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43 新居

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 新居はオートロック式のマンションで、リビングの他に一つ部屋があり、そこを二人の寝室にした。

「わー! やっぱりダブルは広いなぁ!」

 ろくに荷解きもできていなかったが、飽きたのか疲れたのか蒼士はうだうだと寝転がった。理沙はもう帰っていた。

「むしろ僕ら今までようシングルベッドで寝とったよな……」

 僕はベッドのふちに座った。マットレスはしっかりしていて夜も耐えてくれそうだった。蒼士が言った。

「お腹すいたなぁ……食器出してないし、どっか食べに行こかぁ」
「せやな」

 引っ越し祝いだということで居酒屋に入った。外で飲んだことはあまりなかったので最初のビール一杯だけで酒はやめておいた。

「蒼士の入社式までには終わらせとかんとなぁ」
「終わるやろか……」
「ガラクタ持ってきすぎやねん。何なんぬいぐるみだけの箱とかあったし」
「ええやん寝室に置こうなぁ」

 僕は元のコンビニまで電車で通うことになったが、交通費も出るし問題ないだろう。この付近の仕事を新しく探してもよかったのだが、僕はすっかり主戦力となっていて、フリーターになるのは歓迎されてしまったのだ。

「美月、明日のパンあったっけ」
「食いもん何もないで、僕の部屋から持ってきた調味料くらいしかあらへん」
「帰りにコンビニ寄ろかぁ」

 新しい街は前よりも人も店も多くて便利そうだった。スーパーが遠いのが難点だったが。蒼士の会社からは近いのでギリギリまで寝させてやることができるだろう。
 蒼士は三杯ガッツリ飲んで、それでもしっかりとした足取りでコンビニへ行きパンを選んだ。飲み物も多めに買っておいた。

「美月ぃ、お風呂入ろうお風呂」
「楽しみやなぁ」

 僕はバスタブに湯を張った。前のボロアパートとは大違いだ、白くて清潔感があったし何より広い。蒼士と身体を洗いあってざぷりと飛び込んだ。僕は蒼士の胸にもたれかかって叫んだ。

「あー、ゆったり!」
「手足伸ばせるなぁ」
 
 僕は首をひねって蒼士にキスをした。蒼士は湯の中で僕をいじくりはじめてそれで一気に熱くなった。

「もう、蒼士ぃ……」
「ここでしてまう?」
「我慢しぃ。初日やねんし、ちゃんとベッド行きたい」

 とは言ったものの僕も手が止まらなくてのぼせる手前まで楽しんでしまった。しっかりとバスタオルで拭いて新しいシーツの上に二人で転がった。

「美月、好きぃ……」
「僕も……」

 キスをしながら足を絡めて押し付けた。互いの境界線がわからなくなるくらいに交じり合い、幾度も絶頂を迎えた。少し休んではまた動かして、蒼士に言われるがままに色んな体勢を取った。

「ん……やっぱりこれが落ち着く……」
「美月も……?」

 向かい合って座るいつものやり方。顔も見れたし鼓動も感じられた。じんわりと蒼士の熱を感じてじっとしているだけでも多幸感に包まれた。

「蒼士……もう三時や……」
「ヤバっ……これでおしまいにしよかぁ」

 蒼士に注ぎ込ませて一服して新しいルームウェアを着た。僕のは黒くてフードにネコミミがついているパーカーだ。

「俺の可愛い可愛い黒ネコさん」

 フードをかぶせられて撫でられているうちに眠りについた。目が覚めるとスペースはたっぷりあるというのに蒼士が僕に抱きついて離れなかった。

「……苦しいなぁ」

 ちらりとカーテンの隙間を見るとおそらく日は高く昇っているだろうということがわかった。

「蒼士、起きや、蒼士」
「ん……」

 蒼士が身を起こすまで三十分くらいかかった。手を引いて段ボールだらけのリビングまで行き、パンを食べた。

「よっしゃ、はよ片付けるで!」
「まだ眠たいよぉ美月ぃ……」

 食器棚から始めた。いつかプレゼントしたネコのマグカップは割れずに持ってくることができた。蒼士がのろのろしていたので尻を叩いて手を動かさせた。
 インターホンが鳴った。理沙だった。

「どうせ二人とも昨日はお楽しみやったんやろなぁ」

 ケッケッと気味の悪い笑い方をして理沙は箱を開け始めた。彼女が居てくれて助かった。片付けは一気に進んで、寝室を見てみるとカラーボックスの中にみっちみちにぬいぐるみが詰まっていた。その中から蒼士に取ってもらったネコだけを引き抜いてベッドに置いた。
 夕方になり、蒼士が理沙に尋ねた。

「今日は夕飯食べて帰るか?」
「ううん。あんまり二人の邪魔したくないし」
「僕は気にせぇへんけどな」
「まあ、また明日来るから」

 何とか蒼士の入社式までに綺麗になった。家具はシンプルなものばかり選んだのに、蒼士の持ち込んだポスターやらタペストリーやらがリビングに貼られ、落ち着くんだか落ち着かないんだかよくわからない空間になってしまった。
 絶対に遅刻をさせてはならない、と僕は早めに蒼士を叩き起こした。

「どうや、美月」

 蒼士はあのネクタイをつけてくれた。伊達メガネもかけていた。このスタイルでいくらしい。

「うん……スーツ姿、カッコええよ」
「もっと言って」
「僕の彼氏は世界一カッコええ」

 背伸びして軽くキスをして送り出した。取り残された広い部屋で僕は静かにタバコを吸った。
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