竜剣《タルカ》

チゲン

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第八幕 フランベルジュ

19頁

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 セカイの声が聞こえた気がした。
「え……」
 ミランは顔を上げた。
 彼の剣は、リベアンを貫くことはかなわなかった。
 刀身が真っ二つに折れていた。渾身こんしんの突きが命中したはずなのに、凄まじい力で弾き返されてしまったのだ。
「……?」
 胸に違和感を感じて、ミランはゆっくりと視線を下ろした。
 白い短剣が、己が胸に深々と突き刺さっていた。根元が幅広く、先端に向かって鋭く尖った短剣だった。
 それが白の竜剣と呼ばれるものであることに、ミランは気付いた。
「おまえ…は……ぐふッ」
 血を吐き、ミランはその場にひざを突いた。
 四本の竜剣が床に落ちて、乾いた音を立てた。彼の竜剣を防いでいたのは、四本の白の竜剣だった。
「なぜ、おまえがここに……」
 そこにいたのは、白い絹衣を着た鮮やかな白髪の青年。
「パレージュ……白の竜剣使い……」
「白の竜剣は石を司る。私の体は並の武器など通さないよ」
 パレージュは、ミランの胸に刺さった白の竜剣を抜いた。
「う……」
 ミランはついに床に崩れ落ちた。
 四本の白の竜剣が、パレージュの手にあった一本の元に集まり、重なりあって融合ゆうごうした。
「面白いだろう。こういうこともできるのさ」
「そうか……おまえが師匠に化けて……」
 記憶のなかに現れた白い少年の面影おもかげが、そこに重なる。
「まさか……」
 彼は、グルセンダ王家の嫡子ちゃくしだった。だから、どこかで見覚えがあったのだ。
「なぜ王子……がッ」
 再び、口から血があふれた。
 景色が歪む。
 そのとき、誰かがかたわらにひざを突いた。もちろんパレージュではない。
「ミラン」
 その誰かは彼の名を呼び、頬に右手を当てた。優しく。
「暖かい……」
 体のなかが、温もりで満たされた。 
「右手が……」
「赤の竜剣が返してくれたわ。ずっと隠してたみたい」
「ひどい…話ですね……」
 ミランはそう言って、自嘲を込めて笑う。
「最後の最後で、私は自分を見失って……いえ、本性を現してしまいました」
「あなたは、初めから赤の竜剣を手に入れるために、お父様を訪ねてきたのね」
 ミランは微かにうなずいた。
「なら、どうしてすぐに赤の竜剣を奪っていかなかったの? あなたの力なら簡単にできたはずよ」
「そう……言ってくれますか」
「そしたら、魔女に奪われることもなかったかもしれない。そしたら、こんなことにも……」
「あなたと」
 ミランが震える手を伸ばす。
 セカイの両手がそれを包み込む。
「あなたと……再会してしまったから」
「わたしと?」
「あなたは本当に美しくて……でも今にも壊れてしまいそうだった。もし私が赤の竜剣を奪ってしまったら、あなたはどうなってしまうのか。そう思ってためらってるうちに、魔女に先を越されてしまったんです……」
 ミランの頬を涙が流れた。
「でも最後の最後で、私はあなたを裏切ってしまった」
「…………」
 その涙の上に、もうひとつの涙が落ち、大きな粒となった。
「泣いてるんですか、セカイ」
「別にいいでしょ。泣いたって」
「……やけに素直なんですね」
「だって家族じゃない」
 ひと粒、またひと粒と、ミランの頬は濡れていく。
 暖かい涙。
 炎の息吹いぶき
「おやすみ、ミラン」
 炎が言った。
「おやすみなさい、セカイ……」
 命が輝いた。


 そして消えた。

 (第八幕 完)
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