異世界性生活!!~巻き込まれ召喚された勇者のスキルが変態すぎた~

秋津紅音

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四章 魔物大戦争編

三話 それぞれの戦い 中編

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 葵は素早く地竜の側面に周り刀を一閃。しかし黒炎龍同様に硬い鱗で覆われた体には、一筋の浅い傷しかつけられなかった。

「くっ……硬いっ!」

 頭を抑えつけられた地竜が暴れる。10mの巨体を持つ地竜は、頭だけでも1m以上……テオと同じくらいの大きさがある。

 大盾で押さえるにも限界がある。地竜が自由になる瞬間、葵とその反対側で剣を振るオリビアもバックステップで同時に距離を取った。

「オリビアさん、斬れましたか!?」

「ガルルッ……ダメ、歯が立たない」

 葵の中にじわりと焦りが生まれる。蓮の下へ行くには地竜が邪魔だ。しかしAランク相当の魔物である地竜を、他の冒険者や兵士に任せるのは被害が大きくなるだけで危険すぎる。

 だがテオは大盾で防ぐのが仕事であり、攻撃は殴るくらいしか出来ない。葵やオリビアがダメージを与えられないこの状況は、攻撃面で力不足としか言えなかった。

「やっぱり私じゃ……蓮君や紗希ちゃんのようには……」

 運悪くオリビアと葵は共にスピードタイプの剣士だった。刀を持つ葵と、細身の片手剣と小さな丸盾を持つオリビアという違いはあっても、速度重視の手数で戦うタイプの二人はゴーレムや地竜といった硬い相手が苦手なのだ。

 突進してくる地竜をテオが止め、側面からオリビアと葵が斬ること五回。

 出来るだけ同じところをなぞる様に斬っていたおかげか傷跡が徐々に深くなり――

 ――ピシリッと微かな音を立て地竜の何枚かの鱗が崩れ落ちた。

「グラァアアアッ!!」

「「「!?」」」

 もう一撃……そう思った時、地竜は咆哮を上げ身を捩る。辛うじて回避が間に合った葵とテオだったが、オリビアが地竜の尻尾を避けきれずに被弾してしまう。

「ぐぅうっ……!」

 硬い鱗がびっしり生えた尻尾がメリメリとオリビアの脇腹にめり込み、思わず苦悶の表情を浮かべる。

 横向きに、くの字に体を折り曲げオリビアは吹き飛ばされた。オリビアの剣と盾が主を失い宙を舞う。

「オリビアさんっ!!」

「葵さん、俺が引きつけるから治療を!」

「わかった……!」

 幸いにも武器を手放してしまいつつもオリビアは意識を失ってはいなかった。受け身を取りつつ地面を転がるように着地し、体勢の崩れたオリビアにすぐさま数体の魔物が襲い掛かる

 そうここは戦場のど真ん中であり、地竜に巻き込まれないようにしていた魔物達だが、弾き飛ばされ地竜と距離が開いたなら話は別だ。

「……舐めるな」

 たとえ武器を失おうとも……本能までは失っていない。オリビアの一番近くにいた猿と狼の魔物が飛び掛かってきたが、オリビアは地面すれすれを滑るように距離を詰め、狼の魔物の首と猿の魔物の顎を掴む。それぞれの魔物にオリビアの鋭い爪が喰い込み血が噴き出す。

「……邪魔をするなっ」

 首と顎を引き千切り、オリビアは再び地竜へと向かって動きだす。

「オリビアさん……! ポーションです、飲んでください!」

「……いい。痛みはない」

「駄目ですよ! 肋骨が折れてるでしょう?!」

 オリビアは、痩せ我慢しているわけではなく本当に気付いてなかった。彼女の獅子獣人としての野性がなせるわざだった。
 しかし、厳しい修行で幾度となく骨折をしてきた葵には僅かな動きを見ただけで骨折しているという確信があった。

「……ありがとう」

 今回の戦いに備えて購入したマジックバッグのポシェットから高級ポーションをオリビアに手渡す。
 切り傷程度なら低級ポーションや中級ポーションで治せるが、骨折は高級ポーションでなければ治せない。
 辺境伯からの支給品は低級と中級が数本ずつだったが、蓮達は自前のお金で高級ポーションを用意していた。

「さぁ……行きましょう!」

 戦線に復帰すると、地竜をいなしていたテオがすかさず頭を押さえつける。オリビアは地竜の動きが止まると同時に自身の剣と盾を回収に走った。

 葵は先程、漸く切り落とした鱗の部分を攻撃すべく側面に回りこむ……が、そこで見たものに一瞬思考が止まってしまった。

「なっ……鱗が再生してる……!?」

 何度も斬りつけた場所……見間違うはずもない。そこには真新しい鱗が生え揃っていた。

「なら、もう一回斬ってやりゃいいだろぉ!」

「!?……そうね……もう一度……!」

 諦めかけた葵だが、テオの言葉に励まされ刀を振るう。動揺していた分出遅れてしまった。テオが押さえていられる時間ももう長くない筈だ……!

 ――ガギィィイインッ……!

