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27 指切り
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僕はマリ子さんの店に足を向けた。店にはお客さんが居なかった。丁度いい。僕は真ん中のカウンター席に腰かけた。
「いらっしゃい。今日は七瀬は一緒じゃないの?」
「それが……マリ子さん。七瀬さんに、浮気されました」
「えー!? マジで?」
マリ子さんはビールを出してくれた。それを飲みながら、今朝のことを話した。
「どういうことか、事情は聞いてないんです」
「もう、七瀬ったら。せっかくこんなに可愛い彼氏できたのに……」
すると、七瀬さんが現れた。
「あ……葵」
「どうも」
「ちょっと七瀬。こっち来なさい。きちんと葵ちゃんと話しなさい」
七瀬さんは僕の左隣に座った。そして、すぐに首筋の痕に気付いた。
「葵、それ……」
「椿につけてもらいました。僕は七瀬さんと違って女の子もいけるので」
「えっ……あっ、そう……」
「七瀬。どういうことか説明しなさい」
相手はこの前店に来た昇さんだった。連絡先は絶っておらず、あれからラインがきたらしい。それで、飲むだけのはずが、ずるずるとセックスをしてしまったと。
「本当にごめん。俺が好きなのは葵だけなんだ。それは信じてくれ」
「どうせ僕とじゃ満足できなかったんですよね」
「そういうことじゃないんだ」
「でも、会社の飲み会だって嘘つきましたよね」
「それは……そうだけど」
マリ子さんは大きなため息をついた。
「完全に七瀬が悪いわね。昇も昇だけど。それで? 葵ちゃんはどうしたいの?」
「まあ、嫌いにはなれないですよ。でも、今までみたいな関係に戻れるかどうかは別です」
「七瀬は? どうしたい?」
「俺は葵を手放したくないよ」
僕はにゅっと手を付き出した。七瀬さんはその意味がわからなかったようなので、口に出して言った。
「スマホ、渡して下さい」
「ああ、うん……」
「ロック番号は?」
「えっと……」
ロックを解除し、ラインを開けた。春日昇とのメッセージは消去してあったが、トーク履歴の一番上にアイコンがあった。僕は彼をブロックした。
「えっ、葵、ちょっと」
「他にも連絡取ってる男居ないでしょうね?」
僕は片っ端からトーク履歴を開き、どういう関係の人間なのかを白状させていった。それが終わる頃、ようやくマリ子さんが七瀬さんにビールを出した。
「これを機に、綺麗さっぱり清算しなさいな」
「はい……」
わかる範囲では、連絡を取り合っているような昔の男は彼だけだった。それでも僕は収まらなかった。
「GPSアプリ入れて共有しましょう。いいですね?」
「うん……」
七瀬さんを許す気にはなれなかったが、僕の方だって手放せないのは事実だった。アプリの設定が終わった後、僕は言った。
「今回のこと、当分根に持つと思います。けど、僕はやっぱり七瀬さんと付き合っていたいです。もうしないと約束して下さいね?」
「うん、約束する」
僕たちは指切りをした。マリ子さんがパンパンと手を叩いた。
「はい! もうおしまい! それより聞いてくれる? ボトックス注射打ったんだけどさぁ……」
それから、マリ子さんの美容話に耳を傾け、僕たちは揃って店を出た。電車の中で、七瀬さんはほとんど喋らなかった。僕の部屋に着き、ベッドに座って僕は言った。
「もう決めた。敬語やめる」
「う、うん」
「七瀬、ちゃんと言って? 昨日はどんな風に抱かれたの?」
七瀬はうやむやにしようとしたが、直接的な単語を使わせて全て吐かせた。僕の身体の内がふつふつと燃え上がった。僕は彼の襟首を掴んでベッドに投げ飛ばした。
「もう今日はメチャクチャにするから」
いくら痛いとかやめてとか言われても僕は止めなかった。終わる頃には、七瀬は涙目になっていた。
「葵……ごめん……ごめんって……」
「しばらくは許さないからね」
もうすっかり息があがっていた七瀬に覆い被さり、しつこくキスをした。そして耳元で囁いた。
「七瀬には僕だけ居ればいいんだ」
まだ衝動が治まらなかった。僕は七瀬の身体中に痕をつけた。彼は悲鳴をあげたが、そんなの構わなかった。
「次に裏切ったら、七瀬を殺して僕も死ぬから」
「わかった。わかったからもうやめて、お願い」
ようやく僕も我に返った。ボロボロになった七瀬の身体を抱き締めた。
「一生離さないからね」
「うん、うん……」
七瀬は僕の背中にしがみついてきた。
「七瀬、愛してるよ」
「俺も愛してる、葵」
僕たちはべっとりと汗ばんでいた。一緒にシャワーを浴びた。七瀬は鏡に自分の身体を映し、戦慄していた。
「なあ葵、これ隠せないんだけど……」
「いいじゃない、そのまま仕事行けば。虫に刺されたとでも言えば?」
そんな言い訳では到底ききそうにない痕だったが。そんなの知らなかった。タバコを吸いながら、七瀬は改めて言った。
