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三章
苦悩と慟哭 6 ★
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◆◆◆
他の獣人たちの住処と似た造りをした我が家には、あまり物が置いていない。
ある子どもの家に遊びに行った時、自分達の家には必要最低限のものしかないと気付いたのだ。
それまでアレンは何も疑問に持たなかったが、少し年上の草食系獣人の男の子が言った。
『アレンの家、ケチなんだなぁ』
悪気があって言ったのではないと分かっていた。
その子は思ったことをすぐに言う性格で、初めて会った時は最初こそびっくりしたものの、仲良くなるのに時間は掛からなかった。
互いの家に遊びに行き、時には他の子どもも合わせてスラム街にある小ぢんまりとした広場で遊ぶ時もあった。
少し口が悪いが、その子のことは嫌いではない。
現に今もその子の家で、知り合いの大人に貰ったという玩具で遊んでいたのだ。
普段ならば右から左へ聞き逃すのに、この時ばかりはそれができなかった。
『かあさんは、そんなんじゃない!』
その子の言った意味は分からなかったが、優しくて大好きな母を馬鹿にされたようで悔しかった。
アレンは手に持っていた綺麗な石を床に投げ付け、半ば飛び出すようにしてその子の家を出た。
家に帰るとアンナが料理を作っている最中で、ぼろぼろと涙を零して帰宅した息子の様子に慌てて目線を合わせてくる。
『どうしたんだ、そんなに泣いて。……何があったんだい』
心配そうに下げられた眉も、こちらの言葉を待っている瞳も、優しい母のそれだ。
しゃくり上げながら涙で濡れた瞳で周囲を見回せば、その子の家とは違って我が家には物がほとんどなかった。
まるでいつでも逃げ出せるように、とでもいうかのようで更に涙が止まらなくなる。
それ即ち、いつか唐突に生まれ育ったスラムを出ていく事を暗示していた。
『なんで、おれの……いえは』
そうぽつりと零すと幼いアレンの手を握り、アンナがいつになく真剣な瞳で言った。
『──いいかい、アレン。このことは母さんと二人だけしか知らないんだ。絶対に内緒にするんだよ』
『ないしょ……?』
いつになく真剣なアンナの表情に、アレンは小さく口の中で呟いた。
一日を無事に生きる事がどんなに困難でも、草食系獣人の中に『異質な肉食系獣人が居る』と外で心無い言葉を浴びせられた時も、アンナは気丈に振る舞っていた。
だというのに今アレンの目の前にいる母の瞳には、うっすらと涙の膜が張っている。
どんな時も泣き言を言わず、むしろアレンが泣いてばかりで呆れられた時でも、だ。
『もし誰かに言ってしまったら、あんたの命が危ない──って言ってもまだ分からないか』
アレンが首を傾げると、アンナは苦笑した。
その拍子に目尻から涙が一筋落ち、ゆっくりと頬を伝っていく。
『……けれどね。この先、アレンを大事に慈しんで護ってくれる人が現れる。母さんはそう思うよ』
なぜ突然そんなことを言うのか、なぜ泣いているのか、その時のアレンには訊ねられなかった。
しかしアンナの笑顔は普段よりもずっと美しくて、綺麗だったのを覚えている。
こちらを温かく包み込んでくれる笑みにも、いつ何時も優しく諭してくれる声音にも、もう一度出会う事は叶わないのだが。
「あ、ぁ……!?」
脳裏を刺すほどの鋭い痛みを下肢に感じ、そこでアレンの意識が現実に引き戻される。
「──こら、逃げるなって言ったろ」
無意識に上へ逃げようとしたところを長く大きな手の平に捕らえられ、跡が付くほど強く腰を摑み直された。
その拍子に腹の奥深くを埋める雄槍が脈動し、その大きさと力強さをまざまざと感じてアレンは小さく喘いだ。
