5 / 61
第一部 イェルフと心臓
5頁
しおりを挟む
「それ、どこで手に入れたの?」
野営の場所を移した二人は、念のため火を熾さず、月明かりのみを頼りに、干し肉と干し果実だけの簡素な夕食を摂った。
ウタイが食べている間も、ポロノシューは曲刀の手入れに余念がない。
「これは、ある商人から譲ってもらった」
「その前は?」
「知らん」
「ほんとなんでしょうね」
「信じる気がないなら、初めから聞くな」
「…………」
嘘を吐いているようには見えない。もっとも元から表情が読めないので、正直なところ真偽の判断はつかなかった。
ただ、丹念に手入れをしている様子からも、彼がこの曲刀を大切に扱っていることだけは見て取れた。
そして、もうひとつ。この男が並の戦士ではないということも。
「イェルフの曲刀に不老不死も加わったら、ほんとに無敵よね」
冗談めかし、自嘲気味に笑う。
ポロノシューは作業の手を止めた。が、何も答えず、すぐに再開した。
ウタイは気付いた。先程彼が左腕に受けたはずの矢傷が、ほとんど塞がっていることに。
「え……」
ウタイは息を呑んだ。
「まさか……」
確かに、矢が掠めていったはずだ。いくら何でも、こんな短時間であそこまで回復する訳がない。
「うそでしょ。ねえ、ちょっと……」
ポロノシューは作業に没頭しているのか、聞こえないふりをしているのか、彼女の方を見向きもしない。
「答えなさいよ!」
枝上で眠っていた鳥が、一羽二羽、その声に驚いて飛び去った。
やはり答えは返ってこない。ウタイは舌打ちをすると、水筒のなかの水を一気に飲み干した。
「あんなの、おとぎ話に決まってる」
ウタイは空になった水筒を放り投げると、その場に仰向けになって、木々の合間から夜空を望んだ。
青や黄色の星が、いくつも浮かんでは瞬いた。
果たして、南のイェルフ族の里まで無事に辿り着けるだろうか。今日も彼がいなければ、あの野伏たちに呆気なく捕らわれていただろう。
奴らは、執拗に追ってくる。
ウタイは身震いした。
孤立無援。
その事実が、大きく重く、のしかかってきた。
頼れるものは、目の前にいるこの陰気で胡散臭い男だけ。
「こいつ、何考えてるんだろう」
危険を顧みず、二度も追っ手から助けてくれた。さらに頼みもしないのに、薬や食糧まで分けてくれる。
だが、だからといって迂闊に信用はできない。野伏の一味ではないにしても、秘宝を狙っていると公言していたくらいだ。
もしや、別の誰かに雇われているとか。
あるいは、奴隷商人にでも高く売りつける気か。
「……切りがないわね」
思いつく限りの可能性を挙げてみるが、いずれも想像の域を出なかった。
何にせよ、目的を知られてしまった以上、このまま放置しておく訳にはいかない。だったらいっそ……利用した方がいい。
「ねえ、わたしを護衛してくれない?」
唐突に聞こえたのだろう。ポロノシューは怪訝な顔を向けた。
「南の里まで、わたしを守ってほしいの。もちろん、ただでとは言わないわ」
なるべく余裕のある態度を装って、交渉に臨もうとする。実際は、他人との交渉事などやったことも考えたこともない。
「…………」
てっきり話に乗ってくるだろうと思いきや、ポロノシューはつまらなそうに、手元の曲刀に視線を戻した。
「ぐ……」
怒りを飲み込む。
喉を潤して落ち着こうとしたら、水筒が空だったので余計に苛立った。
「ていうか、ここまでやっておいて、今更その反応はないでしょ!」
あっさり限界が来た。
人間相手に、譲歩した言い方のつもりだったのに。
「報酬はあるのか?」
やっと乗ってきた。それでいい。
「無事に向こうに着いたら、ちゃんと払ったげるわ」
「そんな口約束が信用できるか」
「わたしを信用できないっていうの!?」
「無一文のくせに、偉そうなことを言うな」
「お金なら、向こうの長に借りるわよ」
「イェルフの長ともあろう者が、人間に支払うための金を用立ててくれると思うか?」
「それは……」
図星だった。逆の立場なら、ウタイも拒否するだろう。
「里の場所を知っている人間を、素直に帰すとも思えんしな」
それも充分有り得る話だ。
「でも……」
ウタイは唇を結んだ。
「お金は必ず払う。無事も保証する。約束は必ず守るわ。イェルフの誇りに懸けて」
例えどんなにいけすかない相手でも、騙し裏切るような卑劣な真似だけはしたくない。それこそ人間と同じではないか。
「誇りは金にならん」
「ぐっ」
言葉に詰まる。
