8 / 51
08 蒼士
しおりを挟む
僕が選んだのは文学部だった。理系科目がてんでダメで志望の大学に行こうとすると文系科目で勝負するしかなかったのだ。それにテストよりレポートの方が気楽だと思った。
スーツを買う金が無かったので入学式には出ずに履修登録やらの説明だけを聞いた。そして最初の語学の授業で奴と出会ったのだ。
黒地に妙な柄の入ったシャツに真っ青なトレンチコート、サングラス。髪は黒で襟足が長かった。それが長谷川蒼士という男だった。
「美月? 顔だけやなくて名前も女っぽいな」
いきなり下の名前で呼ばれて馴れ馴れしい奴だと思った。話しているうちに取った授業がほとんどかぶっていたことがわかり、なし崩し的に学食で昼食を共にした。
「へえ、一人暮らし?」
「うん。蒼士は?」
「実家。割と近いねん」
室内だというのにサングラスは外さないし服装もメチャクチャだったが、蒼士の食事の仕方は品がよく、それなりの育ちをしてきたのだということがわかった。
午後の予定はなかったのでとっとと別れて喫煙所に行こうとしたのだが蒼士もついてきた。
「美月、タバコ一本ちょうだい」
「一本だけやで」
蒼士は初めてだったらしく渋い顔をしていた。並んで立つと蒼士はかなり背が高いのがわかり、百八十センチくらいはありそうだった。僕はというと百六十五センチほどで止まっていた。もう伸びることはないだろう。
「美月の家行っていい?」
「……はぁ?」
出会ってから数時間くらいしか経っていなかった。僕はバイト探しもしたいし友人作りなど前向きには考えていなかったのだが、蒼士がしつこかったので仕方なく家にあげた。
「うわー、ボロいなぁ」
「もう少し口の聞き方何とかならんか?」
隣は留学生なのだろう、何語かわからないけたたましい話し声がしていてとても安らげる状況ではなかった。それでも母の女の声が聞こえてくるよりマシだった。
蒼士は勝手に僕のベッドに腰かけた。まあ、座る場所といえばそこしかないのだが。僕は隣に行くのも気が引けて突っ立ったままタバコに火をつけた。
「美月めっちゃ吸うなぁ」
「これないとやってられへん」
飲み物くらい出しておくか、と僕はインスタントコーヒーを作ってやった。念のため二つ買っておいたマグカップが早速役に立った。
「美月可愛いけど相当モテてたやろ」
「まあ……姫扱いやったな。蒼士は?」
「女とはそれなりに遊んどったよ。長続きせぇへんけど」
まだわけのわからない男だが、タバコを調達するためには新しい客を開拓する必要があった。僕は蒼士に直球で持ちかけた。
「蒼士って男としたことある?」
「いや、ないけど」
「タバコ買ってくれるんやったらやらしたるけど」
蒼士はプッと吹き出した。
「おいおい、冗談キツいなぁ」
「やる気ないんやったらええで。高校の時はこれで売ってた。セブンスターのボックス、キスなし、ゴム持参」
蒼士は足を組んで僕を見上げた。サングラスのせいでろくに表情がわからなかった。
「まあ興味はなくはない。美月女みたいやし突っ込むだけやったらできるかも」
「……する?」
「コンビニ行ってくるわ」
蒼士が出ていった間に準備をして、セブンスターを受け取った僕は、脱がせてくわえた。
「うわっ……巧っ。相当やりこんどるやん」
蒼士は僕の頭を撫でて息を漏らした。
「キスは……なし?」
「うん、なし」
それだけは譲れなかった。もういいだろうと止め、蒼士に尋ねた。
「どうやって挿れたい?」
「顔見てしたいなぁ。仰向けになってや」
サングラス越しのくせに顔なんて見れるのかよ、とは思いながら寝転がって下を脱いだ。蒼士は僕の足を広げて指を挿れてきた。
「へえ……ほんまに入るんや」
「ゴムしぃや」
蒼士は遠慮なく入ってきた。あっちが勝手に動いてくれるなら僕は楽だ。今までの奴らと同じように僕は自由にさせた。
「あはっ、気持ちええやん」
