竜剣《タルカ》

チゲン

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第一幕 父の死

8頁

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 子供たちに読み聞かせていた童話は、勇者が捕らわれの王女を救うという、ありふれた内容だった。
 そういったたぐいの本が、書棚には何冊か並んでいる。
 ふと、本棚の隅に置いてあった、銀色の箱に目をやった。
 蛇のような体をくねらせ、双翼を広げ、紅蓮ぐれんの炎を吐く……美しい赤竜の意匠いしょうが施された、細長い箱。
 すっと手を伸ばした。
 ほこりかぶっている。もう随分、この箱が開けられたところを見ていない。
 それでも、ひんやりとした銀の冷気が、箱から伝わってくる。
「何をしている」
 不意に声を掛けられて、セカイは箱を落としそうになった。
 振り返ると、リベアンが立っていた。
「お帰りなさい、お父様」
「何をしていると聞いたんだ」
 リベアンは、深酒のため赤く腫れ上がった目で、セカイを睨みつけた。
「本の整理をしてました」
 リベアンの視線に気付いたセカイは、何食わぬ仕草で、銀の箱をもとの位置に戻した。
「言ったはずだ」
 セカイが振り向いた瞬間、巨大な手の平が、左の頬を襲った。
 乾いた音とともに、セカイの細い体は軽々と飛ばされた。
「赤の竜剣に触れるなとな!」
 床に倒れ伏すセカイに、リベアンが怒声を放つ。
「でも、たまには手入れをしないと……」
「黙れ!」
 起き上がったセカイの、今度は右の頬に、リベアンの平手が飛んだ。
 再び乾いた音。今度は左手で張ったせいか、少し威力が削がれていた。いや、酒のせいで狙いがれただけかもしれない。
 それでも口のなかで血の味がした。
「ごめんなさい、お父様」
 静かに謝罪して、セカイは口中の血をぬぐう。
 そんな娘を、リベアンは忌々いまいましげに睨んでいる。
「……酒だ。早くしろ」
「はい」
 二人が部屋を後にする。
 おとぎ話と、埃を被った銀色の箱が残される。
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