「……だったら、どうして二回も助けてくれたのよ」
「成り行きだと言っただろう」
「嘘。絶対、何か隠してる」
なおも食い下がるウタイを見て、ポロノシューが、子供のわがままに対するように肩を竦めた。
「確かに始めは、イェルフに恩を売っておけば、何か得をするかもしれないと思っていた」
「ほら、やっぱり」
思った通りだ。人間が、損得勘定抜きで誰かを助ける訳がない。
「だが、おまえに関わっていると、ろくなことがない」
「えっ?」
にわかに雲行きが怪しくなってきた。
「これ以上はもう付きあってられん。後は、おまえたちで好きにやってくれ」
「わたしを見捨てるっていうの!?」
「厄介事はたくさんだ」
「ちょ…ちょっと待ってよ……」
「しかも何の見返りもないというのに、自分を護衛しろだと? 何様のつもりだ」
「こいつ……」
正体が露見した途端、開き直りやがった。
引っぱたいてやろうか。
だが彼の力は必要だ。
例え欲望を剥きだしにした、卑しい人間でも。
「…………」
もはや、手はひとつしかない。
わたしは今、イェルフ族の禁忌を犯そうとしている。
「お父様……お母様……」
二人は、許してはくれないでしょうね。
「……わたしの里の、秘宝の隠し場所を教えてあげるわ」
ぼそりと、ウタイは言った。
消え入りそうに言ったのは、せめてもの抵抗だった。口にした後、右膝を立て、その上に右肘を乗せて掌に顔をうずめた。
「その代わり、南の里には手を出さないで」
涙声になっているのが判ったが、止められなかった。
情けない。
いくら同胞を救うためといえ、父や母、仲間たちが命を懸けて守ってきたものを、人間に渡さねばならないとは。
「最低だ」
何もかも夢なら。
ふと顔を上げたら、実は故郷の里にいて、父や母や友がいて、みんな楽しそうに笑っているなら。
きっとこれは悪い夢。
ねえ、早く覚めて。
ウタイは顔を上げなかった。最後の希望まで失くしてしまいそうだったから。
「その言い方だと、秘宝はまだあいつらに奪われてないのか」
顔をうずめたまま、小さく頷く。秘宝は、里から少し離れた場所に隠蔽してある。
「なるほど。だから連中は、おまえを追っているんだな」
「……隠し場所を知ってるのは、たぶんもう、わたしだけだろうし」
「だが、それだけでは足りんな」
「はァ!?」
まさかの言葉に、ウタイは思わず顔を上げ、怒りの形相でポロノシューを睨みつけた。
「本気で言ってんの?」
イェルフ族の秘宝は、人間社会において、小さな国なら買えてしまうほどの高額で取り引きされていると聞いたことがある。
それなのに、まだ足りないというのか。
どこまで強欲なんだ。この恥ずべき人間は。
「何が欲しいのよ。はっきり言いなさいよ!」
「いいのか?」
「……どうせ、お金なんでしょ?」
「おまえの体だ」
「!」
ウタイは硬直した。
「…………」
頭の隅にはあった。だが、この男だけは違うと、なぜか勝手に思い込んでいた。
それなのに。
最後の糸が切れた気がした。
「いいわ」
ひと呼吸置いてから、ウタイは承諾した。
もう、どうでもよかった。
わたしはイェルフの誇りを売った。これ以上、失うものは何もない。
服に手を掛けると、乱暴に脱ぎ捨てた。包帯をほどくと、痣と傷だらけの体が露わになった。
若く瑞々しかった肌は、疲労と栄養不足のせいで、すっかり艶を失っている。
「こんな体で良ければ、いくらでもくれてやるわよ」
上半身一糸まとわぬ姿になったウタイは、その場に横たわった。
「下はあなたが脱がせて。足、動かせないんだから」
ポロノシューが無言で側に来て、何のためらいもなくウタイのズボンを下ろした。
「……!」
ウタイは固く目を閉じ、拳を握りしめた。
「くそっ!」
足の包帯が解かれていく。
ウタイは待った。
「くそ……くそっ!」
これから訪れるであろうものを、目を閉じ、歯を食い縛って待った。
「…………」
しばらく、何も起きない。
「……?」
恐る恐る目を開ける。
ポロノシューが、薬と新しい包帯を用意しているところだった。
「えっ……」
慌てて起き上がろうとしたが、ポロノシューに制された。
「おとなしくしていろ」
「あなた……」
愕然と、ポロノシューの顔を見つめる。その間も、彼は淡々とウタイの傷の具合を診ている。
「やはり傷の治りが遅いな」
「……もしかして、始めからそのつもりだったの?」
「何か期待していたのか?」
「ば…ばかっ」
ウタイは頬を赤らめた。
