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第六章 花の記憶
(65)花の記憶 その5-2
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「ええええっ!? ど、どういうことですか? こんな小さいときからふたりが……。わぁー。本当夢みたいな話!」
和歌子が興奮して身を乗り出して画面上の綾香に問いかける。愛子は画面を凝視し、口に手を当てたまま固まっていた。
「じゃ、わたしから、かるーくね」
綾女がコホンと一つ、咳をついてから話し始める。
「この写真はね、私がシェリーフルールで働こうって決めたきっかけになったものなんだよ。なんでお姉ちゃんが持っているかっていうとね、お姉ちゃんは、愛子ちゃんのお母様と、すごく仲良かったんだよ。」
「ふふっ、わたしもお花が好きで、シェリーフルールには、よく通ってたのよ」
綾香が懐かしむように、綾女に続いて話し始める。
「それである日に、いいもの見せてあげるって、温室に連れて行ってもらったのがきっかけ。お花の中にベッドがあるって、すっごい素敵よね。実は、写真の撮影か何かで温室を貸し出ししててセッティングされたものだったらしいんだけど」
「その時だったらしいんだよね。克也くんが引っ越して、愛子の家の近くに行ったのが」
さらに横にいた優菜が言葉を続ける。
「そ、そうだったの!?」
愛子が目を丸くしながらさらに驚く。
「うん。話を聞くと、どうやらそういうことらしいんだ。僕もびっくりだったよ。まさか近くにいたことがあったなんて、思いもしなかった」
克也が画面から顔を覗かせて愛子に話しかける。
「そう。そして、克也くんのお母様と一緒に、克也くんがシェリーフルールに来た日に、私ともばったり会うの。そして、愛子ちゃんとの初対面」
「そんなステキな出会いがあるんですねー」
和歌子が目を輝かせて身を乗り出しながら画面に向かって言う。
「和歌子ちゃん、ここからがもっとすごいんだから」
綾女が和歌子に向かってさらに期待を煽る。
「えっ、何ですか、なんですかっ」
「うふふっ。その時からね、愛子ちゃんと克也くんは、すっごい仲良しになったのよ。お互いのおうちを行き来するくらい。朝は一緒に登校して、学校終わったら一緒に帰ってきて、それから近くの公園だったり、川沿いにあったお花畑だったり、愛子ちゃんが好きだった場所に克也くんはどんどん連れて行ってもらってたの。」
「うわぁー、なんか目に浮かびますー。小さなふたりが楽しくお花と戯れている姿」
和歌子が脚をバタバタさせながら一人で興奮している。愛子は隣でずっと固まったままだ。
「でもね、克也くんのおうちは、それからすぐにまた引っ越さなければならなくなった。せっかく仲良くなったのに。それでね、私が、思い出を一つ作ってあげようって思って、愛子ちゃんのお母様に頼んで、温室を半日貸してもらったの」
「それで、あの写真なんですねー」
「そう。それで、なんでその写真が絵になったかっていうとね、克也くんがいなくなってから、愛子ちゃん、一週間くらい泣き続けたらしいのよ。困ったお母様は、克也くんとの写真を封印することにした。それでもしばらくは愛子ちゃん、元気なかったんだけど」
「はいっ、そこからのお話は私、覚えてます!」
「えっ? わ、わかちゃん?」
急に大きな声を出して和歌子が手を上げたのに愛子が驚く。和歌子は愛子に向かって微笑みながら話し始める。
「お姉さまが元気ないのを見て、私が元気づけてあげなきゃって思って、手作りのパンをたくさん持っていったんです。それを見た愛子お姉さまは、笑顔を取り戻してくれて……。本当、あの時は嬉しかったなぁ……」
「たぶん、その時に私と和歌子ちゃんが初めて会ったのね。小麦粉をたくさんほっぺにつけながら和歌子ちゃんが嬉しそうに愛子ちゃんにパンを渡してるの、よく覚えてるわ。私もお姉ちゃんにその時に頼まれて、愛子ちゃんのお世話をしながら、シェリーフルールで働くことになるの」
綾女が和歌子に続いて話すと、綾香が最後にこう括る。
「あの絵はね、写真で飾れないなら絵で……って、常連のお客様が写真を見ながら描いてくれたのよ。どう? 愛子ちゃん? 思い出した?」
愛子は目を見開いて潤ませたまま、そして口に手を当てたまま、全く動けなかった。若干肩も震えている。
「お、お姉さま?」
和歌子が心配して、愛子の肩をそっと抱く。
「う……、うん。ありがとう。わかちゃん。もう、びっくりすることばっかりで……」
愛子は一度目を閉じ、口に当てていた手を下腹部に持っていくと、大きく深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「ただ……、どうして、そんな大きな出来事、ずっと思い出せなかったのかな、って不思議で……」
「それはね……、たぶん、克也くんと同じ理由かな」
「えっ?」
「克也くんは、とても恥ずかしい出来事だったから記憶を封印した。愛子は、とても悲しい出来事だったから記憶を封印した。そういうことだよ」
画面から優菜がミントグリーンのスリップ姿で現れ、克也の手を引いてベッドへと向かう。
