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第一部 二章
突然の王宮生活 7 ★
しおりを挟む エルはそっとアルトの腹に手を伸ばし、臍から下を触れるか触れないかのギリギリのところを撫でた。
いっその事しっかり触ってくれればいいものを、いやにもったいぶった動きはアルトの中の恐怖と苛立ち、そして少しの期待を増幅させるだけだ。
「……可哀想に。気持ち悪いだろう」
エルの手がゆっくりとトラウザーズの前を寛げ、下着ごと脱がされた。
特有の匂いとともに濡れた雄が取り出され、反動でふるりと震える。
「誰が、……こんなにした、んだよ」
まるで他人事のような口振りに、アルトはエルをぎろりと睨み付ける。
きっと今の自分の顔は赤く、情けない表情をしているだろう。
女のように頬を染め、青い瞳はアルトの意思とは裏腹に期待に染まっているのが鏡を見ずとも分かる。
「俺のせいだね。……でも、気持ちよかった?」
緩く首を傾げ、エルが訊ねてくる。
『アルトの言葉で聞きたい』と、柔らかく細められた美しい瞳がそう告げていた。
「そっ……」
(そんなこと、言えるわけないだろ……!?)
かっと全身が熱を持ち、アルトはそれ以上エルを見れず顔を逸らした。
くすりと小さく笑う気配がし、エルの手が伸びてきて顎を摑まれる。
「目を離しちゃ駄目だ。──貴方が今から何をされるか、ちゃんと見ていないと」
「嫌……だ」
その言葉だけでエルが何をしようとしているのか、アルトは理解する他なかった。
エルはアルトを見つめながら、ゆっくりと太腿を撫で上げる。
「や、やだ……!」
自分でも触ったことのない場所に、エルの細い指が触れた。
その仕草が何を意味するか分からないほど、アルトは世間知らずではない。
男同士でするためにはそこを使う──そう、漠然とした知識があるだけだ。
エルは『もっと深く繋がりたい』と、あわよくばアルトを『逃がさない』と言っているのだ。
アルトは無我夢中で手足をばたつかせる。
けれどエルにとっては幼子の相手をするのと同じなようで、気に留めることなくアルトの足首を摑む。
そう力は加えられていないものの、アルトは抵抗するのを止めた。
「大丈夫。貴方が素直になれば、すぐに良くなるから」
何が、と聞く勇気も余裕も今のアルトにはなかった。
あるのは恐怖、ただそれだけだ。
力なく首を振るアルトの瞼にそっと口付け、やがて秘めたところに何かが入ってくる感覚があった。
「痛っ……! や、痛い、うぁ……!」
「……はは、一本でもきついな」
エルの声が遠くで聞こえる。
それがエルの細く長い指だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
すると何を思ったか、突然アルトの口内にエルの指先が二本差し込まれる。
「ん、ん……?」
唐突の事にアルトが困惑していると、エルは不敵に笑った。
「舐めるんだ」
断っては許さない、そんな圧がエルの声には込められていた。
同時に『上手くやれ』と言われている気がして、ますます恐怖心に駆られる。
「ん……ふ、ぁ」
アルトはたどたどしく指に舌を絡める。
元の世界で見ていた動画では、演者がいやらしく相手を見つめて舌を這わせていた。
その光景を思い出しつつアルトは人差し指と薬指の間を、時折指先や関節部分を甘く噛んで吸い上げる。
ぢゅる、ちゅぷ、と淫らな音が大きく寝室に響く。
アルトはエルの指を丁寧に舐め上げ、ちらりと見つめた。
「──それ、どこで覚えたの」
「んぐ!?」
不意に喉奥に指先が侵入し、アルトは図らずもえずきそうになる。
「ん、んぁ……ふ、……ぅぐ」
ぐちぐちと唾液を掻き混ぜるように指を抜き差しされ、かと思えば舌を挟んで捏ねられる。
エルがなぜ怒ったのか分からず、アルトは涙目で受け入れるしかできない。
何かが琴線に触れたらしいエルの無機質な表情は、何を考えているのか読み取るのは難しい。
いや、たとえ分かったとしても、その後どうしたものか困ってしまう。
「俺は何も教えていないんだけど。……やっぱり誰かと会っていたのかな」
「んん、ふ……ぅ」
エルの声はアルトの口腔を犯す淫らな音でかき消され、同時にアルトは何も考えられなくなった。
「……っ、ぁ」
ちゅぽ、と小さな音を立ててやっと口内を解放され、アルトは息も絶え絶えにエルを見つめる。
腕まで垂れていた唾液を舐め取り、妖しく微笑んでいる男はアルトの知らない顔をしていた。
それがとても扇情的で、図らずもアルトの雄がぴくりと反応する。