「勘違いしているようだが、怪我人を抱くほど趣味は悪くない。それに、おまえの裸など、初めに治療したときに嫌というほど拝んでいるからな」
「……!」
よく考えれば当然だ。
「まあ、どうしてもというなら、無事目的地に着いた後で頂くとしよう」
そんなことを真顔で言われた。
顔から火が出るとは、このことだ。
「ンンーっ!」
ウタイは、じたばたとその場でもがいた。
何でもいいから、いやできればこの男を、死ぬほど殴ってやりたかった。
「動くなと言っているだろう」
「うう……」
薬を塗り、包帯を巻くと、ポロノシューは服を着せてくれた。
その夜はそれきり言葉を交わさず更けた。
野営の場所を移した二人は、念のため火を熾さず、月明かりのみを頼りに、干し肉と干し果実だけの簡素な夕食を摂った。
ウタイが食べている間も、ポロノシューは曲刀の手入れに余念がない。
「これは、ある商人から譲ってもらった」
「その前は?」
「知らん」
「ほんとなんでしょうね」
「信じる気がないなら、初めから聞くな」
「…………」
嘘を吐いているようには見えない。もっとも元から表情が読めないので、正直なところ真偽の判断はつかなかった。
ただ、丹念に手入れをしている様子からも、彼がこの曲刀を大切に扱っていることだけは見て取れた。
そして、もうひとつ。この男が並の戦士ではないということも。
「イェルフの曲刀に不老不死も加わったら、ほんとに無敵よね」
冗談めかし、自嘲気味に笑う。
ポロノシューは作業の手を止めた。が、何も答えず、すぐに再開した。
ウタイは気付いた。先程彼が左腕に受けたはずの矢傷が、ほとんど塞がっていることに。
「え……」
ウタイは息を呑んだ。
「まさか……」
確かに、矢が掠めていったはずだ。いくら何でも、こんな短時間であそこまで回復する訳がない。
「うそでしょ。ねえ、ちょっと……」
ポロノシューは作業に没頭しているのか、聞こえないふりをしているのか、彼女の方を見向きもしない。
「答えなさいよ!」
枝上で眠っていた鳥が、一羽二羽、その声に驚いて飛び去った。
やはり答えは返ってこない。ウタイは舌打ちをすると、水筒のなかの水を一気に飲み干した。
「あんなの、おとぎ話に決まってる」
ウタイは空になった水筒を放り投げると、その場に仰向けになって、木々の合間から夜空を望んだ。
青や黄色の星が、いくつも浮かんでは瞬いた。
果たして、南のイェルフ族の里まで無事に辿り着けるだろうか。今日も彼がいなければ、あの野伏たちに呆気なく捕らわれていただろう。
奴らは、執拗に追ってくる。
ウタイは身震いした。
孤立無援。
その事実が、大きく重く、のしかかってきた。
頼れるものは、目の前にいるこの陰気で胡散臭い男だけ。
「こいつ、何考えてるんだろう」
危険を顧みず、二度も追っ手から助けてくれた。さらに頼みもしないのに、薬や食糧まで分けてくれる。
だが、だからといって迂闊に信用はできない。野伏の一味ではないにしても、秘宝を狙っていると公言していたくらいだ。
もしや、別の誰かに雇われているとか。
あるいは、奴隷商人にでも高く売りつける気か。
「……切りがないわね」
思いつく限りの可能性を挙げてみるが、いずれも想像の域を出なかった。
何にせよ、目的を知られてしまった以上、このまま放置しておく訳にはいかない。だったらいっそ……利用した方がいい。
「ねえ、わたしを護衛してくれない?」
唐突に聞こえたのだろう。ポロノシューは怪訝な顔を向けた。
「南の里まで、わたしを守ってほしいの。もちろん、ただでとは言わないわ」
なるべく余裕のある態度を装って、交渉に臨もうとする。実際は、他人との交渉事などやったことも考えたこともない。
「…………」
てっきり話に乗ってくるだろうと思いきや、ポロノシューはつまらなそうに、手元の曲刀に視線を戻した。
「ぐ……」
怒りを飲み込む。
喉を潤して落ち着こうとしたら、水筒が空だったので余計に苛立った。
「ていうか、ここまでやっておいて、今更その反応はないでしょ!」
あっさり限界が来た。
人間相手に、譲歩した言い方のつもりだったのに。
「報酬はあるのか?」
やっと乗ってきた。それでいい。
「無事に向こうに着いたら、ちゃんと払ったげるわ」
「そんな口約束が信用できるか」
「わたしを信用できないっていうの!?」
「無一文のくせに、偉そうなことを言うな」
「お金なら、向こうの長に借りるわよ」
