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夏休みに入った。冷夏だ何だと言われている割に暑いのは、バイト先で長袖の制服を着ていたからだろう。さすがにあそこで腕を晒すわけにはいかなかった。
子連れがアイスを買いにきてレジ打ちをして、女の子が大きな声でありがとうと言ってきたので返事をしてやった。僕もああやって親と買い物をしてみたかった。
盆よりも少し前に伯父と墓参りをした。立て続けに三人亡くなり、親族といえばもうこの伯父くらい。血の繋がった相手だ、今からでも大切にしようと思い昼食の時に打ち明けた。
「僕……彼氏おるねん」
「彼女やなくて?」
「うん。彼氏」
身体を売っていたことは伏せて蒼士との付き合いについて話した。伯父は神妙な顔でハンバーグを口に運びながら聞いてくれた。
「美月、男が好きやってんな」
「母親があんなんやったやろ……そうなるて」
「でも、将来どないするんや。結婚もできひん、風当たりも強い」
「うん……そうやねん……」
他人の口からハッキリ言われると現実に直面せざるを得ない。僕はもそもそと残りのハンバーグを口に入れた。
「でもまあ……好きなんやろ、その男のこと」
「うん……」
「伯父さんはそういうの疎いけどなぁ……可愛い甥っ子のことやったらわかったりたい。覚悟決まったら連れてきぃ」
「ありがとう」
「……美月、何や変わったなぁ。礼なんて言える子やなかったのに」
伯父と別れて帰宅すると蒼士と理沙がいた。
「美月さん、お邪魔してまーす」
「美月ぃ、トランプしようなぁ」
「トランプ?」
僕はババ抜きと神経衰弱くらいしかルールを知らないのだが、この兄妹は大富豪をしようと言い出した。名前だけは知っていたが何なのかわからなかった。とりあえず大まかなことを説明された。
「三が一番弱いねんな?」
「そうそう。ローカルルールは無しでいこう。それでええな、理沙」
「うん!」
どこで覚えてきたんだという鮮やかなカードさばきで蒼士はトランプを切った。互い違いにバラバラやるやつだ。シュンシュンと配られて手札を見た。絵札が多いということは……有利か。
「スペードの三誰?」
「理沙やで」
「ほな理沙から時計回りな」
理沙、蒼士、僕の順だ。とにかく場に出されたものより大きい数字を出せばいいのか、と慎重に進めた。
「理沙、出せる?」
「無理ぃ」
「ほな美月から」
「んーと……」
自分からになれば弱いカードを出せばいい。僕は十を出した。
「美月さんいきなりそれぇ?」
一回目は僕が圧勝してしまった。ビリは蒼士だ。
「ほな、美月の一番弱いカードと俺の強いカード交換」
「んっ」
二回、三回、とやったが、巡り合わせがよく、僕は立て続けに勝った。
「美月、運ええな……」
「ビギナーズラック?」
夜も更けてきたので理沙は帰った。二人になった部屋の中で、タバコを吸いながらそっと言ってみた。
「なぁ、蒼士……変なお願いしていい?」
「どしたん?」
「お尻叩いて……」
蒼士はぱちぱちと瞬きをした。
「何や、そんな趣味あったんか」
「まあ……うん……嫌やったらええけど」
「やったるって。美月のお願いなら何でも聞きたいんや」
僕は下を脱いで、ベッドに座った蒼士の太ももの上に乗った。
「思いっきりやるで」
「ええよ……」
蒼士の大きな手が振り下ろされ、スパンと気持ちのいい音が鳴った。
「あっ……」
本当に蒼士は容赦しなかった。これだと真っ赤になっただろうな、と嬉しくなりながら、痛みに耐えた。
「やるんもけっこう疲れるなぁ……」
「ありがとう、蒼士……」
最後にすりすりとさすられて、僕はうっとりとしてしまった。ジンジンと残る痛みが愛おしい。
「今度は蒼士のお願い聞いてあげる……」
「ほな座ってしよう」
蒼士にほぐされ、ゆっくりと腰を落とした。きゅっと抱きついて蒼士の肩にアゴを乗せた。
「蒼士、好き……」
「うん。俺も大好き」
蒼士が動かしてきたので僕は任せた。何だかんだで僕もこうしているのが一番好きだ。蒼士にしがみついて息を漏らした。
「蒼士っ、いっちゃう」
「可愛いなぁ……」
ここまで深い快感を得られるのは詰まるところ気持ちの問題だったのだろう、行為の最中は僕は全身全霊で蒼士に甘えたし甘やかしてくれた。自分からも動かし、演技でなく自然に喘いだ。
「あぁ……美月はほんまに可愛い……」
蒼士の美しい瞳を僕は覗き込み、あふれ出る熱を伝えた。この世にたった二人きりになれるのならそれで良かったし、繋がっている間はそうなのではないかとさえ思えてきた。
「美月、いくっ……」
抜かずにキスをした。伯父の言っていたことを思い出してしまった。僕たちは不安定な関係だ。誰にも誓えないし記録にも残せない、そんな関係。蒼士の気が変わればはい、そこまでなのだ。
「蒼士……僕のこと、捨てんといて……捨てんといて……」