「……これくらいでいいか」
そう呟くと、アルトの秘めた場所にもう一度指を滑らせる。
細いとはいえ、そこに何かが入ってくる感覚は怖くて堪らなかった。
アルトは無意識に息を詰め、身体に力を込める。
「……アルト、ちゃんと息をして。貴方が余計に辛くなってしまう」
エルの空いた方の手が太腿を撫で、腹を、胸の頂を掠めるように撫でる。
固まっている身体を、安心させるように何度も撫で擦られる。
アルトが小さく肩の力を抜くと、その分圧迫感が強まった。
「っ……うぅ」
少し肩の力を抜けばエルの指が進められ、止まる。
それを何度繰り返したか分からなくなった頃、エルが艶を含んだ声で囁いた。
「もう少し、頑張れる?」
「がんば、る……?」
何を聞かれているのか、痛みと官能の狭間にいるアルトは意味を理解するのが遅れた。
くすりとエルは頬を綻ばせると、後孔に更に痛みが走った。
「や、痛っ……な、まだ……」
「まだ一本しか入ってないんだ。だからほら、頑張って」
普段は美しい微笑みが、さながら悪魔のそれだ。
エルのそれは二本分以上なのか、とアルトを恐怖の底に落とすには十分だった。
「ひ……っ」
アルトは反射的に上へ逃げようとしたが、エルは簡単に許してくれそうにない。
「──逃げないで」
たった一言、静かな声が耳に入る。
身体は恐怖に駆られ、羞恥でいっぱいのはずなのにアルトはそれだけで動くのを止めた。
「いい子だね」
にこりとエルは微笑み、アルトの太腿を撫でる。
「いっ……う、ぁ……」
アルトはふるふると首を振り、せめてもの抵抗をした。
ただ、これくらいで止まってくれるのならエルとの『戯れ』はとうに止めているのだ。
「や、あぁ……!」
後孔の圧迫感が更に強まる。
しかし、引き攣った痛みはあれどほんの少しむずむずとした感覚があった。
それがなんなのか考える前に、中に入っている指の動きが先程よりも緩慢になる。
「っ、ん……ぅ」
奥まで入った二本の指は、アルトの反応を探るように小刻みに揺れ動いた。
秘めた場所を弄られ、時折安心させるような手の平の熱に侵され、アルトの身体は知らず熱を持っていく。
「ふ、ぅ……」
感じたくないのに、意思とは裏腹に小さな喘ぎが漏れてしまう。
ぬちぬちとエルの指が中で動いているのが生々しく、同時に甘い快楽がアルトの頭を侵食していった。
「ふぁ……!?」
一際膨らんだところに指先が当たったのか、びくんとそれまでとは違う快感が背筋を駆け巡る。
自分も知らない甘い声が出たことも、そんなところで感じてしまうことも、未知の世界だった。
「ここ、好き?」
エルはアルトの声に導かれるように、同じ場所をぐいぐいと執拗に押した。
「あぁぁぁ……!」
アルトは声にならない喘ぎ声を上げ、ぱちぱちと目の前が白く爆ぜた。
後から後から透明な雫が雄から流れ、腹にまで垂れる。
出したいのに出せない不思議な感覚に、痛々しいまでの悲鳴を上げていた。
蕾に入れた指はそのままに、エルの長い指先が竿に絡む。
ぐちゃぐちゃと上下に扱かれ、我慢に我慢を重ねたところを刺激されては堪らない。
「あ、ふ……ぁあ……!」
後孔がきゅうっと締まり、中にある指を締め付ける。
「え、やだ……、エル、やだ……!」
己が何を口走っているのかはとうに分からず、しかしどこかに投げ出されてしまいそうな錯覚に、アルトはベッドのシーツを摑んで耐える。
やがて声にならない悲鳴を上げ、びくんと身体を固くする。
「は、ぁ……ぅあ……」
頭の中が白く染まり、熱い飛沫が腹にかかる。
どんよりとした倦怠感に襲われ、アルトが瞼を閉じようとした時、指よりも熱いものがそこに触れた。
「ひ……っ」
それは上下に擦るように何度も往復し、アルトの心臓がどくんと嫌な音を立てる。
「力、抜いて」
低く囁かれたかと思うと、エルの顔が近付いた。
アルトは反射的に目を閉じる。
そっと口付けられ、すぐさま唇を割って舌が入り込む。
歯列の一本一本を舐め、あやすように舌先で上顎や頬の内側を舐められた。
「ん、ぐ……」
同時に下半身にこれまで感じた事のない痛みを抱き、アルトは無意識にエルの舌に己のそれを絡める。
このまま舌を噛んで酷くされるよりも、快楽が痛みを打ち消してくれるのならば、それでもよかった。
エルはアルトの仕草に一瞬怯んだものの、すぐに絡め返された。
「っ……は、ふ」
唇の端から飲み込み切れなかった二人分の唾液が顎を伝い、首に流れ落ちた。
「んぁ、……ふ、っ……」
エルの腰が進む度に痛みが増し、アルトはキスの合間に苦しげな声を漏らす。
(痛い、痛い……! なんで、なんで俺ばっかり……!)
