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09 仲介
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コンビニバイトは面接したその日に採用が決まって土日に入ることにした。一回生の内は必修科目が多いので平日はやめておいた。客が増えればそちらにも時間を使うことになるだろうし。
サークルの類いには入らなかった。スポーツなんかやったことがないし文科系の趣味もない、それに何よりも金がない。
僕は自然と蒼士と行動を共にするようになったのだが、彼が人たらしなのはすぐにわかった。誰の懐にも入り込むし僕も巻き込まれて知り合いが増えていった。
そのおかげで新規の客をどんどん見つけることができた。一回目は蒼士が連れてきてくれて見届けるというのが恒例となり、彼はタバコをぷかぷか吸いながら僕が貫かれるのを眺めていた。それで終わったら一緒に帰っていくのだ。
その中に直人という男がいた。スッキリとしたベリーショートに服の上からでもわかる体格のいい奴で、聞けばキックボクシングをしているのだという。
「へえ、男は初めてやけどええなぁ」
直人は女には苦労しておらず、彼女だかセフレだかが何人かいるらしいが、タバコ一箱で後腐れのない性欲処理ができるのはお得だと感じてくれたのだろう、常連になった。
「蒼士も美月に突っ込んだんか?」
「ああ、一回な」
「こういうのも穴兄弟の扱いでええわけ?」
「まあそうやろな。大家族やけど」
そんなやりとりを彼らはしていた。そういえば蒼士はあの初回以来自分はタバコを渡してこなくて、仲介役ばかりこなしていた。別にやりたくなければそれでいいのだが。
蒼士は特に用事もなさそうなのに僕の部屋に来て美味しくもないコーヒーを飲みタバコだけ吸ってメシに連れていってくれることもあった。バイトもしていなさそうだし暇な奴なんだなと思った。
じめじめした熱気が髪にへばりつくようになった六月、蒼士がタバコを渡してきた。クーラーはついていたがなるべくギリギリまで電気代を節約したかったのでつけず、二人とも汗だくになった。
「ふぅん……蒼士けっこうピアスあいてるんや」
髪に隠れていて今まで見えなかったのだが蒼士の耳は金属まみれだった。
「美月はせぇへんの?」
「痛いのこわい」
「俺から言わせるとケツに突っ込む方が痛そうやけど」
「まあ、痛くなかったらやってみたいんやけどな」
「すぐ済むで。あける?」
その勢いでピアッサーを買いに行くことになった。ファーストピアスにこだわりなんてなかったので蒼士に適当に選んでもらい金も払ってもらった。帰宅して彼にあけてもらった。
「ほんまにすぐ済むやろうな?」
「うん。ほんま一瞬」
ガチャン、ガチャンと両耳にピアスがあいた。確かに痛くなかった。こわごわ触ってみると確かに貫通していて、この後どうすればいいのか、着替えの時に服にひっかかりやしないか、そう考えて今さらこわくなってしまった。
「風呂の時に軽くシャワーかけや。一ヶ月以上はかかるかな。また俺が見たるわ」
それからファミレスで奢ってもらってはい解散と思いきや、泊まりたいと言ってきた。
「ええけど……宿泊代でもう一箱」
「そんなオプションあったんや」
「今つけた」
交代で風呂に入り僕のTシャツを貸してやった。よっこいしょと遠慮なくベッドに乗ってきた蒼士は、頼んでもいないのに自分のことをペラペラ話し出した。
「俺、妹おんねん。中学生。兄目線やけどめっちゃ可愛くてさぁ。美月はきょうだいおる?」
「僕一人っ子」
「美月に外にきょうだいおったらどんな顔やったんか見てみたかったわ。それで妹やねんけどさ……」
あまりにも蒼士が妹の話を続けるので僕も名前を覚えてしまった。理沙というらしい。これだけシスコン兄貴がいれば彼女の結婚相手も大変だろうなと思った。
僕にきょうだいが居なくてよかった。自分のことだけ考えていれば済んだから。特に年下の弟や妹なんかがいればそいつらのことを考えて実家に残るという選択をしていたかもしれなかった。
理沙の自慢話を聞いているうちに僕も飽きてしまってうつらうつら眠ってしまったのだが、朝起きると僕は抱き枕のように蒼士に抱きつかれていた。
「……鬱陶しいなぁ」
長い手足をほどいてベッドから抜け出して朝の一服をした。その日は土曜日で昼からバイトがあったので、吸い殻を放り込んで蒼士を起こした。
「朝やで」
「うーん……」
蒼士はバカみたいに寝起きが悪かった。昨晩の喋りはどこへやら、むっすりと押し黙ってのろのろ起き上がってぼんやりタバコを吸った。
よくよく見てみると蒼士は切れ長の涼しい目元をしていて、横顔も美しかった。客の顔なんてほとんど見ずにしていたし、大体蒼士はいつもサングラスだったから、彼との付き合いも二ヶ月目になってようやく知ったのである。
いや、蒼士はただの客なのか、どうなのか。友達と言うには何だか微妙な距離感だし、彼との関係性を表す言葉がなくて考え込んでしまった。出た結論が結局のところ仲介屋だということで、タバコと客が切れない限りこの仲は続くのだろうと思った。