「ゃ、やだ……も、むり……だ、って」
懸命に振り絞った声は枯れ果て、ほとんど言葉になっていなかった。
二度もレオの手によって吐精した後、やがてレオは低く柔らかな声で囁かれた。
『お前を抱いてもいいか……?』
絶頂に追いやられた思考は、それを理解することを放棄していた。
自分でも気付かないうちに頷いてしまったのか、ややあって幼い子どもの腕はありそうな雄根が、硬く閉ざされた蕾を何度も往復する。
唇や手とは比べ物にならないほど熱く、いくら慣らされているとはいえ指先よりも質量のあるそれは容易に入らない。
殊更ゆっくりと後孔をこじ開けられる感覚も、自分以外の熱が未知なる場所へ挿入される不快感も、出来るならば一生経験したくなかった。
レオが部屋に入ってくるまでに逃げていたら、と考えてももう遅い事などとうに分かっている。
ただ、口付ける前に『嫌なら突き放せ』とレオは言ったのだ。
抵抗せず口付けを受け入れた自分にも非があり、今こうなっているのだから自業自得とも言えた。
『ぁ、は……っう』
たっぷりと時間を掛けて先端を呑み込むと、同時に息苦しさと鋭く強い痛みを感じた。
息をしようとするだけであまりの苦しさにそこで意識が途切れ、気付いたのがつい先程だ。
目覚めるといつの間にかレオのそれを根本まで咥え込んでおり、脳に直接感じるほどの鈍痛が頭の中を支配していた。
痛みと苦しさで霞のかった目線の先には、レオの顔がぼんやりと映っている。
いくつも玉のような汗を額に浮かべ、時折苦しげに喉が鳴っていた。
「アレン……っ」
紡がれた自身の名前すら低く掠れていて、しかしいつになく艶を含んでいる。
「っ」
ぴく、と耳が小さく震えた。
耳元で囁かれてもいないのに、レオの表情が普段とは違うからか意思に反して身体が違う動きをする。
「っこら、……あんまり締めるな」
レオが苦しげに眉を引き絞り、低く言った。
「しめ、る……?」
自分が何をしたのかとんと分からず、アレンは同じ言葉を口の中で繰り返す。
すると柔らかく己の脇腹を撫でる何かを感じ、ゆるゆるとそちらに視線を向けた。
見ればレオの黒く艶やかな尻尾が、左右へ緩く揺れ動いているのが視界に入る。
「……すまん、分かってないんだったな」
くっと小さく笑うと、レオはゆっくりとした動きで腰を引いた。
「ふ、あっ……!?」
腹の奥を埋め尽くす肉槍が引き抜かれ、しかしすぐに奥深くまで侵入する。
アレンの意思に反して肉壁は歓喜に震え、侵入者を逃がすまいと絡み付く。
じわじわと痛みではない快感が脳を支配し、目の前が白く霞む感覚があった。
同時に腹を濡らすものを感じ、また精を放ってしまったのだと頭の片隅で思う。
(また、おれ……)
二度だけならず三度も──いや、もっとだと思い直す。
正確に数えていないから分からないが、ずっと雲の上にいる心地にされていた。
「は、っ……」
レオの小さな吐息が聞こえ、ややあってアレンの顔の左右に手を突いたかと思えば、端正な顔立ちが間近に迫った。
至近距離で見た表情は苦しげで、アレンだけでなくレオも同じように辛いのだと察する。
けれど、それ以上の感情は浮かんでこなかった。
なぜ自分がこんな思いをしなければならないのか、何度となく心の中で呟いた言葉をもう一度落とす。
「っ、ん……ぅ」
唇に温かな熱が触れたかと思えば、ほとんど噛み付くように口付けられた。
すぐに唇を割って侵入した舌先は熱く濡れ、未だ怯えるアレンのそれを絡め取る。
ちゅう、とわざと音を立てて吸われると、次第に頬が熱を持った。
時折頬を撫でていた大きな手の平が耳を掠め、あえかな声が漏れた。
「ふ、っ……ぁ、う」
ふわふわとした耳の中に指先が入り、擽るように撫でられる。
