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一章 辺境の街の女達

二十四話 魔王という存在

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「申し訳ありません……魔王様」

「其方には勇者の監視を命じたはずじゃ。なぜこのようなことになっておる?答えよ」

 魔王……これが魔王……やべぇマジで詰んだ。黒髪に白のメッシュが入り、緩くウェーブする長髪に漆黒のイブニングドレス、ドレスの所々は金色の刺繍がされていて高級感が半端ない。肩から胸元まで露出され、はち切れんばかりの谷間が強調されていた。派手なドレスは膝下までのスカート。片側には深いスリットが入っていて、靴まで黒のハイヒールで頭から足の先まで美しかった。

 そんな内心とは裏腹に重力の魔法か、圧力の魔法か体の震えが止まらない。まるで椅子に縫い付けられたように腕が上がらないし足が動かない。視界の端のHPがみるみるうちに減っていく。毎分1000くらい減ってる。あぁ、もうじき死ぬんだな。

 ていうかなんでHPが減っているんだ、近くに居るだけで死ぬとか魔王やばすぎるだろ、バグキャラじゃん。挫けそうな心に鞭を打ち、魔王に解析をかける。弾かれたりするかと思ったが意外とすんなり魔王のステータスが現れた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

イヴ=エスメ=スカーレット Lv503 264歳 種族不明

B102 W60 H96 経験人数0人

HP 197650/197650
MP 324300/326000

スキル 怪力 頑丈 魅了 不老 再生 予知 千里眼
    HP吸収 MP吸収 魔法無効
    闇魔法 血操魔法 転移魔法 時空魔法 生活魔法
    火魔法 風魔法 水魔法 地魔法 

称号 魔王 死神 賢者 魔神 原初の魔王 世界に絶望した者 寂しがり屋

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 正真正銘バグキャラだった。なんだこれ……ぶっ壊れにもほどがあるだろ……。でも今は一つずつ見ている余裕もない自身のステータスウィンドウに視線を向ける。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

カルマ Lv23

HP 3130/5350
MP  205/ 205
筋力   26
魔力   15
耐久  120
俊敏   40
運    13

スキル 言語理解・生殖器強化Lv2・性感度操作Lv3・解析の右目・???・???

称号 女の敵 性獣 巻き込まれ勇者 愛人

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 あと三分ほどで俺は死ぬ。打開策などもはや無い、思い付きもしない。抵抗する気がする意味がない……ゆっくりと四肢から力が抜ける。

「これクロエ、早く出て来んか。勇者が死んでしまうぞ」

「やー。お見通しだよねー。やぁ男娼君おひさー」

 何もないところから現れたのはSランク冒険者の銀狐獣人のクロエ。いったいどこから……ていうか何時からいたんだ……いつの間にかHPの減少が止まっていて息苦しさも体の重さも無くなっていた……俺の周りには半透明の緑色の結界がドーム状に展開されていた。

「ほいーこれでオッケー怖かったねーでももう大丈夫かなー」

「クロエ……でも魔王が……」

「――君はとりあえず今は死なないからさ、あの人の話を聞いてあげて?」

 普段とは違うクロエの口調。その真剣な声と表情に言葉が詰まる。

く答えぬかグレース。なぜわらわの命に背いた死ぬ前に答えよ」

「つい……余りに逞しい男根に……我を忘れて……申し訳ありません魔王様」

 グレースは全裸で這いつくばりながら必死の表情で答える。彼女のHPが恐ろしい速さで減っていく。俺の時の3倍くらい早い。

「クロエ……グレースにも結界を……死なせちゃだめだよ」

「無理かなーあの殺気をこっちには向けられてないから防げてるけどーあの人が本気になったら私じゃ止められないかなー」

「そんな……魔王!やめてくれ!!その人を殺さないでくれ!」

「なぜ其方がこやつを庇うのじゃ?其方はこやつに殺されかけたのじゃぞ?」

「でも俺は死んでない。俺はグレースを憎んでない。許すにはそれで十分だ」

「わからぬな……生きるために払った代償もあるだろうに」

 俺の生殖器強化の事を言ってるのだろうか……どこかで見てたのか?

