虚構の群青

笹森賢二

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#09 告知音

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   ──どこからか。


 いつからか音が聞こえるようになった。目覚まし時計を止め、二度寝しかけた時に、高い電子音。ベランダで煙草を吸おうとすると警報器の音。交差点でガラスが割れる音が聞こえて立ち止まった時は信号無視の車が目の前を通り過ぎて行った。
「そんな感じなんだが。」
「故障か幻聴じゃないか?」
 隣を歩く友人は余り興味が無いようだった。
「一回耳鼻科行ってみっかねぇ。」
 自転車のベルの音が聞こえて足を止めた。
「どうした?」
 友人も足を止めて振り返った。その直後、脇道から飛び出して来た自転車が友人の背後を走り抜けて行った。
「っと、危ねぇな!」
 友人は怪訝そうな顔で無言で走り去る自転車の後ろ姿と俺を順に見た。
「つーか、お前よく分かったな。」
「いや、ベルの音したろ。」
「そうか?」
 それなりに雑音もある道だ。聞こえない事もあるだろう。友人と別れて家に帰り着いた。簡単な夕食を済ませてテレビを見ているとまた音が聞こえた。高く歪んだ音だった。直後にインターホンが鳴った。カメラ画面で確認すると見知らぬ男が立って居た。
「どちら様ですか?」
「新聞社の者ですが、一部取って頂けませんか?」
 様子がおかしい。帽子を目深に被り、勧誘のくせに鞄の一つも持っていなかった。
「いえ、もう取っているので要りません。」
「そうですか。」
 意外な程あっさり男は引き下がった。振り返った瞬間、何か光る物を持って居たような気がするが、何かは分からなかった。
 翌日、喫茶店で珈琲を飲んで居ると友人がやって来た。
「よぉ、無事だったか。」
「何がだ?」
 話によると。昨晩俺が住んでいるアパートの一室に新聞の勧誘を装った押し込み強盗が入ったらしい。
「あの男、か?」
 妙な気分のまま店を出て、歩道を歩く。結果的には助けられているのだから悪い事ではないのだろうが、流石に気が滅入ってくる。交差点に差し掛かる。また警告音。足を止め、られなかった。目の前に子供がいた。引っ掴んで引っ張る。勢いで場所が入れ変わった。本物のクラクションの音と鈍い衝撃。跳ね飛ばされた。かなり高く飛ばされたのか、辺りがやたらスローに見えた。子供は、尻もちをついただけで無事らしい。今まで続いた音はこの為だったのかな。そう思いながら硬いアスファルトに叩きつけられた。
 
 



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