃんとダンジョン攻略したの久しぶりだったので楽しかったです」
「道中は活躍してくれたがボス戦は美味しいところだけ持っていったな?」
「それが一番楽しかった!」
正直、いいとこどりがいっちゃん楽しい。
「さて、此処から先はウォルターは初めてなんじゃないかな」
「報酬品ですね。実はめっちゃ楽しみにしてたんですよ」
ヴィスタニアではついに報酬品をお目にかかることはなかった。まぁそれは俺がラ・バーナ・エスタに引き籠ってた所為なのだが。いや、ダンジョン行きたかったのだが錬装の新たな可能性を見つけてしまってからは気付いたら攻略終わってたんだよね……。お陰様でチトセさんやヴィンセントの装備も錬装出来たので結果的には良かったのだが。
そして今回、お披露目というにはあまりにも実況に熱が入ってしまって場面がなかったのだが俺も装備を新しくしている。見た目は普通だ。黒い服の上に茶色のコート。濃い灰色のスボンに黒いブーツ、グローブ。それだけだ。
チトセさんのような赤いガントレットのような、ヴィンセントのような白いコートのような派手なのは俺には似合わない。俺はサポート専門だからな。目立たない方が役に立てるのだ。
だがこの装備、見た目の地味さとは裏腹に嫌と言う程錬装を繰り返して重ね掛けてある。熱気にも冷気にも強いし、電撃も地面に流れるように作ってある。貫通耐性もあるし防刃耐性もある。何なら衝撃耐性もあるのであのオーガの殴りも実際、当たったとしても大したダメージはなかった。とはいえ、上手くコートに当てて防げるかどうかは分からなかったので避けたが。
とにかく怖がりの俺は自分の身を守る為に思い付く限りの防御特性を錬装した。それだけお金も掛かった。元はハズレ装備とはいえ、積み重なれば数値が大きくなるのは特性もお金も一緒らしい。
3人並んで戦ったフロアの先へ進むと、其処は小さな部屋だった。部屋の片隅には帰還用の魔法陣と、その反対側には金貨と剣やら何やらの小さい山が築かれていて、それ以外は何もない場所だった。
「んー、『切れ味上昇』の剣と『魔力上昇』のブーツと特性無しの指輪が数点、ってところですかね」
「本当便利になったね」
「あぁ、使い勝手の良い奴になった」
「言い方悪くない?」
これもプリマヴィスタを見つけた効果と言える。当初は鑑定特性のついた道具を見つけるのが目標だったが、俺自身が道具になってしまった。笑える。それでいいのかウォルター・エンドエリクシル。
「まぁ便利は便利ですけどね」
これでいいのだ。むしろこれでよかった。これでこそ適材適所じゃないか。そう強く心に刻み、俺は報酬品を指輪に仕舞いこんだ。
その後は何事もなく転移魔法陣から脱出した俺達は冒険者ギルドへ帰還報告へとやってきた。代表者の腕輪を記録用魔道具に通すだけだが、一応最初のダンジョンだ。全員で報告に行って善良な冒険者であることを示しておこうということになった。それに今朝のこともあるしな。
という訳でギルドにやってきたのだが、ちょっとした揉め事が発生してしまった。それはあの蛇のような男、カインの一言で始まった。
「魂石を預かります」
俺達が苦労して持ち帰ったオーガの魂石を預かると言い出したのだ。これには到底承服できないとチトセさんがヒートアップし始めた。
「預かるってのは何、返してくれるってことだよね」
「いえ、それは此方ではちょっと」
「はぁ? おかしくない?」
「助け合いですよ、チトセさん。報酬品は冒険者に、魂石はギルドの運営資金にと」
「理解できない。ギルドの運営資金はクエスト依頼金や鑑定料とかで成り立つはずだよね」
チトセさんが言ってるクエスト依頼金とは、町に住む人間がギルドを通して冒険者に様々な依頼を出すことで発生する報酬だ。依頼人は幾らか提示し、冒険者はそれを見て依頼を受け、こなす。ギルドは依頼人から預かった報酬を冒険者に渡すのだ。そしてギルドは仲介料としてそのうちの何割かを持っていく。これがギルドの収入源の1つだ。