「ふふっ、愛子っ、わたしたちが、記憶の扉の鍵、開けてあげる」
優菜はベッドに横になると、カメラに向かって軽くウインクをした。
和歌子が興奮して身を乗り出して画面上の綾香に問いかける。愛子は画面を凝視し、口に手を当てたまま固まっていた。
「じゃ、わたしから、かるーくね」
綾女がコホンと一つ、咳をついてから話し始める。
「この写真はね、私がシェリーフルールで働こうって決めたきっかけになったものなんだよ。なんでお姉ちゃんが持っているかっていうとね、お姉ちゃんは、愛子ちゃんのお母様と、すごく仲良かったんだよ。」
「ふふっ、わたしもお花が好きで、シェリーフルールには、よく通ってたのよ」
綾香が懐かしむように、綾女に続いて話し始める。
「それである日に、いいもの見せてあげるって、温室に連れて行ってもらったのがきっかけ。お花の中にベッドがあるって、すっごい素敵よね。実は、写真の撮影か何かで温室を貸し出ししててセッティングされたものだったらしいんだけど」
「その時だったらしいんだよね。克也くんが引っ越して、愛子の家の近くに行ったのが」
さらに横にいた優菜が言葉を続ける。
「そ、そうだったの!?」
愛子が目を丸くしながらさらに驚く。
「うん。話を聞くと、どうやらそういうことらしいんだ。僕もびっくりだったよ。まさか近くにいたことがあったなんて、思いもしなかった」
克也が画面から顔を覗かせて愛子に話しかける。
「そう。そして、克也くんのお母様と一緒に、克也くんがシェリーフルールに来た日に、私ともばったり会うの。そして、愛子ちゃんとの初対面」
「そんなステキな出会いがあるんですねー」
和歌子が目を輝かせて身を乗り出しながら画面に向かって言う。
「和歌子ちゃん、ここからがもっとすごいんだから」
綾女が和歌子に向かってさらに期待を煽る。
「えっ、何ですか、なんですかっ」
「うふふっ。その時からね、愛子ちゃんと克也くんは、すっごい仲良しになったのよ。お互いのおうちを行き来するくらい。朝は一緒に登校して、学校終わったら一緒に帰ってきて、それから近くの公園だったり、川沿いにあったお花畑だったり、愛子ちゃんが好きだった場所に克也くんはどんどん連れて行ってもらってたの。」
「うわぁー、なんか目に浮かびますー。小さなふたりが楽しくお花と戯れている姿」
和歌子が脚をバタバタさせながら一人で興奮している。愛子は隣でずっと固まったままだ。
「でもね、克也くんのおうちは、それからすぐにまた引っ越さなければならなくなった。せっかく仲良くなったのに。それでね、私が、思い出を一つ作ってあげようって思って、愛子ちゃんのお母様に頼んで、温室を半日貸してもらったの」
「それで、あの写真なんですねー」
「そう。それで、なんでその写真が絵になったかっていうとね、克也くんがいなくなってから、愛子ちゃん、一週間くらい泣き続けたらしいのよ。困ったお母様は、克也くんとの写真を封印することにした。それでもしばらくは愛子ちゃん、元気なかったんだけど」
「はいっ、そこからのお話は私、覚えてます!」
「えっ? わ、わかちゃん?」
急に大きな声を出して和歌子が手を上げたのに愛子が驚く。和歌子は愛子に向かって微笑みながら話し始める。
「お姉さまが元気ないのを見て、私が元気づけてあげなきゃって思って、手作りのパンをたくさん持っていったんです。それを見た愛子お姉さまは、笑顔を取り戻してくれて……。本当、あの時は嬉しかったなぁ……」
「たぶん、その時に私と和歌子ちゃんが初めて会ったのね。小麦粉をたくさんほっぺにつけながら和歌子ちゃんが嬉しそうに愛子ちゃんにパンを渡してるの、よく覚えてるわ。私もお姉ちゃんにその時に頼まれて、愛子ちゃんのお世話をしながら、シェリーフルールで働くことになるの」
綾女が和歌子に続いて話すと、綾香が最後にこう括る。
「あの絵はね、写真で飾れないなら絵で……って、常連のお客様が写真を見ながら描いてくれたのよ。どう? 愛子ちゃん? 思い出した?」
愛子は目を見開いて潤ませたまま、そして口に手を当てたまま、全く動けなかった。若干肩も震えている。
「お、お姉さま?」
和歌子が心配して、愛子の肩をそっと抱く。
「う……、うん。ありがとう。わかちゃん。もう、びっくりすることばっかりで……」
愛子は一度目を閉じ、口に当てていた手を下腹部に持っていくと、大きく深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「ただ……、どうして、そんな大きな出来事、ずっと思い出せなかったのかな、って不思議で……」
「それはね……、たぶん、克也くんと同じ理由かな」
「えっ?」
「克也くんは、とても恥ずかしい出来事だったから記憶を封印した。愛子は、とても悲しい出来事だったから記憶を封印した。そういうことだよ」
画面から優菜がミントグリーンのスリップ姿で現れ、克也の手を引いてベッドへと向かう。
「ふふっ、愛子っ、わたしたちが、記憶の扉の鍵、開けてあげる」
優菜はベッドに横になると、カメラに向かって軽くウインクをした。
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