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第三部 五章
誰よりも愛する人 7 ★
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自室の前に居たもう一人の衛兵はおらず、配置を解かれたようだった。
「ありがとう、もう戻ってくれ」
この分だとエルが部屋に居るのは確実で、着いてきてくれた衛兵に礼を述べる。
「は、では私はこれで」
ぺこりと一礼し、衛兵が廊下の影に消える。
アルトは短く息を整えてから扉を開けた。
すぐに長身の男の姿が見え、あまり本を読まないというエルには珍しく本棚を物色している。
「エルヴィズ」
小声で呼び掛けると、ゆっくりと水色の瞳と視線が交わった。
「……朔真」
どこかほっとした表情で名を呼ばれ、少し違和感を持ちつつも傍に駆け寄る。
「さっきお前の部屋に行ってみたんだけど、いないから。……何持ってるんだ?」
「ああ、これ?」
カランと小さな音を立てて目の前に差し出されたものに、小さく息を呑んだ。
「少し飛び出してたから、一回読んでみようと思って。……そしたらこれが奥にあったんだけど、何か知ってる?」
エルが持っていたものは本ではなかった。
差し出されたものは手の平に収まるほどの缶で、その中には辺境伯らが来る前に街で買った飴が入っている。
ネロがいなくなった、と泣くジョシュアを笑顔にしたくて、つい昨日その中から一つあげたのだ。
「俺に隠し事、してたよね?」
にっこりと微笑みながら問われ、意思に反してひくりと頬が引き攣る。
「あ、えっ……と」
他の本はきっちりと並べられているのに、数冊が不自然なほど目立っていたためおかしいと思ったらしい。
「そ、それよりさ! これ、ネロから貰ったんだ」
(やっぱり怒ってる……!)
なんとか別の話題にすり替え変えたくて、アルトは懐から小瓶を取り出した。
自分でも強引だと思ったが、このまま黙っていてもいい事はないと学んでいる。
「また貴方は……そういうところ、悪い癖だよ」
はぁ、と呆れた溜め息を吐いたものの、一応は聞いてくれるらしい。
エルは缶を本棚の空いているスペースに置き、小瓶を手に取った。
「どの事か分からないけど、昨日のお詫びって言ってた。あと、俺にとっていいものだって」
ネロが言っていた言葉を一言一句思い出しながら、しかしエルの表情を伺いつつ唇を動かす。
「ふぅん」
小瓶を眼前に持ってくると、エルはややあって眉を顰めた。
「──でも貴方に飲ませる訳ないだろう」
しばらく眺めるとエルは蓋を開け、一息に呷った。
「ちょ、エルっ……!?」
静止の声を上げるも少量だったため、すぐに喉が上下する。
「だ、大丈夫、なのか……?」
恐る恐る訊ねてもエルは黙ったままで、口元に手を添えたまま微動だにしない。
「……なるほど」
「え、っ」
数秒にも満たない沈黙の後、ぼそりと呟いた。
その声音は掠れ、いつになく苦しげだ。
「だからあいつは……ああ、それで」
エルはぶつぶつと何事かを口の中で呟き、やがて顔を上げたかと思えば退室しようと踵を返す。
その手には小瓶を持ったままで、それが何か教える気がないように見受けられた。
「どうしたんだよ」
すんでのところでエルの服の裾を摑み、慌てて問い掛ける。
このまま出ていかれては気になってしまい、せっかく自分を思ってくれたネロにも申し訳ない。
「……なんでもない。それとごめん、今日はここで寝て」
その声はどこか上擦っており、しかしこちらの顔を見ずに部屋を出ていくなど有り得ない。
普段ならばしっかりと目を合わせて話してくれるのに、小瓶の中身を飲んでから挙動不審だった。
「なんでもない訳ないだろ、なんだったんだ、あれは」
もし数ヶ月前のようにエルが倒れでもしたら、と不安ばかりが募る。
「……渡された時、あいつは確かに『いいもの』って言った?」
「え、ああ」
ふと聞こえた掠れた声に反射的に頷くと、エルは自嘲気味に笑った。
「毒だったら普通より耐性はあるんだけど……俺でこれだし、朔真はもっと駄目だね」
「なに、が……?」
独り言のような呟きに小さく返すと、ややあってエルが振り返った。
「っ」
水色の瞳の奥には情欲の炎が揺らめき、普段は弧を描く柳眉は苦しそうに顰められている。
そして何かに耐えるようにきつく握り締められた両手で、嫌でも察してしまった。
(媚薬……? いや、まさか)
創り物だと思っていたが、本当にそんなものがあるのだろうか。
有り得ないと思おうとしても、エルの息がかすかに上がっているのに加え、先程の言葉を聞いては疑う余地など無いに等しかった。
「このまま、貴方の傍にいたら……きっと、止まれない」
途切れ途切れに紡がれる言葉一つ取っても苦しそうで、見ているこちらの胸まで締め付けられるようだった。
「違う、そもそも俺が断れば良かっただけなんだ」
アルトは緩く首を振り、そっと瞼を伏せる。
もう少し強く固辞していれば、手渡された後どこかへ捨てていれば、しかし一番はエルに小瓶を見せなければよかった。
考えても遅いことなどとうに分かっているが、そう思わずにはいられない。
血が滲むほど強く握り締めている手に触れると、想像以上の熱さに少し驚く。
びくりとかすかに震えたものの、拒否されていないことに安堵する。
(俺が悪いから)
「見てるだけじゃ……嫌だ」
自分にこそ元凶があるため、愛しい男の中に荒れ狂うものを少しでも取り除きたい。
そんな思いを言葉に込めて言うと、エルは軽く目を眇めた。
「……後から止めてって言っても、嫌って言っても聞けないんだよ。それでも、いいの……?」
ゆっくりと熱っぽい瞳が間近に迫り、アルトは無意識に頷く。
元よりエルにされて嫌なことなど何一つなく、すべて受け入れてきたのだ。
先日酷くされた時もむしろ悦んでしまっていたため、今更だった。
「──そう」
短い相槌が落ちると同時に、頭に衝撃が走った。
「痛っ……ぅ、あっ」
扉に押し付けられたのを理解したと同時に、痛みに顔を顰める。
口を開く間もなく温かな唇が己のそれに触れ、すぐに唇や手よりもずっと熱い舌先が侵入した。
「ん、っ……ふぅ」
舌を絡め取られ、きつく吸われる。
かと思えば上顎を掠め、執拗に舐められた。
たったそれだけでぞくぞくと背筋が震え、けれど見よう見まねでエルの舌を吸って上顎を擽った。
「ふ、っ……」
エルの小さな喘ぎが唇の端から漏れ、優越感に頭の中が支配された。
肉厚な舌を伝ってほのかに甘い唾液が口腔に流れ込むのを感じ、無意識に嚥下する。
その生々しさに喉の奥が焼けるような錯覚に陥り、頬が火照った。
もっともっとと互いに貪り合い、濡れた舌先が口腔で蠢く度、飲み切れなかった唾液が顎を伝って首筋に流れる。
「はっ……ぁ、っ」
鼻にかかった甘い吐息が零れ、酸素を求めて唇を解くもすぐに深く唇を重ね合わせられた。
同時に下腹部に熱く硬いものが押し付けられ、ぴくりと肩が跳ねる。
その大きさと脈打つものが何なのか言われずとも分かり、否が応でも感じてしまう。
(エル、の……もう)
キスだけでこうなっているのは媚薬のせいなのか、と思ったがそれは己も同じだった。
エルのそこは今すぐにでも入りたいとでもいうように、力強く脈打っている。
服の上からでもはち切れんばかりの脈動を感じ、無意識に腰か揺れるのを抑えられない。
「朔真……さく、ま」
口付けの合間に名を呼ばれ、腹の奥がずくんと収縮する。
同時に先端からじわりと蜜が溢れ、下着を濡らした。
頬に添えられていた手はいつの間にか身体を這い回り、半ば強引にシャツのボタンを外される。
かすかに開いた首筋に吸い付かれ、熱い舌先が触れたかと思えば小さな痛みが走った。
「やぁ、っ……」
こちらのことなど気遣わなくていいのに、拒否しようと伸ばした手はすぐに長い指先に絡め取られた。
ぎゅうと深く握られ、扉に両手を縫い止められる。
動けないようがっちりと固定され、もう一度唇を塞がれた。
ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて触れて離れてを繰り返される。
先程に比べて短く優しい口付けは、エルの最後の理性がそうさせているのか、時折頬にかかる吐息が熱い。
(我慢、してるのか……?)
媚薬を飲んだからといって、理性を無くしてもこちらが怒ることなど無い。
だというのにエルは懸命に耐え、あくまで傷付けないようにしてくれているのだ。
今しがた『嫌』と言ってしまったため、その言葉をそのまま受け止めた場合もあるのだろう。
両手が使えない代わりに、アルトはじっと目の前の男を見つめて口を開いた。
真正面で見上げた顔はずっと苦しそうで、こちらの胸まできゅうと締め付けられる。
「も、いいから。お前の、好きに……」
「っ……!」
すると最後まで言い終える前に、エルはぎりりと奥歯を噛み締め、下着ごとトラウザーズをずり下ろされた。
ふるりと透明な蜜をまとった雄がまろび出ると同時に、ぐいと片脚を抱え上げられる。
「ぁ、あっ……」
仕掛けたのは他でもない自分なのに、ひゅうと図らずも喉が鳴った。
秘められた場所に熱く滾った怒張が添えられたかと思えば、ぬるぬると浅い場所を往復する。
「──ごめん」
艶を帯びた掠れた声が聞こえるとともに太腿をがっちりと摑まれ、一気に深くまで穿たれた。
あまり慣らされていないそこは痛みこそあったものの、エルの長大な雄槍を根本まで呑み込んだ。
「あっ……!?」
ずぷん、と質量のあるものが一息に挿入され、大きな刺激に目の前が白く爆ぜる。
それと同時に熱い飛沫が最奥に打ち付けられ、アルトは目を瞬かせた。
「っ、エル、ヴィズ……?」
「は、っ……ぁ」
首筋を柔らかな黒髪が撫で、艶を含んだ吐息が何度も吐き出される。
すぐには止まる気配のない白濁に、達したばかりの雄が震え、新たな蜜が溢れた。
「ごめん、余裕……なく、て」
繋がったままゆるゆると腰を回され、呑みきれなかった白濁が床に落ちる。
緩く出し入れされる肉槍は精を放ったばかりだというのに、瞬く間に強度を増した。
「だい、じょ……ぶ、だから」
それが普段よりも大きく感じ、アルトはあえかな声はそのままにエルの頭を撫でる。
突然挿入されたため後孔がじんじんと痛んだが、エルが少しでも楽になるのならば易いものだ。
抱え上げられた脚をエルの腰に回し、くいと引き寄せる。
「ぁ、っん……」
その分最奥を穿つ屹立が更に奥へ入り込み、甘い吐息が零れた。
「どうして、貴方は……そうやって……っ!」
ぎりりと奥歯を噛み締めてエルは一度強く瞼を閉じると、もう片方の脚に手を掛ける。
ぐらりと身体が傾き、アルトは慌ててエルの首筋に抱き着いた。
「あ、あぁっ……!?」
その拍子に、ぐぅっと内臓を押し潰されるほどの深い感覚があった。
しかしそれ以上に強い快楽がやってきて、ひっきりなしに嬌声が漏れる。
痛いほど摑まれた太腿に、容赦のない突き上げに、中心からだらだらと透明な蜜が溢れた。
「ゃ、っ……あっ、待って……まっ、てぇ……!」
どちゅどちゅと最奥を抉る肉槍は力強く、未知の感覚に肌がぞわりと粟立つ。
強過ぎる快楽を逃がそうとしても、どうしたらいいのか分からず、ただただ与えられる激しい抽挿を享受するしかできない。
愛しい男の腰に両脚を絡めているのにも気付かず、エルの背中を無我夢中で引っ掻いた。
「朔真、もう……っ」
甘さを含んだ吐息とともに耳朶に唇が寄せられ、柔く食まれた。
「あ、っ……ゃ、おれ……また……」
かすかな刺激にすら身体が震え、爪先が丸まる。
がつがつと腰が柔肉に打ち付けられる度、視界がぐにゃりと歪む。
狂おしいほどの法悦にいくつもの熱い雫が頬を伝い、しかし止めて欲しいとは思わなかった。
「ふ、ぁあ……!」
どちゅん、と一際強く突き上げられ、その後を追って目の前を火花が爆ぜる。
がくがくと腰に回した脚が震え、視界が次第に白く染まっていく。
「朔真……っ」
同時に腹の奥深くに熱い飛沫が迸った。
二度目だというのに先程よりもずっと長く吐き出され、その刺激も相俟ってしばらく高みから降りられない。
「は、っ……ぁ」
太腿を抱え直され、耳元に甘く掠れた吐息が掛かる。
それでもまだ足りないのか、エルは小さな声で『ごめん』と何度目とも分からない謝罪をした。
「貴方がさっき煽った分……今日はもう、離してやれない」
「っ……」
びゅくびゅくと愛しい男の子種を享受しながら告げられるには、あまりに愛おしい願いだった。
アルトは気だるい腕を叱咤して、快楽で赤くなっている頬にそっと触れる。
「おれ……エルにされるの、すき……だよ」
にこりと淡く笑みを浮かべ、かすかに開いている唇にそっと口付ける。
エルは小さく目を見開き、しかしすぐに熱く濡れた舌が入り込んだ。
「ん、ふ……っぅ」
深く口付け合ったたまま律動が始まり、ベッドの上に降ろされるまでそう時間は掛からなかった。
何度となく熱く濃い精を受け止め、アルトが気絶するように眠った後もエルは一度たりとて抽挿を止めなかった。
だからかすぐに覚醒し、数え切れないほどの絶頂に追いやられた。
あまりの気持ち良さで潮を吹いても、こちらが『もう出ない』と泣き喘いでも、忠告された通り止めてくれない。
どれだけ受け止めたのか分からない後孔から白濁が溢れ、淫猥な水音が響こうとエルが離してくれる気配はなかった。
窓の外が白み始めるまで、アルトは愛しい男の腕に抱かれていた。
「ありがとう、もう戻ってくれ」
この分だとエルが部屋に居るのは確実で、着いてきてくれた衛兵に礼を述べる。
「は、では私はこれで」
ぺこりと一礼し、衛兵が廊下の影に消える。
アルトは短く息を整えてから扉を開けた。
すぐに長身の男の姿が見え、あまり本を読まないというエルには珍しく本棚を物色している。
「エルヴィズ」
小声で呼び掛けると、ゆっくりと水色の瞳と視線が交わった。
「……朔真」
どこかほっとした表情で名を呼ばれ、少し違和感を持ちつつも傍に駆け寄る。
「さっきお前の部屋に行ってみたんだけど、いないから。……何持ってるんだ?」
「ああ、これ?」
カランと小さな音を立てて目の前に差し出されたものに、小さく息を呑んだ。
「少し飛び出してたから、一回読んでみようと思って。……そしたらこれが奥にあったんだけど、何か知ってる?」
エルが持っていたものは本ではなかった。
差し出されたものは手の平に収まるほどの缶で、その中には辺境伯らが来る前に街で買った飴が入っている。
ネロがいなくなった、と泣くジョシュアを笑顔にしたくて、つい昨日その中から一つあげたのだ。
「俺に隠し事、してたよね?」
にっこりと微笑みながら問われ、意思に反してひくりと頬が引き攣る。
「あ、えっ……と」
他の本はきっちりと並べられているのに、数冊が不自然なほど目立っていたためおかしいと思ったらしい。
「そ、それよりさ! これ、ネロから貰ったんだ」
(やっぱり怒ってる……!)
なんとか別の話題にすり替え変えたくて、アルトは懐から小瓶を取り出した。
自分でも強引だと思ったが、このまま黙っていてもいい事はないと学んでいる。
「また貴方は……そういうところ、悪い癖だよ」
はぁ、と呆れた溜め息を吐いたものの、一応は聞いてくれるらしい。
エルは缶を本棚の空いているスペースに置き、小瓶を手に取った。
「どの事か分からないけど、昨日のお詫びって言ってた。あと、俺にとっていいものだって」
ネロが言っていた言葉を一言一句思い出しながら、しかしエルの表情を伺いつつ唇を動かす。
「ふぅん」
小瓶を眼前に持ってくると、エルはややあって眉を顰めた。
「──でも貴方に飲ませる訳ないだろう」
しばらく眺めるとエルは蓋を開け、一息に呷った。
「ちょ、エルっ……!?」
静止の声を上げるも少量だったため、すぐに喉が上下する。
「だ、大丈夫、なのか……?」
恐る恐る訊ねてもエルは黙ったままで、口元に手を添えたまま微動だにしない。
「……なるほど」
「え、っ」
数秒にも満たない沈黙の後、ぼそりと呟いた。
その声音は掠れ、いつになく苦しげだ。
「だからあいつは……ああ、それで」
エルはぶつぶつと何事かを口の中で呟き、やがて顔を上げたかと思えば退室しようと踵を返す。
その手には小瓶を持ったままで、それが何か教える気がないように見受けられた。
「どうしたんだよ」
すんでのところでエルの服の裾を摑み、慌てて問い掛ける。
このまま出ていかれては気になってしまい、せっかく自分を思ってくれたネロにも申し訳ない。
「……なんでもない。それとごめん、今日はここで寝て」
その声はどこか上擦っており、しかしこちらの顔を見ずに部屋を出ていくなど有り得ない。
普段ならばしっかりと目を合わせて話してくれるのに、小瓶の中身を飲んでから挙動不審だった。
「なんでもない訳ないだろ、なんだったんだ、あれは」
もし数ヶ月前のようにエルが倒れでもしたら、と不安ばかりが募る。
「……渡された時、あいつは確かに『いいもの』って言った?」
「え、ああ」
ふと聞こえた掠れた声に反射的に頷くと、エルは自嘲気味に笑った。
「毒だったら普通より耐性はあるんだけど……俺でこれだし、朔真はもっと駄目だね」
「なに、が……?」
独り言のような呟きに小さく返すと、ややあってエルが振り返った。
「っ」
水色の瞳の奥には情欲の炎が揺らめき、普段は弧を描く柳眉は苦しそうに顰められている。
そして何かに耐えるようにきつく握り締められた両手で、嫌でも察してしまった。
(媚薬……? いや、まさか)
創り物だと思っていたが、本当にそんなものがあるのだろうか。
有り得ないと思おうとしても、エルの息がかすかに上がっているのに加え、先程の言葉を聞いては疑う余地など無いに等しかった。
「このまま、貴方の傍にいたら……きっと、止まれない」
途切れ途切れに紡がれる言葉一つ取っても苦しそうで、見ているこちらの胸まで締め付けられるようだった。
「違う、そもそも俺が断れば良かっただけなんだ」
アルトは緩く首を振り、そっと瞼を伏せる。
もう少し強く固辞していれば、手渡された後どこかへ捨てていれば、しかし一番はエルに小瓶を見せなければよかった。
考えても遅いことなどとうに分かっているが、そう思わずにはいられない。
血が滲むほど強く握り締めている手に触れると、想像以上の熱さに少し驚く。
びくりとかすかに震えたものの、拒否されていないことに安堵する。
(俺が悪いから)
「見てるだけじゃ……嫌だ」
自分にこそ元凶があるため、愛しい男の中に荒れ狂うものを少しでも取り除きたい。
そんな思いを言葉に込めて言うと、エルは軽く目を眇めた。
「……後から止めてって言っても、嫌って言っても聞けないんだよ。それでも、いいの……?」
ゆっくりと熱っぽい瞳が間近に迫り、アルトは無意識に頷く。
元よりエルにされて嫌なことなど何一つなく、すべて受け入れてきたのだ。
先日酷くされた時もむしろ悦んでしまっていたため、今更だった。
「──そう」
短い相槌が落ちると同時に、頭に衝撃が走った。
「痛っ……ぅ、あっ」
扉に押し付けられたのを理解したと同時に、痛みに顔を顰める。
口を開く間もなく温かな唇が己のそれに触れ、すぐに唇や手よりもずっと熱い舌先が侵入した。
「ん、っ……ふぅ」
舌を絡め取られ、きつく吸われる。
かと思えば上顎を掠め、執拗に舐められた。
たったそれだけでぞくぞくと背筋が震え、けれど見よう見まねでエルの舌を吸って上顎を擽った。
「ふ、っ……」
エルの小さな喘ぎが唇の端から漏れ、優越感に頭の中が支配された。
肉厚な舌を伝ってほのかに甘い唾液が口腔に流れ込むのを感じ、無意識に嚥下する。
その生々しさに喉の奥が焼けるような錯覚に陥り、頬が火照った。
もっともっとと互いに貪り合い、濡れた舌先が口腔で蠢く度、飲み切れなかった唾液が顎を伝って首筋に流れる。
「はっ……ぁ、っ」
鼻にかかった甘い吐息が零れ、酸素を求めて唇を解くもすぐに深く唇を重ね合わせられた。
同時に下腹部に熱く硬いものが押し付けられ、ぴくりと肩が跳ねる。
その大きさと脈打つものが何なのか言われずとも分かり、否が応でも感じてしまう。
(エル、の……もう)
キスだけでこうなっているのは媚薬のせいなのか、と思ったがそれは己も同じだった。
エルのそこは今すぐにでも入りたいとでもいうように、力強く脈打っている。
服の上からでもはち切れんばかりの脈動を感じ、無意識に腰か揺れるのを抑えられない。
「朔真……さく、ま」
口付けの合間に名を呼ばれ、腹の奥がずくんと収縮する。
同時に先端からじわりと蜜が溢れ、下着を濡らした。
頬に添えられていた手はいつの間にか身体を這い回り、半ば強引にシャツのボタンを外される。
かすかに開いた首筋に吸い付かれ、熱い舌先が触れたかと思えば小さな痛みが走った。
「やぁ、っ……」
こちらのことなど気遣わなくていいのに、拒否しようと伸ばした手はすぐに長い指先に絡め取られた。
ぎゅうと深く握られ、扉に両手を縫い止められる。
動けないようがっちりと固定され、もう一度唇を塞がれた。
ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて触れて離れてを繰り返される。
先程に比べて短く優しい口付けは、エルの最後の理性がそうさせているのか、時折頬にかかる吐息が熱い。
(我慢、してるのか……?)
媚薬を飲んだからといって、理性を無くしてもこちらが怒ることなど無い。
だというのにエルは懸命に耐え、あくまで傷付けないようにしてくれているのだ。
今しがた『嫌』と言ってしまったため、その言葉をそのまま受け止めた場合もあるのだろう。
両手が使えない代わりに、アルトはじっと目の前の男を見つめて口を開いた。
真正面で見上げた顔はずっと苦しそうで、こちらの胸まできゅうと締め付けられる。
「も、いいから。お前の、好きに……」
「っ……!」
すると最後まで言い終える前に、エルはぎりりと奥歯を噛み締め、下着ごとトラウザーズをずり下ろされた。
ふるりと透明な蜜をまとった雄がまろび出ると同時に、ぐいと片脚を抱え上げられる。
「ぁ、あっ……」
仕掛けたのは他でもない自分なのに、ひゅうと図らずも喉が鳴った。
秘められた場所に熱く滾った怒張が添えられたかと思えば、ぬるぬると浅い場所を往復する。
「──ごめん」
艶を帯びた掠れた声が聞こえるとともに太腿をがっちりと摑まれ、一気に深くまで穿たれた。
あまり慣らされていないそこは痛みこそあったものの、エルの長大な雄槍を根本まで呑み込んだ。
「あっ……!?」
ずぷん、と質量のあるものが一息に挿入され、大きな刺激に目の前が白く爆ぜる。
それと同時に熱い飛沫が最奥に打ち付けられ、アルトは目を瞬かせた。
「っ、エル、ヴィズ……?」
「は、っ……ぁ」
首筋を柔らかな黒髪が撫で、艶を含んだ吐息が何度も吐き出される。
すぐには止まる気配のない白濁に、達したばかりの雄が震え、新たな蜜が溢れた。