鑑定料は今更説明するまでもないだろう。勿論、俺達は自前の道具があるのでそれを依頼するつもりは毛頭ない。
「それが最近は様々な情勢の影響で収入が減っておりまして。このままでは運営に支障が出るとのことでつい1ヶ月ほど前に決定が下されました」
「だったら何でその1ヶ月後に来たあたし達に説明しない? 碌な仕事もしてない癖に利益のある仕事だけはちゃんとします? ふざけるのも大概にして」
「そうは申されましても、規則ですので」
こういう時のチトセさんは一切退かない。だからめちゃくちゃ目立つ。周りの冒険者も事の成り行きを静観していた。だがその視線に侮蔑の色はなく、寧ろ、味方寄りの色が見えた。彼等も彼等で不満があったのだろう。だが残念ながら加勢に来る程の勇気はないらしい。立場故、か。仕方ない。
と、どうするべきか考えていると視界の端で動きがあった。ギルドの制服を来た人間がゆっくりと此方へ歩いてきていた。しかも3方向からだ。完全に俺達を取り押さえるつもりだ。
「ヴィンセント」
「あぁ、見えてる」
「チトセさんは任せた」
言うや否や、ヴィンセントはチトセさんの肩を掴み、カウンターから退き剥がした。
「何するんだヴィンセント!」
「落ち着け」
チトセさんがヴィンセントに噛み付いている隙に俺は下ろした鞄に手を突っ込み、中から物を取り出す振りをして指輪から魂石を取り出した。
「すみませんカインさん、これが魂石です」
「その鞄から出てくる大きさには思えないんですが……」
「あぁ、たまたま中身が全部無くなってて魂石しか入ってなかったので」
「……なるほど。ではお預かりしましょう。ご協力感謝いたします」
カインは魂石を受け取るとすぐに奥へと引っ込んでいった。無駄なやり取りはしたくないということだろう。いけ好かない奴だ。
と、此処でチトセさんの怒りの矛先は俺になってしまった。ヴィンセントを振り払ったチトセさんが握り潰さんばかりの握力で俺の肩を掴み、無理矢理振り返らせた。
「何やってるウォルター!」
「囲まれてます、チトセさん」
「なん……チィッ!」
キレ散らかしていたチトセさんだが、流石に周りの状況を見て剥き出していた牙を仕舞ってくれた。ホッと胸を撫で下ろす間もなく、俺はチトセさんの手を退いてギルドを出た。ギルドを出る最後の最後まで視線はずっと俺達を追っていたのが不愉快極まりなかった。
そしてその視線はギルドを出た後も続いている。今度は住民の視線だ。
何だ。何なんだ、この町は。一挙一動が全部筒抜けなのか?
ベラトリクスは監視体制はやめると言ったはずだ。なら、この突き刺さり、追い掛けてくる視線は誰の指示なんだ。
「いいよ、ウォルター。もう大丈夫」
「あ、はい。すみません、勝手なことして」
ずっと握りっぱなしだった手を離す。振り返るとチトセさんはちゃんと落ち着いたらしく、穏やかな……いや、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「クッソ腹立つ。何だ彼奴等。マジでぶっ殺してやろうかと思った」
「それは拙いです」
「分かってるよ。冗談」
何処で見られてるかも聞かれてるかも分からない。迂闊に冗談も言えない状況だ。
「こういうのを『壁に耳あり障子に目あり』っていうんだよね」
「……とにかく、一旦宿に戻りましょう。彼処も安全かどうか分からないですけど」
居場所は完全にバレてる。行動も筒抜け。おまけに今朝も、今しがたも一悶着を起こしてきた。いくらベラトリクスが監視はしないと言っても信者がそれを許さないだろう。きっと独断で行動しているか、指示している奴が居るに違いない。
それか……あまりチトセさんのところの元パーティーメンバーを疑いたくないが、ベラトリクスが指示しているか。だがあの怒り様を見るにそんなことをしているようには思えないが……一種のパフォーマンスだったらと思うと、最後まで疑念を拭い切れなかった。
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