上 下
40 / 41
第一部 王国編 第一章 迷宮都市インゼル

冒険者達の防衛戦①

しおりを挟む
 1番最初に異変に気づいたのは、ダンジョン迷宮の入口付近で寝泊まりしているもの達だった。

「なぁ、さっきから変な音しねぇか?」

 露店の店番をやっていた男の1人が、同じく店番をしていた男に話しかける。彼らは店の商品が夜中に盗まれないように、雇われた冒険者だ。

「あ?どっかでお盛んな馬鹿がいるのか?」

「そういう音じゃねェよ。もっとこう.........足音みたい──────」

 そこで男の言葉は止まった。男の視線は、ある一点に固定される。

「おい?どうしたんだ?」

「お、おい。あれ」

 男が指を指す方向に振り向くと、カタカタカタ扉を歯と歯を何度も打ち付けながら、まるで笑っているかのように歩いてくる骸骨の集団。スケルトンの群れが、ダンジョン迷宮の入口から出てきていた。

「スタンピードだァァァァァ!!」

 大気を震わす男の声に、寝ていた者たちはは寝起き、男達と同じように店番の依頼を受けていた冒険者達は武器を持つ。さらには検問をしている兵達が集まる。その中の一人は、領主報告に行き、もう1人はこの街の最高戦力である『剛剣』ザリウスを呼びに彼が泊まっている宿へ走っていく。

 他にも、ギルドへの報告、戦えない商人たちを避難誘導する者。

 スタンピードの報告を受けて、街は迅速に動き始めた。

「スタンピードの兆候なんてあったか?」

「いや、なかったはずだ。ギルドも何も言ってない」

 既に防衛陣地を築き上げ、スケルトン達が来るのを待つ冒険者の1人が話す。

 ダンジョン迷宮で起こるスタンピードは、必ず何らかの兆候が見られる。その階層ででてくる魔物が少し変わったり、異常種と言われる本来の魔物から突然変異死体を魔物が現れるようになったり、純粋に迷宮内の魔物の数が多くなるなどの兆候があるのだ。

 しかし、今回はそのような報告を一切耳にしていない。今現在起こっているスタンピードは、少しおかしいと言えた。

「来るぞ!!」

「魔法部隊!!撃てぇ!!ただし撃ちすぎるなよ!!俺たちがやるべきなのは、ギルドからの応援と『剛剣』が来るまでここを持ちこたえることだ!!」

 纏め役の号令と共に、魔法が放たれる。露店にも被害がいくが、商人はそれも織り込み済みなのでここで暴れるようなマヌケはいない。避難一択だ。

 ゴウ!!という轟音と共に、スケルトンに魔法が撃ち込まれ、粉々に砕けていく。そして、その砕けた骨を踏み潰しながら後ろにいたスケルトン達は前進する。

「おいおい数が多すぎねぇか?!魔法ぶち込んでも、次から次へと出てくるぞ!!」

「口動かす前に手ぇ動かせ!!おい!!誰か入口を囲むように土壁アースウォール張れるやつはいねぇか?!時間をとにかく稼ぐんだ!!」

「私、張れます!!」

「限界まで魔力使っていいからやれ!!魔力回復液マナポーションはくれてやるからな!!」

 土壁アースウォールはその名の通り、土の壁を作る魔法だ。中位魔法で、込めた魔力量に応じて壁の大きさを変えることができる。熟練した魔導師ならば、土の塔を作ることすら出来てしまう。

 冒険者の女が土壁アースウォールの詠唱を終え、自身の持てる限界まで魔力を練り上げて魔法を発動する。

土壁アースウォール!!」

 スケルトンの軍勢の下から、土が急激に競り上がりスケルトン達を分断する。高さは3~4m。厚さは1m程の壁だ。

 土壁アースウォールはダンジョン迷宮の入口を囲むように作られ、知能を持たないスケルトンなら突破はできない。

 ................はずだった。

 このスケルトンを動かしているのは、知能ある召喚術師。『最弱』の召喚獣だけで、王国の街を落としに来る『最強』の存在だ。

 この程度で、スケルトン達の歩みを止めれる訳がない。

 スケルトン達は四つん這いになると、その上にさらには四つん這いになり、階段を作っていく。

 その階段はは次第に高くなり、スケルトン達が優に土壁アースウォールを越せるほどの高さになる。

「................なんだと」

 分断されたスケルトン達を処理していた冒険者達は、壁の上に現れたスケルトン達を見て手が止まる。

 知能を持たない魔物が、どうやってあの土壁アースウォールを突破したのか。知能ある魔物が、操っているのか。まだ見えない敵に、思考を巡らせる。

「余計な事は考えるな!!とにかく倒せ!!時間を稼げ!!ここからは白兵戦だ!!」

 余計な思考は、判断を鈍らせる。時間を稼ぎ、ギルドからの応援を待つのが彼らの今の仕事だ。

 冒険者達が、スケルトン達に肉薄する。最弱と言われるスケルトンだ。土壁アースウォールを乗り越えて冒険者を襲い、倒すには数が足りない。

 冒険者達はスケルトンをガラスを割るかのように、破壊していく。質が数に勝る瞬間だ。

「よし、このまま時間を稼げば──────」

 ガラガラガラガラ、と音のするほうを見ると

「ば、馬鹿な........奴らはスケルトンだぞ?!幾ら数が多かろうとこの壁を壊せるわけないだろ!!」

 崩れ落ちた壁の向こうに、スケルトン達が溢れかえっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族で異世界転生!!

arice
ファンタジー
普通の高校生が神のミスで死亡し異世界へ シリアス?あるわけ無い! ギャグ?面白い訳が無い! テンプレ?ぶっ壊してやる! テンプレ破壊ワールドで無双するかもしれない主人公をよろしく! ------------------------------------------ 縦書きの方が、文章がスッキリして読みやすいと思うので縦書きで読むことをお勧めします。 エブリスタから、移行した作品でございます! 読みやすいようにはしますが、いかんせん文章力が欠如してるので読みにくいかもです。 エブリスタ用で書いたので、短めにはなりますが楽しんで頂ければ幸いです。 挿絵等、書いてくれると嬉しいです!挿絵、表紙、応援イラストなどはこちらまで→@Alpha_arice フォロー等もお願いします!

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

幼女のゆるっと日常生活~異世界迷宮都市~

ふらんぼわーぬ
ファンタジー
どこの国にも属さない、独立した迷宮都市で 宿屋の孫娘のルチア(8歳)の色々な頑張りを、まわりの大人達が見守る物語。 将来のために、ハイエルフのお師匠様のもとで見習い中←今ここ 日常生活がゆったりとだらだらと進む予定なの。 取り巻く大人達がチート だけど本人は普通の子? R指定は保険

処理中です...