竜剣《タルカ》

チゲン

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第一幕 父の死

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 五年前。
 その頃のセカイは、天真爛漫てんしんらんまんな少女だった。
 九歳になっても、まだ男の子といっしょに木登りやチャンバラをしたり、他愛ない悪戯いたずらをして母親に叱られたり。
 同じ年頃の女の子は、花を摘んだり、礼儀作法を身に付けたり、気になる役者や騎士の話題に興じていたというのに。
 セカイは、そんなものとは無縁だった。
 無邪気で溌剌はつらつで、太陽のような笑顔の少女。誰からも好かれ、そして誰のことも好きだった女の子。
 傭兵から叩き上げで騎士にまで出世したリベアンは、そんな愛娘まなむすめを目に入れても痛くないほど可愛がっていた。
 貴族出身の母は、娘のお転婆ぶりにやきもきしながらも、その美しく穏やかな笑みを決して絶やさなかった。
 つまりセカイは、たくさんの愛に包まれ、何不自由なく九年の歳月を過ごしていた。
 戦で家族を亡くしたミランとは、まるで正反対だった。
 ミランは、グルセンダという小さな都市国家の母子家庭で育った。だが彼が九歳の頃、とある戦で祖国は焦土しょうどと化した。
 その焼け跡で、彼は当時傭兵だったリベアンに拾われたのだ。
 グルセンダ国で過ごした日々は、ほとんど覚えていない。戦によって心に深い傷を負ったせいだろう、と医者は言っていた。
 その後リベアンは数々の武功を認められ、レイグリオ国の騎士として叙勲じょくんを受けた。ミランは唯一の弟子として、彼のもとで剣を学んだ。
 そしてリベアンは所帯を持ち、セカイが生まれた。ミランが十歳の頃だった。
 小さなセカイは、ミランのことを兄のように慕ってくれた。ミランもまた、セカイのことを妹のように可愛がった。
 順風満帆じゅんぷうまんぱんだった。
 あの日までは。
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