「泣かんでも。絶対捨てへんから」
蒼士は僕の涙を指ですくって舐めた。
子連れがアイスを買いにきてレジ打ちをして、女の子が大きな声でありがとうと言ってきたので返事をしてやった。僕もああやって親と買い物をしてみたかった。
盆よりも少し前に伯父と墓参りをした。立て続けに三人亡くなり、親族といえばもうこの伯父くらい。血の繋がった相手だ、今からでも大切にしようと思い昼食の時に打ち明けた。
「僕……彼氏おるねん」
「彼女やなくて?」
「うん。彼氏」
身体を売っていたことは伏せて蒼士との付き合いについて話した。伯父は神妙な顔でハンバーグを口に運びながら聞いてくれた。
「美月、男が好きやってんな」
「母親があんなんやったやろ……そうなるて」
「でも、将来どないするんや。結婚もできひん、風当たりも強い」
「うん……そうやねん……」
他人の口からハッキリ言われると現実に直面せざるを得ない。僕はもそもそと残りのハンバーグを口に入れた。
「でもまあ……好きなんやろ、その男のこと」
「うん……」
「伯父さんはそういうの疎いけどなぁ……可愛い甥っ子のことやったらわかったりたい。覚悟決まったら連れてきぃ」
「ありがとう」
「……美月、何や変わったなぁ。礼なんて言える子やなかったのに」
伯父と別れて帰宅すると蒼士と理沙がいた。
「美月さん、お邪魔してまーす」
「美月ぃ、トランプしようなぁ」
「トランプ?」
僕はババ抜きと神経衰弱くらいしかルールを知らないのだが、この兄妹は大富豪をしようと言い出した。名前だけは知っていたが何なのかわからなかった。とりあえず大まかなことを説明された。
「三が一番弱いねんな?」
「そうそう。ローカルルールは無しでいこう。それでええな、理沙」
「うん!」
どこで覚えてきたんだという鮮やかなカードさばきで蒼士はトランプを切った。互い違いにバラバラやるやつだ。シュンシュンと配られて手札を見た。絵札が多いということは……有利か。
「スペードの三誰?」
「理沙やで」
「ほな理沙から時計回りな」
理沙、蒼士、僕の順だ。とにかく場に出されたものより大きい数字を出せばいいのか、と慎重に進めた。
「理沙、出せる?」
「無理ぃ」
「ほな美月から」
「んーと……」
自分からになれば弱いカードを出せばいい。僕は十を出した。
「美月さんいきなりそれぇ?」
一回目は僕が圧勝してしまった。ビリは蒼士だ。
「ほな、美月の一番弱いカードと俺の強いカード交換」
「んっ」
二回、三回、とやったが、巡り合わせがよく、僕は立て続けに勝った。
「美月、運ええな……」
「ビギナーズラック?」
夜も更けてきたので理沙は帰った。二人になった部屋の中で、タバコを吸いながらそっと言ってみた。
「なぁ、蒼士……変なお願いしていい?」
「どしたん?」
「お尻叩いて……」
蒼士はぱちぱちと瞬きをした。
「何や、そんな趣味あったんか」
「まあ……うん……嫌やったらええけど」
「やったるって。美月のお願いなら何でも聞きたいんや」
僕は下を脱いで、ベッドに座った蒼士の太ももの上に乗った。
「思いっきりやるで」
「ええよ……」
蒼士の大きな手が振り下ろされ、スパンと気持ちのいい音が鳴った。
「あっ……」
本当に蒼士は容赦しなかった。これだと真っ赤になっただろうな、と嬉しくなりながら、痛みに耐えた。
「やるんもけっこう疲れるなぁ……」
「ありがとう、蒼士……」
最後にすりすりとさすられて、僕はうっとりとしてしまった。ジンジンと残る痛みが愛おしい。
「今度は蒼士のお願い聞いてあげる……」
「ほな座ってしよう」
蒼士にほぐされ、ゆっくりと腰を落とした。きゅっと抱きついて蒼士の肩にアゴを乗せた。
「蒼士、好き……」
「うん。俺も大好き」
蒼士が動かしてきたので僕は任せた。何だかんだで僕もこうしているのが一番好きだ。蒼士にしがみついて息を漏らした。
「蒼士っ、いっちゃう」
「可愛いなぁ……」
ここまで深い快感を得られるのは詰まるところ気持ちの問題だったのだろう、行為の最中は僕は全身全霊で蒼士に甘えたし甘やかしてくれた。自分からも動かし、演技でなく自然に喘いだ。
「あぁ……美月はほんまに可愛い……」
蒼士の美しい瞳を僕は覗き込み、あふれ出る熱を伝えた。この世にたった二人きりになれるのならそれで良かったし、繋がっている間はそうなのではないかとさえ思えてきた。
「美月、いくっ……」
抜かずにキスをした。伯父の言っていたことを思い出してしまった。僕たちは不安定な関係だ。誰にも誓えないし記録にも残せない、そんな関係。蒼士の気が変わればはい、そこまでなのだ。
「蒼士……僕のこと、捨てんといて……捨てんといて……」
「泣かんでも。絶対捨てへんから」
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