そんなところに指を入れられるなど初めてで、しかしじんわりとした瘙痒感が快楽に変わるのはすぐだった。
喘ぎはレオの口の中に吸い込まれ、代わりに飲み込み切れずに溢れた唾液が顎を伝う。
「ん、っん……ふ、ぅ」
自分よりもずっと大きな身体に組み敷かれ、恐怖と苦しさも相俟って息ができない。
しかし口付けられている間もレオは緩く腰を動かし、アレンの柔襞がうねる場所を突き上げる。
止めて欲しいのにもっとして欲しい、という矛盾にも似た感情がアレンの中に湧き出ていた。
同時に雄茎から新たな蜜が溢れ、てらてらと濡れ光る竿を更に濡らしていく。
こちらを労るように撫でてくる手も、アレンの反応を見つめている黒い瞳も、どこまでも優しい。
出来るならばこのまま身を委ねてしまいたいが、己の身の上を自覚すればするほどできなかった。
なのに身体は意思に反して快楽に貪欲で、無意識にレオの腰に脚を絡める。
「っ……!」
小さくレオが息を呑み、ぎりりと奥歯を噛み締める音がした。
「あ、あぁぁ……!?」
どちゅん、と長く太い先端が力強く最奥を叩く。
その拍子に一際甘い嬌声が上がり、はしたなく蜜を零している雄が震えた。
こちらをじっと見つめながら緩やかに打ち付けられていた抽挿は、がつがつと獣がするようなそれに変わる。
「ぁ、や……ゃ、も……それ、っ……!」
自ら脚を絡めた事が原因だとは露ほども分かっておらず、ただただ止めて欲しくてアレンは幼い子どものように首を振る。
突然豹変してしまった男が怖いのに、もっともっとと求めている自分が居た。
目の前が白く染まっていく感覚が怖くて、アレンはレオの首筋に力なく抱き着く。
するりと尻尾の先端がレオの腕を掠め、小さく声が漏れる。
どこもかしこも敏感になっているためか、意識していなくとも唇からはあえかな喘ぎが零れてしまう。
「っ、あぁ──!」
一際強く突き上げられ、身体の奥深くが肉槍を放すまいと収縮する。
同時に雄茎からぴゅくりと透明に近い精が溢れ、アレンの薄く白い腹に掛かった。
「く、っ……!」
押し殺した声と共にびくりとレオの身体が大きく打ち震え、熱い飛沫が最奥へと打ち付けられる。
どくどくと狂おしいほど放たれるそれは留まるところを知らず、しかし最後の一滴まで余すことなく呑み込んだ。
「は、っ……は……っ、ぁ」
まだ悦楽の抜け切らない身体をベッドに預け、荒く息を吸って吐いてを繰り返す。
雄槍は精を放ったばかりだというのにすぐに芯を持ち、腹に収まっている。
まだ終わらないかもしれない──そんな恐怖にも似た期待をした時、レオは顔を俯けたまま言った。
「──悪い」
「っ、え」
低く短い声が聞こえると同時に、ぐいと片脚を持ち上げられた。
「ひ、ぁっ……!?」
ベッドに組み敷かれているだけならばまだしも、繋がったままの体勢ではすべてが見えてしまうだろう。
体勢が変わった事で深くまで挿入され、じわじわと気持ちのいい波がまたやってくる。
精を放ったばかりでふるりと震える雄茎も、レオのものを美味そうに咥え込む後孔も、アレンにはどう見えているのか分からない。
ただ、太腿をしっかりと抱え込まれて肩に担ぎ上げられては容易に反抗などできなかった。
かっと羞恥で染まる頬はそのままに、アレンは戸惑いを孕んだ瞳をレオに向ける。
しかしレオはどこ吹く風といったふうに顔を上げると、ゆっくりと片頬に笑みを浮かべる。
「お前が先に煽ったんだ。……だから」
恨むなら自分を恨め、と聞いた事がないほどの冷たい声が耳に届いた。
「なん、……っ」
なぜそうなるのか、と尋ねようとした言葉はすぐに激しくなった抽挿に掻き消えてしまう。
一度精を放っただけでは到底足りないようで、初めは緩やかに次第に最奥を強く突き上げられる。