指とは比べ物にならない質量に、目尻に涙が溜まる。
アルトは堪らず唇を離し、顔の横にあるエルの腕を摑んだ。
「──て、エル、抜いて……!」
自由になった口で懇願するが、エルは苦しそうな顔で微笑むだけだ。
「もう少し。……もう少しだから、頑張って」
エルの額から汗が一筋落ち、アルトの胸を濡らす。
この時はあまり分からなかったが、アルトが辛いのと同じようにエルも辛いのだ。
ただ、それに気付く余裕は今のアルトにはない。
「あ、ふ……うぅ……!」
どんどん引き攣った痛みが快楽を上回り、このまま壊れてしまう錯覚すらあった。
いつの間にか歪む視界に、エル顔がぼんやりと映る。
「大丈夫。もう大丈夫だから……貴方はそのまま、気持ちいいことだけ考えてて」
「え、っ……?」
何を言われたのか分からず、アルトは戸惑う。
するとエルの手の平が胸を撫で、主張していた二つの頂を摘んだ。
「ひ、ぁ……!?」
くにくにと捏ねては潰されて軽く引っ掻かれ、知らず腰が跳ねる。
同時にエルの剛直をまざまざと感じ、ずくりと腹の奥が痛いほど疼いた。
「や、あ……あ、ぁぁぁ……!」
引き攣った痛みは既に無く、代わりに耐え難い快楽の波がやってくる。
しかし達せそうで達せないもどかしさに、アルトの頬に生理的な涙が伝った。
「は、っ……」
エルの艶めいた吐息が耳元で聞こえる。
熱い雫を零す頬に唇が触れ、首筋にキスを落とされた。
エルはアルトの反応を見ながら少しずつ腰を動かし、手の動きも休めない。
「ん、ぁう……っ、ふぁ……!」
そっと胸への愛撫を止められ、少しの喪失感を感じたのも束の間。
先端から流れる雫を竿に塗り込まれ、ゆっくりと上下に擦られる。
それだけで快楽の波がやってきて、アルトを攫おうとする。
「は、アルト……、アルト」
エルの声が弾み、腰の動きがゆっくりとしたものから段々と速くなった。
力強く剛直が穿たれ、脳天まで響く。
「あ、エル……待っ、まだ痛、から……!」
アルトは無我夢中で唇を動かす。
ただ、痛みは本当のところあまりなく、何かを言っていなければすぐに出てしまいそうで怖かった。
ぱちぱちと拍手にも似た音が寝室に響き、ベッドが軋んだ。
腰が甘く震え、シーツを摑む手が空を搔く。
エルはその手をしっかりと繋ぎ、ぎゅうと痛いほどの力で握り締めた。
「ん、ぁぅ……」
どちらからともなく唇を重ね合わせ、舌を絡める。
ちゅくちゅくと唾液の混じる音が淫靡で、下だけでなく耳までも犯されている心地になった。
「──っあ!」
どく、と己の中で何かか爆ぜ、じんわりと腹に熱いものが広がる。
それと同じくして、アルトの視界も白く染まった。
「はぁ、っ……」
ゆっくりとやってきた脱力感と鈍い痛みに、瞼が段々と落ちていく。
エルが薄く微笑んでいたのを最後に、アルトの意識はそこで途切れる。
「──これでもう、貴方は俺から逃げられない」
低く掠れた呟きは、アルトには聞こえていなかった。
いっその事しっかり触ってくれればいいものを、いやにもったいぶった動きはアルトの中の恐怖と苛立ち、そして少しの期待を増幅させるだけだ。
「……可哀想に。気持ち悪いだろう」
エルの手がゆっくりとトラウザーズの前を寛げ、下着ごと脱がされた。
特有の匂いとともに濡れた雄が取り出され、反動でふるりと震える。
「誰が、……こんなにした、んだよ」
まるで他人事のような口振りに、アルトはエルをぎろりと睨み付ける。
きっと今の自分の顔は赤く、情けない表情をしているだろう。
女のように頬を染め、青い瞳はアルトの意思とは裏腹に期待に染まっているのが鏡を見ずとも分かる。
「俺のせいだね。……でも、気持ちよかった?」
緩く首を傾げ、エルが訊ねてくる。
『アルトの言葉で聞きたい』と、柔らかく細められた美しい瞳がそう告げていた。
「そっ……」
(そんなこと、言えるわけないだろ……!?)
