【第三部連載中】その美人、執着系攻めにつき。

月城雪華

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第三部 三章

貴方は俺のもの 4 ★

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 痛いほど心臓が脈打つ度、ベッドに座っているエルにまで聞こえやしないか気が気でない。

 しかし、それ以上にじっと見つめてくる瞳からは逃れられそうもなく、アルトは堪らず目を閉じた。

 するとエルが立ち上がる気配がし、頬に慣れ親しんだ熱が触れてくる。

「こっち見て」

 壊れ物を扱うように触れてくる指先はそのままに、冷たい声が降り掛かる。

「や、っ」

 ふる、とアルトは小さくかぶりを振った。

 強引に言うことを聞かせる事も出来るはずなのに、エルはそれをしない。

 あくまでこちらに言わせたい、させたいという心情がありありと感じられた。

 すりすりとあやすように頬を撫でてくる手の平に、そっと瞼に触れてくる指先に何をされるのか怖く、また理解したくなかった。

 今ですら羞恥でおかしくなりそうなのに、エルの前で全裸でいる事が堪らなく嫌なのだ。

 けれどエルが何を考えて己を呼び寄せたのか知りたい、と思ってしまう自分もおかしいのだと思う。

(酷くするかも、って……エルは言ったのに)

 軽い痛みであれば耐えられるが、この手つきではとても手を下すとは思えない。

 ならば何なのか考えていると、不意に低い声が響いた。

「──目を開けて前を向くんだ」

「っ、え……」

 その言葉にびくりと肩が揺れ、アルトは反射的に目を開いた。

 突然何を言いだすのか、と頭の片隅で思いながら、目の前の男に釘付けになってしまう。

 頬に手を添えたままエルは真剣な顔でこちらを見つめており、その瞳の中には潤んだ目をした己が映っていた。

「出来るよね?」

 ゆっくりと口角を上げて尋ねられ、加えて先程に比べてあまりにも優しい声で言われては反論できない。

「ゃ、……だ」

 しかしそれとこれとは別だ。

 前を向いて──即ち鏡を見ろと言っているのだ。

 そもそも、ここはただの部屋ではないと悟ってしまった。

 扉の傍には使用人が持ち込んだのか姿見が置いてあり、ベッドから見える位置にある。

 調度品はあまりないが部屋の中は埃一つなく、定期的にメイドが掃除しているのだと分かる。

 王宮が招いた貴族をもてなす部屋として使われている可能性もあるが、それを取ってもこの状況は異常だ。

 わざわざ呼びに来てくれたレオンにすらろくな説明もさせず、部屋に着くまで疑問ばかりだった。

 そんな中連れてこられたため、こちらにとっては恐怖でしかない。

 加えてエルの反論を許さない口調は、こちらが身震いしてしまうような声音は、王太子としてのそれだ。

 ただ、普段からアルトに対して常に温和な男が、口を挟む隙間もないほど怒るような事をしてしまった。

 それが何かはどれだけ考えても分からず、そして怖い。

「どうして」

 こちらを責めているような低い声音に、知らず唇がわななく。

(そんなの、俺が聞きたい)