先程よりもずっと強く深い律動にベッドが悲鳴を上げ、アレンが泣き出すまで休むことなく揺さぶられた。
他の獣人たちの住処と似た造りをした我が家には、あまり物が置いていない。
ある子どもの家に遊びに行った時、自分達の家には必要最低限のものしかないと気付いたのだ。
それまでアレンは何も疑問に持たなかったが、少し年上の草食系獣人の男の子が言った。
『アレンの家、ケチなんだなぁ』
悪気があって言ったのではないと分かっていた。
その子は思ったことをすぐに言う性格で、初めて会った時は最初こそびっくりしたものの、仲良くなるのに時間は掛からなかった。
互いの家に遊びに行き、時には他の子どもも合わせてスラム街にある小ぢんまりとした広場で遊ぶ時もあった。
少し口が悪いが、その子のことは嫌いではない。
現に今もその子の家で、知り合いの大人に貰ったという玩具で遊んでいたのだ。
普段ならば右から左へ聞き逃すのに、この時ばかりはそれができなかった。
『かあさんは、そんなんじゃない!』
その子の言った意味は分からなかったが、優しくて大好きな母を馬鹿にされたようで悔しかった。
アレンは手に持っていた綺麗な石を床に投げ付け、半ば飛び出すようにしてその子の家を出た。
家に帰るとアンナが料理を作っている最中で、ぼろぼろと涙を零して帰宅した息子の様子に慌てて目線を合わせてくる。
『どうしたんだ、そんなに泣いて。……何があったんだい』
心配そうに下げられた眉も、こちらの言葉を待っている瞳も、優しい母のそれだ。
しゃくり上げながら涙で濡れた瞳で周囲を見回せば、その子の家とは違って我が家には物がほとんどなかった。
まるでいつでも逃げ出せるように、とでもいうかのようで更に涙が止まらなくなる。
それ即ち、いつか唐突に生まれ育ったスラムを出ていく事を暗示していた。
『なんで、おれの……いえは』
そうぽつりと零すと幼いアレンの手を握り、アンナがいつになく真剣な瞳で言った。
『──いいかい、アレン。このことは母さんと二人だけしか知らないんだ。絶対に内緒にするんだよ』
『ないしょ……?』
いつになく真剣なアンナの表情に、アレンは小さく口の中で呟いた。
一日を無事に生きる事がどんなに困難でも、草食系獣人の中に『異質な肉食系獣人が居る』と外で心無い言葉を浴びせられた時も、アンナは気丈に振る舞っていた。
だというのに今アレンの目の前にいる母の瞳には、うっすらと涙の膜が張っている。
どんな時も泣き言を言わず、むしろアレンが泣いてばかりで呆れられた時でも、だ。
『もし誰かに言ってしまったら、あんたの命が危ない──って言ってもまだ分からないか』
アレンが首を傾げると、アンナは苦笑した。
その拍子に目尻から涙が一筋落ち、ゆっくりと頬を伝っていく。
『……けれどね。この先、アレンを大事に慈しんで護ってくれる人が現れる。母さんはそう思うよ』
なぜ突然そんなことを言うのか、なぜ泣いているのか、その時のアレンには訊ねられなかった。
しかしアンナの笑顔は普段よりもずっと美しくて、綺麗だったのを覚えている。
こちらを温かく包み込んでくれる笑みにも、いつ何時も優しく諭してくれる声音にも、もう一度出会う事は叶わないのだが。
「あ、ぁ……!?」
脳裏を刺すほどの鋭い痛みを下肢に感じ、そこでアレンの意識が現実に引き戻される。
「──こら、逃げるなって言ったろ」
無意識に上へ逃げようとしたところを長く大きな手の平に捕らえられ、跡が付くほど強く腰を摑み直された。
その拍子に腹の奥深くを埋める雄槍が脈動し、その大きさと力強さをまざまざと感じてアレンは小さく喘いだ。
「ゃ、やだ……も、むり……だ、って」
懸命に振り絞った声は枯れ果て、ほとんど言葉になっていなかった。