かっと全身が熱を持ち、アルトはそれ以上エルを見れず顔を逸らした。
くすりと小さく笑う気配がし、エルの手が伸びてきて顎を摑まれる。
「目を離しちゃ駄目だ。──貴方が今から何をされるか、ちゃんと見ていないと」
「嫌……だ」
その言葉だけでエルが何をしようとしているのか、アルトは理解する他なかった。
エルはアルトを見つめながら、ゆっくりと太腿を撫で上げる。
「や、やだ……!」
自分でも触ったことのない場所に、エルの細い指が触れた。
その仕草が何を意味するか分からないほど、アルトは世間知らずではない。
男同士でするためにはそこを使う──そう、漠然とした知識があるだけだ。
エルは『もっと深く繋がりたい』と、あわよくばアルトを『逃がさない』と言っているのだ。
アルトは無我夢中で手足をばたつかせる。
けれどエルにとっては幼子の相手をするのと同じなようで、気に留めることなくアルトの足首を摑む。
そう力は加えられていないものの、アルトは抵抗するのを止めた。
「大丈夫。貴方が素直になれば、すぐに良くなるから」
何が、と聞く勇気も余裕も今のアルトにはなかった。
あるのは恐怖、ただそれだけだ。
力なく首を振るアルトの瞼にそっと口付け、やがて秘めたところに何かが入ってくる感覚があった。
「痛っ……! や、痛い、うぁ……!」
「……はは、一本でもきついな」
エルの声が遠くで聞こえる。
それがエルの細く長い指だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
すると何を思ったか、突然アルトの口内にエルの指先が二本差し込まれる。
「ん、ん……?」
唐突の事にアルトが困惑していると、エルは不敵に笑った。
「舐めるんだ」
断っては許さない、そんな圧がエルの声には込められていた。
同時に『上手くやれ』と言われている気がして、ますます恐怖心に駆られる。
「ん……ふ、ぁ」
アルトはたどたどしく指に舌を絡める。
元の世界で見ていた動画では、演者がいやらしく相手を見つめて舌を這わせていた。
その光景を思い出しつつアルトは人差し指と薬指の間を、時折指先や関節部分を甘く噛んで吸い上げる。
ぢゅる、ちゅぷ、と淫らな音が大きく寝室に響く。
アルトはエルの指を丁寧に舐め上げ、ちらりと見つめた。
「──それ、どこで覚えたの」
「んぐ!?」
不意に喉奥に指先が侵入し、アルトは図らずもえずきそうになる。
「ん、んぁ……ふ、……ぅぐ」
ぐちぐちと唾液を掻き混ぜるように指を抜き差しされ、かと思えば舌を挟んで捏ねられる。
エルがなぜ怒ったのか分からず、アルトは涙目で受け入れるしかできない。
何かが琴線に触れたらしいエルの無機質な表情は、何を考えているのか読み取るのは難しい。
いや、たとえ分かったとしても、その後どうしたものか困ってしまう。
「俺は何も教えていないんだけど。……やっぱり誰かと会っていたのかな」
「んん、ふ……ぅ」
エルの声はアルトの口腔を犯す淫らな音でかき消され、同時にアルトは何も考えられなくなった。
「……っ、ぁ」
ちゅぽ、と小さな音を立ててやっと口内を解放され、アルトは息も絶え絶えにエルを見つめる。
腕まで垂れていた唾液を舐め取り、妖しく微笑んでいる男はアルトの知らない顔をしていた。
それがとても扇情的で、図らずもアルトの雄がぴくりと反応する。
「……これくらいでいいか」
そう呟くと、アルトの秘めた場所にもう一度指を滑らせる。
細いとはいえ、そこに何かが入ってくる感覚は怖くて堪らなかった。
アルトは無意識に息を詰め、身体に力を込める。
「……アルト、ちゃんと息をして。貴方が余計に辛くなってしまう」
エルの空いた方の手が太腿を撫で、腹を、胸の頂を掠めるように撫でる。
固まっている身体を、安心させるように何度も撫で擦られる。
アルトが小さく肩の力を抜くと、その分圧迫感が強まった。
「っ……うぅ」
少し肩の力を抜けばエルの指が進められ、止まる。
