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36 再会
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僕は夜ごとに出歩いた。歩ける範囲のショットバーは全て制覇してしまったかもしれない。色んな場所で、色んな人の話を聞いた。それぞれが、自分の価値観を持っていた。
古枝さんに会いたいとあの店に出かけたことがあったが、彼女の影も形も見当たらなかった。本当に僕は彼女と話したのだろうか。それすらも、危うくなってきた。
二月になり、公務員試験の募集案内がホームページに出た。応募は三月や四月だ。本命の国税の一次試験は六月。それまでに、他の職種も受けて、滑り止めにする。
僕は料理を再開した。自分一人だけで完結できる趣味だし、何より勉強のストレス解消になった。雅司と椿にも時々食べさせた。
そうして、日々を過ごしていたある日、七瀬から連絡があった。
『会って話そう。亜矢子さんの店で待ってる』
僕ははやる気持ちを抑えながら、亜矢子さんの店に向かった。もしかすると、別れ話かもしれない。それでも良かった。もう終わりにしたいというのなら、僕だってスッキリできる。
「よう、葵。久しぶり」
「うん、久しぶり」
「髪、染めたんだな。それも似合うよ」
「ありがとう」
七瀬は少し痩せたように感じた。まずは近況報告をした。
「勉強、しっかりやってるよ。模試でもいい成績が出た。三月になったら、申し込む」
「そっか。もうそんな時期なんだな」
亜矢子さんは他のお客さんと談笑していた。僕はビールを飲み、七瀬の言葉の続きを待った。
「俺はさ、親にゲイだってカミングアウトしたんだ」
「えっと……どうだった?」
「二人とも、うっすらわかってたみたいでさ。いい歳だし、好きにしろって言われたよ」
「そうだったんだ」
僕はタバコに火をつけた。そろそろ、本題だろうか。
「でさ、葵。俺はやっぱり、葵と生きていきたい。葵はどうだ?」
「正直、わかんない。僕さ、離れている間、色んなバーで色んな人の話を聞いたんだ。恋愛の形も様々だってわかった。それで、七瀬とどういう関係を築くのが一番いいのか、まだ見えてない」
「そっか。じゃあ、これから二人で作っていくのは?」
「いいよ。そうしよう」
七瀬の部屋に帰り、僕たちは激しく求め合った。気持ちはまだ、どこかを彷徨っているままだった。けれども、身体は過敏に反応した。
「葵。会いたかった。ずっと会いたかった……」
そう言いながら、七瀬は服の中に手を入れてきた。敏感になっているところをつつかれて、僕は声を漏らした。
「やっぱり葵無しじゃ生きられない」
「僕は、七瀬が居なくても生きていく覚悟はしてた」
「変わったな、葵」
キスをしながら、すっかり互いの服を脱がせ終わり、セックスをした。久々の七瀬の感触に、僕は早めに達してしまった。
「ごめん……まだ七瀬のこと気持ちよくさせてあげられてないよね?」
「ううん、これで充分」
「そっか」
僕は七瀬の頭を撫でた。身体を交わすと、やっぱり情が生まれた。僕は古枝さんの言葉を思い出した。退屈が嫌いだと。彼女も誰かと交わることで、それを紛らせているのだろうか。でも、情は移らないのだろうか。
「七瀬。僕さ、不思議な女の人に出会ったんだ」
「不思議な人?」
「うん。不倫しかできないんだって言ってた。次々男が寄ってくるんだって。そういう生き方、どう思う?」
「俺は……少し寂しい生き方だと思うけどな。今の俺は、葵しか見てないから、そう感じるのかもしれないけど」
古枝さんの素振りには、寂しさは感じられなかった。あれがもう完成された状態なのだろう。僕はまだ違う。一つ一つ、確かめていきたい。
「ねえ、七瀬。僕、重いよね」
「正直な。でも、それを含めて葵だと思うから。受け止めてやりたい」
「本当にそれで大丈夫? 僕は負担をかけたくない。身体だけの付き合いだっていいんだよ?」
「そんなの嫌だ。俺は葵の全てが欲しい」
七瀬の気持ちはよくわかった。僕もそれに応えたいと思った。やっぱり僕はこの人を愛している。もう、離れたくなんかない。
「七瀬。愛してる」
「俺も愛してる」
僕も七瀬も、きっと弱い人間だ。これからも、傷付け合うことがあるかもしれない。それでいい。間違える度、僕たちは道を探していこう。それには、指針が欲しかった。
「いつか、七瀬のご両親に会ってもいい? 僕の両親にも会ってほしい」
「うん、いつかな。でも、葵の場合は、言うのは就職してからの方がいい。今はまだ早いよ」
「そうだね。就職して、しっかり自立したら、親に言うよ」
僕たちは固く抱き締め合った。そして、もう一度セックスをした。今度はじっくり七瀬を焦らして楽しませた。
翌朝、僕の部屋に行き、トーストの上にハムとチーズを乗せて焼いた。
「わー! 葵の料理、久しぶり!」
「だから、乗せて焼いただけだってば」
