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第八幕 フランベルジュ
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セカイの声が聞こえた気がした。
「え……」
ミランは顔を上げた。
彼の剣は、リベアンを貫くことは叶わなかった。
刀身が真っ二つに折れていた。渾身の突きが命中したはずなのに、凄まじい力で弾き返されてしまったのだ。
「……?」
胸に違和感を感じて、ミランはゆっくりと視線を下ろした。
白い短剣が、己が胸に深々と突き刺さっていた。根元が幅広く、先端に向かって鋭く尖った短剣だった。
それが白の竜剣と呼ばれるものであることに、ミランは気付いた。
「おまえ…は……ぐふッ」
血を吐き、ミランはその場に膝を突いた。
四本の竜剣が床に落ちて、乾いた音を立てた。彼の竜剣を防いでいたのは、四本の白の竜剣だった。
「なぜ、おまえがここに……」
そこにいたのは、白い絹衣を着た鮮やかな白髪の青年。
「パレージュ……白の竜剣使い……」
「白の竜剣は石を司る。私の体は並の武器など通さないよ」
パレージュは、ミランの胸に刺さった白の竜剣を抜いた。
「う……」
ミランはついに床に崩れ落ちた。
四本の白の竜剣が、パレージュの手にあった一本の元に集まり、重なりあって融合した。
「面白いだろう。こういうこともできるのさ」
「そうか……おまえが師匠に化けて……」
記憶のなかに現れた白い少年の面影が、そこに重なる。
「まさか……」
彼は、グルセンダ王家の嫡子だった。だから、どこかで見覚えがあったのだ。
「なぜ王子……がッ」
再び、口から血が溢れた。
景色が歪む。
そのとき、誰かが傍らに膝を突いた。もちろんパレージュではない。
「ミラン」
その誰かは彼の名を呼び、頬に右手を当てた。優しく。
「暖かい……」
体のなかが、温もりで満たされた。
「右手が……」
「赤の竜剣が返してくれたわ。ずっと隠してたみたい」
「ひどい…話ですね……」
ミランはそう言って、自嘲を込めて笑う。
「最後の最後で、私は自分を見失って……いえ、本性を現してしまいました」
「あなたは、初めから赤の竜剣を手に入れるために、お父様を訪ねてきたのね」
ミランは微かに頷いた。
「なら、どうしてすぐに赤の竜剣を奪っていかなかったの? あなたの力なら簡単にできたはずよ」
「そう……言ってくれますか」
「そしたら、魔女に奪われることもなかったかもしれない。そしたら、こんなことにも……」
「あなたと」
ミランが震える手を伸ばす。
セカイの両手がそれを包み込む。
「あなたと……再会してしまったから」
「わたしと?」
「あなたは本当に美しくて……でも今にも壊れてしまいそうだった。もし私が赤の竜剣を奪ってしまったら、あなたはどうなってしまうのか。そう思ってためらってるうちに、魔女に先を越されてしまったんです……」
ミランの頬を涙が流れた。
「でも最後の最後で、私はあなたを裏切ってしまった」
「…………」
その涙の上に、もうひとつの涙が落ち、大きな粒となった。
「泣いてるんですか、セカイ」
「別にいいでしょ。泣いたって」
「……やけに素直なんですね」
「だって家族じゃない」
ひと粒、またひと粒と、ミランの頬は濡れていく。
暖かい涙。
炎の息吹。
「おやすみ、ミラン」
炎が言った。
「おやすみなさい、セカイ……」
命が輝いた。
そして消えた。
(第八幕 完)
「え……」
ミランは顔を上げた。
彼の剣は、リベアンを貫くことは叶わなかった。
刀身が真っ二つに折れていた。渾身の突きが命中したはずなのに、凄まじい力で弾き返されてしまったのだ。
「……?」
胸に違和感を感じて、ミランはゆっくりと視線を下ろした。
白い短剣が、己が胸に深々と突き刺さっていた。根元が幅広く、先端に向かって鋭く尖った短剣だった。
それが白の竜剣と呼ばれるものであることに、ミランは気付いた。
「おまえ…は……ぐふッ」
血を吐き、ミランはその場に膝を突いた。
四本の竜剣が床に落ちて、乾いた音を立てた。彼の竜剣を防いでいたのは、四本の白の竜剣だった。
「なぜ、おまえがここに……」
そこにいたのは、白い絹衣を着た鮮やかな白髪の青年。
「パレージュ……白の竜剣使い……」
「白の竜剣は石を司る。私の体は並の武器など通さないよ」
パレージュは、ミランの胸に刺さった白の竜剣を抜いた。
「う……」
ミランはついに床に崩れ落ちた。
四本の白の竜剣が、パレージュの手にあった一本の元に集まり、重なりあって融合した。
「面白いだろう。こういうこともできるのさ」
「そうか……おまえが師匠に化けて……」
記憶のなかに現れた白い少年の面影が、そこに重なる。
「まさか……」
彼は、グルセンダ王家の嫡子だった。だから、どこかで見覚えがあったのだ。
「なぜ王子……がッ」
再び、口から血が溢れた。
景色が歪む。
そのとき、誰かが傍らに膝を突いた。もちろんパレージュではない。
「ミラン」
その誰かは彼の名を呼び、頬に右手を当てた。優しく。
「暖かい……」
体のなかが、温もりで満たされた。
「右手が……」
「赤の竜剣が返してくれたわ。ずっと隠してたみたい」
「ひどい…話ですね……」
ミランはそう言って、自嘲を込めて笑う。
「最後の最後で、私は自分を見失って……いえ、本性を現してしまいました」
「あなたは、初めから赤の竜剣を手に入れるために、お父様を訪ねてきたのね」
ミランは微かに頷いた。
「なら、どうしてすぐに赤の竜剣を奪っていかなかったの? あなたの力なら簡単にできたはずよ」
「そう……言ってくれますか」
「そしたら、魔女に奪われることもなかったかもしれない。そしたら、こんなことにも……」
「あなたと」
ミランが震える手を伸ばす。
セカイの両手がそれを包み込む。
「あなたと……再会してしまったから」
「わたしと?」
「あなたは本当に美しくて……でも今にも壊れてしまいそうだった。もし私が赤の竜剣を奪ってしまったら、あなたはどうなってしまうのか。そう思ってためらってるうちに、魔女に先を越されてしまったんです……」
ミランの頬を涙が流れた。
「でも最後の最後で、私はあなたを裏切ってしまった」
「…………」
その涙の上に、もうひとつの涙が落ち、大きな粒となった。
「泣いてるんですか、セカイ」
「別にいいでしょ。泣いたって」
「……やけに素直なんですね」
「だって家族じゃない」
ひと粒、またひと粒と、ミランの頬は濡れていく。
暖かい涙。
炎の息吹。
「おやすみ、ミラン」
炎が言った。
「おやすみなさい、セカイ……」
命が輝いた。
そして消えた。
(第八幕 完)
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