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13.この想い、迷子である。

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「安奈はネット将棋のランキングでいま何位くらいなんだ?」

 あ、そっちの話ね!
 ある意味ドキドキしてきたわ!

「えっと……トップ50には入っていますが、一桁はとてもじゃないけど厳しそうです」

 カットフルーツにフォークをぷすっと刺して口に運ぶ彼。お口大きいなぁ。

「いま対局ルール何でやってる?」

「えっと、5分切れ負けルールですね」

 彼はいつも真っ直ぐ私の眼を見ている。ハンサムってこういうとこなのかしら。
 私もカットフルーツに手を伸ばし、オレンジをつまんで口に運ぶ。

「よし、今からでも遅くはない。対局ルールを変えてやってみろ」

 ポロっとオレンジが口から零れた。

「ふえっ!?」

「安奈の真骨頂はなんだ?」

「根暗なところです……」

 ほら、こういうとこだよ! 女子力の無さ!
 何も考えずに即答すると、私の場合は最適手ではなくなる。将棋だと真逆なのになぁ。

 テーブル越しに彼の大きな手が私まで伸びてくる。待って、私は果物じゃないのよ。

 頭を鷲掴みされるのかと思ったら、ポンポンっと髪の毛を撫でられる。

「安奈は別に根暗でもいいんだよ」

 何これ!! 何これ!!

 彼は質問を続けた。

「そうだな、大学に入学した年月日はいつで、曜日とその日の天気は?」

「2013年4月8日、月曜日で、その日は曇りでした」

森内俊之もりうちとしゆき九段がプロ入りして早々に二連覇したトーナメント戦の名称と開催日は?」

「えっと、二連覇したのは第7・8回『早指し新鋭戦』で、1988年6月11日と1989年5月27日に開催です」

「三連覇したのは?」

深浦康市ふかうらこういち九段だけです」

 ――あっ。なんか分かった気がする。彼の表情も微笑んでいた。

「そう、安奈は頭の回転の速さと、記憶力がずば抜けて高いんだ。早指しの『3分切れ負けルール』で日本一を目指してみたらどうだ」

 今の5分切れ負けルールから3分に……これは思考時間が短くなればなるほど、終盤は直感で指すことが多くなりがちなモードだ。

 プロ棋士もまた人間で、制限時間が足りなくなるほど歯車が狂いがちになる。
 そうか、私には有利かもしれない。

「……靖さん」

 彼が私の頭を撫でてくれた、大きな手を見つめていた。
 なんか今なら聞けそう。卑屈にも、私からではなく彼の声を求めてしまった。

 ここ一番の勇気を出す。

「ん?」

「わ、私のこと、どう思っていますか?」

 彼は変わらず私の眼を見て言った。

「妹みたい」

 即答された。
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