イェルフと心臓

チゲン

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第二部 イェルフの子供たち

17頁

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 その晩、青年クカイは、たまたま里近辺の巡回に当たっていた。
 自警団の一員であり、先の夜襲では、アコイの隣で矢を放っていた人物である。
 クカイは欠伸あくびを噛み殺す。見えない敵に対して気を張っているのは、正直言ってつらかった。昼間の疲れも残っている。
「でも、明日はいよいよ出発だしな」
 この先もっと過酷な日々が続くのだ。それを思うと、この程度の疲労でを上げている訳にはいかない。
「でもなあ……」
 クカイは再び欠伸を、今度は口を大きく広げてしてみせる。山の冷たい夜気が、体の奥に入り込んでくる。
 微かに草むらが揺れた。
「ん?」
 虫だろうか。草が揺れることなど、珍しくも何ともないが。
「…………」
 だがクカイは唾を飲んだ。
 見慣れた闇の色が、濃くなったような気がした。
 クカイは一歩、その場から退いた。
 闇が、ひたひたと浸食してくる。
 いつの間にか、虫の声が消えている。
 声をあげようとしたが、音が出てこなかった。
 クカイは冷静になる必要があった。懐から、緊急用の呼び子を取りだす。
 その瞬間、闇が彼に覆いかぶさった。
「ひっ……」
 一陣の白光が、目の前を横切る。
 胸に強烈な衝撃を受け、クカイは草むらのなかに叩きつけられた。
 息が詰まる。
 声が出ない。
 動けない彼の体に、男の影が覆いかぶさり、即座に口が塞がれた。
 クカイの目に、刃の輝きが映った。
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