灰の瞳のレラ

チゲン

文字の大きさ
上 下
27 / 48

第26幕

しおりを挟む
「!」
 力が抜け、よろける。
「危ない」
 青年が咄嗟に支えてくれなければ、そのままくずおれれていただろう。
「どういうこと……」
 映像に出てきた女をレラは知っていた。
 あの手配書に描かれた、見知らぬもう一人の女だった。リヨネッタの姉という。確か名は……。
 頭が真っ白になっていた。
 息ができない。
「君、しっかり!」
 青年が肩を揺さぶってくる。
「……あなた、いつの間に?」
 青年の存在にすら気付いていなかった。
「とにかく、一旦上に戻ろう」
「え、ええ……」
 言われるがまま、青年の後に続いて井戸を昇っていく。青年は心配そうに、何度も下を見ては彼女を気遣ってくれた。
 ようやく二人が井戸から出てきたとき、既に日は落ちて、月が昇り始めていた。
 夕日の名残りと、淡い月明かりが混合する狭間の刻。
 レラは青年に支えられながら、先程のベンチに腰を下ろした。
「なに……なにがどうなってるの……?」
 裏庭の茂みに目をやる。
「そうだわ」
 あそこに、潜入時に所持していた背嚢を隠してある。あのなかに。
 立ち上がろうとして再びよろめいたところを、青年に支えられた。
「無理しないで。少し落ち着いたら部屋を用意させるから、そこで休んだ方がいいよ」
「お願い、あそこに」
「えっ?」
 レラが茂みを指差す。青年がそこに向かい、背嚢を発見すると、訝しげな顔をしながら持ち帰ってきた。
「これ、君の? 何であんな所に?」
 青年の疑問には答えず、レラは背嚢のなかから手配書を取りだした。見付かるとまずいと忠告されてから、肌身離さず持ち歩いていたのだ。
 すると脇から覗いていた青年が、驚きの声をあげた。
「サンドラ伯母さん……?」
「!?」
 レラは弾かれたように顔を上げた。
「この人を知ってるの?」
「もちろん。小さい頃に、凄く可愛がってもらったからね。忘れたくても忘れられない人だよ」
「教えて。この人はいったい何者なの? なんで私は、この人を知ってるの!?」
 レラが青年の腕にしがみつく。
「お、落ち着いて。こんな物を持っているなんて、君はいったい何者……ちょっと待って」
 青年が、まじまじとレラの顔を見つめる。
「もしかして……レラ?」
「!!」
「やっぱりレラなんだね」
 青年の目に、不意に涙が溢れた。
「あなたは誰なの……私の何を知ってるの?」
「会いたかった。ずっと探していたんだ」
「私を探して……た?」
「君をひと目見たとき、不思議とかれたんだ。その正体が分かったよ。今、確信した。君は……レラだったんだね」
 優しく微笑む青年。その顔に、懐かしい面影が重なる。
「ユコ…ニ……」
 記憶の扉が開こうとしている。
 そのとき。
「あーっ、こんなとこにいた!」
 いささか能天気な声が響き渡った。
 二人が顔を上げると、城を背に一人の娘が立っていた。
 レラのよく知る娘の姿が。
「デイジア姉様?」
 月光を浴びて、デイジアのドレスがいびつに輝いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...