「イェルフの長ともあろう者が、人間に支払うための金を用立ててくれると思うか?」
「それは……」
図星だった。逆の立場なら、ウタイも拒否するだろう。
「里の場所を知っている人間を、素直に帰すとも思えんしな」
それも充分有り得る話だ。
「でも……」
ウタイは唇を結んだ。
「お金は必ず払う。無事も保証する。約束は必ず守るわ。イェルフの誇りに懸けて」
例えどんなにいけすかない相手でも、騙し裏切るような卑劣な真似だけはしたくない。それこそ人間と同じではないか。
「誇りは金にならん」
「ぐっ」
言葉に詰まる。
「……だったら、どうして二回も助けてくれたのよ」
「成り行きだと言っただろう」
「嘘。絶対、何か隠してる」
なおも食い下がるウタイを見て、ポロノシューが、子供のわがままに対するように肩を竦めた。
「確かに始めは、イェルフに恩を売っておけば、何か得をするかもしれないと思っていた」
「ほら、やっぱり」
思った通りだ。人間が、損得勘定抜きで誰かを助ける訳がない。
「だが、おまえに関わっていると、ろくなことがない」
「えっ?」
にわかに雲行きが怪しくなってきた。
「これ以上はもう付きあってられん。後は、おまえたちで好きにやってくれ」
「わたしを見捨てるっていうの!?」
「厄介事はたくさんだ」
「ちょ…ちょっと待ってよ……」
「しかも何の見返りもないというのに、自分を護衛しろだと? 何様のつもりだ」
「こいつ……」
正体が露見した途端、開き直りやがった。
引っぱたいてやろうか。
だが彼の力は必要だ。
例え欲望を剥きだしにした、卑しい人間でも。
「…………」
もはや、手はひとつしかない。
わたしは今、イェルフ族の禁忌を犯そうとしている。
「お父様……お母様……」
二人は、許してはくれないでしょうね。
「……わたしの里の、秘宝の隠し場所を教えてあげるわ」
ぼそりと、ウタイは言った。
消え入りそうに言ったのは、せめてもの抵抗だった。口にした後、右膝を立て、その上に右肘を乗せて掌に顔をうずめた。
「その代わり、南の里には手を出さないで」
涙声になっているのが判ったが、止められなかった。
情けない。
いくら同胞を救うためといえ、父や母、仲間たちが命を懸けて守ってきたものを、人間に渡さねばならないとは。
「最低だ」
何もかも夢なら。
ふと顔を上げたら、実は故郷の里にいて、父や母や友がいて、みんな楽しそうに笑っているなら。
きっとこれは悪い夢。
ねえ、早く覚めて。
ウタイは顔を上げなかった。最後の希望まで失くしてしまいそうだったから。
「その言い方だと、秘宝はまだあいつらに奪われてないのか」
顔をうずめたまま、小さく頷く。秘宝は、里から少し離れた場所に隠蔽してある。
「なるほど。だから連中は、おまえを追っているんだな」
「……隠し場所を知ってるのは、たぶんもう、わたしだけだろうし」
「だが、それだけでは足りんな」
「はァ!?」
まさかの言葉に、ウタイは思わず顔を上げ、怒りの形相でポロノシューを睨みつけた。
「本気で言ってんの?」
イェルフ族の秘宝は、人間社会において、小さな国なら買えてしまうほどの高額で取り引きされていると聞いたことがある。
それなのに、まだ足りないというのか。
どこまで強欲なんだ。この恥ずべき人間は。
「何が欲しいのよ。はっきり言いなさいよ!」
「いいのか?」
「……どうせ、お金なんでしょ?」
「おまえの体だ」
「!」
ウタイは硬直した。
「…………」
頭の隅にはあった。だが、この男だけは違うと、なぜか勝手に思い込んでいた。
それなのに。
最後の糸が切れた気がした。
「いいわ」
ひと呼吸置いてから、ウタイは承諾した。
もう、どうでもよかった。
わたしはイェルフの誇りを売った。これ以上、失うものは何もない。
服に手を掛けると、乱暴に脱ぎ捨てた。包帯をほどくと、痣と傷だらけの体が露わになった。
若く瑞々しかった肌は、疲労と栄養不足のせいで、すっかり艶を失っている。
「こんな体で良ければ、いくらでもくれてやるわよ」
上半身一糸まとわぬ姿になったウタイは、その場に横たわった。
「下はあなたが脱がせて。足、動かせないんだから」
ポロノシューが無言で側に来て、何のためらいもなくウタイのズボンを下ろした。
「……!」
ウタイは固く目を閉じ、拳を握りしめた。
「くそっ!」
足の包帯が解かれていく。
ウタイは待った。
「くそ……くそっ!」
これから訪れるであろうものを、目を閉じ、歯を食い縛って待った。
「…………」
