灰の瞳のレラ

チゲン

文字の大きさ
上 下
40 / 48

第39幕

しおりを挟む
 人気の無い城の庭で、剣戟の音が鳴り響く。
「まさかあんたと、ここで殺りあうことになるとはね」
 シンシアの短剣がレラの喉元に迫る。
 身を反転させてかわすと、レラはその勢いでシンシアの背に短剣を叩き込んだ。だがシンシアも、身をひねって回避する。
 二人の暗殺者は距離を取った。
「いつもより動きがにぶいわよ。記憶が戻った代わりに、戦い方を忘れちゃったの?」
「違います、シンシア姉様」
「あら。これも随分ずいぶんはっきり否定するのね。そんなハキハキと物を言うような性格だったとは知らなかったわ」
「まだ力が馴染なじんでないんです」
「馴染む……力が?」
 次の瞬間レラの姿が掻き消え、シンシアの背後に出現した。僅かばかりの風圧を伴って。
「!」
 シンシアが咄嗟に前方に転がる。斬撃ざんげきが肩をかすめる。
「勢いが付きすぎてしまうんです」
「あんた……」
 肩先が少し切れていた。
「まさか、魔力の封印まで解けて……」
 シンシアは、かぶりを振った。
「そんなはずない。あんたの魔力は、母様たちが二人がかりで封印したのよ。記憶だけならまだしも、その封印まで破れる訳がないわ」
「お母さんが解いてくれましたから」
「ばかなこと言わないで。サンドラ伯母様は……魔女サンドラはあのとき死んだのよ」
「いいえ。お母さんは、あの暗い水路で、ずっと私が来るのを待っててくれたんです」
ごとを……」
 だがシンシアは否定しきれなかった。
 目の前に立ちはだかる事実。レラから溢れる魔力の脈動が、彼女の言葉を何より証明していた。
 かつて二人の魔女から無意識に力を奪おうとした……貪欲どんよくで底知れない器。
 魔女の子に生まれながら、自分が決して得ることのできなかった力を持つ娘。
「やっぱり……」
 シンシアは歯を食いしばった。
「やっぱりあのとき、あんたもいっしょに殺しておけばよかったわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...