 手に響いた感触……そして傷一つ付いていない鱗に確信する。

「さっきよりも硬くなってる……!!」

 それだけではない。葵は咄嗟にさっきまでとは刀を振るう角度を変えていた。硬くなった可能性までは考えていなかったが、彼女の勘がそうさせた。

 結果は生え変わった鱗もそのままの鱗もどちらにも傷がつかなかったというもの……。

「……つまり、全身この硬さになったってこと……? 冗談でしょう……?」

 再生した鱗の周りだけか全身か……確認は必要だが、恐らく全身だと思っておいた方がショックは少ないだろう。

「あと残っている斬れそうなところは……」

 ぱっと思いつくのは口の中か……眼球だろう。葵とオリビアはテオの横に移動した。

「蓮君を放っておくわけにはいかない……か」

 地竜に正面から立ち向かうのは正直言って怖い。仲間テオを信じてはいるが、それでも葵はまだ女子高生なのだ。
 特殊な家庭で育てられていようと、葵はまだまだ若いのだ。
 例え目の前で止まるからと言われようと、10トントラックが猛スピードで突っ込んできて平然としていられる人がどれだけいるだろうか。

「ふぅ……目を突くわ。押さえつけなくていいから、盾が目に被らないようにお願い」

「葵さん……へへっ、よっしゃあ! 任せとけ!」

「もしもの時はサポートする」

 テオが大盾を構える。地竜が一直線に突進を仕掛けてくる姿に葵の足が竦む。

 思えば、オリビアと葵は、側面を取るために最初から避ける動きをしていた。僅か数秒の時間が途轍もなく長く感じる。その中で葵は思う――

 ――迫りくる地竜を避けずに待つのはこんなに怖いのか……と。

「笑って何度も向かっていけるその度胸……感服するわね」

 葵の呟きは地竜の起こす地響きに擦れて誰にも届くことはなかった。

「来い来い来い――鉄壁ッ!!」

 ――ズガンッ!!!!

 音が衝撃となって体中に響く。そんな感覚を味わいながらも葵の体は動き出していた。

 テオはしっかりと仕事をしてくれていた。テオの右側、地竜の左目を狙えるように開けた空間……葵からしっかりと地竜の瞳が見えた、それはまさしく射線――

 ――その射線を射抜くように葵の刺突が走る――ッ!!

 ――ギャリッッ!!

 テオの後ろから弾丸のように跳び出した葵の刺突が、まさに突き刺さる直前、地竜は瞳を閉じた・・・・・

「目蓋……!?目蓋まで硬いのかよっ!!」

「まだよ……私だって……私だって勇者なのよっ!!」

 右手を目一杯伸ばした姿勢の葵の左手にはいつの間にか鞘が握られて・・・・・・いた。
 もしも刺突が止められた時の保険として。

「――藤堂流居合術……外伝」

 葵は空中で上半身を捻り左手の鞘を押し出す。捻ると同時に刀から右手を放した。
 突進の勢いがまだ残っている刀……その柄に鞘が吸い込まれるように突き込まれる。
 ほんの少しでも力点がズレてしまえば刀は弾き飛んでしまうであろう、紛れもない超絶技巧だった。

 いくら硬度が上がっていようと所詮は目蓋。一度の突きは耐えれても二回連続・・・・の突きはいくら地竜の鱗といえども耐えられなかった。

「――陰打かげうちッ!!」

 刀が地竜の目を貫き根元まで・・・・埋まった。

「グ……グラ……? ……グラァ……」

 地竜は数秒間理解できないといった声を上げた後、ゆっくりとその巨体を地に沈め動きを止めた。
 普通なら即死するような攻撃だが、そこは流石の生命力と言うべきか。

「……ふぅーー」

 地竜が動かない事を確認してから、葵は無意識に止めていた息を大きく吐き、強張った筋肉を弛緩させた。

 ズルリと刀を引き抜き、マジックバッグから布切れを取り出して刀身を拭う。

「あっ……欠けちゃった……」

 葵の言葉通り刃先は欠け、刀身の中央と根元にそれぞれ小さくヒビが入っていた。しかし実は折れなかっただけでも奇跡的な事だった。

 テオの鎧と同じく葵の刀は魔力を流すことで強度と切れ味を向上させる効果があった。魔力を流すとはつまり“柄を握って手のひらから魔力を伝達”するのだ。

 陰打ちを使う瞬間、葵は刀から手を放していた。魔力の伝達が無くなり魔力が霧散するまでの僅かな時間、強度と切れ味が落ちる過程で貫けたからよかったものの、柄での打ち込みが後0.3秒遅ければ、刀はポッキリ折れていただろう。

「それにしても……静かね。地竜が死んだらすぐに襲い掛かってくるかと思ったけど……」

「なんかこいつら敵意がねぇな……ビビってんのか?」

 そりゃそうだ。周りの魔物達からすれば格上である地竜に、たった三人で打ち勝つ相手だ。地竜の突進を受け止める者、地竜を貫く者、素手で魔物を握り潰す者……本能が逃げろと語りかけてくる。
 今にも背を向けて逃げたかった……しかしそれは魔物使いの指示に背くことになる。
 周囲の魔物に出来るのは、退かず進まず……その場に佇み、見逃される瞬間を待つだけだった。

「……なら蓮のところに行こう」

 オリビアの言葉に同意するように三人は動き出す。目指すは激しく稲光の踊る蓮の下だ。

「邪魔だどけぇ!!」

 魔物を蹴散らし突き進むテオと、その後ろを貼り付くように走るオリビアと葵。時折側面からテオを止めようと動く魔物を、オリビアと葵が妨害しつつ、進撃する。

 魔物の群れもあと少しで突破できる。黒炎龍の大きな体も、その周りを駆け巡る雷光も良く見えるようになってきた。

 しかし、そんな三人の視界の先で……突如として雷光が止んだ。

「…………えっ……?」

 葵の目に映ったのは、前腕を振りぬいた状態の黒炎龍と――



 ――血飛沫を上げ力なく宙を舞う蓮の姿だった。 



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