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4:鬼と花嫁
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花恋は二週間後に十六歳になる。これがなにを意味するかというと、法律上、結婚できるようになるのだ。
「二週間後、花恋との挙式を執り行う」
突然黒塗りのリムジンで我が家に現れ、客間の上座に陣取った百目鬼瓏樹は、傲岸に言い放った。瓏樹の隣にしなだれかかる花恋、下座でかしこまる両親、客間の外にて待機する私、全員にとって急な通達だった。
二週間後って。ドレスのためにダイエットする暇もない。花恋には不要かもしれないが。
ただ、鬼は花嫁を一途に大切にする生き物と言われている。早く自分だけのものにしたくてたまらないし、相手を都合を慮って手段を選ぶつもりもない。だからこそ、花恋の十六歳の誕生日に結婚式を挙げようとするのも当然のことだった。
一番状況に適応するのが早かったのはもちろん花恋だ。嬉しそうな声を上げ、瓏樹の腕にしがみつく。
「私、幸せですっ。こんなに早く瓏樹さんと結婚できるなんて! 結婚したら、もう学校には行かなくていいですか? 毎日瓏樹さんのおそばにいたいんです」
瓏樹は愛玩するように花恋の顎をひと撫ですると、鷹揚に頷いた。
「もちろんだ。花恋は私の花嫁。私の隣が、お前の居場所だ。どこにも行かせはしない。何不自由ない生活を約束しよう」
「瓏樹さん……」
花恋がうっとりと瓏樹を見上げる。その様子に、両親も正気付いて声を上げた。
「花恋、よかったな。幸せになるんだぞ」
「きっと素敵な結婚式になるわ。どんなドレスを着ましょうね」
二人とも声色が弾んでいる。娘を送り出すのになんの不安もなさそうな、鬼を信頼し切った声音だった。
「そのことなのだが」
瓏樹が口火を切った。
「これから結婚式まで、準備のために花恋には我が屋敷で暮らしてもらいたい。忙しくなるだろうから学校も休め。退学してもよい。どうせ結婚するのだから構わないだろう?」
断られる可能性など一ミリも考えていなさそうな、断言する口調だった。
「もちろんですっ。ね、お父さん、お母さん、いいよね?」
「ああ。花恋なら大丈夫だと思うが、行儀よくするんだぞ」
「ええ。しっかりするのよ」
案の定、誰も反対しない。けれど、これは私にとっても良いことだった。花恋がこのまま家から消えれば、私のストレス要因が一つ減る。
話の行方に胸を撫で下ろしているところで、花恋が小さく声を発した。
「あ、でも、ちょっと不安だから、お姉ちゃんを連れて行きたいです。……ダメですか?」
花嫁の甘えるような声遣いに、鬼が否と言うわけがない。
「構わない。身内がいた方が何かと円滑だろう」
「ありがとうございますっ。それじゃ、お姉ちゃんと一緒に、瓏樹さんのおうちにお邪魔しますね!」
私は一人凍り付く。なぜ私を巻き込んだのか。決まっている。見知らぬ鬼ばかりの屋敷で、一人居るのが嫌だからだ。便利な小間使いとして私を選んだのだ。
しかも二週間、私は学校を休まなくてはならない。ちょうど期末テストと被っている。単位は大丈夫だろうか。至急調整をしなければ。菜緒にも相談して、それから……。
これからすべきあれこれをリストアップしていき、その多さに目眩がしたところで、私は呟いた。
──いつか絶対に殺してやる。
これが言えるうちは、大丈夫。
「二週間後、花恋との挙式を執り行う」
突然黒塗りのリムジンで我が家に現れ、客間の上座に陣取った百目鬼瓏樹は、傲岸に言い放った。瓏樹の隣にしなだれかかる花恋、下座でかしこまる両親、客間の外にて待機する私、全員にとって急な通達だった。
二週間後って。ドレスのためにダイエットする暇もない。花恋には不要かもしれないが。
ただ、鬼は花嫁を一途に大切にする生き物と言われている。早く自分だけのものにしたくてたまらないし、相手を都合を慮って手段を選ぶつもりもない。だからこそ、花恋の十六歳の誕生日に結婚式を挙げようとするのも当然のことだった。
一番状況に適応するのが早かったのはもちろん花恋だ。嬉しそうな声を上げ、瓏樹の腕にしがみつく。
「私、幸せですっ。こんなに早く瓏樹さんと結婚できるなんて! 結婚したら、もう学校には行かなくていいですか? 毎日瓏樹さんのおそばにいたいんです」
瓏樹は愛玩するように花恋の顎をひと撫ですると、鷹揚に頷いた。
「もちろんだ。花恋は私の花嫁。私の隣が、お前の居場所だ。どこにも行かせはしない。何不自由ない生活を約束しよう」
「瓏樹さん……」
花恋がうっとりと瓏樹を見上げる。その様子に、両親も正気付いて声を上げた。
「花恋、よかったな。幸せになるんだぞ」
「きっと素敵な結婚式になるわ。どんなドレスを着ましょうね」
二人とも声色が弾んでいる。娘を送り出すのになんの不安もなさそうな、鬼を信頼し切った声音だった。
「そのことなのだが」
瓏樹が口火を切った。
「これから結婚式まで、準備のために花恋には我が屋敷で暮らしてもらいたい。忙しくなるだろうから学校も休め。退学してもよい。どうせ結婚するのだから構わないだろう?」
断られる可能性など一ミリも考えていなさそうな、断言する口調だった。
「もちろんですっ。ね、お父さん、お母さん、いいよね?」
「ああ。花恋なら大丈夫だと思うが、行儀よくするんだぞ」
「ええ。しっかりするのよ」
案の定、誰も反対しない。けれど、これは私にとっても良いことだった。花恋がこのまま家から消えれば、私のストレス要因が一つ減る。
話の行方に胸を撫で下ろしているところで、花恋が小さく声を発した。
「あ、でも、ちょっと不安だから、お姉ちゃんを連れて行きたいです。……ダメですか?」
花嫁の甘えるような声遣いに、鬼が否と言うわけがない。
「構わない。身内がいた方が何かと円滑だろう」
「ありがとうございますっ。それじゃ、お姉ちゃんと一緒に、瓏樹さんのおうちにお邪魔しますね!」
私は一人凍り付く。なぜ私を巻き込んだのか。決まっている。見知らぬ鬼ばかりの屋敷で、一人居るのが嫌だからだ。便利な小間使いとして私を選んだのだ。
しかも二週間、私は学校を休まなくてはならない。ちょうど期末テストと被っている。単位は大丈夫だろうか。至急調整をしなければ。菜緒にも相談して、それから……。
これからすべきあれこれをリストアップしていき、その多さに目眩がしたところで、私は呟いた。
──いつか絶対に殺してやる。
これが言えるうちは、大丈夫。
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