しばらく、何も起きない。
「……?」
恐る恐る目を開ける。
ポロノシューが、薬と新しい包帯を用意しているところだった。
「えっ……」
慌てて起き上がろうとしたが、ポロノシューに制された。
「おとなしくしていろ」
「あなた……」
愕然と、ポロノシューの顔を見つめる。その間も、彼は淡々とウタイの傷の具合を診ている。
「やはり傷の治りが遅いな」
「……もしかして、始めからそのつもりだったの?」
「何か期待していたのか?」
「ば…ばかっ」
ウタイは頬を赤らめた。
「勘違いしているようだが、怪我人を抱くほど趣味は悪くない。それに、おまえの裸など、初めに治療したときに嫌というほど拝んでいるからな」
「……!」
よく考えれば当然だ。
「まあ、どうしてもというなら、無事目的地に着いた後で頂くとしよう」
そんなことを真顔で言われた。
顔から火が出るとは、このことだ。
「ンンーっ!」
ウタイは、じたばたとその場でもがいた。
何でもいいから、いやできればこの男を、死ぬほど殴ってやりたかった。
「動くなと言っているだろう」
「うう……」
薬を塗り、包帯を巻くと、ポロノシューは服を着せてくれた。
その夜はそれきり言葉を交わさず更けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
晴明、異世界に転生する!
るう
ファンタジー
穢れを祓うことができる一族として、帝国に認められているロルシー家。獣人や人妖を蔑視する人間界にあって、唯一爵位を賜った人妖一族だ。前世で最強人生を送ってきた安倍晴明は、このロルシー家、末の息子として生を受ける。成人の証である妖への転変もできず、未熟者の証明である灰色の髪のままの少年、それが安倍晴明の転生した姿だった。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
そしてふたりでワルツを
あっきコタロウ
恋愛
★第9回ネット小説大賞(なろうコン)二次選考通過作
どこか遠くに本当にある場所。オフィーリアという国での群像劇です。
本編:王道(定番)の古典恋愛風ストーリー。ちょっぴりダークメルヘン。ラストはハッピーエンドです。
外伝:本編の登場人物達が織りなす連作短編。むしろこちらが本番です。
シリアス、コメディ、ホラーに文学、ヒューマンドラマなどなど、ジャンルごった煮混沌系。
■更新→外伝:別連載「劫波異相見聞録」と本作をあわせて年4回です。(2,5,8,11月末にどちらかを更新します)
■感想ページ閉じておりますが、下段のリンクからコメントできます。
検索用:そして二人でワルツを
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
迷宮最深部から始まるグルメ探訪記
愛山雄町
ファンタジー
四十二歳のフリーライター江戸川剛(えどがわつよし)は突然異世界に迷い込む。
そして、最初に見たものは漆黒の巨大な竜。
彼が迷い込んだのは迷宮の最深部、ラスボスである古代竜、エンシェントドラゴンの前だった。
しかし、竜は彼に襲い掛かることなく、静かにこう言った。
「我を倒せ。最大限の支援をする」と。
竜は剛がただの人間だと気づき、あらゆる手段を使って最強の戦士に作り上げていった。
一年の時を経て、剛の魔改造は完了する。
そして、竜は倒され、悲願が達成された。
ラスボスを倒した剛だったが、日本に帰るすべもなく、異世界での生活を余儀なくされる。
地上に出たものの、単調な食生活が一年間も続いたことから、彼は異常なまでに食に執着するようになっていた。その美酒と美食への飽くなき追及心は異世界人を呆れさせる。
魔王ですら土下座で命乞いするほどの力を手に入れた彼は、その力を持て余しながらも異世界生活を満喫する……
■■■
基本的にはほのぼの系です。八話以降で、異世界グルメも出てくる予定ですが、筆者の嗜好により酒関係が多くなる可能性があります。
■■■
本編完結しました。番外編として、ジン・キタヤマの話を書いております。今後、本編の続編も書く予定です。
■■■
アルファポリス様より、書籍化されることとなりました! 2021年3月23日発売です。
■■■
本編第三章の第三十六話につきましては、書籍版第1巻と一部が重複しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる