竜剣《タルカ》

チゲン

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第六幕 子供の皮を被った羊の物語

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 あるところに一匹の羊が住んでいました。
 羊は、羊飼いに飼われていました。
 でもその羊飼いはひどい乱暴者で、いつもいつも羊をいじめていました。
 耐え切れなくなった羊は、とうとう羊飼いの家から逃げだしました。
 羊飼いは怒って追いかけてきました。
 しばらく逃げていると、急にうさぎが飛びだしてきて羊とぶつかりました。
 兎はあっけなく死んでしまいました。
「そうだ、これで羊飼いをだましてやろう」
 羊は兎の皮をぐと、それをかぶって兎に成り済ましました。
 そこへ羊飼いがやってきて、兎の皮を被った羊に問いました。
「おい兎、この辺りに羊が逃げてこなかったか」
 兎の皮を被った羊は答えました。
「そんなモノは見ませんでしたよ」
 羊飼いはあやしく思って、をかけてみました。
「兎なら跳べるはずだ。おまえ、ちょっと跳んでみせろ」
「わかりました」
 兎の皮を被った羊は、言われた通りに跳んでみせました。
 でも中身は羊なのですから、ちっともうまくできません。
「おまえは兎じゃないな。この偽者め」
 とうとう羊飼いに正体がばれてしまいました。
 羊は兎の皮を脱ぎ捨てると、一目散いちもくさんに逃げました。
 しばらく逃げていると、急に犬が飛びだしてきて羊とぶつかりました。
 犬はあっけなく死んでしまいました。
「そうだ、これで羊飼いをだましてやろう」
 羊は犬の皮を剥ぐと、それを被って犬に成り済ましました。
 そこへ羊飼いがやってきて、犬の皮を被った羊に問いました。
「おい犬、この辺りに羊が逃げてこなかったか」
 犬の皮を被った羊は答えました。
「そんなモノは見ませんでしたよ」
 羊飼いは怪しく思って、かまをかけてみました。
「犬なら遠吠えができるはずだ。おまえ、ちょっと吠えてみせろ」
「わかりました」
 犬の皮を被った羊は、言われた通りに遠吠えをしてみせました。
 でも中身は羊なのですから、ちっとも巧くできません。
「おまえは犬じゃないな。この偽者め」
 とうとう羊飼いに正体がばれてしまいました。
 羊は犬の皮を脱ぎ捨てると、一目散に逃げました。
 しばらく逃げていると、急に旅芸人が飛びだしてきて羊とぶつかりました。
 旅芸人はあっけなく死んでしまいました。
「そうだ、これで羊飼いをだましてやろう」
 羊は旅芸人の皮を剥ぐと、それを被って旅芸人に成り済ましました。
 そこへ羊飼いがやってきて、旅芸人の皮を被った羊に問いました。
「おい旅芸人、この辺りに羊が逃げてこなかったか」
 旅芸人の皮を被った羊は答えました。
「そんなモノは見ませんでしたよ」
 羊飼いは怪しく思って、かまをかけてみました。
「旅芸人なら歌が歌えるはずだ。おまえ、ちょっと歌ってみせろ」
「わかりました」
 旅芸人の皮を被った羊は、言われた通りに歌を歌いました。
 でも中身は羊なのですから、ちっとも巧くできません。
「おまえは旅芸人じゃないな。この偽者め」
 このままではキリがありません。
 旅芸人の皮を被った羊は、咄嗟とっさに言いました。
「では、替わりにつるぎの舞をお見せしましょう」
 そして剣を抜くと、羊飼いの前で踊ってみせました。踊りは決して上手ではありませんでしたが、それが逆に滑稽こっけいで、羊飼いは大笑いしてしまいました。
「ああ、おかしい。こんなにおかしな踊りは生まれて初めてだ」
 羊飼いは笑い転げるあまり、すっかり油断していました。
「ひっかかったな。それ、今までのうらみだ」
 旅芸人の皮を被った羊は、手に持っていた剣で羊飼いを刺し殺しました。
「ぎゃあ」
 羊飼いはあっけなく死んでしまいました。でも、今わのきわにこんなことを言いました。
「すっかり騙された。人間をだますなんて、人間にしかできない芸当だ。おまえはもう羊なんかじゃなくて、立派な人間だ」
 言葉の意味はよく判りませんでしたが、とにかくこれでひと安心。もう追われる心配はありません。
 旅芸人の皮を被った羊は、旅芸人の皮を脱ごうとしました。
 ですが、どうやっても旅芸人の皮は脱げませんでした。
 おかしいおかしいと思っているうちに、お城から兵隊たちがやってきました。
 兵隊たちは、羊飼いが死んでいるのを見て驚きました。
「なんてひどいことをするんだ」
 兵隊たちは、旅芸人の皮を被った羊を捕まえようとしました。
 旅芸人の皮を被った羊は答えました。
「待ってください。ぼくは本当は羊で、乱暴な羊飼いをこらしめただけなんです。だからぼくは悪くないんです」
 兵隊たちは怪しく思って、かまをかけてみました。
「羊なら暖かい毛があるはずだ。おまえ、ちょっと暖かい毛を見せてみせろ」
「わかりました」
 旅芸人の皮を被った羊は、言われた通りに暖かい毛を見せようとしました。
 しかし旅芸人の皮を脱ぐことができないので、暖かい毛を見せることもできません。
「つまらない嘘を吐きやがって。おまえは羊じゃなくて人間じゃないか。もう許さないぞ」
 このままでは、兵隊たちに捕まってしまいます。
 旅芸人の皮を被った羊は、一目散に逃げだしました。
 兵隊たちは怒って追いかけてきました。
 追いつかれそうになるたび、旅芸人の皮を被った羊は、別の人間を殺してその皮を被りました。
 あるときは商人。
 あるときは王様。
 あるときは農夫。
 あるときは花売り娘。
 新しい皮を被るたびに、その皮は脱げなくなってしまいました。
 やがて色々な人間の皮を被っているうちに、羊は自分が本当は羊だということを忘れてしまいました。
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