「……それでもだ」

 ふっとグレースのHPの減少が遅くなった。すかさずクロエが結界を張って彼女のHP減少は止まった。よかった……間に合ったようだ。

「グレース、勇者に感謝せよ。次はないぞ」

「……こほっ……ありがとうございます魔王様……勇者様も……」

 さてと一言魔王の横に真っ黒な椅子が現れる。何もなかった地面から闇がボコボコと溢れるように出てきて椅子の形で固まった。優雅に腰かけ見せつけるように足を組む。深いスリットの隙間から見える太ももが艶かしい。全裸なのに恥ずかしげもなく俺の肉棒がフル勃起した、相手は魔王だぞ……空気読めよ。それでも余裕の表情で微笑みながら俺の肉棒を見つめる魔王。処女の癖に……

知業ともなりよ。わらわの話を聞く気はあるか?」

「っ!!?」

 なぜ俺の名前を……

「なぜ俺の名前を知っているのか、かの?それは其方を呼んだのが神ではなくわらわだからじゃ」

「っ……どういう意味だ?」

「ふむ、話を聞く気になったかの?其方はこの世界の歴史についてどの程度知っておる?まぁ話さずとも良い。知らなんだら後ほど調べるが良かろう。時間も余りない、わらわが語るは300年前の魔人族の真の歴史。そしてこの世界の秘密じゃ」

 なぜ魔王はここに現れた。なぜ魔王の癖に勇者おれを殺そうとしない。なぜクロエは魔王と仲良さげなんだ……

「クロエは……その話を聞いたから味方についているのか?」

「聞いたよーそして魔王の話を真実だと思ったかなーでも私は魔人族含めて四種族全部の味方だよー。まぁ襲ってくる魔族は敵として戦うけどねー」

 魔族と魔人族とはどう違うんだ……今の言い方は明確に違いがあると思っている言い方だ。

「では話そうか、創世記はわらわも知らぬから飛ばすぞ、新世紀『世界の根源』に最初に触れた者が『原初の神』となった。三種族を作り出し、世界を豊かにさせた。それらの繁栄は数百年と続いたらしいの。しかし『第二の神』が現れ『原初の神』は消滅した」

 世界の根源ってなんだ?神が消滅した?

「しかし『第二の神』は所謂悪神、邪神の類じゃった。そやつは根源の力を使い、世界に魔力を生み出した。魔物と魔力に適性のある子を世界に作り出し、魔物と三種族の血みどろの戦いを楽しんだ。しかし神にも予想外の事が起きる。それが魔人族の誕生じゃ。根源を使い魔物という新たな生物を作ったはいいが魔物と人間等との繁殖のことまで考えてなかったのじゃろう。魔人族は強力な魔法を駆使して魔物を屠り続けた。そして神は自分の思い通りにいかぬ世界をさらに捻じ曲げるべく次の手を打つのじゃ」

 過去を思い出しているのだろうか。こんな時なのに物憂げな美人の表情に心臓が高鳴る。

「魔人族の胎児に根源の力を使い、ある称号を埋め込んだのじゃ。そのスキルは狂化。効果は他種族に対して強い敵意を持ち、一定量の敵意が溜まると我を忘れ暴れまわるというものじゃ」

「まるで見てきたようだな……」

「見てはおらんが似たようなものじゃ、およそ300年前の事じゃから、わらわも生まれてはおらんかったが、わらわが幼い頃はまだいくらでも調べようはあったのじゃ。今はもう資料も何も残ってはおらんだろうがのう。話を戻すぞ?暴れまわった魔人族は殺され、その他の魔人族も迫害された、エスタを追い出された魔人族は魔の森の向こうで新たな街を作ったのじゃ」

 エスタを追い出された……?

「エスタの街に魔人族が共存していた……?」

「そもエスタの外壁や住居を作ったのは魔人族じゃ。もはや住居は残っておらんが、外壁は今も修復しつつ保って居るようじゃの。人間の王都や周辺の街の外壁は石造りじゃったろう?一枚岩のように繋ぎ目のない外壁など魔人族の魔力を使わねば作ることなど出来んよ。しかしいくら魔人族が強かろうと三種族を相手にしての戦いは不利じゃったようだの。なすすべもなく街を追い出され森へと逃げることしか出来なかったようじゃ。しかし悪神は追い詰められた魔人族に根源を使い魔王の称号を持つ者を生み出すことにした。わらわが魔王の称号を得たのは母のはらの中じゃったよ」

 胎の中って……覚えてるのか……?

