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09 コミュニケーション
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大学での日々は、実にのんびりしたものだった。まだ十月。テストも先だ。学祭もあるのだが、サークルに所属していない僕には関係のない事だと思っていた。
しかし、雅司と椿に誘われ、僕は学祭の屋台を巡っていた。学校中が浮き足立っており、正直言って僕には不似合いのイベントだと思った。
「あっ! あたし焼きそば食べたい!」
椿が焼きそばの屋台に寄っていった。テニスサークルが出しているようだった。彼女が一つだけそれを買い、三人で分けたが、あまり美味しくなかった。雅司が言った。
「これならアオちゃんが作ったやつの方がええわ。また今度焼きそば作ってぇなぁ」
「うん、いいよ」
芝生広場のステージでは、軽音楽部が何かのバンドのコピー曲をやっていた。僕は音楽に詳しくないから、誰の曲なのかわからなかった。
演劇も観た。戦時中を舞台とした暗い悲恋もので、後味が悪かった。夕方になってきて、雅司が言った。
「なあ、焼きそばの食い直し、今日しようや。スーパー行ってアオちゃんち行こ」
どうせそうなることだろうと思っていた。僕たちは食材と酒を買った。キッチンに立ち、具材を刻んだ。焼きそばは普段そんなに作らないが、あの屋台よりは上手く作れる自信はあった。
惜しみ無く使った豚バラ肉、キャベツ、ニンジン。ソースは焼きそばソースの他にウスターソースを少し混ぜた。
僕が作っている間、雅司と椿は先に一杯やっていて、やかましい声が聞こえてきていた。それが、急に静かになったので、僕は心配になって覗いた。彼らはキスをしていた。
「あのさ。うちはヤリ部屋でも図書館でも無いんだけど」
「あはは、わかっとう。食堂やろ?」
「もう……」
悪びれない雅司の態度に僕はため息をつき、三人分の焼きそばを盛り付けて出した。椿は叫んだ。
「うーん! 美味しい! やっぱりアオちゃんに作ってもらうのが一番だね!」
「せやな。アオちゃん、ええ嫁になりそう」
「嫁かよ」
調子のいい二人に引きずられ、僕はずいぶんと飲んだ。タバコを吸いにベランダに出ると、雅司がこんなことを言った。
「なあ、アオちゃん。おれと椿がやってるとこ、見てや」
「だから僕の部屋はヤリ部屋じゃないってば」
「いいじゃない。楽しそう」
酔っ払い二人は部屋に戻ると、ホイホイ服を脱ぎ始めた。こうなりゃやけだ。僕は新しい缶ビールを開けた。言われた通りにきちんと見届けてやると、椿は僕に向けて妖艶な笑みを浮かべた。雅司は息があがっていた。それほど激しかったのだ。
「見たけど」
僕がぶっきらぼうに言うと、雅司はこう返してきた。
「アオちゃん、どうやった? おれはめっちゃ興奮した」
「そう。それなら良かったね」
何なら動画でも撮ってやるべきだったか。僕は二人にさっさと服を着るよう促したが、椿はもう目がとろんとし始めていた。
「もう無理。あたし寝る……」
「おいおい」
裸のまま、枕を抱えて、椿は眠ってしまった。ベッドのど真ん中だ。今晩は、雅司と床で寝るしかないだろう。僕は頭をガシガシとかいた。服を着た雅司が、タバコを吸おうと誘ってきた。
「椿、寝てしもたな。アオちゃんとやってるとこも見たかったのに」
「僕はごめんだね。大体、雅司も椿も、よく簡単にあんなことできるよね」
雅司はポリポリと頬をかくと、呆けた顔で言った。
「うーん、おれにとってはコミュニケーションの一つみたいなもんやからなぁ。それでお互い気持ちよかったらええこと尽くめやん?」
「僕にはよくわからないよ」
「まあ、こないだまで童貞やったもんなぁ」
僕はそれきり、黙ったままタバコを吸った。最初は煙たかっただけのこのタバコも、いつの間にか僕の身に染みついてしまっていて、離れないものとなっていた。僕は七瀬さんのことを思い出した。今僕は、彼と同じ匂いなのだ。
部屋に戻ると、椿はうるさいいびきをかきはじめていた。僕は肩までしっかり布団をかけてやり、とりあえず床に座った。もう酒を飲む気は起こらなかった。しかし、どうにも眠ることもできそうにない。僕は雅司に聞いた。
「どう? 寝れそう?」
「おれは全然。もうちょい酒飲んだら、寝れるかなぁ……」
雅司は残っていた缶ビールを一気に飲み干した。僕たちは一旦空き缶を片付け、ローテーブルの位置を動かし、男二人が横たわれるくらいのスペースを作った。雅司がごろりと寝転んだので、僕は電気を消し、その隣にすべりこんだ。
「アオちゃん、結局どうやったんかきちんと感想聞いてへんわ。どうやった?」
「ええ? まあ、面白かったよ? なんというか、興味深い的な意味で」
「なんやそれ。興奮せんかったんかいな」
「特には」
「おもろないなぁ」
そうして、雅司も眠ってしまった。僕が考えていたのは、明日の朝食のことだった。パンも無いし、米を炊いておこう。僕は朝できるように予約炊飯した。
