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第八幕 フランベルジュ
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廃墟と化した町のなかを、無数の死人がさ迷っている。恐らく大半が、かつてのグルセンダ人の成れの果てだろう。
二人を見るなり襲ってくるモノもいたが、漫然と動いているだけのモノも多かった。
「モリバラに操られてる訳じゃないのか」
襲ってきた死人を竜剣で片付けながら、ミランが意外そうに呟いた。
「魔女の使った竜鱗の残り滓が、死に切れない人たちの魂と融合したってところかしら」
「…………」
「どうしたの?」
「いえ……よく判りますね」
「ちょっと魔女臭いから」
彼女らしい表現に、ミランは苦笑する。
そうこうしているうちに、複数の死人に取り囲まれた。腐敗した肉体を引きずり、じわじわと輪を縮めてくる。
「邪魔よ!」
セカイが一喝すると、死人たちが炎に包まれて一瞬で蒸発した。
「な……」
ミランは思わず絶句する。
「今の……あなたが?」
「そうみたいね」
よく見ると、セカイの瞳が淡く赤く輝いている。
「そうみたいって……」
「調子がいいの。あなたと結ばれてから」
「う……」
臆面もなく言われると、却ってこちらが恥ずかしくなる。
その後も何度か死人に出くわしたが、ミランが竜剣を放つより早くセカイの炎の餌食にあった。
「これが赤の竜剣の力なのか……?」
ミランは頭を押さえた。奥がちりちりする。
この光景に見覚えがあった。
リベアンだ。師が赤の竜剣を駆使して、その炎の舌で敵を焼き尽くす……いや、それは魔女の結界のなかで見た幻だ。
師が燃やしていたものは、もっと違う何かだった気がする。
「…………」
「ミラン?」
「いえ、何でもありません」
しばらく歩くと城門が見えてきた。グルセンダ王宮だ。
やはりと言うべきか……かつては荘厳であったはずの宮殿も、見るも無残に破壊されていた。
「妙だな」
半ば崩れ落ちた正門を見て、ミランは首を傾げた。
「どうしたの?」
「門が、大きな槌のような物で破壊されてるんです」
これは攻城兵器による攻撃の跡だ。
「魔女がこんな物を使うでしょうか?」
「さあ」
二人は瓦礫を避けながら正門をくぐった。その足元を、一匹の土鼠が駆け抜けていった。
次の瞬間、セカイとミランは光に包まれた。
「!?」
強烈な光に、思わず目を閉じる。
「く……」
ミランは咄嗟に、隣にいたセカイの体に覆いかぶさった。
やがて光が収束していき、視界が回復する。
サァッと、風が吹き渡る。
甘く心地よい風。
ゆっくりと目を開ける。
「え……?」
二人の前に、色鮮やかな庭園と、絹のような白亜の宮殿が姿を現していた。
二人を見るなり襲ってくるモノもいたが、漫然と動いているだけのモノも多かった。
「モリバラに操られてる訳じゃないのか」
襲ってきた死人を竜剣で片付けながら、ミランが意外そうに呟いた。
「魔女の使った竜鱗の残り滓が、死に切れない人たちの魂と融合したってところかしら」
「…………」
「どうしたの?」
「いえ……よく判りますね」
「ちょっと魔女臭いから」
彼女らしい表現に、ミランは苦笑する。
そうこうしているうちに、複数の死人に取り囲まれた。腐敗した肉体を引きずり、じわじわと輪を縮めてくる。
「邪魔よ!」
セカイが一喝すると、死人たちが炎に包まれて一瞬で蒸発した。
「な……」
ミランは思わず絶句する。
「今の……あなたが?」
「そうみたいね」
よく見ると、セカイの瞳が淡く赤く輝いている。
「そうみたいって……」
「調子がいいの。あなたと結ばれてから」
「う……」
臆面もなく言われると、却ってこちらが恥ずかしくなる。
その後も何度か死人に出くわしたが、ミランが竜剣を放つより早くセカイの炎の餌食にあった。
「これが赤の竜剣の力なのか……?」
ミランは頭を押さえた。奥がちりちりする。
この光景に見覚えがあった。
リベアンだ。師が赤の竜剣を駆使して、その炎の舌で敵を焼き尽くす……いや、それは魔女の結界のなかで見た幻だ。
師が燃やしていたものは、もっと違う何かだった気がする。
「…………」
「ミラン?」
「いえ、何でもありません」
しばらく歩くと城門が見えてきた。グルセンダ王宮だ。
やはりと言うべきか……かつては荘厳であったはずの宮殿も、見るも無残に破壊されていた。
「妙だな」
半ば崩れ落ちた正門を見て、ミランは首を傾げた。
「どうしたの?」
「門が、大きな槌のような物で破壊されてるんです」
これは攻城兵器による攻撃の跡だ。
「魔女がこんな物を使うでしょうか?」
「さあ」
二人は瓦礫を避けながら正門をくぐった。その足元を、一匹の土鼠が駆け抜けていった。
次の瞬間、セカイとミランは光に包まれた。
「!?」
強烈な光に、思わず目を閉じる。
「く……」
ミランは咄嗟に、隣にいたセカイの体に覆いかぶさった。
やがて光が収束していき、視界が回復する。
サァッと、風が吹き渡る。
甘く心地よい風。
ゆっくりと目を開ける。
「え……?」
二人の前に、色鮮やかな庭園と、絹のような白亜の宮殿が姿を現していた。
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