「そう、そしてわらわは未熟児の段階で神によってスキルに目覚めさせられ母を殺した」

「……殺した?」

「母の胎の中でHP吸収とMP吸収が発現したのじゃよ。意識はあれどまだ止め方もわからなかったわらわは胎の中で母からHPとMPを吸い付くし干からびていく母の腹を破って産まれたのじゃ。それと同時に怪力、頑丈、魅了、不老、再生のスキルも得た」

「周囲に住む者達がわらわを危険な存在として殺そうとしたが、わらわの再生は自動発動でのう、傷をつけられHPが減ると傷の深さに比例して普段の数倍、数十倍の速さと範囲でHPを吸収するのじゃ。おかげで生後数日で村一つ消えてなくなってしまった。誰もいなくなった村に次に現れたのは魔物じゃった。魔物はわらわを食べようとしたが結局わらわを殺すことは出来ずに勝手に死んでいった。おかげでLvも上がった。そしてわらわは廃村を訪れた結界魔法を使える魔人族の夫人に拾われ、結界の中で育てられることになった。言葉を学び、魔物を狩り20歳になる頃にわらわの体の成長が止まり、実力も相まって魔王として君臨したのじゃ」

「でも物語では魔王も何度も現れ倒されていると……」

「勇者が一人ではないように魔王の称号を持つ者も一人ではないということじゃの。今も魔王はわらわの他に三人おるよ。それぞれが隣り合った国を持つ王じゃ。ふむ、話が逸れたの。神が魔王を生み出した話じゃったな。神の目論見通り魔人族と三種族の戦いは激化する。魔王率いる魔人族は強く三種族は逆に追い詰められていく、そこで悪神は初めて異世界より勇者を召喚した。魔王と勇者の戦いは苛烈を極め、それに満足した悪神は魔王の出現と勇者召喚が自動で行われるように『世界の根源』を捻じ曲げたのじゃ」

「そしていくつもの戦いの後、わらわが魔王になって60年ほど経ったころかの、魔王が倒れれば魔王が現れ、勇者が死ねば勇者が現れる世界に疑問を持つようになった……戦いに疲れたのもあるがの。それからわらわはこの世界について調べることにした。知っておるか?魔人族も魔物を倒してレベルを上げることを。三種族を殺しても、同じく魔人族を殺してもレベルは決して上がらないことを」

「……つまり経験値は魔物からしか手に入らない?」

「そうじゃ、そしてレベルとは経験値とはすなわち『世界の根源』から生まれた『根源の欠片』といったところかの。魔物は『根源の欠片』を持ち、殺すことで『根源の欠片』は世界へ戻りつつも一部は殺した者へ移るのじゃ。それが其方の言う『経験値』じゃな。しかし『根源の欠片』を持つ四種族を殺しても『根源の欠片』は全て世界へと帰るのじゃ。『根源の欠片』を持たぬ動物を狩ってもレベルが上がらないのは言わずもがなじゃな」

「……じゃあなんで」

「……聡いの。先程言ったの。其方は神ではなくわらわが召喚したと。この世界で生まれたものは生まれる前に『根源の欠片』を与えられ魔力やレベルやスキル、称号を得る。しかし異世界から召喚される勇者は、この世界の生まれでは無い為、召喚されこの世界に入る瞬間に神より与えられるのじゃ。其方はわらわが与えたが、わらわは神ではないので『世界の根源』を使うことは出来ぬ。しかしLv300ほど消費させ『根源の欠片』を大量に消費すれば一度くらいなら召喚しスキルや称号を与えることも出来るのじゃ。他にも条件はあるがの」

 その話が本当なら、俺がこの世界に来る前はLv800超えだったと……?

