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49 卒業
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遂に迎えた卒業式の日。僕はスーツを着て体育館に向かった。式典は退屈だった。校歌も実はちゃんと知らない。僕は口パクで誤魔化した。ゼミに入っている生徒は、謝恩会などがあるようだが、特に入っていなかった僕は、とりあえず椿と合流した。
「アオちゃん、どう? 綺麗でしょ?」
袴姿の椿はくるりと一周回って見せた。メイクもいつもより濃いめだ。
「うん、すっごく綺麗」
「スーツ姿のアオちゃんもカッコいいよ」
「ありがとう」
「三人で写真撮ってもらおうよ! 雅司どこかな?」
雅司に電話をしてみたが、繋がらなかった。他の友達と一緒に居るのだろう。僕と椿は、ひとまず喫煙所に行った。和装で喫煙しているのは彼女くらいなものだ。とても目立っていた。僕のスマホが振動した。
「あっ、雅司、今どこ? 僕と椿は喫煙所」
「ほなそっち向かうわ!」
現れた雅司は、椿を見て言った。
「やっぱりタバコ吸う女はカッコええな」
「でしょう?」
スーツ姿の雅司はいつもと違って真面目に見えたが、それは言わないでおいた。それから、僕たちはこれからの予定を話し合った。二人とも、僕の料理を食べたいと言ってくれた。
「あたし、一回着替えなきゃいけないから、夜でいい?」
「せやな。おれはアオちゃんと暇つぶしとくわ」
校門のところで、僕たちは写真を撮ってもらった。
それから僕と雅司はカツ丼屋へ行った。最後にここで食べようと思っていた卒業生は多かったのか、長蛇の列ができていた。それにひるむことなく並び、カラリと揚げられたカツを堪能した。
雅司も一旦着替えたいと言ったので、僕は一人で部屋に戻ることにした。七瀬が待っていた。
「卒業おめでとう」
「ありがとう。もう少ししたら雅司も来るよ。夜に椿が来るし、四人で晩御飯食べようか」
「そうだな。何がいいかなぁ……」
僕は着替えた。しばらくすると雅司が来て、三人でスーパーに行った。雅司は唐揚げを要求した。
「また揚げ物の次に揚げ物?」
「ええやん。アオちゃんの唐揚げ美味しかってんもん」
僕としては、もう少し手の込んだ料理の方が腕のふるい甲斐があったのだが。希望とあらば仕方がない。僕は今回、ジャガイモも買った。スライサーで薄く切って揚げればポテトチップスになると思ったのだ。
夕方に私服の椿が来た。僕は新聞紙を敷いてフライヤーの温度を上げた。まずはジャガイモからだ。くっつかないよう、慎重に。一枚一枚、丁寧に投入していった。
「はい、まずはポテチ」
三人はみるみるうちにポテトチップスを平らげた。僕、味見で一枚食べただけなのに。ビールも進んだ。僕は鶏もも肉を揚げながら、彼らの会話を聞いていた。椿が言った。
「もう、こうして四人で会うことも無いのかなぁって思うと、寂しいですね」
「おれも地元帰りますしね」
「葵もどこに配属になるかわからないからなぁ。これが本当に最後かも」
この部屋で過ごした四年間を振り返った。長かったような、短かったような。僕は入学当初、一人で大学生活を送る気でいた。それが今では、友達も恋人も居る。僕はそれについて、特に努力したわけではない。流れでの結果だ。それが運命というのなら、そうかもしれない。雅司が言った。
「七瀬さん。おれ、たまにこっち来ますわ。その時は、四人で集まりましょう」
「うん、いいよ」
雅司と椿が帰ってしまってから、僕と七瀬はベッドに腰かけた。七瀬は僕の手を握り、頭を僕の肩に乗せてきた。
「もうじき、研修か。俺、色々と心配。女にいかないかなって」
「そんなこと心配してたの? 僕には七瀬しかいないよ。死ぬまでずっと七瀬のものだから」
「でも、不安になっちゃうんだよなぁ……」
僕は七瀬に口づけした。舌を伸ばし、追い詰めた。そのまま服をめくり、まさぐり合い、声をあげながら互いの感触を確かめた。彼の細い腰も、骨ばった腕も、全てが愛おしかった。終わってタバコを吸いながら、僕は言った。
「毎日電話してもいい?」
「いいぞ。まあ、勉強も大変だから、響かない程度にな」
「浮気したら殺すからね?」
「わかってるって」
僕は確信していた。もう七瀬はあんなことをしないだろう。だから、こんな脅しも本心からではなかった。
そして僕は、和光での基礎研修に向けて荷造りを始めた。部屋に置かれた段ボール箱を見て七瀬が笑った。
「おいおい葵、五箱も要るか?」
「鍋とかまな板とか入れてたら、多くなっちゃって……」
「あっちでも料理する気満々だな」
「キッチンあるんでしょう?」
「でも、狭いし階で共用だぞ。冷蔵庫も小さいしな」
