沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪

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始まりの街ゴスル

睡・拳!!

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 職員数が持ってきた5冊の本を持って椅子に座る。

「この中にお目当ての物はあるかなぁ?」

 そう言いながら、1番上にあった本からとって読んでいく。

「『これであなたもグッスリ寝れる!!睡眠の本』か。....私が探している本とはちがつかもしれないけど、読んでみるか」

 30分後睡月のお目当ての本ではなかったが、結構面白かったなと思い次の本を手に取る。

「『寝かせてくれ!!』?なんだこの本」

 タイトルが少し変だなと思いながら本を読む。

「........これ、運営さんがただ寝たい事を愚痴ってる本じゃん」

 余程寝たかったのだろう、ずっと寝たい事を語っている本だった。

 頑張れ、と思いながら次の本を手に取る。

「次は『睡拳』か。これあたりじゃね?」

 睡月が本を開くと

「うわっ!!眩し」

 本が突然光って、睡月は本の中に入っていった。

「ふぉっふぉっふぉっ、お主か?わしのあとを継ぐのは」

 本の中に入っていった睡月が目を開けると、そこには袴を着た白髪と白の長い髭を生やした爺さんがいた。

 その爺さんを睡月が見るとアナウンスが流れる。

『クエスト【睡拳の後継者】を受けますか?』

「.....【睡拳の後継者】?取り敢えず受けるか」

 まだ状況が掴めていない睡月だったが、初めてのクエストだ、受けてみることにした。

「わしは塩田剛気。お主、名前は?」

「アリス」 

 持っていた枕をぎゅっと抱きながら答える。

 睡月は特に武術などやっていないため、強さを見抜くことなどできない。

 というか、マンガやアニメの世界でなければ強さなんて見抜けない。

 だが、この瞬間は違った。

 特に鍛え上げられたわけでもなく、体が大きいわけでもない。

 ただ、袴を着た爺さんだ。

 しかし、ただの爺さんのはずなのに押しつぶされそうな圧を放っているように睡月は感じた。

「ほう、アリスか。お主、寝ることは好きか?」

 塩田が睡月へ問いかける。

「好き。だから寝るために、寝ながら戦う術を調べてた」

 睡月がそう答えると

「ふぉっふぉっふぉっ!!合格!!合格じゃ!!いや~わしも寝ることが好きでのう。だが寝てるだけでは金は手に入らん。寝てても腹はすくし喉は乾く、金が必要なわけだ。商売は寝る時間が減る。戦うのも寝る時間が減る。どうしたものかと思ったのじゃよ!!そこでわしは考えた!!あれ?寝ながら戦えば金が入って一石二鳥じゃね?とな!!」

 先程の圧はなくなり、ただの爺さんに戻る。

 睡月は少しほっとする。

 今まで体験したことがない圧に押しつぶされそうだったのだ、ほっとするのも当然だろう。

「そこでわしは寝ながら戦う『睡拳』を編み出したのじゃ!!」

 両手を広げふぉっふぉっふぉっと笑う。

「その『睡拳』ってやつ私にも教えて!!早く!!今すぐに!!」

 寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!と言っていた睡月にはありがたい話だった。

 既に自分と同じ考え事を持った人が、先に実戦してくれたのだ。

 興奮するなと言う方が無理な話だった。

「あ、安心せい。わしはもう死んだ身。後継者がおらんくて困っておったからの。ちゃんと教えてやるわい」

 急に興奮しながら迫ってくる睡月に若干引きつつ、答える。

「....ん?死んだ身?」

 塩田の言葉が引っかかり質問をする。

「そうじゃよ。わしは200年前に死んでおるのじゃ。ある意味永遠に寝れたわけじゃの!!」

 ちょっと笑えないジョークをかます塩田。

 睡月は笑えばいいのかどうか困る。

「なんで本の中に?」

 取り敢えず、反応せずに話を逸らした。

「後継者が生きてる間に現れなくてな。わしがせっかく編み出した戦い方じゃ。誰かに引き継ぐまでは、ずっと寝てるわけにはいかなくての。知り合いの魔道士にお願いして、精神だけ本の中に閉じ込めてもらったのじゃ。ちなみにこの本に入れる条件は、1日12時間以上寝ていることじゃ」

 どうやら知らない間に『睡拳』の条件をクリアしていたようだ。

「お主は条件をクリアしておる。睡拳を教えてやろう」

 そう言うと、塩田はゆらりと腕を垂らし、背を曲げる。

「試しにかかってくるといい。なぁに死ぬことはありゃせん。あくまでここは精神だけが入れる場所じゃ。まぁちと痛いがな」

『Second World Online』は痛覚がある。

 と言っても、どこかのシンクロ率があるロボットアニメのように悲鳴を上げるほどではない。

 精々ちょっと強めの静電気を喰らったぐらいの痛みがある程度だ。

「さっ、かかってこい」

 塩田の周りからまた押しつぶされそうな圧を放つ。

 腕を垂らし、背を曲げ顔はこちらを見ていない。

「まさか、初戦闘がこんなヤバそうな爺さんだとはね....」

 睡月は少し後悔しながら塩田へ向かっていく。

 枕で叩こうとする。

 当たる寸前まで塩田は動かなかった。

 当たる?と少し期待した次の瞬間、睡月の体は後ろへ吹っ飛ばされていた。

「ぐふっ!!」

 痛みはない、だが思わず声が出る。

「何が起こった?気づいたらお腹を殴られてたよ」

 お腹を擦りながらゆっくりと立ち上がる。

 塩田は先程と同じ体制だ。

「次こそは....え?」

 次は攻撃を当ててやろうと意気込み塩田へ向かおうとすると、塩田が視界から消えた。

「ぐはっ!!」

 背中に衝撃が走り、吹き飛ぶ。

 一瞬の間に30m程の距離を詰められて、後ろに回られ、背中に掌底を打ち込まれた。

 素の身体能力も多少影響があるが、ステータスによる身体能力の強化があるゲームだ。

 圧倒的にステータス差がある塩田の動きを睡月は、追いかけることができなかったのだ。

「ふあぁ、こんなものかの」

 だらりとした体制からゆっくりと背筋を伸ばし、体をほぐす。

(これが『睡拳』!!あの爺さんはちゃんと寝ながら戦っていた!!私もできるようになれば!!)

 睡拳ができるようになれば、お金や経験値が手に入る。

 頑張るぞと意気込む睡月だった。
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