「そんなの……じゃあ貴女は何のために俺を召喚したんだ……?」

「わらわを殺して欲しいのじゃよ。魔王に巻き込まれし・・・・・・魔王の勇者・・よ」

「俺が魔王の勇者・・・・・?それに俺が貴女を殺す……?絶対無理だろ」

「今のそなたではな。それにそれは他の者でも同じこと。戦ってわらわを殺せる者などこの世界に存在せんのじゃ」

「……まぁ、確かにあり得ない強さだったけど勇者でも手も足も出ないのか?」

「出んな。わらわのスキルは見たのじゃろう?特に再生とHP吸収と魔法無効がえげつないのじゃ。わらわについて余り多くを語るつもりはないが、HP吸収はわらわに近づくほど強くなる。さらにわらわの意思で吸収量も調節できる。0には出来んのじゃがな。魔法無効はその名の通りあらゆる魔法がわらわに触れる前に霧散する。一番ひどいのが再生じゃな」

「再生はー彼女が最強の魔王の証みたいなものだしねー」

 クロエが横から和ませるように声を出すが、その額には大粒の汗が浮かんでいた。

「クロエ……!?大丈夫か!?」

「む……クロエも限界のようじゃの」

「ぇ……限界ってどういうことですか?」

「わらわを相手に三人分の結界を張り続けておるのじゃ。消耗も仕方ないの。手短に話そう、再生のスキルにわらわの意思は必要ない。昔戦争の最中に勇者の一撃でわらわの体はバラバラにされたことがある。わらわの意識はその瞬間無くなったが、目を覚ますと周囲十数kmの生命全てが死に絶えた中心でわらわは傷一つなく寝ておったわ。そばには勇者の剣や鎧や衣服だけが残り、見渡せば戦場には誰も居らず見渡す限り装備と衣服のみが転がっておった」

 少し俯き話す魔王は後悔しているのだろうか。それとも死ねなかったことを悔やんでいるのか。

 しかし……魔法が通じず直接攻撃も意味がないとかどうすればいいんだよ……無理ゲーじゃねぇか。

「わらわは間違いなく世界最強の生物じゃろう。しかしそのわらわが目を付けわらわの力の一部を与えた其方はこの世界の法則の埒外におる。殺すことでしか強くなれない勇者とは違う、殺さずに強くなれる其方であれば、いつかわらわをも凌駕するやもしれぬ」

「そうだ……魔物を殺すことでしかレベルが上がらないなら……俺は一体何なんだ……?」

「その答えは自分で確かめるがよい……手向けをやろうかの」

 魔王は右手を俺に差し出す、その手のひらには赤いビー玉くらいの光の玉が浮かんでいた。警戒しそうになるがしたところで殺す気ならとっくに死んでるだろうこの状況、受け入れる以外の選択肢もないことに気付く。

「それは……?」

「これはわらわの力の一端。根源の欠片。これを受け取れば其方の中にあるわらわの与えた力が強化されるじゃろう」

「俺の中の魔王の力……?」

「安心せい其方に魔王の称号が付くことはないのじゃ。ほれ受け取れ、そしていつかわらわを殺してみせよ、わらわの勇者よ」

「……出来るなんて思えないけど、まぁやってみるよ最強の魔王」

 魔王の手から光の玉がスッっと俺に向けて動き出す。結界をバキバキ破壊しながら減速することなく俺に向かってくる。おい怖いぞ、俺もバキバキに破壊されないだろうな?少し身構えそうになったが光の玉は痛みもなく俺の鳩尾の辺りに吸い込まれていった。

「ではの。また会おう」

 短い言葉を残し魔王は消えた。その瞬間部屋の中を埋め尽くしていた重苦しい重圧が消える。グレースは転移と言って魔法を使っていたのに無詠唱で魔法が使えるのか?となるとさっきの真っ黒な椅子も闇魔法なのか?隣でぺたんとクロエが床に座り込む。

「疲れたーーー!もうグレース、転移で送ってー」

 ふぅ……慌ただしかったがなんとか終わった……色々取り返しのつかないこともあるがなんとかなったかな。安心した途端に体に力が入らなくなり、俺は崩れ落ちるように意識を失った。

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