二度もレオの手によって吐精した後、やがてレオは低く柔らかな声で囁かれた。
『お前を抱いてもいいか……?』
絶頂に追いやられた思考は、それを理解することを放棄していた。
自分でも気付かないうちに頷いてしまったのか、ややあって幼い子どもの腕はありそうな雄根が、硬く閉ざされた蕾を何度も往復する。
唇や手とは比べ物にならないほど熱く、いくら慣らされているとはいえ指先よりも質量のあるそれは容易に入らない。
殊更ゆっくりと後孔をこじ開けられる感覚も、自分以外の熱が未知なる場所へ挿入される不快感も、出来るならば一生経験したくなかった。
レオが部屋に入ってくるまでに逃げていたら、と考えてももう遅い事などとうに分かっている。
ただ、口付ける前に『嫌なら突き放せ』とレオは言ったのだ。
抵抗せず口付けを受け入れた自分にも非があり、今こうなっているのだから自業自得とも言えた。
『ぁ、は……っう』
たっぷりと時間を掛けて先端を呑み込むと、同時に息苦しさと鋭く強い痛みを感じた。
息をしようとするだけであまりの苦しさにそこで意識が途切れ、気付いたのがつい先程だ。
目覚めるといつの間にかレオのそれを根本まで咥え込んでおり、脳に直接感じるほどの鈍痛が頭の中を支配していた。
痛みと苦しさで霞のかった目線の先には、レオの顔がぼんやりと映っている。
いくつも玉のような汗を額に浮かべ、時折苦しげに喉が鳴っていた。
「アレン……っ」
紡がれた自身の名前すら低く掠れていて、しかしいつになく艶を含んでいる。
「っ」
ぴく、と耳が小さく震えた。
耳元で囁かれてもいないのに、レオの表情が普段とは違うからか意思に反して身体が違う動きをする。
「っこら、……あんまり締めるな」
レオが苦しげに眉を引き絞り、低く言った。
「しめ、る……?」
自分が何をしたのかとんと分からず、アレンは同じ言葉を口の中で繰り返す。
すると柔らかく己の脇腹を撫でる何かを感じ、ゆるゆるとそちらに視線を向けた。
見ればレオの黒く艶やかな尻尾が、左右へ緩く揺れ動いているのが視界に入る。
「……すまん、分かってないんだったな」
くっと小さく笑うと、レオはゆっくりとした動きで腰を引いた。
「ふ、あっ……!?」
腹の奥を埋め尽くす肉槍が引き抜かれ、しかしすぐに奥深くまで侵入する。
アレンの意思に反して肉壁は歓喜に震え、侵入者を逃がすまいと絡み付く。
じわじわと痛みではない快感が脳を支配し、目の前が白く霞む感覚があった。
同時に腹を濡らすものを感じ、また精を放ってしまったのだと頭の片隅で思う。
(また、おれ……)
二度だけならず三度も──いや、もっとだと思い直す。
正確に数えていないから分からないが、ずっと雲の上にいる心地にされていた。
「は、っ……」
レオの小さな吐息が聞こえ、ややあってアレンの顔の左右に手を突いたかと思えば、端正な顔立ちが間近に迫った。
至近距離で見た表情は苦しげで、アレンだけでなくレオも同じように辛いのだと察する。
けれど、それ以上の感情は浮かんでこなかった。
なぜ自分がこんな思いをしなければならないのか、何度となく心の中で呟いた言葉をもう一度落とす。
「っ、ん……ぅ」
唇に温かな熱が触れたかと思えば、ほとんど噛み付くように口付けられた。
すぐに唇を割って侵入した舌先は熱く濡れ、未だ怯えるアレンのそれを絡め取る。
ちゅう、とわざと音を立てて吸われると、次第に頬が熱を持った。
時折頬を撫でていた大きな手の平が耳を掠め、あえかな声が漏れた。
「ふ、っ……ぁ、う」
ふわふわとした耳の中に指先が入り、擽るように撫でられる。
そんなところに指を入れられるなど初めてで、しかしじんわりとした瘙痒感が快楽に変わるのはすぐだった。