それを何度繰り返したか分からなくなった頃、エルが艶を含んだ声で囁いた。
「もう少し、頑張れる?」
「がんば、る……?」
何を聞かれているのか、痛みと官能の狭間にいるアルトは意味を理解するのが遅れた。
くすりとエルは頬を綻ばせると、後孔に更に痛みが走った。
「や、痛っ……な、まだ……」
「まだ一本しか入ってないんだ。だからほら、頑張って」
普段は美しい微笑みが、さながら悪魔のそれだ。
エルのそれは二本分以上なのか、とアルトを恐怖の底に落とすには十分だった。
「ひ……っ」
アルトは反射的に上へ逃げようとしたが、エルは簡単に許してくれそうにない。
「──逃げないで」
たった一言、静かな声が耳に入る。
身体は恐怖に駆られ、羞恥でいっぱいのはずなのにアルトはそれだけで動くのを止めた。
「いい子だね」
にこりとエルは微笑み、アルトの太腿を撫でる。
「いっ……う、ぁ……」
アルトはふるふると首を振り、せめてもの抵抗をした。
ただ、これくらいで止まってくれるのならエルとの『戯れ』はとうに止めているのだ。
「や、あぁ……!」
後孔の圧迫感が更に強まる。
しかし、引き攣った痛みはあれどほんの少しむずむずとした感覚があった。
それがなんなのか考える前に、中に入っている指の動きが先程よりも緩慢になる。
「っ、ん……ぅ」
奥まで入った二本の指は、アルトの反応を探るように小刻みに揺れ動いた。
秘めた場所を弄られ、時折安心させるような手の平の熱に侵され、アルトの身体は知らず熱を持っていく。
「ふ、ぅ……」
感じたくないのに、意思とは裏腹に小さな喘ぎが漏れてしまう。
ぬちぬちとエルの指が中で動いているのが生々しく、同時に甘い快楽がアルトの頭を侵食していった。
「ふぁ……!?」
一際膨らんだところに指先が当たったのか、びくんとそれまでとは違う快感が背筋を駆け巡る。
自分も知らない甘い声が出たことも、そんなところで感じてしまうことも、未知の世界だった。
「ここ、好き?」
エルはアルトの声に導かれるように、同じ場所をぐいぐいと執拗に押した。
「あぁぁぁ……!」
アルトは声にならない喘ぎ声を上げ、ぱちぱちと目の前が白く爆ぜた。
後から後から透明な雫が雄から流れ、腹にまで垂れる。
出したいのに出せない不思議な感覚に、痛々しいまでの悲鳴を上げていた。
蕾に入れた指はそのままに、エルの長い指先が竿に絡む。
ぐちゃぐちゃと上下に扱かれ、我慢に我慢を重ねたところを刺激されては堪らない。
「あ、ふ……ぁあ……!」
後孔がきゅうっと締まり、中にある指を締め付ける。
「え、やだ……、エル、やだ……!」
己が何を口走っているのかはとうに分からず、しかしどこかに投げ出されてしまいそうな錯覚に、アルトはベッドのシーツを摑んで耐える。
やがて声にならない悲鳴を上げ、びくんと身体を固くする。
「は、ぁ……ぅあ……」
頭の中が白く染まり、熱い飛沫が腹にかかる。
どんよりとした倦怠感に襲われ、アルトが瞼を閉じようとした時、指よりも熱いものがそこに触れた。
「ひ……っ」
それは上下に擦るように何度も往復し、アルトの心臓がどくんと嫌な音を立てる。
「力、抜いて」
低く囁かれたかと思うと、エルの顔が近付いた。
アルトは反射的に目を閉じる。
そっと口付けられ、すぐさま唇を割って舌が入り込む。
歯列の一本一本を舐め、あやすように舌先で上顎や頬の内側を舐められた。
「ん、ぐ……」
同時に下半身にこれまで感じた事のない痛みを抱き、アルトは無意識にエルの舌に己のそれを絡める。
このまま舌を噛んで酷くされるよりも、快楽が痛みを打ち消してくれるのならば、それでもよかった。
エルはアルトの仕草に一瞬怯んだものの、すぐに絡め返された。
「っ……は、ふ」
唇の端から飲み込み切れなかった二人分の唾液が顎を伝い、首に流れ落ちた。
「んぁ、……ふ、っ……」
エルの腰が進む度に痛みが増し、アルトはキスの合間に苦しげな声を漏らす。
(痛い、痛い……! なんで、なんで俺ばっかり……!)
