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37 手袋

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 クリスマスイブは雪だった。僕は永崎のことを思い出してしまった。一緒に雪を踏み潰したあの男は今頃どうしているのだろう。変わらず美術教師を続けているのか。
 蒼士が側に居てくれるからというのもあるが、永崎のことは既に思い出になっていた。ほんのわずかでも当時の僕にタバコと安らぎをくれた、クソだが悪くない男だった。
 僕の食べる量はどんどん減っていたので、今年は食事は控え目にしてくれて、チキンナゲットをぼそぼそ食べた。

「なぁ……蒼士。しょぼいけど、プレゼントあんねん」
「マジでー?」

 黒いテカテカした手袋を渡した。手首には黒いファーがついていた。こういうのが似合うだろうと思ったのである。

「あかん、めっちゃ嬉しい! 外行く時は絶対これつける」

 蒼士は手袋にすりすりと頬をすりつけて目を細めた。僕も口元が緩んでしまった。

「美月の笑った顔久しぶりに見たわ」

 僕のアゴをさすり、鼻をつんとつついてきた。それからケーキだ。僕はわざわざ蒼士にあーんして食べさせてもらった。

「なぁ美月! 手袋つけたい! 外行こうなぁ!」
「ええ……」

 窓の外を見ると雪はやんでおり、うっすらと白いものが積もっているだけだった。蒼士はヒョウ柄のコートを身につけだしたので僕も渋々支度した。
 手袋は蒼士にぴったりだった。誰もいない夜の住宅街を手を繋いで歩いた。風は強く僕の顔に吹き付けてきて、手の平だけが暖かかった。蒼士が足を止めて言った。

「あれ……こんなところに神社あったんやなぁ」

 ぐちゃぐちゃに歩いてきたのでどこまで来たのかわからなかったが、確かにそこに赤い鳥居があった。

「美月ぃ、行ってみよう」
「うん」

 足を滑らせないよう気を付けながら石畳を歩いた。階段を上ると賽銭箱があり僕たちは手を合わせた。

「けっこう大きいな。初詣もここ行かへん?」
「蒼士、来年は大丈夫なん?」
「大晦日に親戚に挨拶だけして正月は美月んとこ行くわ。親父にも誰か相手がおるとはとっくにバレとうしな」

 喫煙所があったので、僕たちはタバコを吸った。敷地内で喫煙させてくれるなんて寛大な神様であるが、昔からいるんだもの、それくらい気にしないのかもしれない。
 帰り道は地図アプリでしっかり位置を確認しながら戻った。案外僕のボロアパートから近い距離にあって、さっきはずいぶんと遠回りをしていたのだとわかった。

「蒼士、寒い」
「あったまろう。お湯入れよか」

 蒼士に後ろから抱き締められる形でバスタブの中に入った。蒼士のすね毛をこねくり回して遊んだ。長い間入っていたのでぼおっとしてきて、僕はじっとしたまま身体を拭かれた。

「可愛い可愛い俺の黒ネコさん」

 首筋に唇をあててきたのでやめさせた。

「もう……年末までバイトあんねん」
「ごめんごめん」

 呆れるくらいキスを重ね、ベッドにもつれこんだ。蒼士は僕に指を突っ込みながら足先を舐めた。

「叩いて……」
「うん……」

 僕は四つん這いになって平手を受けた。乾いた音が響き渡り、僕はガクガクと身体を震わせた。

「美月の変態……」
「蒼士かてそうやろ……」

 僕は蒼士の目に嗜虐心が宿っていたのを見抜いていた。蒼士に壊されるのなら僕はそれでよかった。
 そして何度も何度も交わった。コンドームの箱は空になってしまったが、我慢できなかったのでそのままさせた。

「美月っ……せめて外に出すっ……」
「ええよ……中で……」
「あっコラ足絡めんな」

 蒼士をがっちり捕まえて注がせた。最後までしっかりと。僕は蒼士のものなのだからそのくらいどうということはない。

「気持ち悪くないん?」
「蒼士やったらええの」
「もう……」

 指でかき出されしっかり拭いてもらった。風邪をひいてもいけないので服を着てタバコを吸った。

「美月はなんぼ抱いても飽きひんわ」
「飽きたら捨てたらええからな」
「そんなことせぇへん。美月こそ、俺のこと飽きてない……?」
「全然。蒼士とするんが一番気持ちいいから」

 蒼士は僕の肩にことりと頭を置いた。

「俺も不安になることはあるんやで……美月が他の男のとこ行ってもたらどうしようって」
「行かへんように足切っとくか?」
「こんなに綺麗な足やのに? 勿体ないわ」
 
 蒼士の腕の中で気絶するように眠り、起きるとまたサンタが来てくれていて、今度はベージュのマフラーだった。一つも持っていなかったので有り難かった。

「こんなに幸せでええんかな……」
「ええねんで、美月。来年も再来年も、その後もずっと一緒におろうなぁ」

 オッサンになっていく自分たちを想像した。蒼士はカッコいいままだろう。年を取ればもっと素敵になるかもしれない。
 蒼士はあの約束を覚えているだろうか。僕の骨を拾ってくれるという約束を。僕はカスだからいつ死んでも構わない。
 名残惜しかったがマフラーを巻いてバイトに行き、大晦日まで過ごした。

「ほな、また来年な、美月」
「うん……今年もほんまにありがとう」

 きつく抱き締めあってから別れた。僕は深夜のコンビニで三回目の年越しをした。
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