喘ぎはレオの口の中に吸い込まれ、代わりに飲み込み切れずに溢れた唾液が顎を伝う。
「ん、っん……ふ、ぅ」
自分よりもずっと大きな身体に組み敷かれ、恐怖と苦しさも相俟って息ができない。
しかし口付けられている間もレオは緩く腰を動かし、アレンの柔襞がうねる場所を突き上げる。
止めて欲しいのにもっとして欲しい、という矛盾にも似た感情がアレンの中に湧き出ていた。
同時に雄茎から新たな蜜が溢れ、てらてらと濡れ光る竿を更に濡らしていく。
こちらを労るように撫でてくる手も、アレンの反応を見つめている黒い瞳も、どこまでも優しい。
出来るならばこのまま身を委ねてしまいたいが、己の身の上を自覚すればするほどできなかった。
なのに身体は意思に反して快楽に貪欲で、無意識にレオの腰に脚を絡める。
「っ……!」
小さくレオが息を呑み、ぎりりと奥歯を噛み締める音がした。
「あ、あぁぁ……!?」
どちゅん、と長く太い先端が力強く最奥を叩く。
その拍子に一際甘い嬌声が上がり、はしたなく蜜を零している雄が震えた。
こちらをじっと見つめながら緩やかに打ち付けられていた抽挿は、がつがつと獣がするようなそれに変わる。
「ぁ、や……ゃ、も……それ、っ……!」
自ら脚を絡めた事が原因だとは露ほども分かっておらず、ただただ止めて欲しくてアレンは幼い子どものように首を振る。
突然豹変してしまった男が怖いのに、もっともっとと求めている自分が居た。
目の前が白く染まっていく感覚が怖くて、アレンはレオの首筋に力なく抱き着く。
するりと尻尾の先端がレオの腕を掠め、小さく声が漏れる。
どこもかしこも敏感になっているためか、意識していなくとも唇からはあえかな喘ぎが零れてしまう。
「っ、あぁ──!」
一際強く突き上げられ、身体の奥深くが肉槍を放すまいと収縮する。
同時に雄茎からぴゅくりと透明に近い精が溢れ、アレンの薄く白い腹に掛かった。
「く、っ……!」
押し殺した声と共にびくりとレオの身体が大きく打ち震え、熱い飛沫が最奥へと打ち付けられる。
どくどくと狂おしいほど放たれるそれは留まるところを知らず、しかし最後の一滴まで余すことなく呑み込んだ。
「は、っ……は……っ、ぁ」
まだ悦楽の抜け切らない身体をベッドに預け、荒く息を吸って吐いてを繰り返す。
雄槍は精を放ったばかりだというのにすぐに芯を持ち、腹に収まっている。
まだ終わらないかもしれない──そんな恐怖にも似た期待をした時、レオは顔を俯けたまま言った。
「──悪い」
「っ、え」
低く短い声が聞こえると同時に、ぐいと片脚を持ち上げられた。
「ひ、ぁっ……!?」
ベッドに組み敷かれているだけならばまだしも、繋がったままの体勢ではすべてが見えてしまうだろう。
体勢が変わった事で深くまで挿入され、じわじわと気持ちのいい波がまたやってくる。
精を放ったばかりでふるりと震える雄茎も、レオのものを美味そうに咥え込む後孔も、アレンにはどう見えているのか分からない。
ただ、太腿をしっかりと抱え込まれて肩に担ぎ上げられては容易に反抗などできなかった。
かっと羞恥で染まる頬はそのままに、アレンは戸惑いを孕んだ瞳をレオに向ける。
しかしレオはどこ吹く風といったふうに顔を上げると、ゆっくりと片頬に笑みを浮かべる。
「お前が先に煽ったんだ。……だから」
恨むなら自分を恨め、と聞いた事がないほどの冷たい声が耳に届いた。
「なん、……っ」
なぜそうなるのか、と尋ねようとした言葉はすぐに激しくなった抽挿に掻き消えてしまう。
一度精を放っただけでは到底足りないようで、初めは緩やかに次第に最奥を強く突き上げられる。
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