蒼士を追い出してコンビニに出勤した。愛想だけはいいから多少のろついても周りがカバーしてくれていて、退勤の時に狙っていた値引きされた弁当を買って帰るというのが常になっていた。
サークルの類いには入らなかった。スポーツなんかやったことがないし文科系の趣味もない、それに何よりも金がない。
僕は自然と蒼士と行動を共にするようになったのだが、彼が人たらしなのはすぐにわかった。誰の懐にも入り込むし僕も巻き込まれて知り合いが増えていった。
そのおかげで新規の客をどんどん見つけることができた。一回目は蒼士が連れてきてくれて見届けるというのが恒例となり、彼はタバコをぷかぷか吸いながら僕が貫かれるのを眺めていた。それで終わったら一緒に帰っていくのだ。
その中に直人という男がいた。スッキリとしたベリーショートに服の上からでもわかる体格のいい奴で、聞けばキックボクシングをしているのだという。
「へえ、男は初めてやけどええなぁ」
直人は女には苦労しておらず、彼女だかセフレだかが何人かいるらしいが、タバコ一箱で後腐れのない性欲処理ができるのはお得だと感じてくれたのだろう、常連になった。
「蒼士も美月に突っ込んだんか?」
「ああ、一回な」
「こういうのも穴兄弟の扱いでええわけ?」
「まあそうやろな。大家族やけど」
そんなやりとりを彼らはしていた。そういえば蒼士はあの初回以来自分はタバコを渡してこなくて、仲介役ばかりこなしていた。別にやりたくなければそれでいいのだが。
蒼士は特に用事もなさそうなのに僕の部屋に来て美味しくもないコーヒーを飲みタバコだけ吸ってメシに連れていってくれることもあった。バイトもしていなさそうだし暇な奴なんだなと思った。
じめじめした熱気が髪にへばりつくようになった六月、蒼士がタバコを渡してきた。クーラーはついていたがなるべくギリギリまで電気代を節約したかったのでつけず、二人とも汗だくになった。
「ふぅん……蒼士けっこうピアスあいてるんや」
髪に隠れていて今まで見えなかったのだが蒼士の耳は金属まみれだった。
「美月はせぇへんの?」
「痛いのこわい」
「俺から言わせるとケツに突っ込む方が痛そうやけど」
「まあ、痛くなかったらやってみたいんやけどな」
「すぐ済むで。あける?」
その勢いでピアッサーを買いに行くことになった。ファーストピアスにこだわりなんてなかったので蒼士に適当に選んでもらい金も払ってもらった。帰宅して彼にあけてもらった。
「ほんまにすぐ済むやろうな?」
「うん。ほんま一瞬」
ガチャン、ガチャンと両耳にピアスがあいた。確かに痛くなかった。こわごわ触ってみると確かに貫通していて、この後どうすればいいのか、着替えの時に服にひっかかりやしないか、そう考えて今さらこわくなってしまった。
「風呂の時に軽くシャワーかけや。一ヶ月以上はかかるかな。また俺が見たるわ」
それからファミレスで奢ってもらってはい解散と思いきや、泊まりたいと言ってきた。
「ええけど……宿泊代でもう一箱」
「そんなオプションあったんや」
「今つけた」
交代で風呂に入り僕のTシャツを貸してやった。よっこいしょと遠慮なくベッドに乗ってきた蒼士は、頼んでもいないのに自分のことをペラペラ話し出した。
「俺、妹おんねん。中学生。兄目線やけどめっちゃ可愛くてさぁ。美月はきょうだいおる?」
「僕一人っ子」
「美月に外にきょうだいおったらどんな顔やったんか見てみたかったわ。それで妹やねんけどさ……」
あまりにも蒼士が妹の話を続けるので僕も名前を覚えてしまった。理沙というらしい。これだけシスコン兄貴がいれば彼女の結婚相手も大変だろうなと思った。
僕にきょうだいが居なくてよかった。自分のことだけ考えていれば済んだから。特に年下の弟や妹なんかがいればそいつらのことを考えて実家に残るという選択をしていたかもしれなかった。
理沙の自慢話を聞いているうちに僕も飽きてしまってうつらうつら眠ってしまったのだが、朝起きると僕は抱き枕のように蒼士に抱きつかれていた。
「……鬱陶しいなぁ」
長い手足をほどいてベッドから抜け出して朝の一服をした。その日は土曜日で昼からバイトがあったので、吸い殻を放り込んで蒼士を起こした。
「朝やで」
「うーん……」
蒼士はバカみたいに寝起きが悪かった。昨晩の喋りはどこへやら、むっすりと押し黙ってのろのろ起き上がってぼんやりタバコを吸った。
よくよく見てみると蒼士は切れ長の涼しい目元をしていて、横顔も美しかった。客の顔なんてほとんど見ずにしていたし、大体蒼士はいつもサングラスだったから、彼との付き合いも二ヶ月目になってようやく知ったのである。
いや、蒼士はただの客なのか、どうなのか。友達と言うには何だか微妙な距離感だし、彼との関係性を表す言葉がなくて考え込んでしまった。出た結論が結局のところ仲介屋だということで、タバコと客が切れない限りこの仲は続くのだろうと思った。
蒼士を追い出してコンビニに出勤した。愛想だけはいいから多少のろついても周りがカバーしてくれていて、退勤の時に狙っていた値引きされた弁当を買って帰るというのが常になっていた。
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