朝一番に目が覚めた僕は、卵焼きと豆腐のみそ汁を作って二人にふるまった。彼らはいい食いっぷりをしていた。メチャクチャな奴らだが、この三人でいると心地いいのは事実だった。友達なんて要らないとは思っていたが、居たら居たでこんなにも楽しいものかと僕は思った。
しかし、雅司と椿に誘われ、僕は学祭の屋台を巡っていた。学校中が浮き足立っており、正直言って僕には不似合いのイベントだと思った。
「あっ! あたし焼きそば食べたい!」
椿が焼きそばの屋台に寄っていった。テニスサークルが出しているようだった。彼女が一つだけそれを買い、三人で分けたが、あまり美味しくなかった。雅司が言った。
「これならアオちゃんが作ったやつの方がええわ。また今度焼きそば作ってぇなぁ」
「うん、いいよ」
芝生広場のステージでは、軽音楽部が何かのバンドのコピー曲をやっていた。僕は音楽に詳しくないから、誰の曲なのかわからなかった。
演劇も観た。戦時中を舞台とした暗い悲恋もので、後味が悪かった。夕方になってきて、雅司が言った。
「なあ、焼きそばの食い直し、今日しようや。スーパー行ってアオちゃんち行こ」
どうせそうなることだろうと思っていた。僕たちは食材と酒を買った。キッチンに立ち、具材を刻んだ。焼きそばは普段そんなに作らないが、あの屋台よりは上手く作れる自信はあった。
惜しみ無く使った豚バラ肉、キャベツ、ニンジン。ソースは焼きそばソースの他にウスターソースを少し混ぜた。
僕が作っている間、雅司と椿は先に一杯やっていて、やかましい声が聞こえてきていた。それが、急に静かになったので、僕は心配になって覗いた。彼らはキスをしていた。
「あのさ。うちはヤリ部屋でも図書館でも無いんだけど」
「あはは、わかっとう。食堂やろ?」
「もう……」
悪びれない雅司の態度に僕はため息をつき、三人分の焼きそばを盛り付けて出した。椿は叫んだ。
「うーん! 美味しい! やっぱりアオちゃんに作ってもらうのが一番だね!」
「せやな。アオちゃん、ええ嫁になりそう」
「嫁かよ」
調子のいい二人に引きずられ、僕はずいぶんと飲んだ。タバコを吸いにベランダに出ると、雅司がこんなことを言った。
「なあ、アオちゃん。おれと椿がやってるとこ、見てや」
「だから僕の部屋はヤリ部屋じゃないってば」
「いいじゃない。楽しそう」
酔っ払い二人は部屋に戻ると、ホイホイ服を脱ぎ始めた。こうなりゃやけだ。僕は新しい缶ビールを開けた。言われた通りにきちんと見届けてやると、椿は僕に向けて妖艶な笑みを浮かべた。雅司は息があがっていた。それほど激しかったのだ。
「見たけど」
僕がぶっきらぼうに言うと、雅司はこう返してきた。
「アオちゃん、どうやった? おれはめっちゃ興奮した」
「そう。それなら良かったね」
何なら動画でも撮ってやるべきだったか。僕は二人にさっさと服を着るよう促したが、椿はもう目がとろんとし始めていた。
「もう無理。あたし寝る……」
「おいおい」
裸のまま、枕を抱えて、椿は眠ってしまった。ベッドのど真ん中だ。今晩は、雅司と床で寝るしかないだろう。僕は頭をガシガシとかいた。服を着た雅司が、タバコを吸おうと誘ってきた。
「椿、寝てしもたな。アオちゃんとやってるとこも見たかったのに」
「僕はごめんだね。大体、雅司も椿も、よく簡単にあんなことできるよね」
雅司はポリポリと頬をかくと、呆けた顔で言った。
「うーん、おれにとってはコミュニケーションの一つみたいなもんやからなぁ。それでお互い気持ちよかったらええこと尽くめやん?」
「僕にはよくわからないよ」
「まあ、こないだまで童貞やったもんなぁ」
僕はそれきり、黙ったままタバコを吸った。最初は煙たかっただけのこのタバコも、いつの間にか僕の身に染みついてしまっていて、離れないものとなっていた。僕は七瀬さんのことを思い出した。今僕は、彼と同じ匂いなのだ。
部屋に戻ると、椿はうるさいいびきをかきはじめていた。僕は肩までしっかり布団をかけてやり、とりあえず床に座った。もう酒を飲む気は起こらなかった。しかし、どうにも眠ることもできそうにない。僕は雅司に聞いた。
「どう? 寝れそう?」
「おれは全然。もうちょい酒飲んだら、寝れるかなぁ……」
雅司は残っていた缶ビールを一気に飲み干した。僕たちは一旦空き缶を片付け、ローテーブルの位置を動かし、男二人が横たわれるくらいのスペースを作った。雅司がごろりと寝転んだので、僕は電気を消し、その隣にすべりこんだ。
「アオちゃん、結局どうやったんかきちんと感想聞いてへんわ。どうやった?」
「ええ? まあ、面白かったよ? なんというか、興味深い的な意味で」
「なんやそれ。興奮せんかったんかいな」
「特には」
「おもろないなぁ」
そうして、雅司も眠ってしまった。僕が考えていたのは、明日の朝食のことだった。パンも無いし、米を炊いておこう。僕は朝できるように予約炊飯した。
朝一番に目が覚めた僕は、卵焼きと豆腐のみそ汁を作って二人にふるまった。彼らはいい食いっぷりをしていた。メチャクチャな奴らだが、この三人でいると心地いいのは事実だった。友達なんて要らないとは思っていたが、居たら居たでこんなにも楽しいものかと僕は思った。
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