上 下
8 / 10
彼女に嘘をついた男

7

しおりを挟む
もし何かあれば私を頼りなさい。



あの時、父と母の形見を受けとった時、帰り際、長老は私にそう言った。

一度助けられたのに二度も助けられるわけにはいかない、

そう思っていたが、

誰も殺されないためにも長老に相談したかった。

私が事情を話すと長老は大きくうなづいた。

「よくぞ我慢して、王宮を出られた。後はまかせなさい」

「彼女を助ける方法があるんですか?」

私は驚いた。

「ある。 君は王の言う通りにしなさい」

彼女を助ける方法を教えてもらい、私は長老に深々と頭を下げた。



次の日、軍とともに出発した。

彼女のいる場所に心あたりがあった。

だから出発した次の日に見つかった。

ある町の市場に彼女はいた。軍にまず一人で会いに行けと言われた。


彼女は私を見て一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。

その笑顔を見て私は顔を少しうつむけた。

市場を離れ、彼女とふたり、しばらく野道を歩いた。




そして、私だけ歩みを止めた。


一歩、二歩、彼女が先に進んでいく。


私は手を伸ばし、後ろから彼女の左手首をつかんだ。


彼女は、振り返った。驚きの表情を浮かべていた。


「私は国王のスパイだ。君を捕まえにきた」


そう言った私に対して、彼女は何も言葉にせず、ただ私の顔を見つめていた。

その見つめる目から涙がこぼれた。

私は何か言いかけようとして口をつぐんだ。


兵に彼女が連れていかれる。

連れていかれる途中も彼女は私をずっと見ていた。






誰もいなくなった。

私は近くにあった石の上に腰掛け、

空を見上げた。



後はお願いします、と心の中で言った。






それから


長老のおかげで彼女は助かった。

彼女がいなくなったことで国中で大騒ぎとなり

深い落胆と怒りでうずまいていた。それほど彼女は皆から嫌われてしまっていたのだ。

ただ魔力があっただけで



そして数日後、

私は礼を言いに長老の家を訪ねた。


「無事彼女は国を出たよ。君には酷な決断をさせてしまった」

立ったまま、窓からの景色を眺めていた長老はそうつぶやいた。


「いえ、大丈夫です」

テーブルの椅子に座る私はそう答えた。



長老が彼女を助ける方法を教えてくれた時、

最後に言いづらそうに私にこう聞いた。

「君がスパイではないことは彼女には教えず、国から逃がしたいと思うのだが」
 
もしもスパイじゃないことを彼女が知ったら、私のところに戻ろうとするかもしれないのでそれは危険だと、長老はいう。

それに対して私は

うなづいた。

だけど彼女が真実を知ってもし帰ってきても、私は彼女に会わせる顔がないと思った。

彼女に私は助けられた。

なのに私があの日、魔力を使ったせいで

彼女は危険にさらされ、生まれ過ごしたこの国から出ていかなくてはならなくなった。 

それはもう紛れもない事実なのだ。


「確か、魔力判定師になれと国王に言われておったな」

長老は私のほうに顔を向けた。

「はい、魔力を持ってると疑われる人が見つかれば、王宮に呼ばれ、その人の魔力判定をさせられます」

「……そうか」

「私のせいで誰かが殺される。それは絶対避けたいのですが、家族には軍の見張りがついておりますので……」

「だが……きっとそれは大丈夫だろう。彼女の魔力は偉大すぎた」

長老のその言葉の意味を

私はすぐに理解できたので

あえて聞くことはしなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...