 どうしてこんな事をするのか尋ねたいのに、今の己の姿を言葉にするのは、いささか羞恥心が強過ぎた。

「……朔真」

 不意に耳元で甘い声が響き、反射的に瞼を閉じる。

 しかし予想していた温かさはいくら待ってもやって来ず、そろりと瞳を開けようとした。

「っ……!?」

 すると身体が浮遊感に襲われ、唐突な事に小さく声を漏らす。

 目を閉じている間にエルは背後に立っていて、愛しい男の手によって横抱きにされたのだと気付いた。

 エルはアルトを抱いたままベッドに座ると、流れるように膝の上に乗せる。

 二人分の重みでぎしりとベッドが軋み、合わせてひんやりとした衣服の質感を素肌に感じて軽く背中が粟立った。

「エ、ル……?」

 恐怖で動かない脳を叱咤してエルの方を振り仰ごうとする、それよりも早く長い指先でおとがいを摑まれ、半ば強引に前を向かせられた。

「ぁ、っ……!」

 そこには雄茎からだらしなく蜜を零し、蕩けた瞳をした自分が映っていた。

 無理矢理目にした光景に目をみはると同時に、太腿に何かが触れる感覚があった。

 それは熱く硬いもので、どくどくと力強く脈打っている。

「っ、エル」

 頬が熱を持ち、しかしがっちりと顔を固定されているため動かせない。

 鏡越しに見る男の表情は冷淡で、こちらが何を言っても無駄なのだととうに分かっている。

 しかし、この部屋で深く触れ合う事に期待している自分と、酷くされる事への恐怖とで感情がぐちゃぐちゃだった。

 すると下半身をぐいと抱えられ、ぐちゅん、と空気を含んだ淫猥な音と共に熱く長大なものが挿入された。

「ゃ、あ……っ!」

 アルトは声にならない嬌声を上げる。

 ろくに慣らされていないため痛みもあったが、それ以上の快楽に頭の中がぼうっと霞み、ぱちぱちと目の前を星が瞬く。

 最奥を穿うがたれた刺激で雄茎から白濁がほとばしり、びゅるびゅると自身の腹を濡らした。

「は、っ……は……ぁ」

 酸素を求めて何度もあえかな吐息を零し、無意識にエルの胸にもたれかかった。

「──貴方が悪いんだよ、俺以外の男と楽しそうに笑ってるから」

 吐息混じりのやや低い声が直接耳に吹き込まれ、それだけで白濁を放ったばかりの雄がゆっくりと芯を持っていく。

「知らない間にネロと仲良くなって……貴方は何も考えてないんだろうな」

 こちらを責めているようにも、批難しているようにも聞こえ、しかし快楽の前ではエルの言葉の意味など少しも分からなかった。

「朔真」

 甘く耳朶を食みながら名を呼ばれ、ぞくぞくと背中に電流が走る。

「今、誰に抱かれてるか分かるよね」

「ひ、ぁっ……!」

 軽く腹を押されながら小刻みに揺さぶられ、下腹部がきゅうと震えた。

 中に入っているものを無意識に締め付け、その形をまざまざと思い知らされる。

 エルは達したばかりで敏感になっているそこに指先を這わせようとし、アルトは堪らず静止しようと口を開いた。

「やめ、っ……ん、ぅ……!?」

 しかし顎を摑んでいた指先がわずかに開いた隙間から侵入し、歯列を割って舌先へ触れてくる。

 反射的に指先を噛んでしまったが、これくらいの痛みなど何ら気にしていないようだった。

 じわりと血の味が広がり、不快感が増す。

「ふ、ぅ……ん、ぁ……」

 精一杯の抵抗も虚しく、すぐに唇からくちゅくちゅと淫猥な音が響き、同時に陰茎を上下に扱かれる。

 無意識にエルの腕に手を伸ばし、きゅうと握った。

 潤んだ視界の向こうには鏡があり、今にも泣き出しそうな表情をして大きなものを咥え込む自身のすべてが映っていた。

 そのさまがなんとも言えないほど卑猥で、更に羞恥心を増幅させていく。

「ぁ、や……っ」

 改めて己の姿を自覚した途端じわじわと頬が熱を持ち、扱かれている雄茎から新たな蜜が溢れて尻へと伝う。

 エルの衣服を汚してしまう、という罪悪感で消えてしまいたくなった。

 やがて、ちゅうと小さな音を立てて唇から指先が引き抜かれると、エルはそのままアルトの頬に口付ける。

「ひ、ぅ」

 甘く歯を立てられ、このまま食べられてしまうのではないかという漠然とした恐怖を感じ、ふるふると首を振って顔を俯ける。

「駄目だろう、動いちゃ」

「や、っあ……!」

 即座に気付いたエルにもう一度顎を摑まれ、強制的に顔を上げさせられる。

 鏡にはぼろぼろと涙を零し、エルの手ががっちりと腰に回されているのが映っていた。

 愛しい男のものの形に広がった後孔から、空気を含んだ淫猥な音が漏れ聞こえる。

 赤くなった先端は先程からだらだらと先走りを溢れさせ、今にも破裂してしまいそうなほどだった。

「ひ、ぅっ……!」

 ぐいと腰を摑み直され、深いところを抉られる。

 普段とは違う場所を何度も力強く穿たれ、自重も合わさって断続的にあえかな喘ぎが漏れるのを抑えられない。

 はふはふと細い息を繰り返すしかできず、まるで溺れているような錯覚に陥った。

 しかしエルが静かに怒っているのを全身で感じているため、振り解きたくてもできないのだ。