「男もええやろ?」
蒼士は長かった。何度も突かれて僕も途中から飽きてしまったのだが、とにかく吐き出させるまで待った。
「ふぅ、ふぅ……」
「お疲れさん」
僕はコンドームの口をしばってゴミ箱に放り込んだ。それからさっさと服を着た。
「なんや美月、ムードないなぁ」
「こんなところでムードもへったくれもあるか。それよりさぁ、僕とやりたい奴おったら連れてきてや。条件わかっとうやろ?」
「ええで。俺も世話になるわ」
それから近所のラーメン屋に行って奢ってもらった。連絡先を交換していなかったので帰り際にした。
蒼士とは長い付き合いになりそうだな、と何となく思った。彼が触れ回ってくれれば僕も客を探す手間が省けていい。
帰ってベッドに寝転びバイトの求人サイトを開いた。近くて融通のきくところがよかったのでコンビニに決めた。写真を撮って履歴書を作ってそれでくたびれたので眠った。大学生活も何とかなりそうだ。
スーツを買う金が無かったので入学式には出ずに履修登録やらの説明だけを聞いた。そして最初の語学の授業で奴と出会ったのだ。
黒地に妙な柄の入ったシャツに真っ青なトレンチコート、サングラス。髪は黒で襟足が長かった。それが長谷川蒼士という男だった。
「美月? 顔だけやなくて名前も女っぽいな」
いきなり下の名前で呼ばれて馴れ馴れしい奴だと思った。話しているうちに取った授業がほとんどかぶっていたことがわかり、なし崩し的に学食で昼食を共にした。
「へえ、一人暮らし?」
「うん。蒼士は?」
「実家。割と近いねん」
室内だというのにサングラスは外さないし服装もメチャクチャだったが、蒼士の食事の仕方は品がよく、それなりの育ちをしてきたのだということがわかった。
午後の予定はなかったのでとっとと別れて喫煙所に行こうとしたのだが蒼士もついてきた。
「美月、タバコ一本ちょうだい」
「一本だけやで」
蒼士は初めてだったらしく渋い顔をしていた。並んで立つと蒼士はかなり背が高いのがわかり、百八十センチくらいはありそうだった。僕はというと百六十五センチほどで止まっていた。もう伸びることはないだろう。
「美月の家行っていい?」
「……はぁ?」
出会ってから数時間くらいしか経っていなかった。僕はバイト探しもしたいし友人作りなど前向きには考えていなかったのだが、蒼士がしつこかったので仕方なく家にあげた。
「うわー、ボロいなぁ」
「もう少し口の聞き方何とかならんか?」
隣は留学生なのだろう、何語かわからないけたたましい話し声がしていてとても安らげる状況ではなかった。それでも母の女の声が聞こえてくるよりマシだった。
蒼士は勝手に僕のベッドに腰かけた。まあ、座る場所といえばそこしかないのだが。僕は隣に行くのも気が引けて突っ立ったままタバコに火をつけた。
「美月めっちゃ吸うなぁ」
「これないとやってられへん」
飲み物くらい出しておくか、と僕はインスタントコーヒーを作ってやった。念のため二つ買っておいたマグカップが早速役に立った。
「美月可愛いけど相当モテてたやろ」
「まあ……姫扱いやったな。蒼士は?」
「女とはそれなりに遊んどったよ。長続きせぇへんけど」
まだわけのわからない男だが、タバコを調達するためには新しい客を開拓する必要があった。僕は蒼士に直球で持ちかけた。
「蒼士って男としたことある?」
「いや、ないけど」
「タバコ買ってくれるんやったらやらしたるけど」
蒼士はプッと吹き出した。
「おいおい、冗談キツいなぁ」
「やる気ないんやったらええで。高校の時はこれで売ってた。セブンスターのボックス、キスなし、ゴム持参」
蒼士は足を組んで僕を見上げた。サングラスのせいでろくに表情がわからなかった。
「まあ興味はなくはない。美月女みたいやし突っ込むだけやったらできるかも」
「……する?」
「コンビニ行ってくるわ」
蒼士が出ていった間に準備をして、セブンスターを受け取った僕は、脱がせてくわえた。
「うわっ……巧っ。相当やりこんどるやん」
蒼士は僕の頭を撫でて息を漏らした。
「キスは……なし?」
「うん、なし」
それだけは譲れなかった。もういいだろうと止め、蒼士に尋ねた。
「どうやって挿れたい?」
「顔見てしたいなぁ。仰向けになってや」
サングラス越しのくせに顔なんて見れるのかよ、とは思いながら寝転がって下を脱いだ。蒼士は僕の足を広げて指を挿れてきた。
「へえ……ほんまに入るんや」
「ゴムしぃや」
蒼士は遠慮なく入ってきた。あっちが勝手に動いてくれるなら僕は楽だ。今までの奴らと同じように僕は自由にさせた。
「あはっ、気持ちええやん」
「男もええやろ?」
蒼士は長かった。何度も突かれて僕も途中から飽きてしまったのだが、とにかく吐き出させるまで待った。
「ふぅ、ふぅ……」
「お疲れさん」
僕はコンドームの口をしばってゴミ箱に放り込んだ。それからさっさと服を着た。
「なんや美月、ムードないなぁ」
「こんなところでムードもへったくれもあるか。それよりさぁ、僕とやりたい奴おったら連れてきてや。条件わかっとうやろ?」
「ええで。俺も世話になるわ」
それから近所のラーメン屋に行って奢ってもらった。連絡先を交換していなかったので帰り際にした。
蒼士とは長い付き合いになりそうだな、と何となく思った。彼が触れ回ってくれれば僕も客を探す手間が省けていい。
帰ってベッドに寝転びバイトの求人サイトを開いた。近くて融通のきくところがよかったのでコンビニに決めた。写真を撮って履歴書を作ってそれでくたびれたので眠った。大学生活も何とかなりそうだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
最高の御伽噺を手に入れるには
かかし
BL
※ちょっとだけ暴力的な描写が入ります
※もはやなんとタグ付けしていいのか分かりません
主人公の性格が人によっては不快に感じるかと思います。
苦手だと感じたら閲覧を辞めて、そっと記憶から削除してください。
昼思い付いてたった今書き上げました。
いつも以上のご都合主義
僕の考える最強の平凡ビッチ
2022/6/15 【ゆうちゃん】視点追加しました
誘いはマティーニのあとで
惣山沙樹
BL
大学二年生の中野葵は、ショットバーに憧れていた。そこで出会った一人の男性に、マティーニをすすめられる。そこから始まる恋愛と友情と就活を描いたドラマ。
51話完結。
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
【本編完結】一夜限りの相手に気に入られています!?
海里
BL
浜本流羽は、突然恋人に別れを告げられる。というよりも、浮気現場をバッチリ見てしまったのだ。
彼は流羽よりも可愛い恋人を作り、流羽に別れを告げるとそのままどこかに行ってしまった。
残された流羽は、失恋の傷を癒すために一夜限りの相手を探すことにした。
その日――桜田陸矢に出逢った。少し話をして、彼と共にホテルに向かい、一夜限りの相手をしてもらう。今までの相手とはまったく違う触れ方に流羽は戸惑ったが、『大切にされている』ような錯覚に酔いしれた。
一夜限りということで、もう二度と会うことはないと思っていた。しかし、不幸は重なるもので住んでいたところに行くと火事で起こり全焼していた。住む場所を失った流羽はショックを隠せずに職場に向かおうとするが、店長から電話が来て自身がクビになったことを告げられる。
家と職を失った流羽は公園でぼんやりとしているところを、陸矢に見つかり、話を聞いてもらう。
そして――なぜか、彼の家で『家政夫』として雇われることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる