異世界性生活!!~巻き込まれ召喚された勇者のスキルが変態すぎた~

秋津紅音

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四章 魔物大戦争編

六話 黒い龍vs赤い鬼 前編

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「ヘルミーナ、音を遮断する結界は張れるか?」

「物理結界を強化すれば可能です。魔法攻撃には脆くなってしまいますが……」

「構わない、やってくれ」

 黒龍と視線を合わせたまま俺はヘルミーナに指示を出した。黒龍の腕にはまだ4本の血槍けっそうが突き刺さったままだ。黒龍は俺を睨みつけるだけで、まだ動く気はないようだ。

 ヘルミーナの手によって黒龍と俺達を囲む魔物達の前に結界が張られた。薄い緑色の結界が俺達を一纏めに閉じ込めるように全方向を囲む。これなら音は漏れそうにないな。

「さて、おしゃべりする気はあるか?」

 俺は血色の全身鎧に身を包み黒炎龍を見据えて言った。顔まで全てを隠す俺の視線は黒炎龍に届いないかもしれないが。

「グルルル……殺せ……」

 相変わらず・・・・・黒龍は殺せとしか言わない。

 なんで今来たばかりの俺が知ってるのかって?

 マグラは戦闘開始前からずっと眷属を見張りに付けて、逐一俺達に共有してくれていた。俺はその時から黒炎龍の様子がおかしいと思っていた。

 ちなみにマグラはコウモリの魔物を眷属化しているらしい。如何にも吸血鬼といった感じで大変よろしい。

 黒炎龍の最大の攻撃はブレスだ。しかし、ブレスは戦闘開始から一度しか使われていない。そしてまものからまぞくへ進化したこいつは知性を獲得し言葉を交わせるようになっている筈だ。

 なのに『殺せ』としか話さない事、ブレスを使わない事……可能性の域を出なかったが、対面しその眼を見た俺は予想が的中したと確信した。

「普通に話していいんだぞ。音は遮断してもらったからな。魔物使いには聞かれないし、魔物使いの指示もこちらには届かない」

「グルル……」

 あくまで自分から話す気はないらしい。

「お前は勇者相手に手を抜いていただろう。『殺せ』って言っていたのも『私を殺せ』って意味だったんだろ?」

 返事はなかったが、黒炎龍の視線が和らいだ気がした。

「魔物使いに使役され体の自由はなくなったが、精神の自由までは奪われていなかった。全力で戦わなかったのは魔物使いへの当てつけか?」

 勇者を、人を殺したくなかったなんて殊勝な事を考えるタマではないだろう。

「貴様に何がわかる……矮小な人間如きに支配された私の苦しみが……! 爪も牙も、傷一つ付けられず無効化された私の怨嗟が……貴様にわかるか……!!」

 へぇ……無効化・・・ね。黒炎竜を使役するなんて相当な実力者かと思っていたが、魔物からの攻撃を無効化するスキルと、魔物を使役するスキルだとすれば……そりゃチートだな。

「わかるわけないだろ、俺は使役された魔物じゃないしな。でもまぁ……魔物使いの支配下から助けてやることは出来るぞ。本当はそのまま魔物使いに仕返しさせてやりたいけど……今の話を聞くに“無効化”のスキルを封じない限り、手出しはしない方がいいだろうけどな」

「……私の体を貫くその技、とても人間とは思えないが……? それに私を助けるだと?」

「魔物使いの支配下から俺の支配下に変えるんだけどな。ちなみに気づいていないみたいだが……どうだ?体は動くか・・・・・?」

 俺の言葉に黒炎龍の視線が厳しくなり、全身の筋肉に力が入ったことが血を通して伝わってくる。
 
「グルルルル……私の体に何をした……!?」

 しかし筋肉は強張るばかりで腕も足も動く素振りはない。

 マグラとの修行で習得した、血操魔法の応用“凝縮”の次の段階“血の支配”だ。

「お前の血を俺の支配下においた。いくら肉体を動かそうとしたところで、体中を張り巡る血管の位置を固定・・・・・してあるから、あんまり無理矢理動かすと……死ぬぞ?」

 “血の支配”は要するに『他者の血も操作する』という事だ。今、黒炎龍の全身の血管は黒炎龍自身を拘束する『血の鎖』ということだ。筋肉は支配出来ないから無理やり動けば血管がブチブチに切れるだろうな。
 一見万能すぎるように思える“血の支配”だが、デメリットもそれなりにある。

「……グルルルル、貴様も私を支配するというのか……!!」

 支配されることに余程トラウマがあるのか、黒炎龍の視線が憎しみを込めたものになった。

「そう怒るなよ。話がしたいから動きを止めただけだ。だから口は動くし、無理矢理動かすと死ぬって忠告もしてやったろ? 本題はここからだよ。魔物使いの使役スキルを解くには基本的には死ぬしかないだろう」