 一度こうなってしまえば何も聞いてもらえず、ただただエルの気が済むまで快楽を享受するしかないと理解している。

 どこまで高みに上らされるのか怖く、なのに与えられる愛撫に身体は歓喜していた。

「あっ……や、も……エ、ルっ……!」

 がくがくと上下に揺さぶられ、次第に自身を穿つ律動も早くなっていく。

 やがてアルトが吐精するのに合わせて押し殺した声が響き、最奥へと熱い飛沫を注がれる。

 どぷりと吐き出されたそれは長く、一向に萎える気配はない。

「……朔真」

 未だどくどくと注がれる濃密なそれを受け止めていると、甘えるようにエルが頬を合わせてきた。

 触れ合ったそこはじんわりと温かく、しっかりと抱えられた腕の中で眠ってしまいたい衝撃に駆られる。

「──まだ寝ちゃ駄目だよ」

「っ!」

 こちらの心の内を察した声が聞こえた時には視界が反転し、エルの顔が目の前に迫っていた。

 繋がったままの肉槍がずくりと大きくなった感覚があり、さぁっと血の気が引いた。

「も……や、だ」

 力無く首を振るも、エルがそれを許さない。

「駄目、って言っただろう?」

 にこりと手本のような美しい笑みを向けられ、ベッドに投げ出された両手をぎゅうと握られる。

 それに呼応するように、肉襞がきゅうと収縮したのを嫌でも感じさせられた。



 
 それからどれほどの時が経ったのか、最早覚えていない。

 とうに日付けは変わっているのだけは分かるが、それでもエルから与えられる悦楽は少しも引いてくれなかった。

『お仕置き』は終わったのだと思っていたが、ベッドの上にアルトを組み敷くとすぐに腰を摑まれた。

 痛いほど摑まれているそこはきっと痣になっており、一度だけでは飽き足らず二度三度と欲望を注がれたため、既に腹の中はいっぱいだ。

 加えて首筋にいくつも赤い花を散らされ、時に噛まれて歯型を付けられたものの、痛みすらも快感になっていた。

 エルに触れられるところすべてが性感帯になってしまったようで、何度達したか分からない。

 果てには強過ぎる悦楽に潮を吹き、そこからずっと高みから下りて来られない錯覚すら感じているほどだ。

「は、ぅ……っ」

 四度目の熱を注がれ、呑み込み切れなかった白濁が溢れてシーツを濡らす。

 ゆるゆるとエルが動く度に淫靡な音が結合部から奏でられ、耳を塞ぎたくても指先一つ動かせないのが恨めしかった。

 意思に反して楔を締め付けてしまう身体も、何度『止めて』と言っても聞き入れてくれない男も、嫌で堪らない。

 しかし本当の意味でエルを嫌いになどなれず、この感情をどう形容していいのか分からない。

 涙と汗でぐちゃぐちゃの頬に触れながら、エルがゆっくりと言った。

「……俺を離さないでくれるのは嬉しいけど、やっぱり妬けるな」

 艶を含んだ声音が耳朶に吹き込まれ、それは普段よりもずっと低い。

 妬心を隠そうともしていない声に、アルトは心の中で何度も同じ疑問を投げ掛けていた。

(なんで、なんで俺……)

 ただネロと話していただけで、エルの己に対する感情がここまでのものだと分かっていなかった。

 そもそも『アルト』ではない、と伝える前からどこにも行かないよう小屋に監禁したような男だ。

 今となってはそれが可愛らしいものに見えて、どこまでも続く快感が怖い。

 それ以前に仮にこの部屋から逃げられたとしても、こちらとの力量を考えればすぐに捕まってしまうのは明白なのだが。

「あ……っ、ん……ぅっ」

 不意に熱棒がずるりと引き抜かれ、アルトは鼻に抜けた声を漏らす。

 抑えを失った後孔からとぷとぷと白濁が溢れ出て、ひくりと収縮した。

「……約束してくれる?」

 すぐにエルが覆いかぶさってきて、さらりと眼前で黒髪が揺れた。

 形のいい唇が動き、至近距離で低く掠れた声で続ける。

「俺以外に──しない、って」

(なに……?)

 ゆっくりと唇が動いたのは分かるが、霞んでいる頭の中では理解できない。

 しかしアルトは気怠い腕を上げてエルの頬に触れ、短くキスを落とした。

 とうに喉は枯れ果て、睡魔も合わさって目を開けているのすら危うい。

 だから言葉の代わりに肯定する、という意味でキスをしたのだが。

「分かってない、みたいだね」

 くすりと笑い混じりの吐息を吐くと、エルはお返しに額に口付けてくる。

 こめかみや眉間、瞼や頬へと顔中に口付けの雨を降らせる。

 それまでとは違い、優しく柔らかな触れ合いに次第に瞼が降りていく。

 あやすようなそれは、襲い来る睡魔を増幅させるのに十分だった。

「エル、ヴィズ……」

 意識が黒く塗り潰される前に愛しい男の名を呼び、今度こそアルトは眠りに就く。

 繋がれた手はそのままに、エルは細い息を吐くアルトを見下ろしながらゆっくりと頭を撫でる。

「貴方は危機感が無さすぎる」

 どこまでも低く小さな呟きはすぐに消え、やがて衣擦れの音が響く。

 寝息を立てているアルトの横顔を、窓から見える月が煌々と照らしていた。
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