七瀬と離れることは寂しかったが、新しい生活が始まることには期待していた。今度は自分から積極的に話しかけて、仲間を作ろう。雅司と椿のように、信頼できる同期を得よう。そうして迎えた四月。僕の国税職員としての第一歩が始まった。
「アオちゃん、どう? 綺麗でしょ?」
袴姿の椿はくるりと一周回って見せた。メイクもいつもより濃いめだ。
「うん、すっごく綺麗」
「スーツ姿のアオちゃんもカッコいいよ」
「ありがとう」
「三人で写真撮ってもらおうよ! 雅司どこかな?」
雅司に電話をしてみたが、繋がらなかった。他の友達と一緒に居るのだろう。僕と椿は、ひとまず喫煙所に行った。和装で喫煙しているのは彼女くらいなものだ。とても目立っていた。僕のスマホが振動した。
「あっ、雅司、今どこ? 僕と椿は喫煙所」
「ほなそっち向かうわ!」
現れた雅司は、椿を見て言った。
「やっぱりタバコ吸う女はカッコええな」
「でしょう?」
スーツ姿の雅司はいつもと違って真面目に見えたが、それは言わないでおいた。それから、僕たちはこれからの予定を話し合った。二人とも、僕の料理を食べたいと言ってくれた。
「あたし、一回着替えなきゃいけないから、夜でいい?」
「せやな。おれはアオちゃんと暇つぶしとくわ」
校門のところで、僕たちは写真を撮ってもらった。
それから僕と雅司はカツ丼屋へ行った。最後にここで食べようと思っていた卒業生は多かったのか、長蛇の列ができていた。それにひるむことなく並び、カラリと揚げられたカツを堪能した。
雅司も一旦着替えたいと言ったので、僕は一人で部屋に戻ることにした。七瀬が待っていた。
「卒業おめでとう」
「ありがとう。もう少ししたら雅司も来るよ。夜に椿が来るし、四人で晩御飯食べようか」
「そうだな。何がいいかなぁ……」
僕は着替えた。しばらくすると雅司が来て、三人でスーパーに行った。雅司は唐揚げを要求した。
「また揚げ物の次に揚げ物?」
「ええやん。アオちゃんの唐揚げ美味しかってんもん」
僕としては、もう少し手の込んだ料理の方が腕のふるい甲斐があったのだが。希望とあらば仕方がない。僕は今回、ジャガイモも買った。スライサーで薄く切って揚げればポテトチップスになると思ったのだ。
夕方に私服の椿が来た。僕は新聞紙を敷いてフライヤーの温度を上げた。まずはジャガイモからだ。くっつかないよう、慎重に。一枚一枚、丁寧に投入していった。
「はい、まずはポテチ」
三人はみるみるうちにポテトチップスを平らげた。僕、味見で一枚食べただけなのに。ビールも進んだ。僕は鶏もも肉を揚げながら、彼らの会話を聞いていた。椿が言った。
「もう、こうして四人で会うことも無いのかなぁって思うと、寂しいですね」
「おれも地元帰りますしね」
「葵もどこに配属になるかわからないからなぁ。これが本当に最後かも」
この部屋で過ごした四年間を振り返った。長かったような、短かったような。僕は入学当初、一人で大学生活を送る気でいた。それが今では、友達も恋人も居る。僕はそれについて、特に努力したわけではない。流れでの結果だ。それが運命というのなら、そうかもしれない。雅司が言った。
「七瀬さん。おれ、たまにこっち来ますわ。その時は、四人で集まりましょう」
「うん、いいよ」
雅司と椿が帰ってしまってから、僕と七瀬はベッドに腰かけた。七瀬は僕の手を握り、頭を僕の肩に乗せてきた。
「もうじき、研修か。俺、色々と心配。女にいかないかなって」
「そんなこと心配してたの? 僕には七瀬しかいないよ。死ぬまでずっと七瀬のものだから」
「でも、不安になっちゃうんだよなぁ……」
僕は七瀬に口づけした。舌を伸ばし、追い詰めた。そのまま服をめくり、まさぐり合い、声をあげながら互いの感触を確かめた。彼の細い腰も、骨ばった腕も、全てが愛おしかった。終わってタバコを吸いながら、僕は言った。
「毎日電話してもいい?」
「いいぞ。まあ、勉強も大変だから、響かない程度にな」
「浮気したら殺すからね?」
「わかってるって」
僕は確信していた。もう七瀬はあんなことをしないだろう。だから、こんな脅しも本心からではなかった。
そして僕は、和光での基礎研修に向けて荷造りを始めた。部屋に置かれた段ボール箱を見て七瀬が笑った。
「おいおい葵、五箱も要るか?」
「鍋とかまな板とか入れてたら、多くなっちゃって……」
「あっちでも料理する気満々だな」
「キッチンあるんでしょう?」
「でも、狭いし階で共用だぞ。冷蔵庫も小さいしな」
七瀬と離れることは寂しかったが、新しい生活が始まることには期待していた。今度は自分から積極的に話しかけて、仲間を作ろう。雅司と椿のように、信頼できる同期を得よう。そうして迎えた四月。僕の国税職員としての第一歩が始まった。
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