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草原都市ヴィスタニア篇
第十三話 チトセ・ココノエの話
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チトセさんは極東出身の女剣士で、”赫炎”という特殊スキルを持つラビュリア最強の冒険者。
それが俺の知るチトセさんだった。
「本当は違う。あたしは此処とは違う場所、違う世界で生きていたんだよ」
「国が違う……という話ではなくてですか?」
「そうだね。ウォルター、紙とペンを貸してくれる?」
「あ、はい」
俺は虚空の指輪から1枚の紙とペンを取り出し、テーブルの上に置いた。
「ありがとう。じゃあ簡単に説明しよう」
そう言ったチトセさんは紙に2つの丸を描いた。そしてその丸と丸の間に1本の縦線を引く。
「こちらの丸がウォルター、君が生きている世界。そしてこちらの丸があたし、『九重 千歳』が住んでいた世界」
「同じ丸ではないのですか?」
「うん。この丸と丸は絶対に重なり合うこともなく、往来もできない。それを隔てる絶対の壁がこの縦線ね」
では何故チトセさんは、絶対の壁を越えて俺が住むという世界に来てしまったのだろう。
「それはね……どう説明すればいいのか分からないけれど、多分、事故」
「事故?」
「あたしは死んだの。学校という建物が燃えて、その中で死んだ」
「!?」
驚いて立ち上がってしまう。チトセさんも驚いたようで俺を見上げている。顔を近付け、チトセさんを見るがアンデッドのようには見えない。
「大丈夫、あたしはアンデッドじゃないよ。ちゃんと生きてる」
「でも、死んだって……!」
「そう、死んだ。そのはずなんだけどね……気付いたらこのヴィスタニアの火事現場で倒れていたのよ。全身大火傷の状態で」
それからチトセさんは治療院で回復を受けた。本当にギリギリのところだったらしいが、何とか持ち直したそうだ。
しかし問題が起きた。
「火事になった家屋は空き家って知られされてね。お前は一体誰だって話になっちゃって」
「あぁ、確かに。チトセさん自身は別世界の建物で火事に遭った訳ですからね」
「そう。しかもこっちとしては持ち直したとは言え、大怪我してた。記憶も曖昧だったし、訳が分からない状況だったんだ」
だからという訳ではないが、詰め寄る衛兵たちの話も上の空で傍にあった針を持ったのだそうだ。
「するとそれが赤熱した。私の”赫炎”という能力が初めて発動した瞬間だったよ」
「赫炎……針……あっ」
「そう。それが後の『赫翼の針』の命名に繋がったんだ」
翼を持って元の世界へ……そういう意味も込められていたらしい。
さて、不幸には不幸が重なる。灼熱の針を見た衛兵はこれが火事の原因ではないのかと疑い始めた。なるほど、謎の人物が持つ火炎系の特性を見ればそう思ってしまうのも分からなくはない。
ただ単に火災に巻き込まれた一般人かと思いきや、放火の犯人にされてしまった。衛兵はチトセさんを犯人だと断定し、連行しようとする。だがこれを止めたのが治療院の人間だった。
「『怪我人を何だと思ってるんだ』『せめて治療させろ』とね」
「大怪我してる人間を犯人扱いして連行は流石にやりすぎってことですか……」
「いや、治療すれば金が入るからね。身元不明なら最悪、都市の管理者に請求出来るだろうし」
「……」
世知辛いというか、なんというか……。
「まぁでも、お陰で時間稼ぎはできた。その間、あたしは必死にこの世界のことを学び、力の使い方を覚えた。この”赫炎”という力は”武器”になる物の部分だけを灼熱させるということを知ったのはその時だったね」
「剣なら刃、針なら尖端ですか」
「そういうこと。そしてその間、衛兵達もあたしが完治するのを待っていたのかというとそうでもなかったらしい。時間が経ったことで、やはりこの火災には不可解なことが多いという意見が増えてきたらしい」
そうして調査を続けていった結果、チトセさんが放火したという証拠が出てこなかった。
お陰様で犯人という扱いを免れたそうだ。
「治った自分を鏡で見て驚いたよ。大火傷を負って、顔も分からないくらいだった。それが元通りの美少女になっていたんだから。それとこの髪だね。当初は殆ど燃えてしまってたんだけど、時間が経ったことで伸びて、この赤い髪が生えてきていたんだよ」
「特殊なスキルを持つ人間は髪の一部にその影響が出る……『二色』」
「そう。黒一色だったのに、こんな派手髪になってしまったんだ」
無事に完治したチトセさんだったが、その分だけ治療費という借金ができた。それを支払う為の手段は冒険者という仕事だけだった。
「こっちでいう学院の生徒だったあたしには手に職というのがなかったから」
「それでもギルドに来たその日にやり手の冒険者を全員負かしたと聞きました」
「あれはー……まぁ、なんというか、流れの随にそうなってしまっただけなんだ……」
ラビュリアという迷宮第一線の町にやってきた小柄な女。冒険者たちが侮るのも仕方ない。そうして絡んできた冒険者をチトセさんは赫炎の力を以てして負かしていったそうだ。
「殴ろうとしてきた相手に触れて赫炎を使えば良いと思ったんだけど、それじゃあ焼き殺してしまうから、体術しか使えなかったよ」
「でもチトセさんって普通の学生だったんですよね。それがどうして倍くらいある大男たちを倒せたんですか?」
「わからない。知らない間にあたしには人よりも強い力が宿っていたみたい」
チトセさんに言わせてみれば、それは向こうの世界にある伝記では稀にある現象とのことだった。そして知ったのだが伝記というのは嘘で、元々は創作物だそうだ。実際にはそんなことはないらしい。
「もしかしたら、ああいった伝記……いや、ライトノベルはこういう別世界から戻ってきた人が最初に書いたのかもしれないと思った。だから、帰る手段を探してラビュリアのダンジョンというダンジョンを攻略してやることにしたんだ」
「それが赫翼の針の誕生秘話ですか」
「そういうことだね。侮られないように喋り方も変えて、必死になって探索した。けれど、何の手掛かりもなかった」
「喋り方も変えた……っていうのは、前は違ったんですか?」
初めて会った時からこの喋り方だから全然気にしなかったから気になる。強く凛々しいチトセさんというイメージが強いから、元が気になるな。
「戻してみようか?」
「差し支えなければ……」
「わかった。ん、んん……あー、なんか久しぶりだなぁ、こういう風に喋るの!」
「……」
凛々しかったチトセさんは一瞬にして可愛らしい美少女になっていた。
「いやマジで! マージで大変だったんだから。ウォルター、聞いてる?」
「えっ? あ、あぁはい。聞いてます」
「あーでもいきなり話し方変えるのもきついな。年齢的にも……うっ……それにあっちももう素みたいなもんだし」
「チトセさんが話しやすい話し方で良いですよ」
「そう? じゃあそうするね」
口調は戻ったが声音は戻していない。キリっとしていた雰囲気が少し和らいで近付きやすい感じになってこれもこれで好きだった。
「で、話の続きなんだけど、帰る手段もなくてマジで病みそうになってた時にこの町に戻ってきたんだ。それで気分変えようと思ってサポートメンバーを募集したらギルドが君を推してきたんだよ」
「初めて会ったのはその時ですね」
「うん。めっちゃ良い人居るんですよ~ってずっと言うもんだから、じゃあ会ってみるかって。んでまぁ、イケメンだったし良いかなって」
「イケメンて」
「なはははは、顔は大事でしょ? 1日中顔を合わせるんだから。いやでもだからってそれだけが理由じゃないけどね。ちゃんと君の素行調査もしたし、経歴も調べた。最終的な判断材料は顔はオマケで、今まで培ってきた技量が勝ってたよ」
頑張ってたお陰で見事に選ばれたということか。顔だけで選ばれたとしたら俺は多分めちゃくちゃ落ち込んでたと思う。
メンバーに選ばれた後はヴィスタニアのダンジョンの攻略に参加した。俺のレベルに合わせてたのか、初心者用のダンジョンばっかりだったが、まぁ内容は先程話した通りだ。
「君に振られちゃって、解散した後は何だろうな……やっぱり帰れないんだろうなって思い始めてさ。パーティーも抜けちゃった」
「衝撃でした。あの赫翼の針からチトセさんが抜けたって聞いて。もしかしたら俺が何かしちゃったのかなって」
「それはない……とも言い切れないかな。何だろうなぁ……理屈じゃないんだろうけど、君と探索した時が一番楽しかったんだよね。帰る手段を探すって目的とか関係なく、頑張ってる君を見てるのがそれまでで一番楽しかった」
そう言ってもらえるのは素直に嬉しかった。けどやはり俺が関係していると思うと、少し心に棘が刺さるような気持ちになる。
「気にしてるって顔」
「そりゃあ気にしますよ」
「あたしにとっては良い機会だったと思ってるんだよ? 君ともう一度パーティーを組みたいってずっと思ってた。周りは出来る人間ばっかりだったし、確かに探索も楽だった。けどあたしも探索している間に冒険をしたいと思ったんだよ」
冒険するから冒険者、か。それには俺も同意する。
「思えばあたしは最初から人に囲まれて生活してたからね。暫くソロでも活動したかったし。だから全部が全部ウォルターが関わってるって訳ではないよ? だからもう気にしないで。今後気にするの禁止ね」
「むぅ……わかりました」
「よし、偉いぞ」
そういうとチトセさんは身を乗り出して俺の頭を撫でる。目の前で揺れる二房のものも目に毒だし、何よりも恥ずかし過ぎた。
「ちょ、チトセさん! 恥ずかしいですって……!」
「何? あたしの方が年上なんだから甘やかさせてくれたっていいでしょ?」
「確かに年上ですけど、俺だって18ですよ」
「あたしのところじゃ18はまだ子供よ。……あれ、成人年齢引き下げられたんだっけ。もう覚えてないな……まぁいいや」
「良くないです……!」
俺は無理矢理、でも傷つけないように手を振り払って椅子を引いて距離を取る。
「あはは、可愛いねぇ」
「チトセさん……」
「ま、これからよろしくってことで。付き合うんでしょ?」
これが大人の余裕か。年齢だけなら3つ差ではあるが、生きてきた経験が違う。これは中々縮まらないだろう。
「付き合い……ます」
「うん。よろしくね?」
「……よろしくお願いします」
妙に不貞腐れたような言い方になっていたのは照れ隠しだからだろうか。自分のことはあまり分からない。けれど、自分には勿体ないくらいの女性と共に歩む権利を得た。タチアナの所為で一時は命の危機かと思ったが、逆に考えればタチアナのお陰でこういう結果になったとも言える。素直に感謝できないところではあるが……まぁ、多少の感謝はしておくとしよう。
それが俺の知るチトセさんだった。
「本当は違う。あたしは此処とは違う場所、違う世界で生きていたんだよ」
「国が違う……という話ではなくてですか?」
「そうだね。ウォルター、紙とペンを貸してくれる?」
「あ、はい」
俺は虚空の指輪から1枚の紙とペンを取り出し、テーブルの上に置いた。
「ありがとう。じゃあ簡単に説明しよう」
そう言ったチトセさんは紙に2つの丸を描いた。そしてその丸と丸の間に1本の縦線を引く。
「こちらの丸がウォルター、君が生きている世界。そしてこちらの丸があたし、『九重 千歳』が住んでいた世界」
「同じ丸ではないのですか?」
「うん。この丸と丸は絶対に重なり合うこともなく、往来もできない。それを隔てる絶対の壁がこの縦線ね」
では何故チトセさんは、絶対の壁を越えて俺が住むという世界に来てしまったのだろう。
「それはね……どう説明すればいいのか分からないけれど、多分、事故」
「事故?」
「あたしは死んだの。学校という建物が燃えて、その中で死んだ」
「!?」
驚いて立ち上がってしまう。チトセさんも驚いたようで俺を見上げている。顔を近付け、チトセさんを見るがアンデッドのようには見えない。
「大丈夫、あたしはアンデッドじゃないよ。ちゃんと生きてる」
「でも、死んだって……!」
「そう、死んだ。そのはずなんだけどね……気付いたらこのヴィスタニアの火事現場で倒れていたのよ。全身大火傷の状態で」
それからチトセさんは治療院で回復を受けた。本当にギリギリのところだったらしいが、何とか持ち直したそうだ。
しかし問題が起きた。
「火事になった家屋は空き家って知られされてね。お前は一体誰だって話になっちゃって」
「あぁ、確かに。チトセさん自身は別世界の建物で火事に遭った訳ですからね」
「そう。しかもこっちとしては持ち直したとは言え、大怪我してた。記憶も曖昧だったし、訳が分からない状況だったんだ」
だからという訳ではないが、詰め寄る衛兵たちの話も上の空で傍にあった針を持ったのだそうだ。
「するとそれが赤熱した。私の”赫炎”という能力が初めて発動した瞬間だったよ」
「赫炎……針……あっ」
「そう。それが後の『赫翼の針』の命名に繋がったんだ」
翼を持って元の世界へ……そういう意味も込められていたらしい。
さて、不幸には不幸が重なる。灼熱の針を見た衛兵はこれが火事の原因ではないのかと疑い始めた。なるほど、謎の人物が持つ火炎系の特性を見ればそう思ってしまうのも分からなくはない。
ただ単に火災に巻き込まれた一般人かと思いきや、放火の犯人にされてしまった。衛兵はチトセさんを犯人だと断定し、連行しようとする。だがこれを止めたのが治療院の人間だった。
「『怪我人を何だと思ってるんだ』『せめて治療させろ』とね」
「大怪我してる人間を犯人扱いして連行は流石にやりすぎってことですか……」
「いや、治療すれば金が入るからね。身元不明なら最悪、都市の管理者に請求出来るだろうし」
「……」
世知辛いというか、なんというか……。
「まぁでも、お陰で時間稼ぎはできた。その間、あたしは必死にこの世界のことを学び、力の使い方を覚えた。この”赫炎”という力は”武器”になる物の部分だけを灼熱させるということを知ったのはその時だったね」
「剣なら刃、針なら尖端ですか」
「そういうこと。そしてその間、衛兵達もあたしが完治するのを待っていたのかというとそうでもなかったらしい。時間が経ったことで、やはりこの火災には不可解なことが多いという意見が増えてきたらしい」
そうして調査を続けていった結果、チトセさんが放火したという証拠が出てこなかった。
お陰様で犯人という扱いを免れたそうだ。
「治った自分を鏡で見て驚いたよ。大火傷を負って、顔も分からないくらいだった。それが元通りの美少女になっていたんだから。それとこの髪だね。当初は殆ど燃えてしまってたんだけど、時間が経ったことで伸びて、この赤い髪が生えてきていたんだよ」
「特殊なスキルを持つ人間は髪の一部にその影響が出る……『二色』」
「そう。黒一色だったのに、こんな派手髪になってしまったんだ」
無事に完治したチトセさんだったが、その分だけ治療費という借金ができた。それを支払う為の手段は冒険者という仕事だけだった。
「こっちでいう学院の生徒だったあたしには手に職というのがなかったから」
「それでもギルドに来たその日にやり手の冒険者を全員負かしたと聞きました」
「あれはー……まぁ、なんというか、流れの随にそうなってしまっただけなんだ……」
ラビュリアという迷宮第一線の町にやってきた小柄な女。冒険者たちが侮るのも仕方ない。そうして絡んできた冒険者をチトセさんは赫炎の力を以てして負かしていったそうだ。
「殴ろうとしてきた相手に触れて赫炎を使えば良いと思ったんだけど、それじゃあ焼き殺してしまうから、体術しか使えなかったよ」
「でもチトセさんって普通の学生だったんですよね。それがどうして倍くらいある大男たちを倒せたんですか?」
「わからない。知らない間にあたしには人よりも強い力が宿っていたみたい」
チトセさんに言わせてみれば、それは向こうの世界にある伝記では稀にある現象とのことだった。そして知ったのだが伝記というのは嘘で、元々は創作物だそうだ。実際にはそんなことはないらしい。
「もしかしたら、ああいった伝記……いや、ライトノベルはこういう別世界から戻ってきた人が最初に書いたのかもしれないと思った。だから、帰る手段を探してラビュリアのダンジョンというダンジョンを攻略してやることにしたんだ」
「それが赫翼の針の誕生秘話ですか」
「そういうことだね。侮られないように喋り方も変えて、必死になって探索した。けれど、何の手掛かりもなかった」
「喋り方も変えた……っていうのは、前は違ったんですか?」
初めて会った時からこの喋り方だから全然気にしなかったから気になる。強く凛々しいチトセさんというイメージが強いから、元が気になるな。
「戻してみようか?」
「差し支えなければ……」
「わかった。ん、んん……あー、なんか久しぶりだなぁ、こういう風に喋るの!」
「……」
凛々しかったチトセさんは一瞬にして可愛らしい美少女になっていた。