指とは比べ物にならない質量に、目尻に涙が溜まる。
アルトは堪らず唇を離し、顔の横にあるエルの腕を摑んだ。
「──て、エル、抜いて……!」
自由になった口で懇願するが、エルは苦しそうな顔で微笑むだけだ。
「もう少し。……もう少しだから、頑張って」
エルの額から汗が一筋落ち、アルトの胸を濡らす。
この時はあまり分からなかったが、アルトが辛いのと同じようにエルも辛いのだ。
ただ、それに気付く余裕は今のアルトにはない。
「あ、ふ……うぅ……!」
どんどん引き攣った痛みが快楽を上回り、このまま壊れてしまう錯覚すらあった。
いつの間にか歪む視界に、エル顔がぼんやりと映る。
「大丈夫。もう大丈夫だから……貴方はそのまま、気持ちいいことだけ考えてて」
「え、っ……?」
何を言われたのか分からず、アルトは戸惑う。
するとエルの手の平が胸を撫で、主張していた二つの頂を摘んだ。
「ひ、ぁ……!?」
くにくにと捏ねては潰されて軽く引っ掻かれ、知らず腰が跳ねる。
同時にエルの剛直をまざまざと感じ、ずくりと腹の奥が痛いほど疼いた。
「や、あ……あ、ぁぁぁ……!」
引き攣った痛みは既に無く、代わりに耐え難い快楽の波がやってくる。
しかし達せそうで達せないもどかしさに、アルトの頬に生理的な涙が伝った。
「は、っ……」
エルの艶めいた吐息が耳元で聞こえる。
熱い雫を零す頬に唇が触れ、首筋にキスを落とされた。
エルはアルトの反応を見ながら少しずつ腰を動かし、手の動きも休めない。
「ん、ぁう……っ、ふぁ……!」
そっと胸への愛撫を止められ、少しの喪失感を感じたのも束の間。
先端から流れる雫を竿に塗り込まれ、ゆっくりと上下に擦られる。
それだけで快楽の波がやってきて、アルトを攫おうとする。
「は、アルト……、アルト」
エルの声が弾み、腰の動きがゆっくりとしたものから段々と速くなった。
力強く剛直が穿たれ、脳天まで響く。
「あ、エル……待っ、まだ痛、から……!」
アルトは無我夢中で唇を動かす。
ただ、痛みは本当のところあまりなく、何かを言っていなければすぐに出てしまいそうで怖かった。
ぱちぱちと拍手にも似た音が寝室に響き、ベッドが軋んだ。
腰が甘く震え、シーツを摑む手が空を搔く。
エルはその手をしっかりと繋ぎ、ぎゅうと痛いほどの力で握り締めた。
「ん、ぁぅ……」
どちらからともなく唇を重ね合わせ、舌を絡める。
ちゅくちゅくと唾液の混じる音が淫靡で、下だけでなく耳までも犯されている心地になった。
「──っあ!」
どく、と己の中で何かか爆ぜ、じんわりと腹に熱いものが広がる。
それと同じくして、アルトの視界も白く染まった。
「はぁ、っ……」
ゆっくりとやってきた脱力感と鈍い痛みに、瞼が段々と落ちていく。
エルが薄く微笑んでいたのを最後に、アルトの意識はそこで途切れる。
「──これでもう、貴方は俺から逃げられない」
低く掠れた呟きは、アルトには聞こえていなかった。
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