「初めて食わせてもらったのもこれだったな。うん、美味いよ」
これからは、新しい毎日が始まる。公務員試験もいよいよ本番が近付いてきた。僕は決意を新たにした。
古枝さんに会いたいとあの店に出かけたことがあったが、彼女の影も形も見当たらなかった。本当に僕は彼女と話したのだろうか。それすらも、危うくなってきた。
二月になり、公務員試験の募集案内がホームページに出た。応募は三月や四月だ。本命の国税の一次試験は六月。それまでに、他の職種も受けて、滑り止めにする。
僕は料理を再開した。自分一人だけで完結できる趣味だし、何より勉強のストレス解消になった。雅司と椿にも時々食べさせた。
そうして、日々を過ごしていたある日、七瀬から連絡があった。
『会って話そう。亜矢子さんの店で待ってる』
僕ははやる気持ちを抑えながら、亜矢子さんの店に向かった。もしかすると、別れ話かもしれない。それでも良かった。もう終わりにしたいというのなら、僕だってスッキリできる。
「よう、葵。久しぶり」
「うん、久しぶり」
「髪、染めたんだな。それも似合うよ」
「ありがとう」
七瀬は少し痩せたように感じた。まずは近況報告をした。
「勉強、しっかりやってるよ。模試でもいい成績が出た。三月になったら、申し込む」
「そっか。もうそんな時期なんだな」
亜矢子さんは他のお客さんと談笑していた。僕はビールを飲み、七瀬の言葉の続きを待った。
「俺はさ、親にゲイだってカミングアウトしたんだ」
「えっと……どうだった?」
「二人とも、うっすらわかってたみたいでさ。いい歳だし、好きにしろって言われたよ」
「そうだったんだ」
僕はタバコに火をつけた。そろそろ、本題だろうか。
「でさ、葵。俺はやっぱり、葵と生きていきたい。葵はどうだ?」
「正直、わかんない。僕さ、離れている間、色んなバーで色んな人の話を聞いたんだ。恋愛の形も様々だってわかった。それで、七瀬とどういう関係を築くのが一番いいのか、まだ見えてない」
「そっか。じゃあ、これから二人で作っていくのは?」
「いいよ。そうしよう」
七瀬の部屋に帰り、僕たちは激しく求め合った。気持ちはまだ、どこかを彷徨っているままだった。けれども、身体は過敏に反応した。
「葵。会いたかった。ずっと会いたかった……」
そう言いながら、七瀬は服の中に手を入れてきた。敏感になっているところをつつかれて、僕は声を漏らした。
「やっぱり葵無しじゃ生きられない」
「僕は、七瀬が居なくても生きていく覚悟はしてた」
「変わったな、葵」
キスをしながら、すっかり互いの服を脱がせ終わり、セックスをした。久々の七瀬の感触に、僕は早めに達してしまった。
「ごめん……まだ七瀬のこと気持ちよくさせてあげられてないよね?」
「ううん、これで充分」
「そっか」
僕は七瀬の頭を撫でた。身体を交わすと、やっぱり情が生まれた。僕は古枝さんの言葉を思い出した。退屈が嫌いだと。彼女も誰かと交わることで、それを紛らせているのだろうか。でも、情は移らないのだろうか。
「七瀬。僕さ、不思議な女の人に出会ったんだ」
「不思議な人?」
「うん。不倫しかできないんだって言ってた。次々男が寄ってくるんだって。そういう生き方、どう思う?」
「俺は……少し寂しい生き方だと思うけどな。今の俺は、葵しか見てないから、そう感じるのかもしれないけど」
古枝さんの素振りには、寂しさは感じられなかった。あれがもう完成された状態なのだろう。僕はまだ違う。一つ一つ、確かめていきたい。
「ねえ、七瀬。僕、重いよね」
「正直な。でも、それを含めて葵だと思うから。受け止めてやりたい」
「本当にそれで大丈夫? 僕は負担をかけたくない。身体だけの付き合いだっていいんだよ?」
「そんなの嫌だ。俺は葵の全てが欲しい」
七瀬の気持ちはよくわかった。僕もそれに応えたいと思った。やっぱり僕はこの人を愛している。もう、離れたくなんかない。
「七瀬。愛してる」
「俺も愛してる」
僕も七瀬も、きっと弱い人間だ。これからも、傷付け合うことがあるかもしれない。それでいい。間違える度、僕たちは道を探していこう。それには、指針が欲しかった。
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「うん、いつかな。でも、葵の場合は、言うのは就職してからの方がいい。今はまだ早いよ」
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僕たちは固く抱き締め合った。そして、もう一度セックスをした。今度はじっくり七瀬を焦らして楽しませた。
翌朝、僕の部屋に行き、トーストの上にハムとチーズを乗せて焼いた。
「わー! 葵の料理、久しぶり!」
「だから、乗せて焼いただけだってば」
「初めて食わせてもらったのもこれだったな。うん、美味いよ」
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