 勿論魔物使いが自分の意志で解放することは出来るだろうが、ありえないから除外する。

「……だから私は何度も殺せと……」

「都合よく使われるくらいなら死を選ぶ……それも出来るだけ魔物使いにバレないように伝えようとしたんだな。でも、死ぬ以外の選択肢はあるぞ」

「それが貴様の支配下になれと……?」

「吸血鬼のスキルに眷属化というものがある。スキルによる支配は、同じくスキルによる支配で上書きしてやればいい。その後は元居た場所に帰ってくれればいいよ」

「そんな言葉を私が信じるとでも思っているのか……!?」

「俺は、俺の後ろにある街を守りたいだけだ。お前が元々居た場所に帰ってくれればいいよ」

「信じられるか……!!」

 自分が俺に生かされている・・・・・・・とも知らずに黒炎龍は威嚇するようにがなり立てる。
 そもそも現状、血を支配下に置いているんだ。拘束された状態で血流を止められたらどうなるか……わからない筈もないんだけどな。

 これがマグラの言っていた黒炎龍に勝つための一つ目の方法。正攻法で勝てない相手なら、不意打ちで一撃入れ、俺の血と、黒炎龍の血が『繋がれば』勝ちという方法。

「お待たせー。予定通り男娼君に任せていいのかなー?」

 丁度そこへクロエが転移で現れた。

「ああ、ナイスタイミングだ。ヘルミーナを連れて行ってくれ……ここは危ないからな」

「……グルルルル」

「主様……私は離脱すると結界が消えてしまいますが……」

「構わない。話はもう終わるからな」

「わかりました……主様、ご武運・・・を」

 ヘルミーナの肩に手を乗せたクロエが転移すると、この場には俺と黒炎龍……そして魔物達しかいなくなった。魔物使いの姿は見えなかった。

「貴様は一体……何を考えている……?」

 マグラの言っていた勝ち方は二つある。

「魔物使いの支配を上書きするための眷属化……それに必要な条件は俺の血を飲むこと……そして俺を主と認め、屈服させること」

 黒炎龍から血槍を引き抜き、血の繋がりが途切れる。これで黒炎龍は自由に動けるようになった。

 一つ目の勝ち方が不意打ちで殺す事なら、二つ目はさしずめ――

一対一タイマンしようぜ……正面からボッコボコにして服従させてやるよ黒トカゲ」

 ――正々堂々打ち負かし支配権を奪い、生かす事だ。

「グルル……グラァァァアアア!!!!」

 やれるものならやってみろと言うように、黒炎龍は傷付いていない右腕を振りかぶる。

 迎撃に左腕を向け手のひらから血槍を生成すると、振り下ろされた腕がピタリと止まる。
 そうだな、そのまま振り下ろせばさっきの焼き直しになるだけだ。

「どうした? ビビってんのか?」

 しかし俺は細かなところでも煽っていくのをやめない。冷静さを失えば攻撃は単調になりやすい。単調な攻撃なら避けるのも受けるのも楽になる。

「グラァァアアアア!!」

 黒炎龍が口を開き、1m級の黒い炎弾を放つ。瞬時に地を蹴り回避する。しかし着地と同時に次々と黒炎弾が発射されていく。

「くっそ……そんなことも出来るのかよ……!」

 溜めずにブレスを撃ったのか……?息つく暇もなく回避を余儀なくされ動き回りつつ黒炎龍のステータスを確認するが……。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

名前 ジルニトラ Lv16 0歳 龍族

HP  107100/112000
MP   94300/112000

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 やはり敵対している対象の見えるステータスは少ない。色々気になるところはあるが、今はそれどころではないな。

 回避しつつ大剣を作り出し、黒炎龍の顔目掛けてぶん投げる。血操魔法は俺との繋がりが切れると、ただの血液に戻ってしまうので大剣の柄からロープ状の血で繋がりを保っている。

「グルッ……!!」

 黒炎龍は頭部を大きく横に振り大剣を回避する。血槍に貫かれた事から俺の攻撃に対して少々過剰に反応しているようだ。

 血の攻撃も黒炎弾も、お互いに受けるという選択肢は取れないが――


 ――お前の黒炎弾と違って、俺の攻撃は曲がるぜ・・・・

「ガァアア!?」

 黒炎龍の顔の横を通り過ぎた大剣が大槌に姿を変え、勢いを殺すことなく直線の動きから円の動きへ……そして黒炎龍の後頭部をしたたかに撃ち付けた。


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