「いやマジで! マージで大変だったんだから。ウォルター、聞いてる?」
「えっ? あ、あぁはい。聞いてます」
「あーでもいきなり話し方変えるのもきついな。年齢的にも……うっ……それにあっちももう素みたいなもんだし」
「チトセさんが話しやすい話し方で良いですよ」
「そう? じゃあそうするね」
口調は戻ったが声音は戻していない。キリっとしていた雰囲気が少し和らいで近付きやすい感じになってこれもこれで好きだった。
「で、話の続きなんだけど、帰る手段もなくてマジで病みそうになってた時にこの町に戻ってきたんだ。それで気分変えようと思ってサポートメンバーを募集したらギルドが君を推してきたんだよ」
「初めて会ったのはその時ですね」
「うん。めっちゃ良い人居るんですよ~ってずっと言うもんだから、じゃあ会ってみるかって。んでまぁ、イケメンだったし良いかなって」
「イケメンて」
「なはははは、顔は大事でしょ? 1日中顔を合わせるんだから。いやでもだからってそれだけが理由じゃないけどね。ちゃんと君の素行調査もしたし、経歴も調べた。最終的な判断材料は顔はオマケで、今まで培ってきた技量が勝ってたよ」
頑張ってたお陰で見事に選ばれたということか。顔だけで選ばれたとしたら俺は多分めちゃくちゃ落ち込んでたと思う。
メンバーに選ばれた後はヴィスタニアのダンジョンの攻略に参加した。俺のレベルに合わせてたのか、初心者用のダンジョンばっかりだったが、まぁ内容は先程話した通りだ。
「君に振られちゃって、解散した後は何だろうな……やっぱり帰れないんだろうなって思い始めてさ。パーティーも抜けちゃった」
「衝撃でした。あの赫翼の針からチトセさんが抜けたって聞いて。もしかしたら俺が何かしちゃったのかなって」
「それはない……とも言い切れないかな。何だろうなぁ……理屈じゃないんだろうけど、君と探索した時が一番楽しかったんだよね。帰る手段を探すって目的とか関係なく、頑張ってる君を見てるのがそれまでで一番楽しかった」
そう言ってもらえるのは素直に嬉しかった。けどやはり俺が関係していると思うと、少し心に棘が刺さるような気持ちになる。
「気にしてるって顔」
「そりゃあ気にしますよ」
「あたしにとっては良い機会だったと思ってるんだよ? 君ともう一度パーティーを組みたいってずっと思ってた。周りは出来る人間ばっかりだったし、確かに探索も楽だった。けどあたしも探索している間に冒険をしたいと思ったんだよ」
冒険するから冒険者、か。それには俺も同意する。
「思えばあたしは最初から人に囲まれて生活してたからね。暫くソロでも活動したかったし。だから全部が全部ウォルターが関わってるって訳ではないよ? だからもう気にしないで。今後気にするの禁止ね」
「むぅ……わかりました」
「よし、偉いぞ」
そういうとチトセさんは身を乗り出して俺の頭を撫でる。目の前で揺れる二房のものも目に毒だし、何よりも恥ずかし過ぎた。
「ちょ、チトセさん! 恥ずかしいですって……!」
「何? あたしの方が年上なんだから甘やかさせてくれたっていいでしょ?」
「確かに年上ですけど、俺だって18ですよ」
「あたしのところじゃ18はまだ子供よ。……あれ、成人年齢引き下げられたんだっけ。もう覚えてないな……まぁいいや」
「良くないです……!」
俺は無理矢理、でも傷つけないように手を振り払って椅子を引いて距離を取る。
「あはは、可愛いねぇ」
「チトセさん……」
「ま、これからよろしくってことで。付き合うんでしょ?」
これが大人の余裕か。年齢だけなら3つ差ではあるが、生きてきた経験が違う。これは中々縮まらないだろう。
「付き合い……ます」
「うん。よろしくね?」
「……よろしくお願いします」
妙に不貞腐れたような言い方になっていたのは照れ隠しだからだろうか。自分のことはあまり分からない。けれど、自分には勿体ないくらいの女性と共に歩む権利を得た。タチアナの所為で一時は命の危機かと思ったが、逆に考えればタチアナのお陰でこういう結果になったとも言える。素直に感謝できないところではあるが……まぁ、多少の感謝はしておくとしよう。
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