「ごめん、余裕……なく、て」
繋がったままゆるゆると腰を回され、呑みきれなかった白濁が床に落ちる。
緩く出し入れされる肉槍は精を放ったばかりだというのに、瞬く間に強度を増した。
「だい、じょ……ぶ、だから」
それが普段よりも大きく感じ、アルトはあえかな声はそのままにエルの頭を撫でる。
突然挿入されたため後孔がじんじんと痛んだが、エルが少しでも楽になるのならば易いものだ。
抱え上げられた脚をエルの腰に回し、くいと引き寄せる。
「ぁ、っん……」
その分最奥を穿つ屹立が更に奥へ入り込み、甘い吐息が零れた。
「どうして、貴方は……そうやって……っ!」
ぎりりと奥歯を噛み締めてエルは一度強く瞼を閉じると、もう片方の脚に手を掛ける。
ぐらりと身体が傾き、アルトは慌ててエルの首筋に抱き着いた。
「あ、あぁっ……!?」
その拍子に、ぐぅっと内臓を押し潰されるほどの深い感覚があった。
しかしそれ以上に強い快楽がやってきて、ひっきりなしに嬌声が漏れる。
痛いほど摑まれた太腿に、容赦のない突き上げに、中心からだらだらと透明な蜜が溢れた。
「ゃ、っ……あっ、待って……まっ、てぇ……!」
どちゅどちゅと最奥を抉る肉槍は力強く、未知の感覚に肌がぞわりと粟立つ。
強過ぎる快楽を逃がそうとしても、どうしたらいいのか分からず、ただただ与えられる激しい抽挿を享受するしかできない。
愛しい男の腰に両脚を絡めているのにも気付かず、エルの背中を無我夢中で引っ掻いた。
「朔真、もう……っ」
甘さを含んだ吐息とともに耳朶に唇が寄せられ、柔く食まれた。
「あ、っ……ゃ、おれ……また……」
かすかな刺激にすら身体が震え、爪先が丸まる。
がつがつと腰が柔肉に打ち付けられる度、視界がぐにゃりと歪む。
狂おしいほどの法悦にいくつもの熱い雫が頬を伝い、しかし止めて欲しいとは思わなかった。
「ふ、ぁあ……!」
どちゅん、と一際強く突き上げられ、その後を追って目の前を火花が爆ぜる。
がくがくと腰に回した脚が震え、視界が次第に白く染まっていく。
「朔真……っ」
同時に腹の奥深くに熱い飛沫が迸った。
二度目だというのに先程よりもずっと長く吐き出され、その刺激も相俟ってしばらく高みから降りられない。
「は、っ……ぁ」
太腿を抱え直され、耳元に甘く掠れた吐息が掛かる。
それでもまだ足りないのか、エルは小さな声で『ごめん』と何度目とも分からない謝罪をした。
「貴方がさっき煽った分……今日はもう、離してやれない」
「っ……」
びゅくびゅくと愛しい男の子種を享受しながら告げられるには、あまりに愛おしい願いだった。
アルトは気だるい腕を叱咤して、快楽で赤くなっている頬にそっと触れる。
「おれ……エルにされるの、すき……だよ」
にこりと淡く笑みを浮かべ、かすかに開いている唇にそっと口付ける。
エルは小さく目を見開き、しかしすぐに熱く濡れた舌が入り込んだ。
「ん、ふ……っぅ」
深く口付け合ったたまま律動が始まり、ベッドの上に降ろされるまでそう時間は掛からなかった。
何度となく熱く濃い精を受け止め、アルトが気絶するように眠った後もエルは一度たりとて抽挿を止めなかった。
だからかすぐに覚醒し、数え切れないほどの絶頂に追いやられた。
あまりの気持ち良さで潮を吹いても、こちらが『もう出ない』と泣き喘いでも、忠告された通り止めてくれない。
どれだけ受け止めたのか分からない後孔から白濁が溢れ、淫猥な水音が響こうとエルが離してくれる気配はなかった。
窓の外が白み始めるまで、アルトは愛しい男の腕に抱かれていた。
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そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
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