「もう浮気しない。俺は葵のものだから」
「うん。僕も七瀬のものだよ?」
二人分の煙が重なり、夜空に溶けていった。
「いらっしゃい。今日は七瀬は一緒じゃないの?」
「それが……マリ子さん。七瀬さんに、浮気されました」
「えー!? マジで?」
マリ子さんはビールを出してくれた。それを飲みながら、今朝のことを話した。
「どういうことか、事情は聞いてないんです」
「もう、七瀬ったら。せっかくこんなに可愛い彼氏できたのに……」
すると、七瀬さんが現れた。
「あ……葵」
「どうも」
「ちょっと七瀬。こっち来なさい。きちんと葵ちゃんと話しなさい」
七瀬さんは僕の左隣に座った。そして、すぐに首筋の痕に気付いた。
「葵、それ……」
「椿につけてもらいました。僕は七瀬さんと違って女の子もいけるので」
「えっ……あっ、そう……」
「七瀬。どういうことか説明しなさい」
相手はこの前店に来た昇さんだった。連絡先は絶っておらず、あれからラインがきたらしい。それで、飲むだけのはずが、ずるずるとセックスをしてしまったと。
「本当にごめん。俺が好きなのは葵だけなんだ。それは信じてくれ」
「どうせ僕とじゃ満足できなかったんですよね」
「そういうことじゃないんだ」
「でも、会社の飲み会だって嘘つきましたよね」
「それは……そうだけど」
マリ子さんは大きなため息をついた。
「完全に七瀬が悪いわね。昇も昇だけど。それで? 葵ちゃんはどうしたいの?」
「まあ、嫌いにはなれないですよ。でも、今までみたいな関係に戻れるかどうかは別です」
「七瀬は? どうしたい?」
「俺は葵を手放したくないよ」
僕はにゅっと手を付き出した。七瀬さんはその意味がわからなかったようなので、口に出して言った。
「スマホ、渡して下さい」
「ああ、うん……」
「ロック番号は?」
「えっと……」
ロックを解除し、ラインを開けた。春日昇とのメッセージは消去してあったが、トーク履歴の一番上にアイコンがあった。僕は彼をブロックした。
「えっ、葵、ちょっと」
「他にも連絡取ってる男居ないでしょうね?」
僕は片っ端からトーク履歴を開き、どういう関係の人間なのかを白状させていった。それが終わる頃、ようやくマリ子さんが七瀬さんにビールを出した。
「これを機に、綺麗さっぱり清算しなさいな」
「はい……」
わかる範囲では、連絡を取り合っているような昔の男は彼だけだった。それでも僕は収まらなかった。
「GPSアプリ入れて共有しましょう。いいですね?」
「うん……」
七瀬さんを許す気にはなれなかったが、僕の方だって手放せないのは事実だった。アプリの設定が終わった後、僕は言った。
「今回のこと、当分根に持つと思います。けど、僕はやっぱり七瀬さんと付き合っていたいです。もうしないと約束して下さいね?」
「うん、約束する」
僕たちは指切りをした。マリ子さんがパンパンと手を叩いた。
「はい! もうおしまい! それより聞いてくれる? ボトックス注射打ったんだけどさぁ……」
それから、マリ子さんの美容話に耳を傾け、僕たちは揃って店を出た。電車の中で、七瀬さんはほとんど喋らなかった。僕の部屋に着き、ベッドに座って僕は言った。
「もう決めた。敬語やめる」
「う、うん」
「七瀬、ちゃんと言って? 昨日はどんな風に抱かれたの?」
七瀬はうやむやにしようとしたが、直接的な単語を使わせて全て吐かせた。僕の身体の内がふつふつと燃え上がった。僕は彼の襟首を掴んでベッドに投げ飛ばした。
「もう今日はメチャクチャにするから」
いくら痛いとかやめてとか言われても僕は止めなかった。終わる頃には、七瀬は涙目になっていた。
「葵……ごめん……ごめんって……」
「しばらくは許さないからね」
もうすっかり息があがっていた七瀬に覆い被さり、しつこくキスをした。そして耳元で囁いた。
「七瀬には僕だけ居ればいいんだ」
まだ衝動が治まらなかった。僕は七瀬の身体中に痕をつけた。彼は悲鳴をあげたが、そんなの構わなかった。
「次に裏切ったら、七瀬を殺して僕も死ぬから」
「わかった。わかったからもうやめて、お願い」
ようやく僕も我に返った。ボロボロになった七瀬の身体を抱き締めた。
「一生離さないからね」
「うん、うん……」
七瀬は僕の背中にしがみついてきた。
「七瀬、愛してるよ」
「俺も愛してる、葵」
僕たちはべっとりと汗ばんでいた。一緒にシャワーを浴びた。七瀬は鏡に自分の身体を映し、戦慄していた。
「なあ葵、これ隠せないんだけど……」
「いいじゃない、そのまま仕事行けば。虫に刺されたとでも言えば?」
そんな言い訳では到底ききそうにない痕だったが。そんなの知らなかった。タバコを吸いながら、七瀬は改めて言った。
「もう浮気しない。俺は葵のものだから」
「うん。僕も七瀬のものだよ?」
二人分の煙が重なり、夜空に溶けていった。
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